ときメモ2バトルロワイヤル風SS・第拾弐話「カウンターハンター」
施設のある通路・・・。
(はぁ・・・!はぁ・・・!はぁ・・・!)
彼は必死で走り続けていた。立ち止まればそこで終わりだから・・・。立ち止まりたくても立ち止まる事は出来なかったのだ。
(はぁ・・・!はぁ・・・!はぁ・・・!)
息が苦しい。胸も痛い。心臓は破裂しそうだ。でも止まる事は許されない。
(助けてくれ・・・!誰か・・・誰か・・・!)
彼は狭い通路をひたすら走った。出口の無い迷宮をただひたすらに・・・。
(お願いだ・・!誰か・・・俺をここから連れ出してくれ・・・!)
とうとう、彼は力尽きてその場に勢いよく倒れこんでしまった。
倒れたまま後ろを振り向くと、そこに漆黒の闇が迫ってくる。自分を飲み込もうと凄まじい勢いで迫って来ている。
(・・・・嫌だ!嫌だ!!助けてくれ・・・・!助けてくれぇぇぇっっ!!!)
竹内「はっ!!」
竹内は、がばっと起き上がった。その瞬間、左腕に痛みが走る。竹内は『ウェポン』から銃撃を受けて、左腕を撃たれてしまったのだ。しかし、『ウェポン』から撃たれた傷には丁寧に手当てが施されていた。
そう、竹内は生き延びていたのだ。『ナイト』と『ウェポン』の執拗な追跡を必死で振り切ると、そのまましばらく走った所で気絶してしまった。その後、竹内の記憶は途切れている。気が付くと,竹内はどこかの部屋に運び込まれていた。
竹内「夢か・・・。・・・!?ここはどこだ・・・・・?」
???「目が覚めた様だな。」
竹内「!!!」
突然、何者かの声がして竹内はばっと身構える。
???「おいおい、そんなに警戒する事無いだろ?お前をここまで運んできて・・・しかも手当てまでしてやったのは俺なんだぜ?」
見ると,自分と同じくらいの年の少年が笑いながら立っていた。
竹内「お前がここまで運んできてくれたのか・・・・?」
???「まあな。お前、重いから滅茶苦茶疲れたぜ?感謝しろよな。」
竹内「そうだったのか・・・。ありがとう・・・・。」
???「へへへ!分かればいいって。それより、お前の名前は何て言うんだ?」
竹内「・・・・竹内だ。」
???「竹内か・・・・。覚えとくよ。」
竹内「お前は何て言うんだ?何でこんな所に居るんだ?」
???「俺か?俺はお前たちを狩るために派遣されたハンターの一人さ。」
竹内「!!!」
ハンターと言う言葉を聞いて,竹内はすぐに後ろに下がった。
だが、この少年はどこか様子が違う。今までに出会ったハンターとは雰囲気がまるで違う。しかも、事も無げに自分の正体を竹内に告げたのだ。
???「そんな怖い顔するなよ。何も俺が今からお前を殺すなんて一言も言っていないだろ?」
竹内「お前の目的は何だ!!」
少年が笑って話し掛けてくるが、それでも竹内は警戒態勢を崩さないで詰問する。
???「目的?そうだなあ・・・。お前の事をよく知りたい・・・かな?」
竹内「何だって・・・?」
予想もしない返事に竹内は戸惑った。ハンターなのに自分を殺さずに、それどころか自分に興味を持っていると言うのか?
トラップ「俺の名前・・・コードネームは『トラップ』。今日ここに居るハンターの一員さ。」
竹内「そのハンターが何故俺に興味を持つんだ!?俺を殺す事がハンターの狙いだろう!」
トラップ「そりゃそうだな。ま、そんな事はどうだっていい。今はお前の事を知りたいだけだからな。」
竹内は頭が混乱してきた。今までに遭遇したハンターは、竹内の姿を見るや否や襲い掛かってきた。だが、この『トラップ』と言うハンターは全くそんな素振りは見せない。むしろ、気さくに話し掛けてきて親しみすら感じる。
竹内「・・・・・俺の何が知りたいって言うんだ・・・?」
竹内は逃げ出そうかとも考えたが、闇雲に逃げ回っても迷うだけだし、またあの二人組に出会ったら最期、今度は間違い無く殺されるであろうと考え,しばらく様子を見ることにした。
トラップ「まずは、竹内の仲間について聞かせてくれよ。まだお前の仲間の顔を見たことは無いんでね。」
竹内「・・・・そんな事を聞いてどうする気だ・・?」
トラップ「別にどうもしないよ。ただ聞きたかっただけさ。それに,いつかは狩ってしまう相手の事だ。別に話したって影響はないだろ?死んだら皆同じだからね。」
竹内「・・・・随分とはっきり言うんだな・・・。」
トラップ「そうだろ?俺は何事もはっきりと言う性格なのさ。・・・なぁ、それよりも仲間の性格とか聞かせろよ。」
竹内「・・・・・俺を入れて10人がここに連れて来られている事は知っているよな?」
トラップ「ああ、そこまでは俺も聞かされている。」
竹内「俺を含む男が5人,女が5人だ。名前はそれぞれ男が・・・・・・・で女が・・・・・・・・だ。」
