ときメモ2バトルロワイヤル風SS・第弐拾六話「裁く者と裁かれる者」
純は刀を鞘に仕舞うと、腰に収めた。『ライン』は立ち上がることが出来ない。
ライン「う・・・うう・・・。」
純「・・・・無駄だ。しばらくは立ち上がることなど出来ないはずだ。」
純は『ライン』にそれだけ言うと、美帆の元に走り寄るとワイヤーをほどいてやる。
美幸もすぐに二人の所に駆け寄ってきた。
美幸「す、すごいよ〜!ほかりん、いつの間にあんなに凄い技を使えるようになっていたの〜!?」
純「あ、ああ・・・。アレは俺の切り札みたいなものなんだ。滅多に使う事はないんだけど、今回ばかりはさすがに危なかったからな・・・。」
美幸「かっこ良かったよ〜!!美幸、びっくりしちゃったよ〜!!」
純「い、いや・・・、それ程でも・・。」
純は少し恥ずかしそうに頭をかきながら謙遜する。
美幸「それに〜、さっきは美幸を助けてくれて本当にありがとうね〜!あともう少しで照明に押し潰される所だったよ〜!」
純「いや、あの照明が落ちてこなかったら俺はあいつにやられていたと思う。寿さんのおかげで勝利を手にする事が出来たようなものだよ。」
美幸「えへへ・・・、そう言われるとなんだか照れくさいな〜・・。」
美幸も少し赤くなりながら、そう言ってにっこりと笑う。その時・・・。
美帆「・・・・・う・・・ん・・。」
美幸「あっ!美帆ぴょん!」
美帆も意識を取り戻した。何がなんだか分からないと言った感じだ。
純「白雪さん、怪我はない?」
美帆「え、ええ・・・。あの・・・、一体何が・・・?」
純は美帆と美幸に今までの経緯を簡単に説明した。
美帆「そうですか・・・・.美月さんの正体はハンターだったんですか・・・・。」
美幸「・・・じゃ、じゃあ、まだ他にもまだハンターはいるの・・・?」
純「そこまでは良く分からないが恐らくそいつだけじゃないはずだと思う・・・。増援ってからには最低でもあと一人か二人はここに来ているはずだからな・・・・。」
純が倒れている『ライン』を見ながら、厳しい顔で言う。
美幸「ねぇ・・・、美月さん・・・じゃなくって、ほかりんがやっつけたハンターはどうするの〜・・・?」
純「・・・・いくら敵と言えども、もうそいつは戦えないはずだ。何も殺さなくとも、ここに置いていけばいいさ。」
美帆「・・・・そうですね・・。」
美帆も純の考えに相槌を打つ。その時・・・.
智「・・・・どうやら、もうケリは付いたみたいだな・・・。」
純「智!!お前、大丈夫なのか!?」
智「ああ、何とかな・・・。それより、お前の方こそ大丈夫か・・・?」
純「ああ、俺も寿さんも白雪さんも大丈夫だ。それよりもお前、左腕が・・・。」
美幸「さとぽん!その傷は・・・・!」
美帆「何てひどい傷・・・・!」
智「・・・これか・・?ああ・・、もう大丈夫だ・・。神経がイカれたみたいでもう痛みもあまり感じなくなってるからな・・・。」
純「何だって・・!?これは・・・・・・まずい!!傷口が炎症を起こして壊疽を起こしかけている!早く医者に診せないと智の腕が本当に使い物にならなくなっちまうぞ・・・!」
美幸「えぇ〜!!そ、そんな・・・・!どうしよう・・・!」
智「・・・・・こんな所には医者なんかいないからな・・・。どうやら、覚悟を決めないといけないみたいだな・・・・。」
智は半分、左腕を失う事を覚悟したように呟いた。
純「早くここを脱出しなければ・・・!急いでみんなのところに戻ろう。これ以上は先に進んでも危険だ!」
美帆「はい、私もその方がいいと思います。増援のハンターが来ているのならば、坂城さんや陽ノ下さんたちの事も気がかりです。」
智「・・・それに、秋口の事も気になるな・・。あいつ・・、まだ戻ってきていないんだろ・・・?」
