13日目
<にょ〜月だお〜日>
午後の3時、子供にとっては「おやつの時間」と称されるおいしい時間であっても、僕にとっては相当なまでに危険な状態に追い込まれていた。
どれぐらい危険なのかというと、パラシュートなしでスカイダイビングするぐらいといっても過言じゃない。
「なぁ、ぴろ公の家に上がってもいいかな?久しぶりになゆきたんの顔がみたくてよぉ・・・」
そう、ジョニーが家に上がってくるのだ。
普段ならばそれぐらい大丈夫なのだけれど、今回ばかりはそうはいかない。
今日でなゆきさんとゆういちが二人っきりになってから2日目になった。
しかも昨日のレベル以上に二人はラブラブ度を増している。こんなのを見たらジョニーは一体どういう風に発狂してしまうのやら・・・
ある意味見ものだけれど、やはりそれは友達として避けるべき行為だ。なんとしても食い止めなければならない。
「あ、えっとね、なゆきさんは今日は41度の大熱を出して倒れてるんだ。だからジョニーにカゼが伝染ったら大変だし、今日のところはやめたほうがいいかと・・・」
思いっきり嘘をついてみた。
けれど・・・
「な、何ィィィ!?なゆきたんがカゼだとぉ!?」
そう叫ぶと、ジョニーは突然立ち上がった。
「バーロー!どうしてそれを早く言わなかったんだ!俺が看病しないと治らないぜ、こいつぁよ!」
・・・・しまった、逆効果だった!
「急げぴろ公!こうしている間にもなゆきたんの純粋な体が・・・・・悪質な菌に犯されて・・・・・くっそー!!!」
そう言うと、ジョニーはいちもくさんに僕の家の方へ走り始めた。
・・・・・・こうなったら仕方が無い、なるべくいろいろとやらかして時間を稼がないと・・・・
「ち、ちょっと待ったジョニー!」
「あん、なんだぁぴろ公!」
全速で走るジョニーに追いついて、僕は時間を稼ぐための提案を出した。
「ほら、なゆきさんはカゼを引いて倒れてるんだよ?だったら薬か何かを差し入れしないとまずいんじゃないのかな??」
「あ、そういわれてみりゃあそうだな・・・・」
一気に急ブレーキをかけて僕たちは止まった。
「んじゃあ、ここら辺で一番近い薬局ってどこなんだ?」
「うーん、最近設立した神尾薬局ぐらいじゃないの?」
神尾薬局、それはつい3日前に設立された薬屋さんだ。
なんでもそこの店員さんはとてもかわいい女の子で、売り上げも上々らしい。
「へっ、店の中に女一人じゃ俺たちが来ても何も手は出せんだろうな」
「もちろん今回も裏口から侵入するんだよね?」
「今回ばかりはなゆきたんの体がかかっている。強行突破するぞ」
「ゲゲッ・・・・・・」
いつものように侵入作戦だと思っていた僕だけど、このときに限ってジョニーは頭の回転が良かった。
強行突破だと遂行時間が思いっきり短縮して、僕の家に行く時間が早まってしまう・・・・。
・・・・・・・・・・・って、待てよ?
