逮捕しちゃうよっ!!名雪&香里



ビュオオオオオオ ゴオオオオオオオ


 台風が近付きつつある華音市のとあるガレージで、一人の男が車に乗り込む。
 車種は赤のランチアデルタしかもラリー仕様である。

「ふ、ふふふふふふふふふ。」
男は笑いながら車にエンジンをかけた。

ブルルロロロロロ グオロロロロロ


「ははははは、ひゃ〜ははははははは。」
エンジンが始動させ、男は哄笑しながら車を街に飛び出させた・・・


第五報告書 「華音タイフーンラリー(前編)」



「あーあ最近お天気悪くて嫌になっちゃうよ〜。」
警邏中のトゥデイの中で名雪がぼやいている。

「来週に予定されていたお祭りも延期になっちゃうし、ついてないよ〜。」
「相手は大自然なんだから仕方ないでしょ?」
香里がなだめるが、

「だってぇ、今年はダイエットして百花屋で特大イチゴサンデーに挑戦して、お祭りの夜店では氷イチゴでしょ、とうもろこしにわたがしに、焼きそばにイカ焼きでしょ、ラムネやカルメ焼きとそれからそれから・・・」
「・・・太るわよ?(汗)」

 指折り数える名雪にジト目で突っ込む香里。

「それは運動するから大丈夫だよ〜。でも今はそれも空しい夢なんだよねぇ〜」

 大袈裟にため息をつく。

「はいはい、今はお仕事しましょうね?」
「う〜〜〜。」
軽く流す香里に唸り続ける名雪であった。




 しばらくトゥデイを走らせてると、華音市と大空市の境にある小学校が見えてきた。

「あ、香里ちょっと車止めて」
小学校の方を見ていた名雪は香里に車を止めさせ、

「は〜〜い、大空小学校のみんな〜。すっごく大きい台風が来てるから、すぐにお家に帰ろうね〜〜。」

 スピーカーで校門付近に居る小学生に声を掛けた。

「にょわ〜、名雪と香里だ〜」
「おおっ、本当じゃ。」
「名雪さん、香里さんこんにちは〜。」
「こ、こんにちは。」

 名雪の声に反応して4人の少女がトゥデイの近くに寄ってくる。
 名雪は車を降りて

「ねぇ、みちるちゃん、神奈ちゃん。わたしの事は名雪お姉ちゃんって呼んで欲しいなぁ〜」
名雪は2人の少女に頼むが、

「名雪は名雪だぁ〜」
「そうじゃ、そうじゃ。」 聞く耳持たずなご様子。



 最初に名雪に声を掛けた少女の名は遠野みちる。赤毛の髪をツインテールにした勝気で元気な女の子だ。
 ちょっと古臭い言葉遣いをしているのは神奈備 神奈。
 あの刑事課の柳也の娘で、背中まで伸ばした黒髪の左右に鈴の飾りを付けた和風美少女である。
 言葉遣いが古臭いのは彼女が時代劇好きで、それに影響されているからだ。
 なお、小さいながらも柳也から剣術を仕込まれ、剣道の腕はかなりのものである。



 その後に挨拶した子供は志野 まいかと、志野 さいかの姉妹。
 姉のまいかは栗色の髪をセミロングに伸ばした礼儀正しい女の子。
 4人の中では一番普通な印象を受ける。

 妹のさいかはおとなしくて夢見がちな女の子。姉と同じ栗色の髪をおさげにしている。 

「ところで香里さん、近くの動物のお医者さん知りませんか?」
名雪とみちると神奈が騒いでいる隣でまいかが香里に質問をしていた。

「獣医さん?」
「はい。実は学校の近くでこの猫が倒れていたんです。」
まいかが答え、さいかが持っていたバスケットを香里に見せると、首に赤いリボンをした黒い雌猫が寝ていた。

「この子今は落ち着いてるんだけど、さっきまで凄く苦しそうにしてたの・・・」

 さいかが泣きそうな顔で言う。

 「あれ、この子クロちゃんだ。」
バスケットを覗き込んで名雪が言う。

「名雪、この子知ってるの?」
「うん、この子隣の永遠市の安藤さんちの猫さんだよ。」
「なんで名雪知ってるんだ〜?」
「えへへっ、この近隣でわたしの知らない猫さんはいないんだよ〜。」
質問するみちるに胸を張って得意げに答える名雪。

