ときメモ2バトルロワイヤル風SS・第拾四話「孤独なハンター」
竹内はショットガンに弾を装填すると肩にかけた。そして、『ウェポン』の死体からマシンガンを奪うと弾薬なども自分のケースに移し変えた。
傍目からは,まるで野生動物が仕留めた獲物を貪るようにも見えた。
竹内「・・・・さすがに重火器を持ったハンターなだけあるな。弾薬がもう一杯になっちまったよ・・・。」
花桜梨「・・・・・・竹内君・・・・本当に・・・殺したの・・・?」
花桜梨が青ざめた顔で竹内を見ながら尋ねる。
竹内「花桜梨さんも見ていただろう?こいつは死んだよ。俺が仕留めたんだ。」
竹内は花桜梨の質問に平然と答えた。
竹内「こいつの名前・・・コードネームは『ウェポン』。文字通り,歩く武器みたいな奴だな。あと、もう一人俺が仕留めたハンターが居て,そいつはボウガンを射ってくるやっかいな奴だったよ。確か・・・『スナイプ』と言ったかな・・?」
花桜梨「・・・・やっぱり、あの時に言った事は本当だったのね・・・。もう既に一人殺しているって・・・。」
竹内「・・・・・そうだよ。俺は,黙って殺されるよりも殺す方を選択した。そうしないと虫ケラのように殺されて終わりだ。俺はそんなのは絶対に嫌なんだよ・・・、花桜梨さん・・・。」
花桜梨「だから最初に出てきたとき、あんなに傷だらけだったのね・・・・。」
竹内「・・・ああ。『スナイプ』との戦いで俺はひどく痛めつけられた・・・・。今思えば、あの時に痛めつけられたおかげで俺は生まれ変わるきっかけを手に入れることが出来たんだと思う。ある意味『スナイプ』には感謝しないといけないね・・・。」
竹内はそう言って、苦笑した。
そこに,純や智、匠たちが戻って来た。
智「お前・・・・,ついにやっちまったのか・・・・。」
純「竹内・・・・・。」
竹内「純,智、無事だったか?」
純・智「・・・・・・・・・。」
光「竹内君、大丈夫・・・・?・・・ああっ!!」
琴子「こ、これは・・・・!」
光と琴子も『ウェポン』の死体を見つけて恐怖に顔を歪ませる。
竹内「何だよ,そんなにびびる事ないだろ?こいつはみんなを殺そうとしたんだぞ?」
光・琴子「・・・・・・・・。」
竹内「何だよ!何故、みんなそんな目で俺を見るんだ!?俺はみんなの為にやったんだぞ!?」
匠・美帆「・・・・・・・・。」
誰も竹内に声をかける者はいない。皆、一様に竹内を畏怖の目で見ている。
竹内「そんな・・・・!俺は・・・俺は・・・・・!」
涼「・・・・・・・。」
竹内「どうして・・・・,どうしてなんだ・・・・。花桜梨さん・・・・,君なら分かってくれるよね・・・?」
竹内はすがるような目で花桜梨の方を見た。
竹内「俺は・・・・,俺は間違っちゃいないんだよね・・・?花桜梨さん・・・・。」
花桜梨「・・・・・。」
花桜梨は無言のまま、一歩後ずさりした。
竹内「!!」
唯一、自分が想いを寄せていた花桜梨にまで恐れられて、竹内の心は徹底的に打ちのめされてしまった。
竹内「・・・・・そうか・・・。俺を・・・仲間としては・・・もう・・・見てくれないんだな・・・。みんなは・・・・。」
竹内は絶望感に満ちた顔で皆を見回してそうぽつりと呟いた。
一同「・・・・・・・・。」
竹内「・・・・・。(俺は・・・,俺は皆を助ける為に殺したんだ・・・。好きでこういう選択をしたんじゃない・・・。)」
竹内はふらふらと歩き出した。もはや、皆の所には居られなかった。居たくても居場所が無かった・・・。
