ときメモ2バトルロワイヤル風SS・第弐拾七話「抹消されし記憶」

ここは何処だ・・・?俺はどうなったんだ・・・?暗い・・・・花桜梨さんは・・・?みんなは・・・?

身体が動かない・・・縛られているのか・・・?何故・・・?

竹内「・・・・!」

竹内が目を覚ました時、既に施設からここに運ばれてから二時間が経過しようとしていた。

診察台の様なところに寝かされている。両手足はしっかりと固定されており、動く事は出来なかった。

竹内「・・・・俺は一体どこに運ばれたんだ・・・?あいつにやられて・・・・。」

キング「・・・目が覚めたようだな。」

竹内「!!」

竹内が横を向くと、いつのまにか『キング』が竹内のすぐ脇に立っていた。

竹内「ここは何処だ!!俺をどうする気だ!!」

キング「くくく・・・!なに・・・別に大した事ではない・・・。少し記憶を消させてもらうだけだ。そしてお前には新たに別の存在として生まれ変わってもらう・・・。」

竹内「・・・なっ!?」

キング「・・・『カウンターハンター』としての残忍なお前の本性を完全に目覚めさせてやろう・・・。」

『キング』は微笑を浮かべると、手に何かの薬物の入った注射を持って竹内の腕をしっかりと掴んだ。

竹内「や・・止めろ!!何を注射する気だ!!」

キング「・・・そんなに恐れる事はない・・・。最初は多少苦しいが、すぐに楽になる・・・。」

『キング』は手にした注射を見ながら竹内に語りかけた。

キング「お前の中には殺しを嫌う臆病で脆弱な自分と、殺しを望む残忍で強固な自分がいる・・・。」

竹内「!!」

『キング』は竹内の右腕に注射針を刺すと、ゆっくりと薬物を竹内の血管に送り込んでいく。

キング「・・・そして、お前自身は前者でいる事を選択した・・・。だが、それは誤った判断だ・・・。お前にとって真に正しい選択は後者の方なのだ・・・。」

竹内「や・・・め・・・ろ・・・!」

次第に意識がぼんやりとしてくる。抵抗したくても、全く身動きが取れない。

キング「お前はあの三人のハンターを殺した時・・・、どんな気分だった・・・?楽しかったか・・・?面白かったか・・・?

いや・・・、恐ろしかっただろう・・・?恐怖で震えただろう・・・?今まで人殺しなどとは無縁の生活をしてきたのだからな・・・・。」

竹内「・・・・・。」

キング「それは無理も無い事だ・・・。だが・・・、ここに来た以上はその恐怖を克服しなければならない・・・。お前は『トラップ』により、心の迷いを消してもらったはずだ・・・。」

竹内「・・・・な・・ぜ・・、その事を・・・。」

キング「ふふふ・・・。俺はお前の事など全てお見通しだ・・・。」

竹内は次第に訳が分からなくなってきた。自分は『キング』と『トラップ』の手の中で踊っていただけに過ぎなかったと言うのか・・?

全ては彼らの思惑通りだったのか・・?何が自分の意志で何が他人によって選択した道なのか・・・判断出来なくなって来る・・・。

竹内「(俺は・・・自分の・・意志で・・・ハンターを・・殺したんだ・・・。でも・・、本当に自分の意志だけだったのか・・・?

分からない・・・。何が真実で何が幻だったのかがわからなく・・・・曖昧になっているかのように・・・・俺は・・・一体・・・何なんだ・・?)」

キング「悩む必要などない・・・。お前は最初から俺と『トラップ』によって動かされていたのだ・・・。お前の意志はそれ程役には立たない・・・。それだけの意味もない・・・。弱く頼りないものなのだ・・・。だが・・・。」

