10日目
<んな〜月んに〜日>
「なぁぴろ公、今日は何の日か知ってるか?」
今日も僕はジョニーの住処でよもやま話をしていると(ほとんどジョニーによるなゆきさんの良さを語るワンマンショーになっていたのだけれど)、そんな質問をされた。
「え、なんか今日って特別な日だったっけ?」
「おうよ、何でも人間が『クルシミマス』とか言ってる日らしいぜ」
クルシミマス・・・・聞いたことも無い言葉だ。もとい、名前からして危険な匂いがプンプンなんだけれど・・・
「赤い服着たオッサンが煙突から不法侵入して、なぜか中にいる人たちにプレゼントを配るというのがそのクルシミマスのしきたりだそうだ」
「へぇ〜、ジョニーって物知りなんだね」
正直、僕はビックリしていた。ジョニーが人間にとっての特別な日だけではとどまらず、その詳細まで知っていたのだから。
「へへっ、ありがとよ。そこでだ、俺はまたいいことを思いついた」
ギクッ・・・・
「い、いいこと・・・・?」
「今回は前のたいやき屋みたいな厳しい条件じゃねぇぞ。そう青くなるこたぁねぇだろ」
まぁ・・・・この間の地獄を味わうということはないんなら、その話に乗ってあげてもいいかな。
「どういうことするの?」
「なゆきたんにクルシミマスプレゼントをあげるのさ」
あ、それぐらいなら痛い目にはあわなくてすみそうだ。
「で、そのクルシミマスプレゼントって?」
「おお、これこれ」
隣に置いてあった紙袋から何かを取り出した。
そして僕はその物体を見て絶句してしまった。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「いやね、一度なゆきたんにもネコの気分を味わってもらおうと思ってな」
だからってネコ耳ってのはどうなんだろう・・・・・
夕日が沈んだ頃に僕とジョニーはみなせ家に行く事にした。
・・・・・・なぜか赤い布を体にくくりつけて。
「俺たちが赤いオッサン役だからな。ここまでは景気づけしとかんにゃいけんと思ってよ」
なるほど、ジョニーにしてはすごく今日は冴えているなぁ。
僕も家にいるみんなへのプレゼントは忘れてることはなく、ちゃんと大きな袋を引きずっていた。
「よし、僕の家についたよ」
「じゃあ早速ドアを開けてくれ」
「うん」と僕は返事をして、引っ張ってきた袋をいったん別の部分に置いておく。
ドアを駆け上って隣のカベにあるボタンを押した。
ピンポーン・・・・・・
その音が鳴ると共に、ドアの向こうから「はいはい、どちらさまですか」という声が聞こえた。
そしてドアがゆっくりと開く。
迎えに来てくれたのはいつものごとくあきこさんだった。
「あきこさん、クルシミマスおめでとー!」
「おめでとうだコンチクショウ!」
僕たちが声をかけると、秋子さんは少しビックリしたように「あら?」と言って、いつものポーズを取った。
「ぴろちゃんと・・・・隣にいるのはお友達?」
「うん、ジョニーっていうんだ」
僕がそう言うと、あきこさんはニコッと笑ってこう言った。
「了承」
秋子さんの承諾を得て玄関を上がり、廊下を歩いていると・・・
「(なぁぴろ公、あのべっぴんさんは誰だ?なゆきたんの姐さんか?)」
ネコ耳の入った袋を引きずりながらジョニーが小さな声でたずねてきた。
「(あの人はあきこさん、なゆきさんのお母さんだよ)」
僕がそう言うと、ジョニーはとてもビックリした顔をしていた。
「(何ィ!?あの美しさで母親!?)」
「(人間のなかには不思議な人もいるみたいだね)」
「(そうだな・・・・・・・・まぁいいや、これで親子丼というものが・・・・)」
「(ジョニー、何か言った?)」
「(い、いやっ!なんでもねぇよ、だははははは)」
親子丼・・・・・・・はて、どういう意味なんだろう・・・・・・?