竹内「(もう・・・もうこれでみんなとはお別れなのか・・・?馬鹿みたいだ・・・。俺は・・・、殺されるのが嫌で・・・それだけじゃない!・・・・皆に人殺しをさせるくらいなら・・・自分だけが汚れ役を引き受けようと思って『ウェポン』を殺したのに・・・。そこまで決心してやった事なのに・・・。みんなは・・・みんなは俺を恐れて敬遠した・・・。もう、俺の仲間は誰一人いなくなってしまった・・・・。花桜梨さんにすら見放された・・・・・・。・・・だったら・・。)」
竹内は,重火器をいくつか持ったまま、施設の方にゆっくりと・・・足を引きずるような感じで歩きだした。
どこにも行くあてなんか無い。ただ・・・,もし施設内でハンターに遭遇すれば、戦闘になる。その時だけは、この耐えがたい苦しみを忘れる事が出来る・・・・。そう思ったから・・・・。
竹内は歩き続けた。そして・・・,やがて施設の中に姿を消してしまった。
独り寂しく立ち去っていく竹内の後姿を見ながらも,彼を引き止めるものは誰も居なかった・・・。
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竹内「・・・・俺は・・・,もう独りだ・・・。誰も信用できない・・・。みんな俺を恐れて・・・・恐怖の目で俺を見た・・・。まるで異質な物を見る様な目で・・・。・・・誰も俺の気持ちを分かってくれなかった・・・。理解しようとさえしてくれなかった・・・。」
竹内は施設内を目的も無いままふらふらと彷徨していた。
やがて、次第に意識が途切れていくのを感じて,そのまま崩れ落ちる様に倒れてしまった。
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数十分後・・・・。
竹内が倒れている所に一つの影が現れた。
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それから更に数時間後・・・。
施設の中を必死に歩き続ける一人の少女がいた。
その少女とは・・・花桜梨だった。
彼女は皆に引き止められるのを振り切って、施設の中に入ると竹内を探し回っていた。
武器なんか勿論持っていない。丸腰のまま薄暗い施設内をひたすら歩き回っていたのだ。
花桜梨は、時間が経つにつれて、自分が竹内の心をいかに傷つけたか気づいた。もう取り返しのつかないことを彼にしてしまったと、冷静になって初めて気が付いたのだ。
気が付くと,皆の静止を振り切って竹内の後を追っていた。
花桜梨「(私は・・・・竹内君にとんでもない仕打ちをしてしまった・・・。もう謝っても許してもらえないかもしれない・・・。でも・・・,ここで何もしなかったら・・・昔の私に戻っちゃう・・・・!そんなのは・・・もう嫌だから・・・!だから、彼を探し出して見せる!)」
花桜梨はひたすら歩き回った。地図も無いまま、あっちこっちを歩き回った為に,自分がどこにいるかも分からなかった。
それでも立ち止まることなく,必死になって歩き続けた。
やがて・・・,どれだけ曲がり角を曲がったのだろうか・・・。水路がある広い通路に出てきた。
花桜梨「(ここは・・・寿さんたちが通った水路のある道ね・・・・。)」
花桜梨は周りを見回しながら注意深く通路を歩いていった。すると・・・。
???「なるほどね・・・・。あいつが惚れただけあって,なかなか可愛い娘じゃないか・・・。」
背後からいきなり人の声がして、花桜梨はばっと振り返った。
花桜梨「あなた・・・・,誰なの!?」
そこには、竹内と同じくらいの年齢の少年が立っていた。
トラップ「俺は『トラップ』。あんたたちを狙っているハンターの一人さ。」
花桜梨「!!」
花桜梨はハンターと言う言葉を聞いてすぐに逃げ出した。
だが、『トラップ』はにやりと笑うと,花桜梨の事を追いかけずに黙って見ていた。
そして、花桜梨がある一定の所を通った瞬間!!
バシュッ!!