竹内は仲間の事をこの『トラップ』と言うハンターに不思議と素直に話してしまった。自分でも仲間の事を話すのはまずいとは思っているのだが、口が勝手に動いてしまう。
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トラップ「なるほどね・・・。んで、ここに来ている女の中にお前の恋人とかは居るのか?」
竹内「そ、それは・・・。」
トラップ「・・・その様子じゃ居るみたいだな・・・。誰だよ,一体。」
竹内「こ、恋人って訳じゃないさ・・・。ただ、女子の中では一番仲のいい娘なんだ・・・。(俺は何故こんな事を話しているんだ・・・。こいつはハンターの一人だと言うのに・・・。)」
トラップ「そんなの,恋人と同じようなものだろ?で、どこまで進んでいるんだ?キスくらいはしているよな?」
竹内「いや・・・,それは・・・。」
トラップ「それとも、もっと進んでるのか?まさか・・・・,もう行き着くところ・・・最期まで行ってるんじゃないだろうな?」
竹内「そんな訳無いだろ!!・・・まだ、キスどころか、何もしていないさ・・。」
トラップ「はぁ?お前も度胸が無い奴だなぁ・・・・。男だったらキスくらいはやれよな・・・・。」
トラップは竹内が花桜梨にキスすらしていない事を聞くと,呆れた様に苦笑する。
竹内「そんなに呆れる事無いだろ・・・。俺は、お前が考えている様な性格の人間じゃないんだよ・・・。」
トラップ「やれやれ・・・,仕方の無い奴だな・・・。けど、お前がそこまで惚れるって事はよっぽど可愛いんだろうな。その八重花桜梨って娘は。」
竹内「ああ、俺は花桜梨さんの事が好きなんだ・・・。何時の間にか意識しているようになっていた・・・。それまでに、いろいろあったんだけどな・・・。」
純や匠にすら、こんな簡単に自分の本音を語らなかったと言うのに、出会ったばかりの『トラップ』には何故かすらすらと話せる。
自分が花桜梨と出会った時の事や、一度はデートをすっぽかされた事・・・,花桜梨が前の学校で受けた心の傷が原因で心を閉ざしていた事・・・,そして、その後自分にだけは心を開いてくれて明るくなった事など、今までの花桜梨との思い出を全て話していた。
その結果、竹内は何時の間にか『トラップ』とすっかり打ち解けていた。
トラップ「なるほどな・・・。結構大変だったんだな・・・・。・・・花桜梨さんか・・・。・・・まあ、せいぜい頑張れよ。」
竹内「・・・・お前に一つ聞いていいか?」
トラップ「『トラップ』でいいぜ。何だよ、聞きたい事って。」
竹内「もう知っていると思うけど、俺はお前の仲間を一人殺したんだぞ?俺の事が憎くないのか?」
トラップ「憎む?どうして俺がお前を・・・竹内を憎む必要があるんだ?」
竹内「どうしてって・・・・。仲間が殺されたんだぞ・・・?仲間を殺した奴の事を憎むのが普通じゃないのか・・・?」
トラップ「・・・あいつは・・・『スナイプ』は弱かったから、お前に殺されたんだ。ただそれだけの事さ。別に竹内のことを恨んだりなんかしていないよ。」
竹内「・・・・・・・。(あいつ・・・『スナイプ』と言うのか・・・・。)」
トラップ「むしろ、俺はお前の事を大した奴だって思っているんだぞ?普通、プロのハンターに襲われてそいつを返り討ちにするなんて、そんじょそこらの高校生に出来る事じゃないからな。ある意味尊敬にすら値するよ。」
竹内「・・・・・俺を・・・俺を尊敬する・・・?(・・・俺を恨んでいないのか・・・?)」
トラップ「ああそうさ。竹内,お前はかなりの度胸と判断力を兼ね揃えている奴だよ。お前がターゲットだなんて考えたくないくらいだね。」
竹内「・・・・度胸と判断力を兼ね揃えた存在・・・なのか?・・・・この俺が?」
トラップ「そうだよ。・・・竹内、お前は自分の事をそう思ったことは無いのか?」
竹内「・・・・無いよ・・。」
トラップ「勿体無いな・・・。そこまで資質を持っていながら、生かしきれていないなんて・・・・。」
竹内「・・・俺は・・・・俺はどうしたらいいんだ・・・?」
トラップ「自分がどうしたらいいか分からないのか?」
竹内「ああ・・・。・・・俺は・・・俺はお前の仲間の『スナイプ』を殺した・・・。生まれて初めて人を殺したんだ・・。あの時の手の感触が・・・ナイフを突き刺した時のあの感触が・・・未だに手に残って離れないんだ・・・・。」
トラップ「・・・・・・・。」
竹内「あれは正当防衛だって分かってる・・・。分かっているんだ・・・・。けど、俺の中にそれを許せない自分が居る・・・。」
トラップ「・・・・つまり、『スナイプ』を殺したと言う自己嫌悪に苛まれていると言う事か?」
