ときメモ2バトルロワイヤル風SS・第拾六話「死闘」

ときメモ2バトルロワイヤル風SS・第拾六話「死闘

純・智・涼・花桜梨の四人は施設の中を地図を見ながら進んだ。そして,最後に竹内と会った部屋の前まで辿り着いた。

ハンターとも出会う事無く順調に進む事が出来たので、それ程時間はかからなかった。

花桜梨「ここが最後に竹内君と会った部屋よ・・。」

智「中には・・・・もう誰もいないみたいだな。」

純「そうだろうな・・・。あれから時間が経っているからな・・・。多分どこかを歩いている可能性が高いな・・・。」

涼「だとしたら、厄介だな・・・。竹内がどこにいるか分からない以上、俺たちも下手に歩き回ってもそうそう見つからないはずだ。むしろ、ハンターと出会う可能性も考えられる・・・。」

智「・・・・仕方ない・・・。二手に分かれるか・・・・。」

純「そうだな・・・。この状況で少人数で行動するのは危険だが止むを得ないだろうな・・・。」

涼「どういう風に分ける?」

智「八重さんが武器を持っていない分、一人が徹底的に彼女をガードしなくちゃならない。俺と純よりも拳銃を持っている秋口の方が八重さんを守りやすいだろう?だったら・・・。」

