9日目




<んな〜月んな〜日>



 僕は変なハチマキを頭に巻いてたいやき屋突入の時を待っていた。
 そのハチマキというのは、人間の言葉で「なめんなよ」と書いてあるものだ。

・・・・・・一体何の意味なのか、全く分からないけれど・・・・・・

 僕の他にも、ジョニーやブリッツ、そして他にも3匹ほどお供がいた。
 名前を聞き忘れたから、右から猫A、猫B、猫Cと付けておこう。

「この茂みを抜けたら、たいやき屋の裏入り口ですぜ」
「よし、おめーら、家族に言い残す事はないよな?」
 ジョニーが皆にそういいかけると・・・

「俺っち・・・・結婚してないッス・・・・」と、猫A
「オラも上に同じく・・・・」と、猫B
「上に同じく、で、あります!」と、猫C

 ちなみに、僕も結婚なんかしていない。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



・・・・なんだか冷めた空気が流れた気がする。

「・・・・・・と、とにかくだなぁ!ココから先は危険がイッパイだからよ、死ぬ気でかかれ!」

 言葉を変えて士気を高めようとするジョニー。マンガに出てくるような汗がダラダラと流れている。


 茂みを抜けると、灰色の壁が目の前に現れた。たぶん、たいやき屋の一部だろう。

「裏口はここですぜ」

 先導をブリッツがとって、裏口を前足で示した。
 入り口にはドアが無く、周りにはいろいろな看板が置かれてあった。

『動物の持ち入り禁止(特に猫)』
『入るな危険』
『あゆちゃんも入っちゃだめ!』
『恐ろしいアトラクションが君を待ち受ける!』
『セールスお断り』
『こども110番の家』

「恐ろしいアトラクションが・・・・って、なんだか面白そうだなぁ」
「へっ、いい度胸じゃねぇかぴろ公」
 そう言ってジョニーが僕の頭を肉球でもみもみと撫でた。

 ほかの皆も「こりゃおもしろそうだ」「左に同じく、で、あります!」とか言って、全く恐れていないようだった。

「兄貴、善は急げってやつですぜ。早く突入しましょう」

 ブリッツの一言で、「たいやき奪って、なゆきたんに進呈しましょう」作戦が始まった。(作戦名をつけたのはジョニーだったりする)








 中に入ると外の晴天に比べて、かなり薄暗い印象を受けた。
 僕たちは縦一列になってしのび足で歩いていた。
 僕もこうなってはボケ〜っとしていられない。全ての神経を張り巡らして、トラップを作動させないように気をつけなければならない。
 もし罠に引っかかったとしても持ち前の奥義、「地球にやさしいネコパンチ」でなんとかなるだろう。
 床下にトラップがあるかもしれない。とにかく音を立てないように・・・・


『・・・・・・・カチッ!』




「あれ・・・・今カチッって・・・・」

 ジョニーがそう言うと、突然ソレが起こった!


バリバリバリバリバチバチバチバチィ!!!!!

「あへあへあへあへあへあへあへ〜〜〜!!!!」

「ハハハハハハハンブラビ〜〜〜!!!!」


変な悲鳴が僕の後ろから聞こえた。
そして、こげ臭い匂いが周りを包んでいく・・・・

「ううっ・・・・・・不覚、で、あります・・・・・」
「上に同じくッス・・・・・・」

 どうやら攻撃を受けたのは猫Cと猫Aらしい。
 毛が真っ黒に焦げて、実に見事な黒猫になってしまった。
 どうやら高圧の電撃を喰らったらしく、まだ毛の辺りにはバチバチと黄色い火花が飛んでいる。


「相当なケガみたいだから帰った方がいいんじゃ・・・・」
「・・・・・・・ここから撤退するッス・・・・」
「私も、で、あります・・・・・・」

 入ってたった2分で2匹脱落してしまった。









「くそっ、あのおやじ、猫相手に高圧電流はねぇだろうが!」

 薄暗い通路をコソコソと歩きながらジョニーが言った。

「もうちょっと猫にやさしいトラップとか作ってくんねぇかなぁ・・・・」
「いや、それはもうトラップなんかじゃないとおもうよ」
「ぴろ公・・・・・少しは肯定する事を覚えてくれよ・・・・・」

 そう言って歩いていると・・・・・・・


『・・・・カチッ・・・・』




 嗚呼・・・・・聞きたくなかったイヤな音・・・・・・・


 その音が聞こえて、みんなの顔色がどんどん青ざめていった。
 そして何が来るのかと身構えた3秒後には・・・・・


ザッパーーーーーン!!


 上から大量の水が降ってきた。


ズザザザザーーーーー!!


 上から大量の砂のような粉が降ってきた。


 そしてその粉が水のせいで僕たちの体にまんべんなく張り付く。

「ゲホッ、ゲホッ・・・・・すまねぇ・・・・変なスイッチ踏んじまったのは俺だ・・・・・・」
「兄貴・・・・・情けねぇですぜ・・・・・ゴホッ!」
「口の中さいっぱい入っただよ・・・・・」

 次々に不満を訴えるブリッツと猫B。
 これ以上責めるとかわいそうだから、フォローでもしておくかな。

 「まぁ仕方がないよ。いつものことなんだし」
 「ぴろ公・・・・・それで慰めてるつもりなのか・・・・・?」

 ん?フォローになってなかったって?メンゴメンゴ。
 心の中で一昔前の誤りをしていると、またこの空間に異変が起きた。


バサバサバサバサバサ・・・・・・


「何だろう・・・・・何かが羽ばたいている音が聞こえる」
「こ、今度はなんだぁ?」


バサバサバサバサバサ・・・・・


「兄貴、こりゃ危険な匂いがしますぜ・・・・・」
「オラもそう思うだ・・・・・・」


バサバサバサバサバサ・・・・・・


「向こう見て!何かが近づいてくる!」
「な、なんだありゃあ?」


バサバサバサバサバサバサバサバサバサ!!!