竹内「(・・・・だが・・?)」

キング「・・・我々の言うように行動すれば苦しむ事も悩む事もない・・・。何も考える必要などない・・・。楽になれるのだ・・・・。

自分の感情を捨て去れ・・・・。人形になるのだ・・。」

竹内「・・・感情を捨てて・・人形になる・・・?」

キング「そうだ・・・。自分を捨て去る・・・それだけでお前は楽になれるのだ・・・。」

竹内「・・・・自分を捨てる・・。そうすれば・・・楽になれ・・・る・・・?」

キング「そうだ・・・。お前は人形だ・・お前は人形なのだ・・・。」

竹内「俺は・・・人形・・・俺は・・・人形・・・俺は・・・。」

竹内の頭の中に、人形と言う言葉が反芻される。そして、次第にその声に従う事が自分にとって正しい選択だと思えてきた。

竹内「俺は・・・人形だ・・・。」

キング「・・・そうだ。それでいい・・。お前は人形だ・・・・。だが、ただの人形ではない・・。優秀な戦闘人形だ・・・。お前の役割は・・・過去の自分・・・偽りだらけの自分を知り、そして馴れ合っていた者達を抹消する事だ・・・。」

竹内「・・・抹消・・・。」

キング「・・・・そうだ・・。この世から消す・・・抹消する・・・殺すのだ・・。」

竹内「殺す・・・・殺す・・・・殺す・・・・。」

竹内は何度も同じ言葉を呟いた。もはや、竹内の目は魂の抜けた虚ろな人形の目であった・・・。

キング「そうだ・・・特に八重花桜梨・・・あの女の存在はお前を誤った選択肢に向かわせた最もお前にとって忌むべき存在だ・・・。

憎むべき存在なのだ・・・。まずはその女を殺せ・・。そうすればお前は・・・・。」

竹内「・・・・花桜梨さんを・・殺す・・・?そうすれば・・・俺は・・・・?」

キング「・・・・・・・何者にも脅かされる事の無いお前だけの世界を築くことが出来る・・・。」

竹内「俺だけの・・・・世界・・・。」

キング「そうだ・・・。お前だけの・・・世界だ・・・。・・・そこで待っていろ・・。お前をあの女の前に連れて行ってやろう・・・。」

『キング』はそこまで言うと、満足そうに笑いながら竹内に背を向けて、部屋を出て行こうとした。しかし・・・。

竹内「・・・・違う・・。」

キング「・・・!?」

竹内「違う・・・・俺にとって・・・花桜梨さんは・・・大切な・・かけがえの無い存在なんだ・・・忌むべき存在なんかじゃ・・・憎むべき存在なんかじゃ・・・無い・・・!」

キング「(・・・なんだと!?精神操作薬を投与して、更に自我意識を混乱させたはずだが・・・まだ抵抗する事が出来るのか・・!?)」

竹内「・・・俺にとって・・・俺にとって・・・憎む・・べき・・存在は・・・。」

キング「・・・・。」

竹内「・・・お前だ!!」

竹内ははっきりとした声で、そしてさっきまで人形の様な瞳をしていたとは思えないほど強い光を宿した目で『キング』を睨みつけながらそう言い切った。

キング「・・・ちっ!」

『キング』は舌打ちすると、再び注射器を手に取ると、先ほどの薬品に何か別の種類のものを混合させた。

竹内「俺の世界には・・・花桜梨さんは・・・なくては・・・ならない女性(ひと)なんだ・・・。だから・・・俺は・・・花桜梨さんを・・・殺す事なんか・・・出来ない・・。」

竹内は途切れ途切れになりながらも、必死で自我を保とうとする。だが、『キング』はそんな竹内を見ながら残酷な笑みを浮かべてこう告げた。

キング「・・・そんなに八重花桜梨と言う女の事が大切か・・・?くっくっく・・・!ならば、お前だけのものにすればいいだろう。」

竹内「・・・俺だけのものに・・・?」

キング「そうだ・・。その手助けをしてやろう・・・。」

『キング』は注射針を竹内の首筋に刺すと、混合薬物を投与した。それと同時に竹内の意識が薄れていく。

竹内「・・・うぅ・・・。」

キング「八重花桜梨をどうすればお前だけのものに出来るか・・・今からゆっくりと教えてやる・・・。そう・・・、お前の深層心理の中にまでしっかりと刻み込んでな・・・。くっくっくっ・・・はっはっは・・・!!!」