時間が早かれ遅かれジョニーは僕の家に来るんじゃないか。
それならこうやって時間稼ぎするのも全く意味が無い・・・・・・
あ、ならばジョニー自身が再起不能になるぐらいのケガを負って、なゆきさんの家へいけないようになればいいじゃないか。
神様、どうかジョニーに歩けないほどの大ダメージを与えてください。
「どうした?なんか不満でもあるのか?」
「いや、なんでもない・・・・・ただ考え事をしていただけだよ」
20分後、僕たちは神尾薬局の入り口に立っていた。
「窓から覗いたが、運良く今のところ客はいねぇみてぇだ。店員も一人でトランプ遊びやってるぜ」
「んじゃあ・・・・・・自動ドア開けて突入といきますか?」
そう言うと、ジョニーは無口で縦に首を振った。
そして自動ドアの前に立って、僕たちはピョンピョンと跳ねる。
こうすると僕たちみたいな猫であっても自動ドアが反応する場合がある。
そして・・・・
ヴーン・・・・・・
自動ドアが開いた。
「あ、いらっしゃいま―――」
「薬局店に討ち入りじゃぁぁぁぁ!!!」
「なんか間違ってるけど了承!」
店員が挨拶し終わる前にジョニーは掛け声を、僕はそれなりのツッコミを入れて店内に乱入した。
「きゃっ!・・・・・・・・・み、みすずちん大ぴんち!」
店員は小さな悲鳴と独り言を言ったあと、あたふたとカウンターのところで混乱していた。
それを見てチャンスといわんばかりに僕たちは二手に分かれて、棚にある薬を物色していた。
「ぴろ公!どの薬がいいと思う!?」
「『半分がやさしさでできている』ヤツがいいんじゃないの?」
「つまりコレか!よし採用」
「あと『胃にやさしく、早く効く』ヤツもいいと思うよ」
「つーかここってマタタビとかねぇのか?」
「そんなのあるわけないでしょーが!」
そんなこんなで探していると、突然僕の視界が影になった。
どうやら何かが僕の上にいるらしく、僕が目線を上に向けると・・・・・・
「カァー!カァー!!」
バサバサバサバサバサ!!
なんと上からカラスが襲ってきた!
そして鋭いくちばしでつついて攻撃を始めた。
「いてててっ!なんでこんなところにカラスが!?」
攻撃を喰らいながら、僕はそんな疑問をついつい口に出してしまった。
「薬局店にカラス・・・・・縁起悪い事この上ねぇなぁ・・・・・」
そう言ってすぐ隣でのんびりと戦いを観戦するジョニー。
・・・・・・いや、あんた見てないで助けてくれよ!
「そら、ドロボー猫さんたちをやっつけて!」
そう言って店員がカラスを応援していた。
どうやらこのカラスはこの店員が飼っていたものらしい。
「オラオラオラオラオラ!」
ポコポコポコ!
僕も前足で必死に奥義『地球にやさしいネコパンチ』を連続で繰り出すが、相手に全く痛がる様子が無かった。
・・・・・・・バカな、この奥義が破られたとでもいうのか?
「カァー!カァー!!カァー!!!」
対するカラスは大きく羽をばたつかせて、僕を錯乱させようとしている。
「コラァ!バタバタするなって・・・・・・・・・・・?」
その時、カラスの羽が僕の鼻を優しく撫でた。
「ふ・・・・・・・ふぇ・・・・・・ふぇぇ・・・・・・・」
そして鼻の部分がムズムズしてきて・・・・
「ファァァァッッッシュン!!」
ビュオオオオオオオオ!!!!
その時、歴史・・・・・・・・・・・・違った、戦局が動いた。
僕のクシャミで発する風圧が、カラスを思いっきり吹き飛ばしたのだ。
「カァァァァァァァァァ?!」
悲鳴とも取れる声を上げながら、カラスはきりもみしながら向こうのほうへ飛んでいって・・・・・
ゴスッ
・・・・・・・・・ぱた。
カベの部分に頭をぶつけ、そのまま力なく堕ちていった。
「ああっ、そらが!!」
そう言って、倒れているカラスのところへ店員が駆け寄った。
そのカラスはというと、頭に大きなたんこぶを作って完全にグロッキー状態になっている。
「そら・・・・・・そらぁ・・・・・・・・・」
そう言ってカラスを抱きしめる・・・・・・
ごめん店員さん、それもこれも全てはジョニーが悪いんだから、僕を恨むのはやめてね。
「・・・・・・・・フフフフ・・・・・・・」
・・・・・・と思ったら、いきなり不気味な笑いを発した。
「こうなったら・・・・・みすずちんの秘密兵器を・・・・・」
ゴソゴソとポケットをまさぐって、そこから出てきたのは携帯電話というやつだった。
彼女はピ、ピ、ピ、とボタンを押して、誰かと話し始める。
「まずいよジョニー!援軍呼ばれてる!」
「よっしゃ、そろそろズラかるぞ!」
僕たちは出口でピョンピョン跳ねて自動ドアを開け、そのまま外へ脱出した。
そして全速でその場から逃げるように走り出す。
「ふははははは!これでなゆきたんもひと安し――」
キキィィィィィィィ!ガコン!!!
