ときメモ2バトルロワイヤル風SS・第弐拾九話「脱出」

管制室では純と竹内が向かい合い、お互い刀を抜いて構えていた。

周りでは『トラップ』と涼たちが見守っている。

純「秋口!お前はみんなを連れて先に上陸艇に行け!!俺は竹内を連れて後から行く!!」

涼「だが、お前は道が分かるのか!?」

純「何か目印のような物を残しておいてくれればそれを頼りにして追いつくようにする!」

涼「・・・・分かった!絶対に竹内を連れて来いよ!・・・みんな、行こう!!」

光「で・・でも・・・!」

美帆「陽ノ下さん!ここで少しでも早く脱出できるようにしておかないと、小倉さんが・・・!穂刈さんを信じましょう!」

光「うん・・、分かった・・。・・・穂刈君、絶対に二人でみんなの所にまで来てね!」

美帆に諭されて、光は管制室を出て行った。匠や琴子も後に続く。

美幸「ほかりん!頑張って〜!!負けないでね〜!!」

純「・・・寿さん・・。・・ああ!!任せてくれ!!」

美幸も管制室を後にする。残ったのは、『トラップ』と竹内、純、そして花桜梨の四人である。

純「八重さん!君も早く上陸艇にまで行くんだ!」

花桜梨「・・・・ごめんなさい!私、二人をおいては行けない!最後まで見届けさせて!!」

純「!!・・・八重さん!」

花桜梨「わがままだって分かってる・・!でも・・私はまだ竹内君を信じたい!!元の竹内君に戻ってくれる事を信じたいの!!」

純「・・・・八重さん・・・。」

トラップ「・・・・ほらほら!余所見をしている暇は無いぜ!」

純「!!」

竹内「・・・・。」

純の隙を突いて、先に竹内が動いた。凄まじい加速で走り出すと、大きく上にジャンプする!!

純「何っ!?」

純の頭上から竹内は黒桜花を一気に振り下ろす!!

ガキィィン!!

純「ぐうっ・・・!!(何て怪力だ・・・!)」

純は刀を両手で支えて、何とか真上からの斬撃を受け止めた。しかし、その両手に凄まじい衝撃が走り、純の腕を痺れさせる。

竹内「・・・・。」

ドガッ!

純「ぐっ・・・!」

純の動きが止まったのを見るや否や、竹内は純のがら空きになっている腹に前蹴りを食らわした。

鈍い音と共に、純が真後ろに吹っ飛ぶ!

竹内「・・・・・。」

竹内は純が吹っ飛んだ所に走り出すと、そのまま純の腹にもう一度蹴りを食らわす!

ドボッ!!

純「ぐはっ・・・!」

花桜梨「穂刈君!!」

花桜梨の悲痛な声が管制室に響く。

更に追い討ちをかけるように、竹内は純を無理矢理立ち上がらせると、首を掴んで持ち上げると大きく頭上で振り回して床に叩き付けた。

ズダァァン!!