廊下を歩いていくごとに、向こうから聞こえる声がはっきりとしたものになってきた。
「このイチゴケーキおいしいよ〜〜、あ〜ん・・・・・」
「なんで肉まんが無いのよぅ!」
「クリスマスに肉まんはないだろ、この七面鳥食べてみろよ。うまいぞ〜」
「あぅ〜!肉まんじゃないと駄目なの!」
どうやら他の皆もいるみたいだ。
「秋子さん、誰か来たのですか?」
ゆういちがあきこさんに尋ねると
「ええ。小さくてかわいいサンタさんたちです」
その声と共に僕たちはリビングへと向かった。
「わ〜っ、ぴろかわいい〜!!」
「おっ、赤い布か。サンタのコスプレか何かか?」
まことさんとゆういちが僕の方に目線がいくなかで、なゆきさんはジョニーの方に目線を奪われていた。
「あっ、この間のねこさん・・・・・」
ケーキを食べるのをやめて、小走りでジョニーの方へと向かった。
「この間のケガは・・・・・・・・自転車で轢いちゃったりしてごめんね・・・・」
そう言ってジョニーの頭をなでると急に鼻を赤くして涙を流し始めた。
「お、お、おお・・・・・・・・・・・あんなもんでーじょーぶっても、もんよ・・・・・・」
ジョニーもよほど緊張しているのだろうか、顔を真っ赤にしながらもそう言った。
あんだけいつも強がっているジョニーがここまで緊張するところを見て、やっぱりジョニーも照れ屋さんなんだな、と僕は思った。
「ニャーニャー言ってるぞ。元気そうじゃないか」
「うん・・・・・・・よかった・・・」
ゆういちの声を聞いて、なゆきさんは安心してジョニーを撫でるのをやめた。
「そういえばさ、ぴろたちが持ってきたこの袋ってなんなの?」
僕たちの近くでしゃがんでまことさんが質問してきた。
「ジョニー、そろそろクルシミマスプレゼントあげようよ」
「おお、そうだな。まずはぴろ公からみんなに渡しといてくれ」
僕は持ってきた袋を開いた。
中には僕が拾ってきた石が入っていた。
この石は今日の夕方、近くを流れる川の下流へ行って取ってきたもので、珍しい色をした丸い石が4つほど入っている。
盗みとか得意じゃない僕だから、結局こんなチンケなものしか揃えれなかったけれど、果たしてみんなはどんな反応を見せるのだろうか?
前足で、その石をそれぞれが座っているイスの足の方向へはじいた。
「ん?なんだこの石ころ・・・・・?」
石ころとは相当失礼だな、ゆういち。
「ぴろちゃんから私たちへのプレゼントじゃないの?」
「うんうん、絶対そうだよ!」
そう言って僕を後押ししてくれる女性陣2人。
「おお、こいつはすまなかったな。しかし俺たちにプレゼントとはなかなかシャレたことを・・・・・コノコノ〜!」
そう言って僕を持ち上げて頭を握った手でグリグリとする。
もうその痛いのなんのって・・・・
もとい、なんでプレゼントあげたのに苦しい思いをするのだろうか?