「ひでぶぇぇぇ?!!」
・・・・・が、脱出3秒後に悲劇が起こった。
どこからやってきたのか知らないけれど、猛スピードで突っ込んできたバイクがブレーキをかけつつも、ジョニーに体当たりしてきたのだ。(ちなみに僕はギリギリのところで当たらなかった)
それを喰らったジョニーは推定20メートルほど吹き飛び、地面に叩きつけられた。
まさか、これが店員の言っていた秘密兵器なのだろうか・・・・?
「あ〜アカン、猫一匹ふきとばしてもたわ・・・・・」
「あ、お母さんお帰り〜」
「何や観鈴、こっちも仕事中やゆーのに突然呼び出して」
「うん、お店の中に入ってきたドロボー猫さんを自慢のバイクでやっつけてほしかったの」
「あ〜、あの薬とかぎょーさん持ってた変な猫?さっきウチのバイクではね飛ばしたさかい、大丈夫や」
・・・・・ど、どうやらこの関西弁を話すおっかない女ドライバーが秘密兵器だったらしい・・・・・
薬局店の恐怖を味わっていたら、もう夕暮れ時。太陽が沈みはじめていた。
「ジョニー、大丈夫?」
「お、おう・・・・・・・・なゆきたんが安心する顔を見るまで死ぬ事はできねぇよ・・・・」
奪った薬を背負いながら、ジョニーは苦しそうに答えた。
なんとかジョニーは歩ける状態だけれど、フラフラしていていつ倒れてもおかしくない。
僕の本心、いっそのことあの時点で歩けなくなってくれれば嬉しいんだけれど・・・・・・
結局、僕の神様への祈りも通じずにジョニーは僕の家まで来てしまった。
「なゆきたん・・・・・・待ってろよ!」
そう言って顔を引き締めるジョニー。
・・・・・だめだ、これ以上彼が一生懸命なところを見ていると、もっと心が苦しくなる・・・・・・
「あの・・・・・・・・・ジョニー・・・・・・・・実はね・・・・」
「ん?どうしたんだよ」
「あのね・・・・・・・なゆきさんがカゼだっていうの・・・・・・・嘘なんだ・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・何!?」
「騙してごめん!でも、そうでもしないとジョニーが傷つくから・・・・・・」
「いや、俺はもう相当ダメージ負ってるわけなんだが」
<
「そうじゃなくって、心のほうにだよ」
「・・・・・・・・・・・なぁぴろ公よ、俺たちは何度も死線をくぐってきた戦友じゃねぇか。今になってお互い隠し事はやめてくれよ」
「・・・・・うん、そうだね・・・・・・それなら実際に見たらいいと思う。僕の口からじゃ説明なんてできないから・・・・」
そう言って、僕はジョニーを玄関の方へと案内した。
玄関は僕が入れるようにほんの少しだけ開いているのが当たり前になっているから、僕たちはすんなりと靴を置くところまで移動できた。
そして廊下を見ることのでき、かつ人目のつかない傘置き場に僕たちは隠れた。
「なぁ・・・・・こんなところで監視みたいなことして・・・・何を見るってんだ?なゆきたんの裸姿か?」
「・・・・・・・なゆきさんは露出狂じゃないから、そんなのじゃないよ」
「いや、家の中だったら大胆になるのかって思ったんでよ」
・・・・・・もう言葉を返すまい。これ以上ジョニーを妄想の深みに沈ませれば、これから起こる残酷な出来事に耐えられなくなるだろうから・・・・・
その場でじっと待つこと10分、ついにその時がやってきた。
トン、トン、トン・・・・・・・・・
階段のあるところから足音が聞こえた。
ゆういちかなゆきさんであるのは間違いないだろう。
ただ、その足音が一人分しか聞こえない。
よかった、二人がくっついている状態というのはまず消えた。
ならばジョニーに適当な事を言ってあしらって、この危機から脱出することもできるじゃないか。
(どんな風に言ってあしらえばいいのだろうか・・・・・・・うーん、ああでもない、こうでもない・・・・)