竹内「・・・花桜梨さん・・・みんな・・・た・・すけ・・て・・・。」

その二時間前・・・。

匠「ダメだ・・・・。どうしてもセキュリティーが解除出来ない・・・!もう・・・どうしようもないよ・・。」

純「そんな・・・!何とかならないのか・・・!?」

匠「・・・・・・。」

純の問いかけにも匠はうつむいたきり何も答えない。

管制室を重い沈黙が支配する・・・。だが、そんな中・・。

琴子「・・・・ちょっと、坂城君・・・。」

琴子であった。さっきから黙って匠の様子を見ていた琴子はつかつかと匠の前に来ると、物も言わずにいきなり匠の横っ面を引っ叩いた。

バシッ!

室内に鋭い音がしたと同時に匠は顔を横に振られる。

匠「・・・水無月さん・・・・。」

琴子「しっかりしなさい!!今、あなたが諦めたら本当に終わりなのよ!!」

美帆「水無月さん・・・。」

光「琴子・・。」

光と美帆は琴子の方を見ながら、ぐっと手に力を込める。

琴子「この機械を操作出来るのは、あなたしかいないのよ!!そのあなたが駄目だって言ったら、本当に終わりじゃないの!」

匠「・・・・でも・・僕にもどうすればいいのか分からないんだ・・。」

純「・・・匠、お前がどうしても方法が分からないと言うのならばそれを恨んだりはしない。ただ、時間まで40分くらいはある。

それまで、やるだけの事はやってみてくれ。頼む・・・!」

美幸「そうだよ〜!さっきゃんが頑張ってくれれば美幸たちはその結果がどうなったとしても、絶対にさっきゃんのことを責めたりなんかしないよ〜!!だから・・・お願い!諦めないで〜!!」