純「ああ、もしもの事がなければいいんだが・・・。」
美幸「そうだ〜!携帯電話で連絡を取ってみようよ〜!」
純「そうか!その手があった!」
美帆「私が電話してみますわ。」
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美帆「・・・・どうしたんでしょうか?全く繋がらないです・・・・。」
智「・・・あいつ、恐らく『キング』を追って地下に行ったかもしれないな・・・・。地下だと電波が届かないからな・・・。充分に考えられるぞ・・・・。」
純「仕方ない・・・・。秋口のことはあとで考えるとして、ここは早く匠たちのところに戻ろう。」
智「・・・おい、あのハンターはこのままにして行くのか?」
純「ああ、あいつはもう戦えないはずだ。放って置こう。」
智「・・・・。」
純たちは、倒れた『ライン』をそのままにして部屋を後にした。
一方、竹内と花桜梨は・・・。
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竹内「・・・・これは!?」
花桜梨「・・・上陸艇・・・よね?」
竹内「でも、さっきのとは違うみたいだけど・・・。」
花桜梨「・・・・どうしよう・・。」
竹内「一応、調べてみよう。何か役立つものがあるかもしれない。」
花桜梨「うん。」
二人は二つ目の上陸艇・・・・『ライン』と『マインド』が乗ってきたものなのだが、それを調べる事にした。
中を見るとキーが挿さっていないために、動かす事は出来ないみたいだ。
竹内「ここに、キーを挿せば動かす事が出来るみたいだな・・・。」
花桜梨「でも、何でこんな所にも上陸艇が・・・?さっきのよりも少し小型みたいだし・・・。」
竹内「・・・・う〜ん・・・。ここに来た五人のハンターは一隻の上陸艇に乗ってきたはずだけど・・・。・・・・まさか!!」
キング「そのまさかだ。」
竹内・花桜梨「!!?」
突然背後から声が聞こえてきたので、二人は慌てて後ろを振り向いた。
そこには、刀を携えた『キング』の姿があった。
竹内「お前は・・・!」
キング「いかにも・・。俺はここに送り込まれたハンターを統率する存在・・・ハンターコードネーム『キング』だ。」
花桜梨「『キング』・・・・。」
キング「まさか、お前たちがここに来ているとはな・・・・・。まあいい・・・、ここでお前たちを狩れば済む事だ。」
竹内「・・・・・くそっ!(武器は水路に流される途中で全て無くしてしまった・・・。どうすれば・・・!?)」
花桜梨「竹内君・・・。」
花桜梨の言葉に『キング』が反応する。
キング「!!・・・おい、お前の名前は何て言うんだ・・・?」
竹内「・・・竹内だ。」
キング「くくく・・・!はっはっはっは!!そうか!!お前が『スナイプ』と『ウェポン』、そして『ナイト』を殺ったガキか!」
竹内「・・・・!そうか・・・、お前が俺の携帯を使って電話をしてきた男だな・・・。」
『キング』は竹内を見て嬉しそうな顔をして刀を構える。
キング「そうだ、くくく・・・!やっとお前の顔を見る事が出来たな!ふふふ・・・!はっはっはっ!!!」
『キング』は高笑いすると、竹内の所に近づいてきた。
竹内「何がおかしい!?」
キング「ははは!おかしい訳では無い・・・。嬉しさのあまり笑いが止まらないんだよ!」
花桜梨「嬉しい・・・?どういう事なの・・・!?」
キング「お前が知る必要はない・・・。俺にとって必要なのは竹内・・・そっちのガキなのだからな。女の方には用は無い。
ここで消えてもらおうか・・・。」
『キング』は刀を構えると、じわじわと二人に近づいてきた。
竹内「させるか・・・!花桜梨さん、早く逃げるんだ!」
竹内は花桜梨を突き飛ばすようにして上陸艇から追いやると、キングに向かって行く!