「すごいのだ〜。」
「うむ。」
「凄いです。」
「尊敬します。」

「あんたってほんと、猫に関する情報力は半端じゃないわね。(汗)」

   名雪は近隣各署のの猫好きな署員と猫に関する情報のネットワークを持っていたりする。機械類は苦手なのに猫が絡むと別らしい。

「う〜ん、ここからじゃ安藤さん家は遠いからうちで預かって病院に行った方が良さそうだね?」
「そうね、安藤さんの家にはこちらで連絡入れときましょ。」
と名雪と香里が相談していると、
「おーい、美坂と水瀬何やってるんだぁ〜?」
と白バイで付近を警邏中の北川が白バイから降りて香里達に近づきながら尋ねてきた。

「にょわ〜、潤ちゃんだぁ〜」
「潤ちゃんなのじゃ。」
「「こんにちは〜潤ちゃん」」

「おっ、元気にしてたかぁ〜、ちび供?」
と挨拶を交わす潤とみちる達。

「ちびってゆ〜な〜(恕)ちるちるきぃ〜〜〜っく」
「その失礼な根性修正してくれるわ。神奈きぃ〜〜〜っく」

ドゴッ ガスガスガスガス×2


「痛っ。いたたたたた、分かった分かった俺が悪かったから、ダブルでみぞおち蹴りの後に脛蹴るのめてくれぇ〜」
ちび呼ばわりされて怒り心頭のみちると神奈。

 容赦無く潤に蹴りのコンボをお見舞いする。
 志野姉妹はそれを見ておろおろあたふた。

 そんな微笑ましい風景(?)を眺めつつ、
「へぇ〜北川君潤ちゃんって言うんだ?」

「・・・一応ね。全く北川君も何やってんだか。」 尋ねる名雪と呆れた顔で答える香里。


「それはそうと名雪。あんたねぇ、自己紹介の時に名前聞いてなかったの?」
「第一話で下の名前作者さん書いてくれて無かったから、聞くの忘れてたよ〜。」

 お〜い、こんなところで作者のミスをバラさないでくれぇ。

「だって、書いてなかったものは書いてなかったもん。」
膨れる名雪。


ごもっともです。詳しくは人物設定をお読み下さいませ。


「ところで本当に何やってたんだ二人とも?」
みちると神奈の攻撃から逃れた潤が改めて尋ねる。

「うん、この猫さんが調子悪いみたいだからわたし達で病院に連れて行こうって相談してたんだよ。」
「そっか。うん?こいつえらくデブだなぁ?」
とヒョイッと猫の首を掴んで宙吊りにする潤。良く見るとお腹がかなり膨らんでいた。

「わぁぁぁ、北川君なんて持ち方するんだよぉ〜?猫さん具合悪いんだよ。」
「そんな乱暴な持ち方して、猫に何かあったらどうするのよ?」
潤の大雑把な行動に名雪と香里はカンカン。香里が潤から猫を奪い返し優しく抱きかかえる。

「あっ、すまん。」
怒って猫を抱いたままそっぽを向く香里に気まずそうな北川。

いつもの光景が繰り広げられていたその時・・・

ブォォォォォォォォギャギャギャギャギャ


「あぶねぇ、美坂ぁぁぁぁぁぁっ!!」
「みんな伏せてっ。」
学校の曲がり角から猛スピードで飛び出してきた暴走ランチアから香里を庇って抱きしめる潤と、みちる達に覆いかぶさって庇う名雪。

グォォロロロ フォォォォォォォォォン


 ランチアが通り過ぎた後、幸いな事に怪我人はいなかった。


「なんて運転してるんだぁ〜っ!!!気をつけろバカァァァァァ」
激怒するみちる。

「こんどあったら得意の剣術で叩きのめしてくれるわ!!」
神奈も激怒。

「もう〜、なんて乱暴な運転するんだよぉ〜ごくあくにんだよ〜。」
名雪もカンカン。

 そんな中

「・・・間違いねぇあの野郎だ。」
一人真剣な顔で呟く北川。

「あ、あの北川君?そろそろ離してくれない?」
「んっ、どうした美坂?ってうわぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!?
香里をしっかりと抱きしめていたままだったので我に返って顔を真っ赤にして大パニックの潤は慌てて離れる。香里も顔真っ赤。