花桜梨「きゃっ!!」
突如,花桜梨の頭上からいきなり網が降ってくると、花桜梨を包み込んだ。
花桜梨は網にかかって転倒してしまった。もがけばもがくほど網は複雑に絡まり合い、花桜梨の自由を奪う。
トラップ「逃げたって無駄さ。この先はもっと危険な罠がいくつも仕掛けられているからね。」
『トラップ』は笑みを浮かべて花桜梨に近寄ると懐からナイフを取り出して素早く網を切り裂くと、花桜梨を中から引っぱり出した。
花桜梨「何故私を殺さないの!?」
トラップ「まあ、そんなに慌てんなって。あんた・・・・『八重花桜梨』って言うんだろ?」
花桜梨「何故、私の名前を・・・。」
トラップ「竹内から色々聞いているんでね・・・。あんた、竹内を探しているんだろ?ついて来なよ。案内してやるぜ。」
『トラップ』はそう言って、すたすたと歩き出した。
花桜梨「あっ、待って・・・!(彼は竹内君と面識があるって言うの・・・・?)」
花桜梨は罠かとも思ったが、藁にもすがる気持ちで『トラップ』の後を追いかけた。
二人は狭い通路を歩き続けて,やがて一つの部屋の前にたどり着いた。
トラップ「この中に竹内はいるぜ。まあ、ここまであいつを運んできたのは俺だけどな。」
花桜梨「竹内君!!」
花桜梨はドアを勢いよく開けると、部屋の中に入って竹内の姿を探した。
花桜梨「どこに居るの!竹内君!返事をして!!」
だが、竹内は姿を見せるどころか声も出さない。
トラップ「あ〜あ・・・,あんたそうとう嫌われているみたいだね・・・。あんなに竹内はあんたの事を好きだって俺に話していたのに・・・。あんた、よっぽどひどい事を竹内にしたんだね・・・・。」
花桜梨「・・・・・!」
『トラップ』の言葉に花桜梨は胸に痛みを覚える。確かに、竹内を傷つけたのは自分だからだ。
トラップ「しゃあない、俺があいつを呼んでやるよ。・・・・お〜い!竹内、居るんだろ?出て来いよ!!俺だ,『トラップ』だよ!」
竹内「・・・・・・。」
『トラップ』が竹内を呼ぶや否や、どこからとも無く静かに竹内は姿を表した。
花桜梨「竹内君!!」
花桜梨は竹内に駆け寄ろうとした・・・が。
トラップ「おっと!そこまでだ。それ以上あいつに近寄ると・・・・、あんた殺されるぜ?」
『トラップ』が花桜梨の前に立ちはだかる。
花桜梨「・・・・なっ!?」
花桜梨は驚いた様に竹内の方を見る。すると・・・。
何と,竹内は花桜梨に向けてショットガンを構えているではないか!
花桜梨「そんな・・・・!どうしてなの!?竹内君!!」
竹内「・・・・・・・。」
竹内は無言のまま、何も喋ろうとしない。相変わらず、ショットガンを構えたまま花桜梨の方を見据えている。
ただ、その目付きは鋭く、殺気に満ち溢れていた。しかも、花桜梨に対しては憎しみと殺意すら向けている様に感じられる。
トラップ「あいつは,ここから少し歩いた所で気を失っていたんだ。顔はやつれて俺と最初に会った時とは別人の様だったぜ。俺と別れてからあいつに何があったんだろうな?」
花桜梨「・・・・・。」
『トラップ』の言葉は明らかに花桜梨たちがした事を遠まわしに指しているようであった。
花桜梨は何も答えられずに、黙ってうつむいてしまう。
トラップ「ま、俺はあいつが意識を取り戻してから、外で起きた事を聞いているから全て知っているけどね。」
花桜梨「!!・・・・竹内君は・・・・あなたに何があったか・・・全て話したの・・・?」
トラップ「ああ。竹内の奴,よっぽど悔しかったんだろうな。泣きながら俺に全てを話してくれたよ。『俺はみんなから裏切られた。気持ちを踏みにじられた。もう誰も信用出来ない。』ってね・・・・。」
花桜梨「・・・・・・・・。」
トラップ「しっかし、あんたたちも残酷と言うか、何と言うか・・・,随分と身勝手なもんだね〜。」
花桜梨「・・・・・。」
トラップ「竹内は『スナイプ』を殺したことに対する自責の念に駆られて、苦しんでいたんだよ。生まれて初めて人殺しをしてしまったってね・・・。そして長い葛藤の末に、ようやく決心をしてあんたたちを助ける為に『ウェポン』を殺したんだぜ?
