○第2章
私はあの頃、入院生活にうんざりしていた。
友達はみんな学校でおしゃべりしたり、勉強したりしているのに、自分はこの不自然な白い部屋に閉じ込められている。
それに耐えられなくなり、ある時私は病院を抜け出した。
白い、汚れなど一つもない純白のワンピースの上にカーディガンを羽織った姿で、秋空の下に飛び出す。
駅前でウインドショッピングをしたり、公園の近くにあったアイスクリームのお店でアイスクリームを買ったりした。
日頃できない事は全部やっておこうと思ったのだ。
しかし、はりきり過ぎが祟ったのか、患っていた心臓が急に調子を狂わせ、病院近くの橋の袂に座り込んでしまった。
その時、彼女の変調に気付いたのか、声を掛けてくれた人がいた。
「君…大丈夫? どこか調子が悪いみたいだけど…」
「ちょっと、胸が痛くて…。でも少し休めば大丈夫ですから…」
自分でもでもそんなに軽いものではない事だと薄々気が付いていた。でもそう言うしかなかった。
もうこれ以上、誰にも迷惑をかけたくなかったから。
「大丈夫って言っても…顔だって真っ青だし、汗もすごい量だぞ?」
彼女を覗き込みながら言ってくる。
少し低めのしっかりとした声だった。だから最初は大人の人かと思った。
でも、彼女を覗きこんできた顔はまだどこか幼さを残していた。
「病院か…この距離なら走った方が近いな…」
そうしている間にも彼女の心臓は鋭い針で無数に突き刺されるように痛み続けている。そして思案するような呟きの後、
「君、乗って!」
彼は背中を差し出した。
「えっ!?」
正直、彼女は驚いた。しかし迷っている余裕はなかった。実際は彼の背中に倒れこんで行っただけかもしれない。
彼女を背負って必死に病院まで疾走していく。
彼の匂いと足から来る軽い衝撃を感じながら、彼女はいつのまにか気を失っていた…。
気が付くとそこは見慣れた病室だった。
どうやら麻酔が効いて眠っていたらしい。
日が高く昇り、窓から鋭い角度で太陽の光が入ってくる。
あの日、もう少し病院に着くのが遅かったら命にも影響があったらしい。
しかしその事を聞いても、私はあまり気にならなかった。
彼女が気にしていたのは彼にお礼が言えなかった事だった…。
それから彼女はお見舞いに来てくれる友達に頼んで彼を探してもらった。
彼の名は猪之原祐樹。隣町の中学に通う二年生、同級生だった。
「そして、彼がどこの高校に入学するか分かった時、私もつられるようにしてそこ入った。でも、高校に入ってすぐに入院しちゃったからなぁ。」
彼の事はいつも友人の持ってきてくれる話の中でしか知る事ができない。
「会いたいな……」
彼のことだけを考えながら、彼女は手紙の続きを書き始めた。
第3章へ続く
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