純「自然とメンバーは決まるな?」

涼「分かった。俺と八重さんで向こうを探索する。小倉と穂刈は逆の方を頼む。」

智「ああ、任せときな。」

純「それじゃあ、今から一時間後にこの部屋の前で落ち合おう。」

智「何かあったら。携帯で連絡を取ろう。もしも竹内を見つけたら、すぐに知らせるからな。」

涼「よし、一時間後にまた会おうな!」

花桜梨「穂刈君・・・小倉君・・・、気をつけてね・・・。」

智「八重さんもね。・・・秋口、八重さんをしっかり守ってやってくれよ。」

涼「ああ、分かってる。」

純「よし!智,行こうぜ。」

こうして、四人は二手に分かれて竹内を探す事になった。

一方、竹内は・・・。

竹内「・・・・・・・ここにも居ないか・・・。あれから大分歩き回っているのに、全然ハンターと遭遇しないな・・・。」

彼は施設のある一室に居た。隣には水路がある。どうやら、この水路は施設内を網目上に流れているらしく,どこかに繋がっている様だ。

竹内「・・・・この水路はどこに繋がっているんだ・・・・?さっきから似たような水路を何度も見ているが・・・。」

竹内は何気なく水路を覗き込んでみる。水は割りと透き通っている様だが、通路が薄暗いせいか奥までよく見えない。

竹内「・・・・・・まぁ、水路なんかどうでもいいか・・・。俺のやるべき事はただ一つ・・。ハンターを探し出して・・・・殺す事だけだ・・・。」

そう呟くと,竹内は再び通路へと歩き出した。ハンターという名の獲物を求めて・・・。

智「なぁ・・・、竹内の奴・・・どこを歩いているんだろうな・・?」

純「さあな・・・。だが、必ずこの施設のどこかに居る事は間違い無いはずだ。根気強く探していればいつかは見つかるはずさ。」

智「そうだな・・・。」

二人は施設の中をくまなく探索する事にした。地図を見ると施設の南端に出口があり、施設全体は大きく西と東に分かれている。

アルファベットの「T」の様な形になっているのが特徴的だった。

と、そこに智がある物を発見した。

智「おい・・・,あれって階段じゃないのか?」

純「ん?・・・本当だ・・。地下に繋がっているみたいだな・・・。どうする・・・?」

智「・・・・この地図には階段なんて書かれていないな・・・。怪しいな・・。」

純「・・・・もしかすると、この先に竹内がいるかもしれないな。・・・行ってみるか・・・。」

智「そうだな・・・。地図に記しも付けたし、道が分からなくならないように、目印を付けながら進めば大丈夫だろう・・・。」

二人は、階段を下りて地下に下りることにした。

純「・・・・おい、ここは上よりもかなり暗いな・・・。」

智「ああ、上も薄暗かったけど、ここはそれ以上に真っ暗だ・・・。」

地下は一階よりも更に暗くて,目が慣れるまで下手に進む事は出来ないくらいであった。

純「しばらく、ここで目が慣れるのを待とうぜ。」

智「ああ、そうしよう。」

二人はそう言って,この場で目が慣れるのを待つ事にした。そして、ようやく目が慣れてきたと思った瞬間!!

バシュッ!!

純「うっ!!」

純が、突然うめき声を上げるとその場にしゃがみ込んだ。

智「!?おい、純!どうした!」

純「わ・・・、分からん・・・。何かがいきなり背中を・・・・!」

智が純の背中を見ると・・・・何か鋭利な刃物の様な物で、純の背中は一文字に切り裂かれていた。幸い傷はそれ程深くは無いようだが,切り裂かれた背中からは血が流れて,暗闇の中でも分かるくらいにシャツと上着は紅く染まっていた。

智「何が起きたんだ・・!?」

智は訳の分からないまま、辺りを見回した。しかし、暗闇のせいでほとんど何も見えない。

すると、闇の中から突然声が聞こえてきた。

???「くくく・・・。ようこそ・・・・,我が狩猟場へ・・・。」

智「誰だ!?」

ナイト「俺の名前・・・コードネームは『ナイト』・・・。お前たちを狩るために送り込まれたハンターの一人さ・・。暗闇の中での狩りを最も得意するハンターだ・・。」

智「・・・『ナイト』だって・・!?」

ナイト「この暗闇の中ではお前たちは俺の姿が見えるまい・・・。だが、俺からはお前たちの姿、動きが手に取るように分かるぞ・・・。暗闇と言う名の恐怖に怯えながら死ぬがいい・・・。」

智「くそっ・・・!せめて光があれば・・・・!」

智は持っていた刀を鞘から抜くと、中段に構えた。

ナイト「ほう・・・・。お前たちも武器を持っているのか・・・。だが、それも無駄な事だ・・・。」

智「!!」

ザシュッ!!

智「うぐっ!!」

智は左腕を切り裂かれて、膝を落としてしまった。

智「ちくしょう・・・!汚ねぇぞ!!正々堂々とかかってきやがれ!!」

智は左腕を押さえながら、闇に向かって叫んだ。

ナイト「汚い・・・?正々堂々・・・?くくく・・・!笑わせるな・・・。これは剣道の試合などではないんだぞ?殺し合いという名の命のやり取りだ・・・。殺し合いに卑怯もくそも無いに決まっているだろうが・・・。生き残った方が勝者であり、殺し合いに勝つ為にはどんな手段を用いてもいいんだよ・・・。くっくっく・・・!」

『ナイト』はそう言って二人を嘲るように笑う。

純「ううっ・・・!」

智「!!純!お前,背中は大丈夫なのか!?」

純「ああ・・・。何とかな・・・。あいつ・・・俺たちをすぐに殺さずいたぶる気だぞ・・・。」

智「・・・らしいな・・・!本気になればいつでも俺たちを殺す事くらい出来るはずだからな・・。」

ナイト「ふふふ・・・!さあ、次はどこを切り裂いてやろうか・・・?くくく・・・!」

『ナイト』は暗闇の中で不気味に笑うと、音も無く二人に近づくと、二人の肩を立て続けに切り裂いた。

ビシュッ!!