命を助けてもらったくせに、いざ『ウェポン』が竹内に倒されたら、無責任にもあんたとその仲間は竹内を精神的に殺したんだからなぁ・・・。」
花桜梨は反論出来なかった。『トラップ』の言っている事は全て正論であり、真実だったからだ。
トラップ「そりゃ、今まで仲間だと思って信じて疑わなかった奴らから裏切られたら憎しみを抱くのも当然ってもんだろ?」
花桜梨「そ・・・それは・・・・。」
トラップ「それにあんた・・・昔、竹内と出会う前に別の学校に居たんだってね。そこで、部活の仲間から裏切られて転校したそうじゃないか。それで人間不信に陥っていた所を竹内に出逢って救われたそうじゃないか。」
花桜梨「・・・・・・。」
トラップ「けど、今のあんたがやった事は昔あんた自身を裏切った奴らと全く変わらないんじゃないの?」
花桜梨「!!!」
トラップ「自分の仲間の事を考えてやったのに、仲間は自分を裏切った。くくく・・・,昔、自分を裏切った奴らと同じ事をやっているんだよ、あんたは・・・・。」
花桜梨「・・・・・・めて・・・。」
トラップ「竹内も可哀相な奴だよなぁ・・・。仲間だけじゃなくて、自分の好きな女にも裏切られて・・・・。」
花桜梨「・・・やめて・・・!」
トラップ「竹内にとって、あんたは一番大切な存在だったんだぜ?しかも竹内は、あんたにまだキスすらしていないそうじゃないか。俺が理由を聞いたらあいつ・・・,何て言ったと思う?」
花桜梨「・・・・。」
トラップ「『俺は、卒業式に想いを伝えるまでそんな簡単に浮ついた仲にはなりたくない。花桜梨さんを傷つけたくないから・・・。』そう言ったんだよ。そこまで真剣に考えてくれる奴なんて、今時ほとんど居ないぜ。それをあんたは・・・竹内の純粋な想いを無残にも踏みにじったんだよ!」
花桜梨「やめてぇぇぇっ!!!」
花桜梨は絶叫すると、両手で耳を塞いでその場にしゃがみ込んでしまった。
トラップ「・・・・・・今のあんたに残された道はほとんど残っていないよ。だが、無い訳では無いけどね。」
花桜梨「私に・・・・残された道・・・?」
トラップ「その中から例を挙げると、一つはあいつに心を殺した分の償いをする事。」
花桜梨「償い・・・・。でも・・・,どうすれば・・・。」
トラップ「そりゃ、自分で考えるんだね。抜け殻になった竹内を救うにはどうしたらいいか・・・。あんた自身にしか出来ない事をしてやればいいんだよ。」
花桜梨「・・・・・・私にだけしか出来ない事・・・?」
トラップ「以前まであいつはあんたの事を好きだったが、今では殺したくらい憎んでいるはずだぜ。だからあんたが竹内に黙って殺されてやるって言うのもOKだと思うがね。」
花桜梨「・・・・!そんな・・・。」
トラップ「俺としてはそっちの方が助かるんだよ。竹内があんたを殺せば,竹内は完璧に人間の心を捨て去れる。