花桜梨「竹内君!!」
キング「くくく・・・!馬鹿め!自ら捕まりに来たか!」
『キング』は竹内の突進をかわす事もせずに、そのままカウンターで竹内の腹に拳を打ち込む!
ドボッ!!
竹内「ぐふっ・・!!」
竹内は身体を「く」の字に折れ曲げると、『キング』にもたれかかるようにして気絶してしまった。
『キング』は竹内の身体を軽々と肩に担ぎ上げると、上陸艇の中に放り込んだ。
キング「くくく・・・!思いもよらない所でいい素材を手に入れる事が出来た・・・!」
花桜梨「竹内君!!」
キング「おっと!人の心配をしている場合か?」
竹内の所に向かおうとした花桜梨の前に刀を構えた『キング』が立ちはだかる。
花桜梨「・・・くっ!そこをどいて!!竹内君を返して!!」
キング「そうはいかん・・・。こいつは俺たちにとって大切な存在だ。」
花桜梨「竹内君をどうするつもり!?」
キング「さあな・・・。お前がそれを知る必要は無いし、教えるつもりも無い。なぜなら・・・・お前はここで死ぬのだからな!!」
花桜梨「!!!」
キングは刀を振り上げると、花桜梨に向かって一気に切りつけようとした・・・・その瞬間!!
パァァン!!
キング「ぐっ!?」
突然銃声がしたかと思うと、『キング』の右腕が撃ち抜かれる!
花桜梨「・・・・!」
花桜梨が銃声のした方を見てみると・・・。
涼「・・・・。」
花桜梨「秋口君!」
涼だった。銃を構えて『キング』の方を見据えている。
キング「ちっ!邪魔は入ったか・・・!・・・まあ、いい!第一の目的は達成した!これで引き上げてやる!!」
涼「逃がすか!」
パァァン!!
パァァン!!
涼は逃げようとするキングに更に銃を連発で撃つ!
だが、弾丸は『キング』に命中する事は無く、小型上陸艇の梯子に当たって火花を散らした。
涼は『キング』の後を追い、上陸艇に乗り込んだ。しかし・・・。
キング「そこまでだ!・・・・大人しく船から下りるんだな。」
涼「しまった・・!竹内を・・・・!」
『キング』は気絶している竹内の首筋に刀を突きつけると、涼に船を降りるように告げる。
流石に竹内を人質に取られては、涼も大人しく『キング』の要求に従う他無かった・・・。
『キング』はキーの代わりに自分のカードキーを非常用操作パネルに挿し込むと、上陸艇のエンジンを起動させた。
花桜梨「・・・・そんな!キーは挿さっていなかったのに・・!?」
キング「くくく・・・!確かにこいつはもらっていくぞ!はっはっはっはっは!!!!」
『キング』は最後に大笑いしながら上陸艇を動かして、水路を通って花桜梨と涼の前から姿を消した。
花桜梨「そんな・・・竹内君が・・・!」
涼「ちくしょう・・・!」
二人とも、悠然と去っていく小型上陸艇を黙って見送ることしか出来なかった・・・。
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一方、匠は・・・。
匠「・・・・まずいな・・。」
光「どうしたの・・・・?」
匠が急にパネルを見ながら深刻な顔をしたので、光が不安そうに問い掛ける。
匠「・・・さっきからセキュリティーシステムを示すランプが赤く点滅しているんだ。このままじゃ、あと一時間以内にこの施設内全ての監視カメラが・・・・。」
光「監視カメラが・・・?」
匠「・・・・・侵入者の姿を捉えた瞬間に、カメラに取り付けられている小型マシンガンが侵入者を無差別に銃撃する事になるんだ・・。」
光「そんな!!・・・・それじゃ、この施設にいる私たちは・・・・。」
匠「・・・・・勿論、侵入者として攻撃されるだろうね・・・。」
琴子「何とか、解除出来ないの・・・?」
