序文






 明日は2月14日、バレンタインデー。
 イヤな響きだな、オイ。
 前の学校では特別モテた訳でも、女の子と親しかった訳でもないから、母親からしか貰わなかった。
 こうなると、我ながら情けないものだ。

 はー。

 溜息が出る。

 はぁぁぁぁ。

 隣で同じく溜息をついている人間がいる。

 北川だ。

 バレンタインデーを前日に控えた2月13日の放課後の学食。
 男2人が溜息をつき合っている姿は異様だろう。というか、極めて見栄えが悪い。

「はぁ…」

 普段のハイテンションが嘘のような北川の沈みぶり。
 その様子に、先程のことを思い出してみる。



 終礼終了後。

「なあ、美坂」

 帰り支度をしていると、後ろで北川の声がした。
 呼ばれた香里は早足でドアに向かうと、チラッと振り返り言った。

「今日は忙しいんだから、アンタの相手をしているヒマはないの。相沢君、名雪、じゃあね」

 それだけ告げて、香里は走っていった。
「じゃあ、私も部活だから」と言って名雪も出て行った。
 教室には呆然とたたずむ北川と、それを見ている俺が残された。



 少し北川が哀れに思えた。

(難儀な女に惚れたもんだ)

 なぐさめてやるか。
 この学校で初めて出来た男友達だしな。

ポンポン

 北川の肩をたたいて言った。

「まあまあ、チョコなんて、あってもなくても同じじゃないか」

ピクッ

 北川は反応した、過剰なほどに。
 全身に恨めしそうな雰囲気を漂わせながら、にらんできた。

「相沢はいいよな…」
「な、何だよ」
「たとえ義理でも貰えるだろ? 秋子さんとか……」
 義理…。
 失礼なヤツだっ、俺だって本命をくれるヤツはいるぞっ!

 続く     

                              栞編へ続く     名雪編へ続く

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