12日目




<にょ〜月んに〜日>



「それでは、行ってきますね」

 そう言ってあきこさんは荷物を抱えていた。
 話を聞くに、あきこさんの知人が狙撃されたらしく、その手当てに今から向かうらしい。

「狙撃されたって・・・・・秋子さんの知人って相当物騒なのが多いんですね・・・・」

 そう言ってゆういちも呆れていた。 「まぁ、そういう職業が私たちの時代は流行だったんです。イラクまでちょっと行ってきますから・・・3日ぐらい家をあけときますね」
「お母さん、それはちょっと危ないよ〜・・・」
「ち、ちょっとじゃないぞ名雪!」
「大丈夫です。私も護身用のブツなら少々持ってますから・・・・・・」

 そう言って持ってた大きなバッグから黒光りするサブマシンガンを取り出した。

「自衛隊にコネがいますので、その輸送機に乗っていきますね」

 そう言っていつものように微笑んだ。


・・・・・・・・・・・・というか、あきこさんは本当に何者なんだろうか・・・・・・










 そしてあきこさんが戦場へ友人救援のために向かった30分後に、訪問者がやってきた。
「あまの みしお」という女の人だった。

「すいませんが、真琴を3日間お借りしてもいいでしょうか?」
「ああ、別にいいけど・・・・・・なんで?」

 リビングで正座をして真正面から話し合うゆういちとみしおさん。

・・・・・・見るからにみしおさんはオバサンっぽいオーラ発揮してるよなぁ。


「ええ、ちょっと山口県を旅行しようと思いまして・・・」
「でも・・・美汐ちゃんはなんで山口県に行きたいの?」
「山口県は人こそ少なかれども自然が豊かで、物腰がとても落ち着いた県です。それに秋吉台のカルスト台地もありますし、萩には毛利氏の城下町、長門は観光船が有名ですし、『金子みすヾ』っていう詩人がいたところでもあるんですよ?私は一度行ってみたかったんです」

・・・・・なんだかえらく説明口調・・・・・

「天野、お前このSSの作者から自分の住む都道府県をアピールするように買収されただろ?」
「相沢さん・・・・それは言わない約束です・・・・」

 なにやら謎な会話が混じりつつも、結局まことさんはみしおさんと一緒に山口県へ行く事になった。
 それで僕はというと、二人の泊まる旅館が動物持ち込み禁止らしいので、この家でお留守番する事になった。

「それじゃ、行ってくるね〜!」
「お土産に鶏卵せんべい買ってきますね」
「いや、俺はフグ饅頭(まんじゅう)がいい」
「私はイリオモテヤマネコがいいな」
「名雪・・・・それはいろいろと突っ込めるんだが、あえて言わないでおこうか」










 まことさんとみしおさんを見送ると、もう太陽が西の空に沈んでいた。

「俺と名雪の二人で過ごすのって久しぶりじゃないか?」
「えっ・・・・・・」

 そう言ってなゆきさんが顔を思いっきり赤くさせていた。

「わ、悪い・・・・ヘンな事言っちまったな・・・・」

 そのしぐさを見て、ゆういちも顔を赤くしてしまう。

「でも・・・・・・たった3日間であっても祐一と二人で過ごせるのはうれしいよ」
「ま、まぁ・・・・俺もそういう気持ちなんだが・・・」

 ほほぅ、この二人はどうやらかな〜り強い絆で結ばれているらしい。
 けれどこれがジョニーに知られたときには・・・・ジョニーは自殺するかもしれない。彼には話さないでおこう。
 しかしなゆきさんはこんなエロオヤジのどこに惹かれたんだろうなぁ・・・・?

「祐一っ、ご飯作とお風呂、どっちがいいの?」
「『それともあたし?』っていうのは無いのか?」
「わわっ、祐一って変態さんみたいなこと言うんだね」

 うん、やっぱりゆういちの脳ミソは変態オヤジ色で染まってるな。

「冗談だ。そんじゃあ先に風呂でも入るよ」
「うん、もう入れておいたから先に入ってていいよ」

 なゆきさんの言葉を聞いて、ゆういちは僕の背中の部分をつまんで歩き出した。


・・・・ってなんでヤツが僕の背中をつまんでいるんだ・・・?

まさか・・・・・ゆういちと一緒にお風呂に入るのか・・・・・?