智・純「ぐあっ!!」

二人の左肩から鮮血が迸る!傷口から吹き出した血が床にぱっと飛び散る。

智「くっ・・・!ちくしょう・・・・!!このままただ何も出来ずになぶり殺されるだけなのかよ・・・!」

智はそう言って、歯を食いしばる。

純「・・・・ここではあいつの姿を確認する事は無理だ・・・!一度上に戻って体勢を立て直すしかないぞ・・・!」

智「それしか無いみたいだな・・・。・・・よし!純!行くぞ!!」

純「おう!!」

智と純は一気に走り出した。しかし、前がよく見えないせいもあり、スピードが出ない。それに、切り裂かれた傷口が足を踏み出す度に鋭い痛みを発する。

ナイト「くくく・・!逃げられるとでも思ったか・・・?お前たちの行動は既に俺の手の内にあるんだぞ・・・?」

『ナイト』はそう言って二人を追いかけた。

智「よし!あの階段を昇れば一階に戻れるぞ!」

純「ああ!急げ!!」

智と純は、階段を一気に駆け上がった。そして、通路をそのまま走り続けると一つの部屋に駆け込んだ。

ナイト「逃がすものか・・・!」

『ナイト』も、二人を追って、部屋に入る。

智「・・・・来たな!」

ナイト「ふふふ・・。大人しく切り裂かれて死ぬんだな!」

『ナイト』は、残忍な笑みを浮かべると、ゆっくりと二人の前に迫った。

純「そうは行くか・・・!」

智「ここではお前の姿も見える!さっきの様に行くと思ったら大間違いだぞ!」

ナイト「ふん!手負いのお前たちに何が出来る?例え姿を消す事が出来なくとも俺がお前らのようなガキに殺られるとでも思うか?」

智「だったら試してみろよ・・・!」

智はそう言って、刀を再び中段に構えた。

ナイト「望み通りバラバラに切り裂いてやる!!死ねえぇぇぇっ!!!

『ナイト』は一気に智に向かって切りかかってきた。そして、両手の刃が智の顔面を切り裂くかと思ったその瞬間!!!

智「!!!!!」

ガキィィン!!

鋭い音を立てて、智の刀と『ナイト』の刃が交錯する!!

ナイト「何っ!?受け止めただと!?」

『ナイト』の顔に初めて動揺の色が表れた。

智「はあぁぁぁっ!!」

バシッ!!

智は、『ナイト』の刃を受け流すと、そのまま刀の峰を『ナイト』の腹に叩き込んだ!

ナイト「ぐふっ!!

『ナイト』は腹に強烈な打撃を受けて、勢いよく吹き飛んで転倒する!!!

智「・・・・。」

智は転倒した『ナイト』の脇をすり抜けると、向き直ると再び中段の構えを取った。

『ナイト』は自分が打撃を受けた事が信じられないといった様子で智の方を見ている。

純「・・・・流石、智だな・・・。相手の攻撃の勢いを受け流して反撃に出る・・・。剣術における基本がしっかり出来ている・・・。」

純は智を眺めながら彼の攻撃を賞賛する。

ナイト「そ・・・そんな馬鹿な!?貴様・・・ただのガキじゃないな・・!」

智「今頃気付いても遅えよ。俺と純は剣道三段くらいの腕前は持っているんでね。」

ナイト「何だと・・・!?」

智「姿さえ見えればお前の攻撃なんか簡単に見切れるぜ・・・。どうする?まだ続けるか?」

ナイト「ちっ・・・!」

純「俺も智も無駄な殺生はしたくない・・。お前が大人しくカードキーを渡せば命は助けてやる。」

純はそう言って,自分も刀を抜いて『ナイト』を智と共に挟み撃ちにする。

智「さあ!どうする!」

智と純は勝利を確信して、『ナイト』に選択を迫った。だが・・・・。

ナイト「くっくっく・・・!!はっはっはっはっは!!」

突然、『ナイト』は大声で笑い出した。

智「何がおかしい!?」

ナイト「くっくっくっくっく!!・・・確かにお前らが強い事は認めてやる。だが・・・・詰めが甘いな・・・。」

純「何だと!?」

ナイト「お前たち二人とも、さっきから身体がピリピリして来ないか?身体が痺れるような感じはしないか・・・?」

智「・・・・!(そう言えば・・・・さっきから身体のあちこちが痺れるような感じがする・・・。・・・まさか!!?)」

ナイト「ふふふ・・・!ご想像通り、俺の刃には相手の身体を痺れさせる神経毒が塗られている・・・。ほんの少しかすっただけでも、その傷口からは毒が入り込み相手を行動不能にする・・・。」