だけれど、そう考える事は全く無駄であるということを、階段から降りてきた人物を見て僕は知った。
「な、名雪・・・そろそろこの状態はやめた方がいいんじゃないか?」
「やだよ・・・・・・もっと祐一にだっこしてもらいたいんだもん・・・・・・」
そう言って階段から降りてきたのは、なゆきさんを俗に言う「お姫様だっこ」で抱きかかえているゆういちだった。
・・・・・・・・・な、なるほど、だから足音は一人分しか聞こえなかったのか・・・・・・・
「だって・・・・お母さんたちがいたらこんなことできないし・・・それに祐一の事好きだから・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・まぁ、そう言ってくれるならまたいつかやってやるよ」
抱っこしたまま、抱っこされたまま、二人はリビングのある部屋の中へ入っていって、ドアを閉じた。
僕は見終わって、まずはじめに隣にいるジョニーの方を見る。
・・・・・・・・・・・・・・・口をあんぐりと開けて、放心状態になっていた。
「ううっ・・・・・・・ぐすっ・・・・・・・」
そして目から大量の涙を流し始めて・・・・・
「にゃおおおおおおおっ!!!」
雄たけびを上げながら、墨のついた筆と真っ白な半紙をお腹の毛の部分から取り出した。
「・・・・・・・・・・四次元?」
僕のツッコミも気にせずに右前足で器用に筆を持って、文字を書き始めた。
そしてできた文字がコレ。
「平成」
・・・・・・・・・・・・・どうやらジョニーの頭の中では時代が変化するぐらいに混乱しているようだ。
「うわあああああああああん!」
ジョニーは文字を書いた半紙であふれ出した涙と鼻水を『ちーん』とかんで、そのままくしゃくしゃにして近くのゴミ箱にポイ、やっと号泣モードがストップした。
「ニトロ博士、事情を説明してもらおうじゃねぇか!」
「僕はぴろだよ!」
どうやらまだ混乱は収まっていないらしい。
「畜生が!俺はみとめねぇぞ!なゆきたんが他の男とくっつくなんてよぉ!!!」
ドンドンドン!
そう言ってリビングのドアを頭突きで攻撃し始めた。
すると・・・・・
バタン!! ぷちっ
頭突きしていたドアが突然開き、そこからゆういちが姿を現した。
そして廊下をキョロキョロを見回す。
「ゆういちー、どうしたの?」
「いや、誰かがドアをノックしていたような・・・・・・」
「きっと気のせいだよ〜」
「そうだな」
ゆっくりとドアを閉める。
そしてドアの横の壁には、ジョニーがめり込んでいた。
「あ、あの野郎・・・・・・・なかなかデキるじゃねぇか・・・・・・・・・」
そう言ってジョニーは壁からはがれて、そのまま廊下に倒れこんだ。
続く
14日目ヘ続く
あとがき
・はい、今回も2匹大暴れさせてみました。
そしてさりげなく観鈴ちん、晴子さん、そらを投入してみたりw
ちなみに今作に出演しているそらは飛んでますので、そこら辺は無視していただければ嬉しいです(ぇ
次回も祐一×名雪の関係を絡めた話を展開させていきたいと思います。
また、回を重ねるごとに量が増え続けているので、ここら辺で軽量化して、読みやすいものを目指していくつもりです。
(補足)
後半部分のジョニーのセリフで
「ニトロ博士、事情を説明してもらおうじゃねぇか!」
というのがありますが、たぶん分からない人が多いと思うので、このセリフの補足をさせていただきます。
これはNHKで毎週月曜日の19:30に放送されている「モンタナ」というアニメに登場する、ゼロ卿という悪役のセリフの一つをちょっと改良したものです。
それでは失礼いたします。
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