○第5章




 祐樹はゆっくりと目を開けた。
 泣いていたのか…目の縁がカサカサになっている。
 そして、何故か物悲しさとやるせなさが胸を締め付ける。なにか夢を見たような気がするがよく覚えていない。
 薄暗い自室。どうやらCDを聴きながら眠ってしまったようだ。
 喉がカラカラになっている事に気付く。
 なにか飲もう、そう決めて台所に行く。冷えた烏龍茶を冷蔵庫から取りだしリビングに行く。
 その時、テーブルの上に可愛らしい封筒があるのに気が付いた。
 手にとって見る。どうやら自分宛のようだ。送り主の名前を確認する。
 そこには『杉浦優美』と書いてあった。
 その文字を見た瞬間、チクッと胸が痛むのを確かに感じた。
 なんとなく胸騒ぎがして、急いで封を開け、中を見る。
 中には五枚という多めの便せんに文字が隙間なく書きこんである。
 彼はそれに目を通し始めた。
 電気も付けていないリビング、薄暗い闇が辺りを支配していた。
 読み進めて行くうちに、夢の内容が少しずつ思い出されてくる。
 杉浦優美…クラスメイトであり、中学校の時の自分が病院まで運んだ女の子…今年に入ってから学校に来ていない…確か心臓が悪いとか……。
 何故、今まで思い出せなかったのだろう。

【私、今度手術するんです。とても難しい手術らしくて、もしかしたら…】

 三枚目の後半からそんな事が書いてあった。

『貴方はまだ生きている…ここにいる人には肉体なんか存在しない』

 不意にその言葉が強烈な衝撃を持って、脳裏に蘇る。
 その刹那、彼は手紙を乱暴にポケットに突っ込んで家を飛び出していた。


                                   第6章へ続く



                      
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