なるほど、これが『クルシミマス』という言葉の由来なのか・・・・・・・・・恐るべし。
「な、なゆきたん・・・・・・」
ゆういちに抱えられたまま下のほうを見るとジョニーが頭をなゆきさんの足の部分にこすり付けている。
「ねこさん、どうしたの?」と言いながらも涙を流すなゆきさん。
「こ、これ付けてくんねぇかな・・・・・・?」
そう言って袋からジョニーのプレゼントであるネコ耳を取り出す。
それを見て、なぜかゆういちが真っ青になり、絶句していた。
「な、なんで・・・・・・・・・・ノラ猫風情がそんな・・・・・・ある意味物騒なものを?」
手の力が緩まり、やっと僕はグリグリ地獄から抜け出す事ができた。
そう言っている彼を尻目にして、なゆきさんは喜んでいる。
「わ〜、かわいい!ありがとう、ねこさん」
そう言ってなみだ目のまましゃがんで、ジョニーにお礼を言った。
「その物体の真の意味をわかっちゃいないとは・・・・・名雪は純潔そのものだな・・・・・見直したよ・・・・」
ごちそうの並んでいるテーブルに突っ伏して、ゆういちはぐったりとしてしまった。
ジョニーのプレゼントに対し、今度はゆういちが苦しんでいる。クルシミマスとはなんとも恐ろしい行事だ。
「はい、どうぞ」
キッチンにいたあきこさんが二つの皿を持ってきて、目の前に置いた。
「プレゼントを持ってきてくれたお礼です。しっかり召し上がってくださいね」
そう言って持ってきたのは湯気の立つミルクだった。
「おー、ありがとうございます」
「さすがなゆきたんの母親、気が利いてるねぇ」
そう言って僕たちは目の前のミルクに口をつけ、のどに通していった。
けれどこのミルク、なんだか変だった。
飲み込むたびに喉がヒリヒリと焼けるような感覚がでて、一気に体が熱くなっていくみたいだ。
そしてどんどん気分がハイになっていって・・・
「ジョニ〜ィ、このミルク・・・・・・ウィック、何か変にゃにゃいの?」
「すげぇぇムィルクじゃにぇ〜か、こんにゃの飲んだことにぇ・・・・・ヒック」
ひとしきり飲んだ所で、僕たちは無意識にフラフラと歩き出した。
「よっひゃ〜、にゃゆきたんの寝室へ・・・・・れっつご〜」
「あ〜、そっちはトイレらって、ジョニィ〜・・・・・」
ゴチン
「あん?ひゃんと歩けよぅ・・・・・ひろこ〜よぉ」
「そっひこそフラフ〜ラひてぶつかったんじゃないのぉ」
ゴチン
「またぶつかりにゃがった・・・・ウィッ!・・・いいかげんにしにぇぇと・・・・・アルゼンチンバックブリーカーだぞ・・・こらぁぁ・・・・」
「ジョネ〜がわるい・・・・・16文キックでぼっくが正しい事を・・・・・ひっく!・・・おしえちゃる・・・」
「おみゃ〜の後ろ足・・・・・16文もにぇ〜くせに・・・・ウィック!」
「ちょ、ちょっと秋子さん・・・・・・・なんか2匹とも様子が変ですよ?」
「あらあら、やはり飲ませたのが失敗でしたね・・・・」
「お母さん、あれってただの牛乳じゃなかったの?」
「ええ、あれは馬乳酒。私のお手製で相当アルコール度を強くしてあるの」
「さすが秋子さん・・・・・・・・・・って猫相手に酒はまずいじゃないですか!」
「一応馬のミルク入ってますから、大丈夫だと思ったんですけど・・・・」
そんな声が耳の中に入ったような気がしたけれど、あの時はコレぐらいしか聞き取れなかった。
「ぴろ!大丈夫!?」
そう言って僕のところにまことさんがやってきた。
けれど、もうこのときはまことさんの頭の上に収まろうなんて気はしなかった。この期につけこんで、いっぱい甘えてよう。
「まことさぁ〜ん!」
僕はそう言ってまことさんの方に向かってジャンプ。
そしてしがみついたところは、まことさんの胸の部分だった。
「ど、どうして胸にくっつくのよぅ!!」
僕は顔を胸にスリスリとこすりつけた。