そうなれば、俺たちハンターの仲間入りって可能性も充分に考えられる。・・・・竹内はなかなかいい素質を持っているからなぁ・・・。ここで狩るには勿体無いくらいなんだよ。下手をすれば最強のハンターにもなれるかもしれない。」
花桜梨「竹内君が・・・・ハンターになるですって・・・!」
トラップ「あいつの窮地に立たされた時の爆発力とでも言うのかな・・・。『ウェポン』を倒した時もそうだが、冷静な・・・いや!冷静過ぎるくらいの行動力と的確な判断力!今はまだまだ荒削りだが、本格的に訓練を受けさせれば間違い無くあいつは化けるぜ。」
花桜梨「やめて!!竹内君にそんな事させないで!!」
トラップ「やめてと言われてもなぁ・・・。今のあんたにゃ、とやかく言われる筋合いは俺には無いと思うけどな。なあ?竹内。」
『トラップ』はそう言って、まだショットガンを構えたままの竹内に近寄ると左肩に手をかけて花桜梨の方に笑いかけた。
トラップ「今のあんたに俺みたいな事を竹内に出来るか?いや、そうさせてもらえるかい?」
竹内は花桜梨が近づこうとした際には、すぐにショットガンを撃つ構えをしていたが、『トラップ』が近づいても何もしない。
花桜梨「そんな・・・・。竹内君・・・。」
トラップ「少なくとも,まだ俺の方があんたよりも竹内の事を理解している・・・理解されている自信があるぜ。」
花桜梨は『トラップ』の言葉を聞いて、消え入りそうな声でこう呟いた。
花桜梨「・・・・・・・・私・・・竹内君に・・・償いをしたい・・・。」
トラップ「おい、竹内。昔のお前の憧れの女がお前に償いをしたいって言っているぜ。どうする?」
竹内「・・・・・・・。」
花桜梨「私、あなたの為なら何でもするから!お願い!!私を・・・・みんなを許してあげて!!」
竹内「・・・・・みんなを・・・許して・・・だって?」
そこで初めて竹内が口を開いた。依然ショットガンは構えたままだ。
竹内「何を今更都合のいい事を言っているんだよ・・・。もう、遅すぎるんだよ・・・。何もかも・・・。」
竹内はショットガンの弾を装填させた。そして、片手で構えると花桜梨に狙いを付けた。
花桜梨「!!」
竹内「俺は・・・・俺にはもう・・・心を許して話せる奴なんか誰も居ないんだ・・・。あいつらはみんな俺を恐れて避けた・・・。だが、『トラップ』・・・・,こいつだけは俺の事を・・・・俺の事を認めてくれた・・・・。」
そう言って,竹内はショットガンのトリガーにかけた指に力を込める。
花桜梨「お願い・・・!竹内君・・・、やめて・・・!」
竹内「自分の都合のいい時だけ助けを求めるんじゃねえよ!!」
ダァァン!!
ショットガンが火を噴いた!
弾は花桜梨のすぐ脇を通過して、後ろの壁に炸裂する!!
竹内「自分の都合のいい時だけ許しを請うんじゃねぇよ!!!」
ダァァン!!