純「ぐっ・・・・。」

純ががくっと膝を落とす。

ナイト「そろそろ毒が効いてきた様だな・・・。俺の毒は強力だが効果が現れるまでが遅いんでね・・・・。お前らがさっさと俺を殺していれば、しばらくすれば何事も無く生き残る事が出来たのにな・・・。」

智「ち・・・ちくしょう・・・!どこまで卑怯な奴なんだ・・・!!」

智は苦しげにそう言うと、足元から崩れ落ちる様に倒れてしまう。

ナイト「さて・・・、さっきのお返しをさせてもらうぞ・・・。くくく・・・!!」

智「くそっ・・・!(ちくしょう・・・・!これで終わりなのかよ・・・!!)」

純「智!!」

純が何とか立ち上がろうとするが、足に力が入らない。いや、体中に力がまるで入らない。

ナイト「さあ・・・,覚悟するんだな!!」

智「くっ!!」

『ナイト』はその手にした刃で智の首筋を狙い,一気に切り裂こうとした。その瞬間!!

パァァン!!

ナイト「うぐっ・・・!?な・・・ん・・だと・・・!?」

突然ナイトの背後から銃声がして、『ナイト』がうめき声を上げながらうつ伏せに倒れこむ。

『ナイト』の後ろに立って居た者は・・・・竹内だった。

智・純「竹内!!」

竹内「・・・・・・・。」

竹内は無表情のまま、拳銃を懐にしまうと,倒れた『ナイト』を足で仰向けに転がす。

ナイト「うぐぐ・・・っ!!」

竹内「・・・・まだ生きているのか・・・・。しぶとい奴だ・・・。」

弾の当たり所が良かったのか、『ナイト』はまだ生きていた。それを見た竹内は再び拳銃を懐から取り出すと、ためらう事無く『ナイト』の心臓に狙いを付ける。

それを見た純は・・・・。

純「竹内!!待て!何も殺す事はない!!そいつはもう動けないはずだ!!