純も美幸も匠を励ます。

琴子「・・・・坂城君。みんなはあなたの事を信じているわ。だから・・・、もう一度頑張ってみて・・・!」

匠「・・・・・分かったよ。・・・そうだね・・・。ここで諦めるなんて僕らしくないよね!・・よ〜し!時間が来る最後の最後まで頑張ってみるよ!!」

そして・・・、時間が来る1分23秒前・・・・セキュリティーシステムは匠によって解除された。

一方、花桜梨と涼は・・・。

花桜梨「竹内君が・・・・。そんな・・・どうして彼が連れ去られなければならないの・・・・。」

涼「・・・・・・。」

二人は竹内を助ける事が出来なかった事を悔やんでも悔やみきれない様子で地下通路を歩いていた。

花桜梨「私・・・竹内君と約束したの・・・。」

涼「・・・・・・。」

花桜梨「絶対に生きて・・みんなで一緒に帰るって・・・・。」

涼「・・・・・・。」

花桜梨「それから・・・みんなで・・・高校を卒業して・・・。」

涼「・・・・・・。」

花桜梨「私が・・・私が上陸艇を調べる事に反対していたら・・・こんな事にはならなかったのに・・・。全部・・・私のせい・・・。」

涼「・・・・あれは仕方のない事だったんだ・・。花桜梨さんのせいじゃないよ・・・。」

花桜梨「私が・・・・私が・・・・。」

花桜梨は涼の言葉もまるで耳に入っていない様子だった。泣きそうな顔で俯いたきり、顔を起こそうとはしない。

涼「・・・・花桜梨さん!」

花桜梨「!」

涼は突然花桜梨を抱きしめた。抱きしめずにはいられなかった・・・。

涼「竹内は・・・あいつは君を助けるために、あのハンターに飛び掛ったんだ・・・。君を守りたいと言う一心から・・・。」

花桜梨「・・・・。」

花桜梨は涼に抱きしめられたまま、驚いた顔でじっとしている。

涼「・・・・竹内は・・・八重さん、・・君の事をずっと好きだったんだ・・・だからこそ自分を犠牲にしてまで・・・。」

花桜梨「・・・・・・。」

涼「俺は・・・・俺も君の事が好きだったんだ・・・。ずっと前から・・・・。でも、俺はあいつには勝てなかった・・・。」

花桜梨「・・・秋口君・・。」

涼「いつも・・・君の笑顔の先には竹内の姿があった・・・。俺は・・・俺はいつもあいつが羨ましかった・・。」

涼は自分でも無意識のうちに竹内に対して嫉妬と羨望の念を抱いていた。だが、その中でも半分竹内を認めている事も事実だった。

涼「・・・・八重さん・・・俺は君に想いが届かなくてもいいんだ・・・。けど・・・けど・・・、竹内と俺が愛したその笑顔を・・・絶対に忘れないでくれ!」

花桜梨「!」

涼「・・・・あいつは・・・竹内は俺が絶対に助け出して見せる!だから・・もうそんな顔をしないでくれ・・・!!」

花桜梨「秋口君・・・・うん・・・、ごめんなさい・・・。」

涼は自分の恋が成就することはないと分かっていたが、それでも同じ一人の女性を愛した者同士、花桜梨の悲しい顔を見るのがとても辛かった・・・。

花桜梨「秋口君・・・もう・・大丈夫だから・・・。」

涼「!」

涼ははっとして花桜梨から手を離した。

花桜梨はそんな涼の様子を見て、少しだけ微笑んだ。

そこへ・・・。

トラップ「・・・・。」

涼・花桜梨「!!」

通路の奥から音も立てずに現れたのは『トラップ』だった。

トラップ「・・・・竹内がいないみたいだが・・・あいつはどこにいるんだ・・・?」

涼「・・・とぼけた事を聞くな!お前らのリーダーが上陸艇で竹内を連れ去ったじゃないか!!」

トラップ「・・・なんだと?(しまった・・・・一足遅かったか・・・。『キング』に先を越されたとなると・・・・少々厄介だな・・。

次に竹内がここに現れるのは早くとも三時間後・・・・って所か・・・。)」

涼「お前らは竹内をどうするつもりなんだ!!」

『トラップ』は涼の質問には答えずに、二人の所を無言ですれ違うとそのまま奥へと進んでいく。

涼「おい!待て!何処へ行く気だ!」

涼は拳銃を抜いて真っすぐに構える。しかし・・・。

トラップ「・・・・・・。」

涼「聞いているのか!止まれ!!」

トラップ「・・・・・うるさいな・・。それ以上何か言ってみろ・・・。殺すぞ・・・?」

涼「!!」

『トラップ』は今までに見たこともないくらい恐ろしい顔つきで振り向くとそれだけ告げた。

最初に出会った時に見せていた顔つきが今では比べようもないほどに変わっている。

そう・・・、獲物を狩るハンターの顔だった・・・。

二人は『トラップ』の豹変ぶりに声も出ない。『トラップ』は二人を一瞥すると再び黙って通路の奥に消えていった。

トラップ「(・・・・俺の計画は邪魔させはしない・・・。竹内を手に入れるのは俺だ・・・・。

恐らくあいつは『マインド』の指揮下に入る・・・と、なるとあいつが邪魔だな・・・・・仕方ない・・・奴には消えてもらうか・・・。

くくく・・・!竹内にあの処置を施しておいたのは正解だったな・・・。)」

『キング』の考えている事とは別に『トラップ』が極秘に進めている計画は竹内の存在によって全てが決まる事になっていた。

果たして彼の計画はどのような結末をもたらすのか・・・?

全ては竹内次第であった・・・・。

<第弐拾七話・完>

                               (第弐拾八話へ続く・・・)

 

次回予告

匠の健闘によって、セキュリティーシステムを解除する事に成功したが危険はまだ去ってはいなかった。

安心して油断しきっていた一同の前に『マインド』が驚くべき人物を連れて現れた。

そう、歪められた人格と感情を持ち、記憶を抹消され哀れな人形として隋落したかつての仲間が一同の前に舞い降りる・・・。

だが、事態は意外な展開へと変わっていくのだった・・・。



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