「冗談・・・・だよね?」
「何ニャーニャー言ってるんだ?俺に体を洗ってもらうのがそんなに嬉しいのか?」
「・・・・・・・・・・・・いやだぁー!!!」

 そう、いろいろとイヤだった。この因縁はかなり前から続いていて、コトの初めはゆういちがまことさんと僕が入浴中に乱入したときだ。
 いろいろと忘れてしまうのが猫の特性だけれど、コレばかりは体ごと覚えていた。
 きっとあれは僕を取り押さえて溺死させるための強硬手段だったに違いない。
 本当にあの時は死にそうだった。熱かったし・・・・・・・


 で、僕はもちろんじたばた暴れた。
 けれども祐一は僕を離そうとしなかった。

「お、体を動かすほど気合が入ってるのか。けっこうけっこう」
「やだー!!殺られる!溺れる!犯されるー!!」
「今日のぴろはテンション高いなー」

 風呂場に到着して、僕をつまみつつも器用にゆういちは服を脱いでいった。
 全裸になると僕をつまんだまま湯船のふたを開ける。

「んじゃ、俺は先に体洗うから一匹でごゆっくり」

 そう言って僕の体は湯船の中に放り込まれてしまった。


ばしゃん


「やめれっていってんのにー!・・・・・・・ガボガボガボ・・・・・・・・」

 僕はそう叫びながらまるで氷山にぶつかった某豪華客船のごとく、見事に沈んでいった・・・・










「わりーわりー、猫って泳げないんだったな」

 完全に意識がなくなる寸前のところで、僕はゆういちによって引き上げられた。
 これ英語でなんて言うんだっけな・・・・・・・・・・・ええと・・・・・・

「お前俺がサルベージしなかったら完全にオダブツだったぞ」

 そうそう、サルベージっていうやつだった。


・・・・・・ってゆういちのせいでオタブツになりかけたんだぞ?ちょっとは反省してくれよ・・・・・










 ゆういちと一緒のお風呂は僕にとってはかなり過酷なものだった。
 まことさんに体を洗ってもらうときは痛くないようにブラシでやさしく洗ってくれたけど、一方のゆういちは力任せに、しかも柔らかいブラシではなくタイル磨き用のハードな毛並みがちょっとお買い得な「たわし」を使っていた。
 よく言えば『漢気溢れるふれあい』悪く言えば『ネコにとっては痛すぎる拷問』ともとれる地獄の時間になってしまった。おかげで体中がヒリヒリ痛い。


・・・・・・・・・もう二度とこの男と風呂は入らん。







 次に名雪さんが風呂に入って、夕飯を作ることになった。

「なんなら俺も手伝おうか?」

 ゆういちが他の人と協力しようとしている。これはかなり珍しい事だった。

「う〜ん、じゃあ祐一はそこでヒンドゥースクワットして」
「・・・・・・・・・・名雪、それは手伝いに入るのか?」
「お腹すかせたら、きっとわたしの作る料理はおいしく感じられるよ」

 なるほど、とゆういちはうなずいてリビングの比較的スペースの開いたところでスクワットを始めた。


・・・・・片方では鼻歌まじりで料理を作って、もう片方では「ふんっ!、ふんっ!」と気合を入れながらスクワット運動を続けて・・・・・


 やはりこの家の住人は頭のネジが20本、バネが4本ぐらい抜けている。
 僕も運動と言わんばかりに壁を使って激しく爪とぎをしていたけれど、スクワット運動を中断したゆういちのハリセン攻撃により、やむなく断念してしまった。










「はい、おまちどうさま」

 そう言って名雪さんが持ってきたのは千切りされたキャベツと大きなエビフライ3尾がのったお皿と、お味噌汁、アイスクリームよりもイチゴジャムの割合が大きいデザートの3品だ。
 で、もちろん僕はいつもどおりキャットフード。愛情のかけらも感じられないね、うん(涙

 なゆきさんはゆういち用の茶碗にご飯をよそうと、ゆういちに差し出した。

「全部食べないと、イチゴサンデー1034つおごって」
「・・・・・・・・それは、破れない約束だな」

 そう言って祐一は箸を取る。
 いただきます、と言ってエビフライを1つかじった。
 噛んで飲み込むまでのゆういちの動作を、なゆきさんはただじっと見ていた。

「おっ、これはうまい!」

 そう言って祐一は箸を動かすスピードを高めていった。


「よかったー!これで毒味は大丈夫だね」



・・・・・・・・・・・・・『毒味』!?



「な、名雪・・・・・・毒味って一体・・・・?」
「うん、実は今祐一が食べてるものはあゆちゃんからの差し入れなんだけど・・・・」
「あゆがこんなに大きなエビフライをくれたのか!?」