「「「「ひゅ〜ひゅ〜♪熱い熱い〜♪」」」」


 名雪、みちる、神奈、さいかが真っ赤になって離れた二人を冷やかす。

「潤ちゃん・・・かっこいい。」
まいかは目を輝かせていた。

「わは、わは、ぶわははははははははは。お、俺はさっきの暴走車追うからまたな〜。」
とごまかしつつバイクに颯爽と飛び乗った潤だったが・・・
ドテッ ガッシャーン

「痛ぁ〜〜」


 見事にずっこけた・・・

「あ、こけたぁ〜」
とみちる。

「全く父上を少しは見習え。」
これは神奈。

「あ〜あ北川君だらしないよぉ〜。」
「・・・・・」

 名雪も呆れる中、香里は額に指を当てて困っていた・・・



ポツッ ポツッ ザァァァァァァァァァァァ


 みちる達と別れて署へ帰ってきた頃雨が本格的に降り出した。
 ガレージで栞が二人を出迎える。

「あっお姉ちゃん、名雪さん。潤さん大急ぎで署へ戻って来たんですけど、何かあったんですか?」
「もう、栞までそんな事言う訳?」
栞の問いに香里は不機嫌さをあらわにして猫の入ったバスケットを抱えて課に戻って行った。

「名雪さん、お姉ちゃんに何かあったんですか?」
「うん、実はね・・・。」
名雪は事の顛末を栞に話した。

「そうですか・・・でも、潤さんあんまり嬉しそうじゃ無かったし、厳しい顔して資料室に駆け込んで行ったんです。」
「ふぅ〜んそうなんだぁ〜。」

 二人で話しながら課へ戻ってみると・・・


「すまん、美坂頼みがあるんだが、一緒にガレージに来てくれないか?」
「・・・分かったわ。」
潤が頼みごとをしていて、香里がOKし、二人でガレージに行っているところだった。猫入りのバスケットは香里の机の上にあった。

「わっ、なんだか怪しいです。名雪さん気になりませんか?」
「うん、すっごく気になるよ。」
「それじゃあ後を追いましょう。」
「おっけ〜だよ。」
栞と名雪は相談した後二人を追ってガレージへ向かった。





 丁度名雪と栞がガレージに着いた頃、潤は香里に頭を下げていた。

「こんな事頼めるの美坂しかいなかったから、悪いけど頼む。」

「うわぁ〜北川君のあんな真剣な顔始めてみたよ〜。」
「もしかしてお姉ちゃんへの愛の告白ですかぁ〜?ちょっとムードに欠けますけどロマンティックです〜。」
と、二人で好き勝手な事を言っていた。

「でも、雨で良く聞き取れませんね、もっと近づきましょう。」
「そうだね。」

 さらに近づき近くの陰に潜んで盗み聞きする栞と名雪。


「良いわ、そういう事だったら喜んで協力するわよ。幸い手伝ってくれる人達も二人いるみたいだし、ねっ?名雪、栞?」
と名雪たちが隠れている方向に声を掛ける。

「うわぁ完璧にばれちゃってるよぉ〜。」
「えう〜分かってて黙ってるお姉ちゃん嫌いです〜。」
最初から二人の行動はお見通しな香里であった。



ザァァァァァァァァー バシャバシャバシャ

カチャッ、ガチャッ、カンカンカン


「名雪、そっちのパーツ取ってこっちに頂戴。」
「えっと、これ?」
「そうそう。」
「栞はそっちの防水スプレーでそのパーツに吹きかけて。」
「分かりました〜。」

 雨の降りしきる中署のガレージで機械を整備する音が聞こえる。


「へうぅぅぅぅぅ〜、疲れましたぁ。」
「ほれ、これ食べてくれ。」
 へばった栞にバニラアイスを差し出す潤。

「わぁ、ありがとうございます。」
「悪ぃな、こんな事に付き合わせちまって。」
「いえ、それは良いんですけど・・・」
「ん?どうしたんだい?」
「潤さんのお姉ちゃんへの頼み事ってこれだったんですね。」
「ああ。」
「私はてっきり・・・」
「てっきり何だ?」
残念そうな栞に不思議そうに問いかける潤。

「いえ、なんでもないです。でも本気ですか?KLEってバイクをレイン仕様にしたからってこの雨の中出るなんて、無茶ですよ。」
慌てて取り繕う栞。

「無茶なのは百も承知さ。だけど今回は引くに引けないんだよ、ちょっとワケ有りなんでね。」
いつになく真剣な潤に何も言えなくなる栞。そんな中。


「これで完成ね。・・・北川君、これで雨の中でも普段とあまり変わらない操作性になってはいるはずよ。だけどあんまり無茶しないでね。マシンが壊れるのも人が怪我するのもあたしは見たくないから・・・」
「美坂、サンキューな。それじゃ行って来るよ。」
「気を付けてね。」