トラップ「おいおい・・!これじゃ、一方的な勝負だな・・・。純とか言ったっけ?あんた、もう降参した方がいいんじゃないの?」

『トラップ』は苦笑しながら、純に降参を勧める。しかし、純は歯を食いしばると自力で立ち上がった。

竹内「・・・・・・。」

花桜梨は竹内に必死の思いで呼びかける。

花桜梨「竹内君!お願いだから目を覚まして!!あの時に竹内君は私と約束してくれたじゃない!!一緒に帰ろうって・・・!」

竹内「・・・・・・。」

花桜梨「私たち一緒に帰って卒業して・・・。」

竹内「・・・・。」

花桜梨「・・・・恋人同士になろうって約束したじゃない!!」

竹内「・・・・・!」

トラップ「!(・・・・竹内に動揺が見られるな・・・。まだ精神操作が完全じゃないって事か・・・?)」

純「・・・・・!(今だ!!)」

純は、竹内の動揺している隙を見て大きく間合いを取った。

竹内「・・・。」

竹内ははっと純の方を向くが、純は既に攻撃態勢に入っていた。

純「・・・・。(今の竹内にはアレを使うしかないか・・・!頼む・・!竹内、目を覚ましてくれ!!)」

トラップ「(ん?・・・・何をする気だ・・?)・・・竹内、しばらく様子を見ろ!」

竹内「・・・・分かった。」

竹内は黒桜花を前に構えると、防御体勢のまま純の様子を見ている。

純は目を閉じると意識を集中させ始めた。それと同時に、管制室の雰囲気が一気に変わっていく。

花桜梨「(・・・穂刈君、まさか・・いつか竹内君から聞かされたあの奥義を使う気なの・・・!?)」

竹内「・・・・・・。」

純「・・・・・・・・。(竹内・・、八重さんを悲しませない為にも・・・お前を絶対に連れて帰るからな・・!!)」

純は刀を上段に構えると、腰を落として力をためる。

途端、純の刀が激しい炎を纏い純の背後に不動明王の姿がオーバーラップする。

トラップ「!!!!・・・・まずい!竹内、早くそいつを倒せ!!技を発動させるな!!」

純の様子が只ならぬ事に気が付いた『トラップ』が、竹内に攻撃の指示を与える。

竹内「・・・・・。」

竹内が純に向かって走り出したと同時に、純も刀を構えて竹内に向かって走り出す!!

純「・・・・真・不動明王唐竹割りぃぃぃっ!!!!

竹内「・・・・・!」

シュッ!!

純「(避けられた・・・!?)」

竹内は純の奥義を紙一重で回避すると、純の真上を飛び越える形で距離をとった。

純を飛び越えた竹内は獣の様に、四足で床に着地する。

竹内「・・・・・。」

トラップ「・・・・驚いたな・・・!まさかこんな隠し玉があるとはね・・!」

流石の『トラップ』も、純の奥義には目を丸くする。

竹内の着ている特殊ジャケットの右肩が焦げて煙を上げている。回避したとは言え、完全には避けられなかったのだろう。

トラップ「(しかし、本当に凄いな・・・。防刃・防弾・耐熱仕様のジャケットを焦がす事ができるとはね・・・。)」

竹内「・・・・・。」

竹内は右肩を軽く叩いて煙を消すと、改めて黒桜花を握り直した。

純「(もう一度だ!)」

純は再び意識を集中させると、刀を上段に構える。

トラップ「竹内、もう一度今のが来るぞ!技を中段させるんだ!」

『トラップ』は竹内に再び指示を与えるが、竹内は動かない。

竹内「・・・・・・・。」

純「真・不動明王唐竹割りぃぃぃっ!!

トラップ「おい!竹内!!何をしているんだ・・・!!(あいつ、まさか・・・!!)」

竹内「・・・・・・。」

何を思ったのか、竹内は黒桜花を下に降ろして無防備の体勢を取った。

トラップ「(竹内は黒桜花の強度を生かして切り返しを使う気だな!?)」

『トラップ』には何か心当たりがあるらしく、珍しく真剣な表情になった。

純「!(・・・何を考えている!?)」

竹内の様子を見た純の脳裏に一瞬の迷いが生じる。竹内はそれを見逃さなかった。

竹内「・・・・・水鏡の太刀・・・。」

純「!!!」

バキィィィン!!

花桜梨「!!!!」

トラップ「・・・・終わったな・・・。」

二人の姿が重なった瞬間!!勝負は一瞬で決まった。純の刀が黒桜花によって粉々に粉砕される。

そして、刀だけではなく純自身も・・・。

竹内「・・・・・・。」

純「・・・・そ・・そんな・・馬鹿・・・・な・・・!?」

二人が交錯した空間に純の刀の破片がダイヤモンドのように美しく輝きながら飛び交う。

全ての破片が床に鋭い音を立てて落ちると同時に純もばったりと倒れてしまう。

花桜梨「・・・・そ・・そんな・・・。」

花桜梨は膝から力が抜けたかのように座り込んでしまった。

トラップ「(・・・・・まさか純の技をそのまま切り返すとは・・・・。あの技を切り返すには、刀にも相当の衝撃が伝わるはずだ・・・。それに、相手の技を切り返してそのまま攻撃に移るなんて事はそう簡単には出来る芸当じゃない・・・。