竹内は更にショットガンを発射した。
今度は花桜梨の頭上をかすめて弾が飛んで行った。花桜梨の髪の毛が数本宙に舞う。
花桜梨「ひっ!!」
トラップ「竹内、その辺にしておきな。弾が無駄だ。殺るなら一思いに殺っちまいな。・・・それとも、何か別の償い方でも考えさせるか?」
竹内「・・・・・・。」
トラップ「おい、あんたに選ばせてやるよ。今から五分以内にどうやって竹内に償うか決めるんだな。」
花桜梨「・・・・。(そんな・・・分からない・・・どうすればいいのか・・・私には・・・分からない・・・。)」
トラップは笑いながら花桜梨の所に歩いて来てこう言った。
トラップ「竹内はそう簡単にあんたを許さないと思うぜ?さあ・・・,どういう償い方をするか楽しみにしてるよ。」
花桜梨「私は・・・・。」
トラップ「一つアイディアをやろうか?竹内は精神的にはもうまともじゃない。最初の竹内のあんたに対する純粋な想いは微塵も残っていないはずだ。あんたが竹内に抱かれようと思えば、あいつはあんたを躊躇無く抱くだろうぜ。文字通り身体を張ってあいつの心を慰めてやるって事だ。ま、それくらいの覚悟が無きゃ、殺されると言う選択肢を選ぶ事だって出来ないだろうけどな。」
花桜梨「・・・・・・・。」
トラップ「まあ、決めるのはあんた自身だ。それまで俺は席を外してやるから早く答えを出すんだね。」
それだけ言い残すと、『トラップ』は竹内からショットガンを受け取ると部屋から出て行った。
部屋には竹内と花桜梨の二人が残された。お互い見つめ合ったまま動かない。
いや、花桜梨には動けなかったのだ。近づこうとすると,竹内が鋭い視線で睨みつけてくるから・・・。
花桜梨「竹内君・・・・。私は・・・あなたにひどい事をしてしまった・・・。いくら謝っても許してもらえないかもしれない・・・。でも、でもこれだけは聞いて!」
竹内「・・・・・。」
花桜梨「私は・・ううん、みんなもあなたの事をわざと傷つけようとしたんじゃない・・・。結果的にはあなたを傷つける事になってしまったけど・・・。ただ、あなたが今までの竹内君じゃ考えられない事をやったから・・・。」
竹内「・・・・・・・・。」
花桜梨「・・・けど!誰もあなたの事を恐れてなんかいないわ!ただ、あの時は目の前で起きた事があまりにも衝撃的過ぎたから・・・!それでみんな動揺していただけなのよ!」
竹内「・・・・・・。」
花桜梨「だから・・・,だから私と一緒にみんなの所に戻りましょう!!・・・きっとみんな喜んで出迎えてくれるわ!」
竹内「・・・・・。なるほどね・・。」
花桜梨「・・・竹内君・・・・分かってくれた?」
竹内「ああ・・・,これで良く解ったよ・・・。」
竹内はそう言って,花桜梨に自分から近づいた。花桜梨も竹内が自分に近づいてきてくれた事が嬉しくて、安堵の表情を浮かべる。
だが・・・。
竹内「これで・・・、これで俺は改めて昔の自分とお別れできるって事がな!!」
花桜梨「!!!?竹内君!?・・・きゃあっ!!」
竹内は花桜梨をそのまま床に突き倒して馬乗りになるとこう叫んだ。
竹内「動揺していたから何だって言うんだ!!?俺だって・・・,俺だって,最初に『スナイプ』を殺した時に自分のした事が恐ろしくなって震えたさ!!動揺なんて生易しいもんじゃない!!解るか!?」
花桜梨「・・・。」
竹内「それから・・・,俺は『トラップ』に出会い,いろんな事を話した!あいつは俺の心の葛藤についてもいろいろと考えてくれた!それなのに・・・、あいつらは俺の決意も知らず,ハンターが襲って来てもただ逃げ惑うだけだ・・・!!俺だって・・・俺だって本当は怖かった・・・!!外見じゃ平然としていたけど、内心は恐ろしくて逃げ出したいくらいだったんだ!!」
竹内は憎しみのこもった目で花桜梨を見下ろしながら、馬乗りになったまま、花桜梨の両腕を膝で押さえつけた。
竹内「俺が必死で・・・必死で『ウェポン』と戦った時がそうだ!!俺は、みんなには人殺しをして欲しくなかったから、あえて『カウンターハンター』と言う汚れ役までやった!!けど、その結果が何だ!!俺の事を冷血人間を見るような目で見やがって!!」