「う〜ん、やわらかい〜」
僕のその行動に対し、まことさんはついに諦めたのか、
「ま、たまにはこういうのもいいかな」
と言って僕を片手で抱きしめて、僕は頭を撫でてもらった。
本当に最高の時間だ。こんなのは今までに味わった事は無いかもしれない。
一方・・・・
「あ゛〜、ごのにゃろう!まった俺をダシにゅいて・・・・・ウィック!・・・・い〜ことしやがってぇ!」
僕が甘える光景を見て、ジョニーは怒っていた。
「俺だって・・・・にょれだって・・・・・甘えちゃうもんよぉ!」
そう言って後ろ足を蹴り上げて高く跳躍した。
で、結局ジョニーが着地したのは、なゆきさんの胸の部分だった。
「わわっ」
いきなりの事になゆきさんはすこし驚いているようだった。
「うぇへへへへへ・・・・・・なゆきたんの胸・・・・ヒック!・・・フカフカ〜」
そう言って僕と同様、顔をスリスリと胸にこすりつける。
「ねこ〜、ねこ〜、かわいいよ〜」
なゆきさんもそれが嬉しかったのか、鼻を赤くしながらも背中の部分を撫でていた。
「名雪、それ以上さわるとアレルギーが酷くなるからやめなさいね」
あきこさんがなゆきさんに向かって注意した。
「あん?」
その声を聞いて、ジョニーの目が光った。
「あんたぁまさか・・・・・・・ウィッ!俺とにゃゆきたんの仲を・・・・・引き裂こうってのかえ!」
そう言うとなゆきさんの手から抜け出し、ジョニーは大きくジャンプした。
跳んで向かう先には・・・・・あきこさんがいた。
「だったら俺ナシじゃ生きられねぇような体にしてやんぜ!お義母さんよおぉぉぉぉ!!!」
そう叫びながらジョニーは上空からあきこさんとの距離を縮めていく・・・。
「全く、酒癖の悪いねこさんですね」
そう秋子さんが言った瞬間・・・・・・
ガコォォォォン!
「ぐほぇぇぇぇぇあ?!!」
鈍い音と共に、ジョニーが吹っ飛んでいた。
全く一瞬の出来事だったので、僕にはどうしてあんな鈍い音が出たのか、どうしてジョニーが吹っ飛んだのか分からなかった。
だけれど、秋子さんの持つ「ソレ」ですぐに分かってしまった。
「あ、秋子さん・・・・・・それって」
「100tハンマーですよ、祐一さん。殺し屋のパートナーやっている友達からお古をもらったんです」
「わー、お母さん顔が広いんだね・・・・・」
一方、ハンマーで吹っ飛んだ反動でカベに張り付いているジョニーは・・・・
「お義母さん・・・・・・顔に似合わず・・・・・・て、テクニシャンですぜ・・・・・・グフッ」
そう言って完全に伸びてしまった。
・・・・・・・・・クルシミマス・・・・・なんと恐ろしい行事なんだ・・・・・・
続く
11日目ヘ続く
あとがき
・前回あとがきの「少し暴れます」の部分ですが・・・・・・・
撤回ということで(どーん)
もはやフツーに暴れまわっています。空回りしてます。胸をモミモm(ガスッ
一応オチはつけたつもりですけど、それでもこの暴れっぷりはトンデモネェですね(苦笑
ちなみに今回最後の「秋子さんのハンマー攻撃」は「シティーハンター」からです。
そう、最強の殺し屋がパンツ一丁で「もっこりパワー全開!」とか言ってるアレです。(笑
私はこのアニメが大好きで、いつかネタとして出してみたいと思っていましたが、上手くオチとして決まりましたでしょうか?
自分から言えば今回は勢いだけの作品となってしまいました。すいません・・・・・。
今年のぴろ式はもしかしたらこれで終わりになるかもしれません。
暇だったら11日目を年内に書くかもしれませんが、大掃除や餅つきとかあって相当マズいんですよ・・・・(汗
たぶん来年になると思いますが、次回の11日目でお会いしましょう。
みなさん、メリークリスマス!&良いお年を!
私は一人でメリークルシミマス!(涙
トップへ 戻る