しかし・・竹内の奴はどこでそんな大技を覚えていたんだ・・・。)」

純は薄れゆく意識の中で、以前竹内に見せた剣道教本の事を思い出していた。

数ヶ月前、ひびきの高校教室にて・・・。

純「竹内、これがひびきの高校の剣道部を創立した初代主将の奥義なんだ。」

竹内「へぇ〜・・・・、何か今の奥義とあんまり変わらない様だけどな。何か違いがあるのか?」

純「ああ、今のひびきの高校剣道部で修得する奥義は『真・不動明王唐竹割り』だが、最初の頃は『水鏡の太刀』と言って、相手の技をそのまま切り返す奥義だったみたいだぜ。」

竹内「技を切り返す・・?」

純「切り返す・・・つまり、相手の放つ攻撃を水鏡のように受け流すんだ。そして、受け流した技の威力を増加させて相手に返す奥義のようだな。」

竹内「凄いな・・!純、お前はその奥義を発動出来るのか?」

純「いや、この奥義は初代主将と二代目主将しか会得出来なかった為に、今では幻の奥義になっているんだ。」

竹内「幻の奥義・・・か。」

純「だが、俺はいつかこの奥義を会得してみせるさ。そして、このひびきの市に剣道場を立てて師範になるのが夢なんだ。」

竹内「そっか、お前なら出来るって信じているぜ。俺はバレー部だから縁の無い話だけどな。ははは!」

純「そうだな!はははは!」

純「(竹内は・・・あの時教本に記されていた型を見ただけで・・・それを覚えていて・・・奥義を発動させた・・・って事なのか・・・?)」

竹内「・・・・・・。」

竹内は黒桜花を鞘に納めると、『トラップ』の前に来てこう告げた。

竹内「『トラップ』・・・、俺はまだ戻る訳にはいかない・・・。『キング』を始末しないと俺は・・・また苦しまなければならない・・・。」

トラップ「・・・・お前を苦しめる存在を完全に消すつもりか・・・。・・・いいだろう、俺も付き合ってやる。

『キング』とお前の戦闘データを取る事も出来るし邪魔者も消えて一石二鳥だからな。」

竹内「・・・・行こう。あいつを探しに・・・。」

トラップ「・・・・いや、『キング』は必ずここに現れるぜ。『マインド』からの連絡が途絶えれば、奴が次に取る行動は一つしかないからな。」

竹内「・・・・・。」

トラップ「ここのコントロールパネルから、脱出口である水路を遮断するべく水門を閉めに来るはずだ。」

竹内「・・・・では、『キング』がここに来たら俺が始末する・・・。」

トラップ「そうしてくれ。俺は直接戦闘には向いていないんでね。竹内の働きに全てはかかっているって事になる・・・。

・・・・おい、あんた。そこでくたばっている奴を連れてさっさと上陸艇に行きな。

ここは、もうすぐ殺し合いの舞台になるからな。いつまでもここに居ると、命の補償は出来ないぜ。」

花桜梨「・・・・!あなたは竹内君にハンターのリーダーを殺させるつもりなの!?」

竹内「・・・・・・殺させるじゃない・・。俺が自分の意志で奴を殺すんだ・・・。お前にとやかく言われる筋合いは無い・・・。」

花桜梨「!」

竹内は先ほどの純との戦いで一時的に自我を取り戻したかのように見えたが、今ではすっかり元に戻ってしまっていた。

花桜梨「(・・・・もう・・本当に・・私の事を思い出してはくれないの・・・?・・ねぇ・・・竹内君・・・。)」

トラップ「・・・!来たみたいだぜ・・・。竹内、臨戦態勢を取りな・・・。」

竹内「・・・・ああ。」

花桜梨「・・・!」

管制室への直通通路から何者かがここに上がって来る。このタイミングで管制室に来る人物と言えば、一人しかいない。

キング「・・・・やはり裏切ったか・・・。『トラップ』・・・。」

トラップ「・・・・お出ましだね・・。」

竹内「・・・・。」

キング「・・・『マインド』を殺したか。しかも、竹内を手なずけたみたいだな・・・。お前が俺に黙って竹内と接触したのは、それが目的だったのか・・・。」

トラップ「まあ、そういう事だね。でも、俺があんたたちの仲間としていままで従っていたのは別の狙いがあるからさ。」

キング「・・・・対抗派閥の差し金か?」