竹内「それもある・・。けど、一番は自分の中でヒトを殺した事に対する嫌悪感と、それを正当化しようとする自分が常にぶつかり合っている・・。それが、その二つの心の葛藤が俺を苦しめるんだ・・・。」
トラップ「・・・・・・・。」
竹内「教えてくれ・・・・。『トラップ』、俺はこれからどうしたらいいんだ?何をすればいいんだ・・・?」
竹内は『トラップ』がハンターであると言う事も忘れて、今まで自分の中だけに封じていた心情を吐露した。
花桜梨にすら話さなかった事を、全て包み隠さずに『トラップ』にだけは話したのだ。
トラップ「・・・竹内。よく聞けよ・・・。お前に残された道は二つある。」
竹内「二つの・・・・道?」
トラップ「そうだ。一つは,このまま悩み苦しんで自らを追い詰めて何もしないで殺されるか・・・。もう一つは、お前の中の中途半端な良心を捨てて、完全に割り切るか・・・だ。」
竹内「・・・・・。」
トラップ「決めるのは竹内・・・お前だ。好きな方を選ぶといい。」
竹内「俺は・・・俺は・・・まだ死にたくない・・・。俺は死ぬ訳にはいかない・・・・。」
トラップ「だったら・・・・進むべき道は分かるな?」
竹内「ああ・・・,『トラップ』・・・。お前に感謝するよ・・・・。そうだ・・・・。今まで俺は考えが甘かったんだ・・・。最初から割り切って考えていれば、こんなに苦しまずに済んだんだ・・。」
トラップ「そうだ・・・それでこそ俺が見込んだ奴だ!いいか?これからはちっぽけな罪悪感など捨てろ。下手な情けにとらわれていたら、その甘さを付け込まれる事になる。お前は何も悪くないんだよ!!」
竹内「分かった・・・。俺は・・・俺は・・・あいつらと・・・戦う!!」
トラップ「そうだ!それでいいんだよ。・・・お前は今から『カウンターハンター』と名乗りな。」
竹内「『カウンターハンター』・・・?」
トラップ「そうだ。ハンターを逆に狩る者と言う意味さ。ハンターと戦う決心のついた今のお前にぴったりだろ?」
竹内「・・・なぁ、『トラップ』・・・。何でお前はターゲットであるはずの俺にそこまで親切にしてくれるんだ?お前だってハンターなんだろ?」
トラップ「それはそのうち分かるさ・・・。俺が何故お前を助けたか・・・。何故お前を殺さないのか・・・。その意味を・・・ね。」
竹内「意味・・・・・。」
トラップ「今は分からなくたっていいさ。今は他のハンターに殺られない事だけを考えな。」
竹内「・・・・そう言えば,他のハンターが来る気配が無いけど、あいつらはどうしているんだ?」
トラップ「ん?ああ、『ナイト』と『ウェポン』の事か。あいつらはハンター専用の待機場所にいるぜ。」
竹内「待機場所?」
トラップ「そうだ、俺たちハンターだけが入れる隠し通路があってね。そこで今頃休憩してんじゃないのか?」
竹内「お前も当然そこを知っている・・・よな?」
トラップ「まあね。これだけは流石に教えられないけど,この施設の大まかな地図ならお前にやってもいいぜ。あと、武器の隠し場所も教えてやるよ。」
トラップはそう言って、地図のあちこちに印を付けた。
そして、印を付け終わるとその地図を竹内に手渡してこう言った。
トラップ「その地図のあちこちに印があるだろ?そこに武器が置かれているはずだぜ。どんな武器かは行ってみてのお楽しみってところかな?」
竹内「・・・・なぁ。マジでこんな事を俺に教えてもいいのか?」
竹内は、『トラップ』のあまりの親切さに、『トラップ』の事が心配になって来た。
トラップ「ん?そんな事気にするなよ。俺はお前からいろんな事を聞かせてもらった、そのお礼とでも思ってくれ。」
竹内「・・・じゃあ、ありがたく頂いておくよ。」
トラップ「・・・・さて・・・と。そろそろ時間だな。そろそろ俺は戻らないといけないから、これでお別れだな。」
竹内「俺は・・・,今からお前がくれた地図を頼りに武器を収集しながらここを出るよ。」
トラップ「ああ、分かった。」
竹内「・・・・・今度会うときは敵同士だな・・・。」
トラップ「そうだな・・・。ま、その時はその時だ。竹内、お前といろいろ話せて楽しかったぜ。じゃあな!」
そう言い残すと、『トラップ』は好感の持てる笑顔を見せてその部屋を出て行った。
トラップ「(まあ、せいぜい頑張りなよ・・・。竹内・・・。くくく・・・。)」
竹内「・・・・『トラップ』か。・・・・ハンターなのに、意外といい奴だったな・・・。」
竹内はしばらく『トラップ』と話した事を思い返していたが,やがて自分もその部屋を後にした。
『トラップ』がくれた地図を頼りに武器を収集する為に・・・・。
しかし、竹内は気付いていなかった。情けを捨てた自分、そして施設の地図と多くの武器を得るのと引き換えに、大きな代償を払う事になるという事を・・・・。
<第拾弐話・完>