匠「・・・・それが、どうしてもパスワードが分からないんだ。それさえ分かれば簡単に解除出来るんだけど・・・・。」
光「とにかく、みんなに早く知らせないと・・・・。」
匠「うん、今から携帯で知らせよう。」
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美帆「もしもし・・・あっ、坂城さんですか?・・・ええ、私たちも今からそちらに戻ります。・・はい、・・・それでは・・・。」
純「匠から?」
美帆「はい、今からすぐに管制室に戻る様にって言われました。」
純「今すぐに・・・・?」
美帆「はい・・・、それが随分慌てていたみたいですが・・・・。」
純「どちらにしろ、俺たちは管制室に戻るつもりでいたんだ。丁度いいよ。」
美帆「そうですね・・・。」
純は智に肩を貸してやると、四人で管制室に向かって戻り始めた。
しかし、部屋を出る直前になって・・・・。
ライン「う・・・っく・・・!この私が・・・・ハンターである私が・・・・!情けをかけられるなんて・・・これ以上の屈辱は・・・無い・・!」
『ライン』は四人が部屋を出て行ったのを確認すると、歯を食いしばりながら必死になって立ち上がった。
純の攻撃をまともに受けており、本来だったら立ち上がる事はおろか身動き一つ取れないはずだが、彼女は自分が受けた屈辱を晴らす為に・・・、自分に止めを刺さずに立ち去った相手への憎しみによって立ち上がったのだった・・・。
ライン「・・・・殺してやる・・・!・・・あの男だけは・・・!たとえ・・・私の命に代えてでも・・・、せめてあの男だけは・・・・・殺してやる・・・!!」
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美幸「・・・もう少しでみんなのいる所に着くね・・。」
美帆「ええ・・・。早くこれからの事について相談しないといけませんね・・。」
純「まさか、増援部隊が来るとはな・・・。さっきの女ハンターだけとは思えないし、いよいよ覚悟を決めないといけないかもな・・・・。」
純が眉間にしわを寄せながら呟く。
智「・・・・・。」
智はさっきからずっと黙り込んだままである。傷が深いためだろうか・・・?
その後ろでは・・・。
ライン「(・・・・・見つけた・・・!あの男だけは・・・!!!)」
じわじわと四人との距離を詰めていく。足音を立てないように、最後の力を振り絞って『ライン』は右手のワイヤーを構えた。
狙いはもちろん純の首筋だ。
距離は約15メートル・・・。純は未だに気付いている様子は無い。
ライン「あと・・・15メートル・・・!」
『ライン』は確実に距離を縮めていく。
あと10メートル・・・7メートル・・・・5メートル・・・!
ライン「(・・・・もう少し・・・!もう少しで・・・!!)」
そして、純と『ライン』との距離は5メートルを切る!
純「よし、この先を右折した所が管制室だ、急ごう。」
ライン「(・・・・あと2メートル!)」
ついに二人の距離が2メートルにまで縮まる。『ライン』はワイヤーの狙いを確かめると攻撃態勢に入る。
そして、残りの距離が1.5メートルにまで近づいた。
ライン「(・・・・もらったわよ・・・!死ね・・・っ!)」
距離をギリギリまで詰めた『ライン』は右手を後ろに構えると一気に――!!
だが!
智「!!!」
ズシャッ!!
ライン「・・・・!」
勝負はほんの一瞬でついた。
智はあらかじめ『ライン』が背後から襲ってくる事を予想していたかのように、片手で純の刀を抜くと振り向きざまに『ライン』の体を真一文字に切り裂いた!