竹内は花桜梨の服を胸の辺りから一気に左右に引き千切った。引き千切れた服の間から下着と一緒に白い胸が剥き出しになる。
花桜梨「・・・竹内君!お願い・・・お願いだから落ち着いて・・!」
竹内に服を破られながらも、花桜梨は必死で説得を続けようとする。だが、今の竹内にその言葉は届かない。
竹内「これが落ち着いていられるものか!!ハンターと戦う度胸も無いくせに俺の事をあんな目で見るんじゃねぇよ!!」
竹内は、今まで溜まっていた物が一気に爆発してしまったようで、その勢いはとどまる事を知らない。
竹内「それに今頃のこのこ現れて『償いをしたい。』だって!?寝言も休み休み言え!!」
花桜梨「寝言だなんて・・・そんな・・!私はそんなつもりじゃ・・・!!心からあなたに謝りたいと思って・・・・。」
竹内「だったら、何故あの時すぐに俺を引きとめてくれなかったんだ!!皆から冷たい目で見られて独りで施設に立ち去る羽目になった俺の事をどうしてすぐに引き止めてくれなかったんだ!!!」
花桜梨「!!・・・・それは・・。」
竹内「答えられるか!?答えられる訳が無いよな!?人を裏切った奴にそんな事答えられるはずがないよな!!?」
花桜梨「・・・・・。」
花桜梨には返す言葉が見つからなかった。
竹内「俺は・・・,俺は・・・,もう昔の自分とは決別したんだ!!だから・・・,もう俺の前に現れるな!!俺の邪魔をするな!!」
花桜梨「!!!」
竹内「命だけは助けてやる!!施設の地図をやるからさっさと俺の前から消えろ!!」
竹内は花桜梨の上から退いて、地図と一緒に自分の上着を花桜梨に被せるとそのまま部屋を出て行ってしまった。
残されたのは破かれてボロボロになった服の上から竹内の上着を被された花桜梨だけであった。
花桜梨「竹内君・・・・。・・うっ・・・うぅ・・・う・・・。」
花桜梨は竹内が出て行った後で声を出して泣き出した。両手で顔を覆うとひたすら泣き続けた。
泣き続ける事しか彼女には出来なかった・・・。
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部屋を出た竹内は・・・
トラップ「・・・・終わったのか?」
竹内「ああ・・・。」
トラップ「これからお前はどうするつもりだ?」
竹内「俺は・・・『カウンターハンター』としてこのゲームを最後までやるさ・・・。」
トラップ「なるほど・・・,ケリは自分で付ける・・・と言う事か?」
竹内「そういう事だ・・・。」
『トラップ』は満足そうに頷くと、預かっていたショットガンと一緒に一枚のカードキーを竹内に渡した。
竹内「これは・・・。」
トラップ「『スナイプ』の分のカードキーだ。お前があいつを殺ったんだからこれはお前のものだ。」
竹内「俺にこんな物を渡したらまずいんじゃないか?」
トラップ「気にするな。言い訳なんかどうにでもなる。」
竹内「お前は・・・何故ハンターをやっているんだ?」
竹内の質問に、『トラップ』は半分冗談交じりに笑いながらこう答えた。
トラップ「・・・・・ふふふ、それはこの先お前と俺が戦ってお前が俺に止めを指す直前に教えてやるよ・・・。」
竹内「・・・・・。」
トラップ「じゃあな、今度こそ再開した時は敵同士だからな!もう二度と通路で気絶してんじゃねぇぞ!」
そう言い残して、トラップはその場から立ち去った。
竹内「・・・・・・・・・・。」
竹内は『トラップ』の後姿を見送ると,自分もゆっくりと歩き始めた。
手元には地図は無い。だが、帰る場所を失った竹内にとっては,地図などそれ程重要なものではなくなっていた。
適当に歩き回り,ハンターと遭遇したらハンターを殺す。それだけの事だ・・・。
竹内「・・・・・・・花桜梨さん、みんな・・・、そして今までの自分に・・・お別れだな・・・。」
やがて、竹内は薄暗い通路を通って闇の中に消えていった・・・。
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<第拾四話・完>