竹内「・・・・・。」

竹内が純の方を向いた。その顔は、『こいつ、何を言っているんだ?』とでも言いたげであった。

純「それ以上、無益な殺しはするな!カードキーだけ奪ってここを脱出すればそれでいいじゃないか!」

竹内「・・・・。純、何を甘い事を言っているんだ?こいつはお前たちを殺そうとしたんだぞ?」

純「ああ、そうだ!・・・だが、ここでそいつを殺したら、お前もそいつらと同じになっちまうんだぞ!?」

竹内「・・・・・・・。」

純「お前が二人のハンターを殺した事は仕方の無い事だ!!だが・・・戦闘不能になって動けない奴を殺したら、それは一方的な殺しと同じだ!!」

竹内「・・・・・・純・・・。お前はどこまで甘いんだ・・・。そんな考えじゃ、ここを生き残る事なんて出来ないんだぞ・・・!?」

純「ああ!確かに甘い考えかもしれない!!だがな!俺たちは人間だ!!人間らしい心まで捨てる訳にはいかないんだ!!」

竹内「・・・・人間の心?」

純「そうだ!!八重さんだって、お前がこれ以上ハンターを殺したって喜ばない!これ以上彼女を悲しませるな!!」

竹内「・・・・俺は・・・・俺は・・もう花桜梨さ・・・・あいつとは縁を切った・・・。別にあいつが悲しもうが、俺にとっては何も関係の無い事だ・・・。」

純の言葉に、竹内は冷たく吐き捨てる様に言うと,引き金に指をかけると力を込めようとした。

純「お前、本気でそう言ってんのか!!?本気で八重さんの事を自分の中から消し去っちまったのか!?」

竹内「・・・・・!」

純の言葉に竹内は一瞬、身体をぴくっと震わせる。

純「ウソを言うな!!お前の心の中にはまだ彼女への想いが残っているはずだ!!まだ、お前は八重さんの事を好きなはずだ!!」

竹内「違う!!俺は・・・俺は『カウンターハンター』だ!!あんな女の事など記憶から消したんだ!!今の俺にとっては、こいつらハンターどもを殺す事だけが全てなんだ!!

純「『カウンターハンター』だと!?ふざけんな!!そんな事をしても後で何が残るって言うんだ!!?」

竹内「何だと!?」

純「そいつらハンターを皆殺しにした後で前の中には何が残るって言うんだ!!何を得るって言うんだ!!」

竹内「・・・・・それは・・・。」

竹内が言葉に詰まった瞬間・・・、純の質問に答える様に声がした。

???「竹内が得るもの・・・・それは『新たなハンターになる』と言う最高の栄誉だよ。」

純「!?」

静かに部屋に入ってきたのは『トラップ』だった。

竹内「『トラップ』!!」

トラップ「よう、竹内。・・・全く、お前は何をちんたらやってんだよ。さっさとその死に損ないを始末しちまえよ。」

ナイト「!!?・・・何だと!?」

『トラップ』はそう言って,倒れている『ナイト』を指差して苦笑した。

ナイト「『トラップ』・・・・貴様・・・!!何を言っている!どういう事だ!?」

トラップ「どういう事って・・・負傷して戦えなくなったハンターは役立たず・・・・つまり用済みってことさ。」

『トラップ』は顔に笑みを浮かべながら、事も無げにそう答えた。

ナイト「!!!」

トラップ「・・・・え〜と・・・,そこの眼鏡のあんた・・・。」

純「純だ!」

トラップ「ああ、そうそう!純とやら、あんたさあ、折角『カウンターハンター』として戦う決心をした竹内を惑わすような事を言うのは止めてくれないかなぁ?」

純「・・・何だって!?」

トラップ「竹内はお前らに裏切られた事で、心に深い傷を負ったんだよ。それで、俺が相談に乗ってやった訳さ。」

竹内「・・・・。」

純「何だって!?竹内、それは本当なのか!?」

竹内「・・・・・。」

竹内は答えない。

トラップ「本当さ。高校の時の話とかあんたたちの事とかをいろいろ俺に話してくれたよ。」

純「・・・・!!」

トラップ「んで、俺は自分でどうすればいいか分からなくて困っている竹内にアドバイスをしてやったのさ。中途半端な情けは捨てろってね。そうしないと、自分が殺されるとね。実際、あんたたちはそこの死に損ないをさっさと殺さなかったおかげでその状態だ。もしも竹内が来なかったら、今頃あんたら二人とも揃ってバラバラに切り裂かれてたんだぜ?」

純・智「・・・・ぐっ!」

トラップ「そうして、悩んだ末に竹内は自分で結論を出した。殺られる前に殺ればいい・・・ってね。・・・そうだろ、竹内?」

竹内「・・・・・・ああ、そうだ・・・。」

トラップ「な?・・・聞いての通りさ。今の竹内にあんたたちがとやかく言う資格は無いって事だよ。」

純「・・・・・。」

トラップ「さ、俺の話はこれまでだ。分かったら竹内、さっさとそいつに止めを刺してやれよ。」

竹内「・・・・・分かった・・。」

竹内はまるで催眠術にでもかかったかのように、再び狙いを付け直すと『ナイト』の心臓目掛けて銃を撃とうとした。

純「止めろ!!竹内!!止めるんだ!!」

純の悲痛な叫びが部屋に響き渡る!!それでも、竹内は動じない。トリガーを引こうとして指に力を加える・・・。

純「竹内!!!止めろぉぉっ!!!