ぱっと血しぶきが舞い上がると同時に美帆と美幸、そして純も振り返る。
飛び散った血が智だけではなくすぐ真横にいた純の顔にまでかかる!智に斬られた『ライン』は声も出さずに絶命する。
そして、そのままばったりとうつ伏せに倒れて自分の血で床を真紅に染めた。
純「・・・・・・。」
美幸「・・・・・。」
美帆「・・・・・・。」
智を除いた三人は、しばらく状況が飲み込めずに呆然としながら智と死体となった『ライン』を交互に見つめる。
そして・・・・。
美幸・美帆「きゃああぁぁぁっ!!!!」
二人の悲鳴が通路に響き渡ったのはそれから数秒後の事であった・・・。
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匠・光・琴子「!!!」
管制室の三人にも二人の悲鳴が聞こえてくる。
光「・・・・・今のって・・・。」
匠「・・・美幸ちゃんと白雪さんの悲鳴だよね・・・。」
琴子「・・・何かあったみたいね・・・。」
三人は顔を見合わせると、悲鳴のした方に向かって走り出した。
三人が現場に到着してみると、そこは惨状だった・・・。
壁や天井には血が飛び散っており、純と智は返り血を浴びて真っ赤な顔をしている。
そして、床には死体となった『ライン』が転がっていて、そこからは大量の血が流れ出して辺りには血だまりが出来ていた。
光「うっ・・・!」
光はその惨状を見て込み上げてくる吐き気に耐えかねて、その場から走り去る。
琴子と匠も思わず目を背けずにはいられなかった。
純「智・・・・お前・・・最初から気付いていたのか・・・・?」
智「・・・・ああ。」
純の問いかけに対して智はそれだけ答えると、まだ血の滴っている刀を床に突き立てて、辛うじて自分の体重のバランスを取る。
純「・・・何故もっと早く俺に言わなかったんだ・・・!?」
智「・・・お前に話したとしても、こいつを殺す事が出来たか・・・?」
純「・・・!」
智「お前はきっとこいつを再び見逃すだろう。そして、こいつは再び襲い掛かってくる・・・・。その繰り返しだ。」
純「・・・・。」
智「そうなれば、美幸や白雪さんにも危険な目に遭わせる事になっちまうだろ・・・?」
純「・・・・お前は何故そこまで冷静にしていられるんだ・・・?」
智「・・・。」
純「・・・何故人を殺しても・・・そこまで冷静にいられるんだよ・・・!?」
純も、智が『ライン』を殺した事に対しては止むを得ない事だと分かっていた。
だが、智のあまりにも淡々とした様子には納得がいかなかった。
智「・・・・お前は・・・まだそんな事をいってんのかよ・・・!?俺たちも相手を殺す気にならなきゃ、殺られちまうんだぞ・・・!?」
純「・・・確かにそれは分かる!だが・・・・!」
智の言葉に純は何かを言おうとした・・・・が。
智「・・・・。」
不意に智がその場に崩れ落ちる。
左腕の出血により意識を失ってしまったのだ。その証拠に智の左腕からはおびただしい量の血が止まる事無く流れ続けていた。
純「・・・!!智!おい!しっかりしろ!!智!!」
智「・・・・。」
純が必死に智に声をかけるが、智には全く反応が見られない。このままでは非常に危険な状態になってしまうのは確実だった。
純「匠!こいつの傷を縛るのを手伝ってくれ!」
匠「・・・・!ああ、わ、分かった!」
純に声をかけられて、匠は我に返ったかのように返事をして純の言うとおりに智の傷をしっかりと縛った。
純「・・・・これで少しは持つはずだ・・!早くここを一刻も早く脱出しなければ・・・!」
匠「・・・やばいのは僕たちも同じみたいだよ・・・。」
匠が重々しく口を開いた。
純「・・何だって・・!?それはどういう事なんだ・・・!?」
琴子「・・・この施設の防衛装置があと一時間で作動するみたいなのよ・・・。そうなったら、私たち全員侵入者として排除されてしまうそうよ・・・。」
純「くそっ・・・!そうなる前に何とかしないと・・・!!」