「いや・・・・・それザリガニだよ?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・ぶはっ?!」



「ごめんね・・・勝手に祐一を実験台みたいな事に使って・・・・」

 そう言ってなゆきさんが両手を合わせて必死に謝った。


「な〜ゆ〜き〜・・・・・・・」

 けれど、ゆういちは下を向いたまま凄みをきかせた声を放った。

「わわっ、本当にごめんね!代わりにイチゴサンデー1034つ奢るから・・・・・」
「・・・・・ま、おいしければいいんだけどな」

 そう言ってもう1つのザリガニフライを食べ始めた。
 意外にゆういちは安上がりな人なんだなぁ・・・・・。




 そして、なゆきさんも自分の分のおかずとごはんを持ってきて、ゆういちと向かい合っている所に座って食べ始めた。

「あゆの食い物を見る目はほっといて、名雪の作ったものならなんでもうまいぞ、うん」
「うん、ありがと」
「でも、秋子さんの料理もいいけれど、名雪の料理なら毎日食べても・・・・・・きっと飽きないと思う」
「わわっ、ゆういちとってもはずかしい事言ってるよ・・・」

 そう言って、なゆきさんは顔を真っ赤にしてしまった。

「・・・・・お、俺だってこんなの恥ずかしいけれど・・・・どうせ二人しかいないんだから、んな事言ってもいいかなって思って・・・」
「祐一・・・・やさしいんだね・・・・・」
「俺は名雪に対してはいつでもやさしい人間だぞ」
「むー・・・いつもはとてもいじわるさんなのに」


「ちょっとちょっと・・・・お二人とも僕の存在忘れてないかい?」

 二人がアツい世界を空中浮遊している中で、僕だけが現実世界に取り残されたまま冷たいキャットフードをかじっていた。












 夕食が終わると、ゆういちは2階へ上がっていつものようにベッドの上でゴロゴロしながら[トリビア へぇ〜の本」なるものを読んでいる。
 ゆういちの部屋は暖房が効いていてとても暖かいから、僕もそこでゴロゴロすることにした。

 するとすぐにドアが叩かれる音がした。

「祐一・・・・・入ってもいい?」

 この声はなゆきさんだ。


「名雪か?俺はいつでもOKだぞ」

 ゆういちがそう言うと、ドアが開いた。
 ドアからやってきたなゆきさんは、今さっきの夕食の時と同じパジャマと猫のプリントされたはんてんを着ていた。
 ただ1つ、なゆきさんは夕食時と違うところがある。
 頭に猫の耳をかたどった飾り物をつけていた。
 このあいだのクルシミマスの時にジョニーがプレゼントしたやつだ。

「うおっ・・・・・!名雪・・・・・」
「そ、そんなにこの耳おかしいの?」
「いや、そうじゃない。めちゃめちゃ似合ってて・・・・・・・・・・かわいいんだ」
「わぁ、褒めてくれてありがとう。隣、座ってもいいかな?」

 ゆういちが「ああ」と言うと、ベッドの隣になゆきさんが座った。


・・・・・・・・・・・・・ここからは僕がいたらまずいな、と思って僕はそっと部屋を出た。


・・・・・・・・・・・とは言うけれど、やはりここからどんな風に展開するのか見ものだから、ドアごしに耳を立てることにしておく。


「しかし名雪・・・・なんでまたこんなのつけたんだ?」
「わたし、猫さん好きだから」
「はぐらかすなよ、そんなの嘘だろ」
「・・・・・・・・・私の料理をおいしいって言ってから、そのごほうび」
「え・・・・・・なゆ・・・・・・・んんっ・・・・・!」
「・・・・・・・・・んくっ・・・・ふぅ・・・・・ごほうびに、猫さんになったわたしからのファーストキス・・・・」
「ただ料理をおいしいってだけ言ったのにそのごほうびがコレなんて・・・・釣りが出そうだな」
「じゃあ・・・・お釣りの代わりにわたしのお願いを1つかなえて」
「可能な限りなら大丈夫だぞ、ただし3000円以内な」
「お金じゃ買えないものだよ」
「・・・そのお願いって?」
「一緒に寝ようよ・・・・・この3日だけでいいから」
「・・・・・・・・了承だ」



「祐一・・・・・・・・・大好きだよ」



 続く     

                                   13日目ヘ続く



あとがき


フゥォォォー!!!(叫
 ナンなんですかこのSSわ!


 ギャグなオチを期待していた方々ごめんなさいませ・・・・・・・・・今回のラストはラブラブにキめてみました。
 また、感想の方で「ネコ耳を出してください」という要望をいただいたため、それを実現させてみましたが・・・・・・・・・・・・・ネコ耳の存在の薄さがなんとまぁ・・・・・・(滝汗
 ネコ耳の良さを存分に堪能したいのならば、同サイト内の管理人さんが書いた「ネコ耳しおりん」を激しく推奨いたします。「メイド」という最強装備付きw(他力本願)

 「ぴろ式」では祐一×名雪というカップリングを設定として取らせていただきます。
 それ以外でないと認めない、という方がいましたらすいません・・・・・
 秋子さん長期外出の理由についてのツッコミは無しですよ?
 あ、けれども天野の旅行先についてのツッコミは大歓迎です(苦笑

 さぁ、みなさんも「おいでませ、山口へ」!(宣伝



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