今まさに引き金が引かれようとしたその時!!

花桜梨「竹内君!!!止めて!!

竹内「!!!!!」

花桜梨だった。花桜梨の悲鳴にも近い静止で竹内の狙いが一瞬ずれる!

パァァン!!

ナイト「・・・!!」

拳銃から発射された弾丸は、『ナイト』の身体ぎりぎりの床に着弾する。

竹内「・・・・何故・・・,何故花桜梨さん・・・・いや!・・お前がここにいる!?二度と俺の前に姿を見せるなと言った筈だぞ・・・!?」

花桜梨「ええ、言われたわ。でも、私は諦めない!あなたが再び私に心を開いてくれるまで・・・私は何度でもあなたの前に現れるわ!!」

竹内「!!!」

トラップ「おやおや・・・・。愛しの『花桜梨さん』の登場か・・・。メインキャストが勢ぞろいだね・・・。」

『トラップ』はそう言って苦笑する。

竹内は花桜梨の言葉に動揺を隠し切れない。

涼「竹内、お前がいかに深く傷ついたかはよく分かる。だが、お前以上に八重さんは心に深い傷を負ったんだぞ?いや違う。

お前によって負わされたんだ。」

竹内「・・・・。」

涼「だが、彼女は傷つけられてもお前に向かっていく事を選んだ。お前に心からぶち当たる事を選んだんだよ。」

竹内「・・・・・!」

涼「だが、お前はどうだ?八重さんから逃げて『カウンターハンター』と言う逃げ道を自分の中に作って、彼女から・・・・・それだけじゃない。つらい現実から逃げ出したんだ。」

竹内「・・・・俺が・・・逃げて・・・いた・・・?」

涼「お前はそれでいいのか?逃げてばかりで本当にいいのか?」

竹内「・・・・俺は・・・・俺は・・・。」

花桜梨「竹内君!!私はあなたから逃げない!あなたがいくら私を嫌おうと、どんなに避けようとも私はあなたを追い続けるわ!竹内君が自分の本当の気持ちを見せてくれるまでずっと・・・!以前の竹内君に戻ってくれるまで!!」

トラップ「竹内、愛しい『花桜梨さん』はああ言っているぜ?けどお前は許せるのか?お前を徹底的に打ちのめしたあいつらを許して、また以前のような関係に戻れるとでも本当に思えるのか?」

竹内「・・・それは・・・。」

花桜梨「以前の様な関係に戻れなくてもいい!!

トラップ「・・・!!」

竹内「!!!」

花桜梨「以前みたいに、常に優しい笑顔を見せてくれなくてもいいの・・・。ただ・・・、私は竹内君が本当の自分を取り戻してくれれさえすればそれでいいの!!」

竹内「花桜梨・・・さん・・・。」

花桜梨「私にはあなたに優しい笑顔を見せてもらう資格なんて無い・・・!でも・・・,でも!!」

竹内「・・・・・・。」

花桜梨「竹内君が自分の心を取り戻して、私以外の人にでもいいから心から笑い合う事が出来る様になれば・・・・それだけでいいの!!

竹内「!!!!!