     
 ブオッ ドルッドルッ ブオォォォォォォォォォ


 潤は雨の中バイクを走らせ街へと飛び出して行った。
 潤を見送ってしばらくの後、

Pi Pi Pi Pi Pi Pi Pi
 

 トゥデイの通信機にコールが入る。

「はい、こちらミニパト4号。」
「華音市商店街でトラックの横転事故が発生。付近の署員は現場に急行されたし。」
「ミニパト4号了解。疲れてるところ悪いけど名雪、現場に行くわよ。」
「分かったよ。栞ちゃん猫さんの事お願いね。」
「はい、猫さんのお世話は任せて下さい。」
それぞれが役割分担を決め、名雪と香里は事故現場へ、栞は交通課へと向かった。




 雨の降りしきる現場へ一番乗りで到着した香里達の目の前には大型トラックが横転していて、積荷だったらしい西瓜が散らばり渋滞を起こしていた。

「名雪、救急車は後どれくらいで来るの?」
「駄目だよ、渋滞で後30分くらいかかるみたいだよ。」
「・・・ここはあたし達だけでなんとかしないと駄目みたいね。あたしは周囲の状況を見るから名雪は運転手の救助をお願い。」
「うん。お任せだよ。」

 二人でトゥデイを飛び出し、香里は状況を確認し、名雪は大急ぎで運転席に駆け寄った。

「わっ、運転席の方が塞がってて開けられないよぉ〜。それじゃあ助手席の方から無理矢理開けるしかないよね。え〜〜〜〜いっ!!!」

グギギギギギギギィィィィィ




 バキャッ


「わぁぁっ、取っ手が取れちゃった・・・」
名雪の力に耐えられず、ドアの取っ手が壊れて取れた・・・

「こうなったら正面突破だよ。」
そう言って、名雪は拳にタオルを巻きつけてトラックのフロントガラスの前に立った。

「すぅぅぅぅぅ はぁぁぁぁぁぁ。」


 深く呼吸をし精神を統一する。あまりに張り詰めた空気がその場に名雪以外誰もいないかのような錯覚を覚えさせる。

「えぇぇぇぇぇぇぇい。」




ダンッ ドガァァァァァァァァッ


 強烈な震脚と共に渾身の正拳突きを叩き込んだ。

「一撃必殺・・・だよっ。」

ガシャアッガラガラガラガラ


 名雪の言葉と共にガラスは崩れ落ち、その後運転手は無事救出された。





 それから西瓜を片付けてトゥデイに戻った二人。

「ねぇ香里それから事故の事何か分かった?」
名雪が髪を拭きつつ香里に尋ねる。

「ええ、どうやらあたし達が学校で見たあのランチアが原因みたい。」
「どういう事?」
「あのランチア、毎年この季節になると現れて嵐の中を暴走して街を騒がせているらしいの。今までは怪我人を出したりはしていなかったんだけど、最近走りがどんどんエスカレートしていてるらしくて、北川君去年の今頃あのランチアを見かけて追いかけたの。だけど・・・」
「それで潤ちゃん負けちゃったんだ・・・」

バシッ

「当たり前でしょ?車に比べてバイクが不利なのはあんただって分からないとは言わせないわよ。それと潤ちゃんって呼び方は何よ?」
思わずファイルで名雪をはたく香里。

「ひどいよ〜香里ぃ〜。でも潤ちゃんって凄く良い呼び方だと思うんだけどなぁ〜?だって他に潤君、潤坊、じゅんじゅん・・・やっぱり潤ちゃんが一番だよ。」
はたかれた頭を抑えながら涙目で答える名雪。

「・・・もう良いわよ。」
香里は反論する気も失せたようである。

「そっかそれで潤ちゃんあのランチア追いかける為にKLEをレイン仕様にしたんだね。」
「そう言う事よ。」
「ふふふっ、香里って潤ちゃんに頼りにされてるんだね?」
「いきなり何言い出すのよ?」
「と、とにかくあのランチアはなんとかして捕まえないとね。」
「そうだね。」

 取り繕うように言う香里を微笑ましく見つめる名雪。

Pi Pi Pi Pi Pi Pi Pi Pi


「はい、ミニパト4号。」
「あ、お姉ちゃん?今すぐ署へ戻って。猫さんの様子がおかしいの・・・」

 次回に続くよ〜



次回予告だよっ
 いきなりの栞の緊急コール。猫に何があったのか?
 そして、北川は嵐の中で暴走ランチアを止める事ができるのか?
 名雪、香里、栞、潤それぞれの戦いを描く。
 次回「華音タイフーンラリー(後編)」をお楽しみねっ♪

                                   第六報告書へ続く



                     
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