美幸「どうしよう・・・!このままじゃ美幸たちみんな死んじゃうよ〜!!」
美幸が半泣きになって美帆にすがりつく。
美帆「・・・・・。」
美帆もどうする事も出来ずに、黙り込んでしまう。
一同に絶望と諦めの空気が流れ始めたそんな時・・・。
トラップ「・・・・大分お困りのようだね。」
一同「!!!!」
管制室の方から『トラップ』が不意に現れる。一同は突然の『トラップ』の登場に驚きを隠せない。
純「お、お前は・・・!」
トラップ「・・・そいつ、見たところかなりヤバイみたいだな・・・。ちょっと、見せてみな。」
そう言うと、『トラップ』は智の所に来て智の左腕の傷を見る。
トラップ「・・・・あちゃ〜・・・。こりゃ、随分と派手にやられたな・・・。こいつ、このままじゃ確実に死ぬぜ。
そうだな・・・もってあと、1時間ってとこかな・・。」
純「なっ・・!おい!何とか助ける方法は無いのか!?知っていたら教えてくれ!頼む!!」
美幸「美幸からもお願い!何とかさとぽんを助けて!お願い!!」
二人は、『トラップ』がハンターである事も忘れて彼に救いを求める。
『トラップ』はそんな二人を見て、笑いながらこう答えた。
トラップ「こいつの傷はいくら俺だって治すことは出来ないけど、命を引き伸ばす事なら出来るぜ。ただ、一つ条件があるけどね。」
純「条件・・・?どんな条件だ。」
トラップ「竹内と、八重花桜梨の居場所を教える・・・って言う条件さ。」
純「・・・!そんな条件が・・・!」
トラップ「嫌とは言えないはずだぜ?分かっているよな?」
純「くっ・・・!だが、二人は水路に落ちて流されてしまったんだ!俺たちでもあの二人の居場所は分からないんだ!」
トラップ「・・・・!(あの水路の流れ着く先は・・・・地下か・・。とすると・・・、少し遠いな・・・。)」
純「・・・他の条件なら出来る限り検討する!言ってくれ!」
トラップ「いや、もういいぜ。・・・二人は確かに水路に流されたんだな?」
純「ああ!本当だ!ハンターとの戦いで水路に落ちた竹内を助けようとして、八重さんも一緒に・・・!」
トラップ「・・・・・なるほどね・・・。・・・・おい、こいつをその死にかけている奴に飲ませてやりな。」
『トラップ』は純に液体の入った小ビンを投げよこした。
純「これは・・・?」
トラップ「一種の麻酔薬みたいなものだ。そいつを飲んだ奴は、例外無く一時的な仮死状態になる。
そうすれば出血も少しは治まるだろう。身体に余計な負担がかからない分、出血も少なくなるんだよ。
・・・だが、それでもせいぜい5時間程度しかもたないだろうけどな。」
純「・・・・・。」
トラップ「ま、ここで全員殺されれば意味はないがね・・・。もしも、あんたらが生き残る事が出来たなら・・・その時の保険として飲ませてやりな・・。」
『トラップ』はそれだけ言うと、珍しく慌てたように通路の奥へと走り去ってしまった。
純も大急ぎで智に薬を飲ませた。飲ませたと言っても、口に流し込んだと言った方が近いかもしれないが・・・。
薬を飲ませてからしばらくすると、智の顔色が急に青ざめてきた。どうやら、仮死状態に入り始めたようだ。
それと同時に呼吸や脈拍も一気に弱くなる。出血も、薬を飲ませる前よりは明らかに少なくなった。
純「・・・これで何とか当分は大丈夫だろう・・・。・・・あいつに助けられたな・・・。」
琴子「ええ・・・、彼は一体何を考えているのかしら・・・・。少なくとも、私たちは彼に手助けしてもらったのはこれで結果的に二回目なのよね・・・。」
琴子は複雑な表情を浮かべて、『トラップ』が走り去った方を見ながら呟いた。
匠「・・・でも、まだ僕たちが完全に助かった訳じゃないよ・・・。あと一時間以内にセキュリティーシステムを解除しないと・・。」
純「俺たち揃って終わり・・・・って事か・・・。」
匠「・・・・そういう事だね・・・。」
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<第弐拾六話・完>