トラップ「・・・・へぇ・・・、そこまで知っていたんだ・・・。ああ、その通りだよ。

この計画演習自体を妨害するために俺は派遣されたスパイなのさ。既に、データの大半は俺の所属する委員会に送ってある。

あとは、竹内を連れ帰りあんたを始末するだけだよ・・・。」

キング「・・・そうはいかん。お前がスパイであると分かった以上、ここで死んでもらう。竹内は俺が再び洗脳し直してやる。」

竹内「お前は俺を苦しめる存在だ・・・。お前を殺せば俺は楽になれる・・・。」

キング「ふん、お前はあくまでもただのサンプルに過ぎん。お前のような出来損ないに俺が殺されるとでも思ったか?」

トラップ「・・・・それはやってみないと分からないさ。だが、油断しているとすぐに殺られるぜ!

おい、竹内・・・・。・・・・早くケリをつけちまいな。長引かせる必要は無いぜ。」

竹内「・・・・もちろんそのつもりだ。」

竹内はゆっくりと黒桜花を抜くと、真っすぐに構える。キングも背中から自分専用である大型の刀を抜いて構えた。

キング「・・・・お前は俺からは逃げられん。それをしっかりと判らせてやろう・・・!」

竹内「・・・・黙れ・・・!」

一時間後・・・。

花桜梨たちは上陸艇に乗って、海の上を進んでいた。

『トラップ』から渡されたカードキーをパネルに差し込むと、彼の言った通り上陸艇は動き出して、涼たちは施設の地下水路から海へと脱出できたのであった。

純が倒された後・・・、花桜梨と純があまりにも遅い事を心配した涼と匠が管制室に戻ってきて、純を匠が、そして花桜梨を半ば強引に涼が上陸艇まで連れて戻ったのだ。

管制室には竹内と『トラップ』、そして『キング』が残った。

皆、彼らがどうなったかは見当も付かない。

涼「・・・・・結局、竹内の奴・・・・俺たちのところには戻って来なかったな・・・。」

琴子「ええ・・・。」

花桜梨「・・・・。」

光「・・・・。」

美幸「・・・・・。」

美帆「今頃、あの施設では何が起きているのでしょうか・・・。」

一同「・・・・・・。」

美帆の疑問に答える者は誰もいない。そんな中・・・。

匠「・・・・あっ!!あれは!」

匠が前方を見て、大声を出した。

涼「伊集院家の専属軍隊だ!さっきの連絡を受けて、救助に来てくれたんだ!!」

前方から現れた何隻かのクルーザーには、全て伊集院家の紋章が入っていた。

施設を脱出してからすぐに携帯電話が通じるようになったので、念の為に警察ではなく伊集院家に救助を求めたのだ。        

純「・・・俺たちは助かったんだな・・・・。これで智も助かるな・・・。」

純の言葉にみな安堵の表情を浮かべる。花桜梨と光を除いて・・・。

それから間も無く、竹内を除く全員は伊集院家のクルーザーによって専門病院に運ばれて精密検査を受けた。

しかし、智と純以外はそれ程大した怪我も無かったため、すぐに家に帰って家族とも約6日ぶりの再会を果たす事が出来た。

智は緊急手術を受けて、危うい所で一命を取り留めた。

深く傷つけられた左腕も伊集院家の力により、時間はかかるものの元のように動くようになるそうである・・・。

しかし、身体の傷は治っても心の傷は癒せない。花桜梨はひびきのに戻ってからというもの、自宅から一歩も外には出ず、学校も休学と言う事になってしまった・・・。

 

<第弐拾九話・完>

                           (最終話に続く・・・)

次回予告

花桜梨たちは何とかひびきの市に戻ることが出来た。たった一人を除いて・・・。

今回の事件に関わった花桜梨たち一同は、メイの所へあの施設がどうなったのかを聞きに行く。

一方、『キング』の所属している委員会では『トラップ』の送り込んだスパイにより、内部崩壊を起こしていた・・・。

竹内と『トラップ』、『キング』はどうなったのか・・・?話は終局へと進んでいく・・・。

次回、最終話(Another Version)「日常とその影・・・」

 

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