トラップ「(・・・・・やれやれ、作戦はここまでか・・・・。我ながらいいアイディアかと思ったんだけどなぁ・・・。)」

竹内「花桜梨さん・・・・・,俺は・・・俺は・・・もう一度やり直せるのかな・・・?」

花桜梨「絶対に出来るよ!!竹内君が諦めなければきっと大丈夫よ!!」

竹内「・・・・・・・。」

竹内は拳銃を持っていた手を力なく降ろした。その途端、手から拳銃がこぼれ落ちる。

トラップ「・・・・・ふぅ・・・。・・・参ったなあ・・・。折角、もう少しで竹内を俺の仲間に引き入れる事が出来たのになぁ・・・。」

『トラップ』は残念そうに呟くと、素早く身を翻して部屋を出て行ってしまった。

純「!!待てっ!!・・・うっ!」

純は『トラップ』を追いかけようとして立ち上がろうとしたが、『ナイト』に受けた毒のせいで転んでしまう。

竹内は、力が抜けたようにその場に座り込んでしまった。

しかし、それを見ていた『ナイト』は・・・。

ナイト「馬鹿め!!甘いと言っただろう!!」

一気に起き上がって,花桜梨の元に走り出すと花桜梨が逃げる間も無く、素早く後ろに回りこんでその首筋に刃をあてがった。

竹内「!!!」

花桜梨「うっ・・・!」

ナイト「一旦はこれで引き上げてやる・・・。いいか・・・妙な真似をしてみろよ・・・,その時はこの女の首を切り裂いてやるからな・・・!」

純・智「・・・・!しまった・・・・!!」

純と智が倒れたまま、悔しそうにうめく。

『ナイト』は花桜梨を人質にしたまま後ずさりをしながら部屋を出て行った。

竹内と涼がすぐに後を追いかけるが、花桜梨が人質に取られている以上何も手出しが出来ない。

ナイト「ちくしょう・・・・!『トラップ』の奴、俺を見殺しにしようとしやがって・・!あいつもそのうち殺してやる・・・!!」

『ナイト』は苦々しく言うと、花桜梨を掴んだまま水路のある通路まで後退した。当然,竹内と涼も後を追う。

花桜梨「竹内君!秋口君!」

竹内「花桜梨さん!」

涼「八重さんを放せ!!」

ナイト「待ちな!それ以上追いかけてみろ・・・!その時はこの女の命はないと思え!」

竹内・涼「くっ・・・!」

二人は悔しそうに『ナイト』を睨みつける。

花桜梨「(・・・・ここで私が何もしなかったら・・・!)」

花桜梨は『ナイト』の注意が二人に向けられているのを見て取ると、その隙を突いて『ナイト』の指に噛み付いた。

ナイト「ぐっ!!この女ぁぁっ!!」

『ナイト』は花桜梨に向けて刃を振り下ろそうとした・・・だが!!

竹内「うおおおおおぉぉっ!!!

竹内が物凄い勢いで『ナイト』に突撃する!!

そして・・・・・・・・!!

グサッ!!

ナイト「ガハッ・・・・!」

『ナイト』は口から大量の血を吐くと仰向けになって倒れこんだ。自らの刃を竹内に突進された際、腹に突き立ててしまったのだ。

だが・・・、竹内も・・・。

竹内「うっ・・・!」

『ナイト』の刃を右肩に受けてざっくりと切り裂かれてしまった。

そして、よろめいた弾みでそのまま水路に転落してしまう!

涼「竹内!!!」

竹内は流されながらもすぐに水路から這い上がろうと試みる。だが、肩を深く切り裂かれた上,神経毒のせいで身体に力が入らない。やがて、竹内の身体は水流に流されながら水中に沈んでいってしまった。

花桜梨「竹内君!!」

竹内が沈んでいくのを見た花桜梨が反射的に水路に飛び込んだ。

涼「八重さん!?」

花桜梨「(竹内君はどこ・・・!・・・・・・居た!!)」

花桜梨は水中でぐったりとしている竹内を見つけると、その腕を掴んで何とか浮上しようとした。

だが,水路は思った以上に流れがきつくて、泳ぎには自信があった花桜梨でも少しでも気を抜けばおぼれてしまいそうな程であった。何とか顔だけは出したものの、そのまま二人は水路の奥深く流されてしまった。

涼「八重さん!!竹内!!」

涼が必死で叫ぶが、どうする事も出来ず,ただ二人が流されていくのを見ているだけしか出来なかった。

 

<第拾六話・完>

                         (第拾七話へ続く・・・)

戻る