「うわああああああっ!!!!ハトの大群だ!!」

 僕がビックリしてそう叫ぶと、向こうから突っ込んできたハトの群れが僕たちに襲いかかった!

チクチクチクチクチクチクチク!

「いてててててててててて!なにしやがんだコノヤロウ!」
「お、オラはおいしくないだよ〜!あいたたたたっ!」
「ついばむんじゃねぇ!いてっ、許してってば!」
「いたいってば!やめてよ〜〜〜〜〜!」

 集団でくちばしにつつかれまくるという地獄を数分体験した後、ハトの群れはそのまま通り過ぎていった。
 どうやら水の後にかぶった粉は、ハトのエサだったようだ。
 被害にあった僕たちは、つつかれたせいで毛がズタズタにされ、しかもついでと言わんばかりにフンも落とされてしまった。

「あのおやじ・・・・・・・・もはや人間じゃねぇ・・・・・」
「血は何色なんだろうね・・・・・」

 やはり経験が多いからなのだろうか、僕たちはこのダメージからすぐに立ち直る事ができた。

けれど・・・・・・

「オ、オラもうだめだ・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 うつぶせになって倒れている猫Bはまだ喋れる余裕があるようだけれど、ブリッツに関しては完全に再起不能となっている。

「おめーらもここらへんが限界みたいだな。ブリッツを背負って引き返してろ」
「ジョニーとぴろさどうすっぺ?」

 むくっと起き上がって、猫Bは方言の入った質問を投げかける。

「僕たちはまだ余裕があるから進むよ」
「俺たちはこんなのには馴れっこってもんでぇ。それに、ちゃんとたいやき奪って猫の底力ってモンを人間のヤローどもにみせつけてやるぜ」
「おっ、ジョニーたまにはいいこと言うね」
「おいおいぴろ公、俺はもとからこういうキャラじゃねぇか」

 そういうキャラだったっけ?うーん・・・・・・・・・

「じゃ、オラたちは帰るべ。おめーさんたちも十分気ィつけてな」
「君も帰るまでの道のトラップに気をつけてね」

 失神したブリッツを背中に乗せ、猫Bはゆっくりと戻っていった。


「で、結局生き残るのは俺たちか・・・・・・」
「いつものパターンだね・・・・・・」











 その後もたくさんのトラップに襲われる事になった。
 天井から金ダライがシャレにならないぐらいに降ってきたり、狭い通路を歩いていると後ろから巨大な丸い岩が転がって潰されそうになったり、四方八方からロケットパンチが飛んできてボコボコにされたり・・・・・・

そして・・・・・

「やっと着いたな・・・・・」

 お尻の部分を襲ってきた電動カミソリによって丸裸にされ、顔中ボコボコになったジョニーが言った。

「全く・・・・・・疲れたもんだ・・・・・」

 僕も相当なダメージを負っていた。
 目の前には「調理兼販売部屋」というプレートが。
 入り口の通路には無数の赤い線が見えていた。

「この赤い線はなんかありそうだね。触れちゃ駄目だよ」
「ンなもんわかってるってもんでぇ」

 そう言って猫1匹が何とか通り抜けれるような隙間を見つけてゆっくりと、慎重に僕たちはすり抜けていった。



「(ぴろ公、あれ見ろよ)」
「(ん?)」

 物陰から隠れて小声で話しているジョニーが前足で指した方向を見る。

「いやー、あゆちゃんももうすっかり髪がのびたんだね」
「うぐぅ・・・・・ボクもう床屋さんなんか行かないんだもん・・・・」
「でも、祐一君は短い髪に帽子をかぶったあゆちゃんの方が好きだったんじゃないのかな?」
「そ、そんなことはないよ!だって・・・・いっぱい笑われたし・・・・」

 そこにはたいやき屋のおやじと羽つきかばんをつけた女の子が話をしているのが見えた。

「(ラッキーだな。あのおやじ、今のところ後ろのガードが甘いぜ。タイヤキ取るなら今のうちだ)」
「(じゃあ・・・・・そろそろ突入していいのかな?)」

 ジョニーは何も答えずに、コクッと頭を上下した。
 そして僕たちはおやじの隣に置いてあるタイヤキにゆっくりと忍び寄った。

「ふむ・・・・・あゆちゃんは祐一君のことは嫌いなの?」

 気づかれないように気配を消して・・・・

「えっ!?・・・・・・・そ、それは・・・・・・・」

 目標物まであと50センチ・・・・・・・・

「うぐぅ・・・・・・・おじさんの関わる問題じゃないよぉ・・・・」

あと20センチ・・・・・・・・

「ははは、ごめんごめん、お詫びにたいやき1個奢るからさ」

 10センチ・・・・・・・・・・・・・って、え!?

たいやきを奢る→たいやきを取り出すためにこっちを向く→見つかる→GAME OVER

・・・・・・・・・・・まずい!

「(ジョニー!)」
「(わかってる!)」

 僕たちは最小限の声で会話を交わしたあと、すぐさまおやじの死角になると思える物陰に隠れた。
 そのあとでおやじは僕たちが2秒前までいたところに目線を落とし、たいやきを1つ取りあげた。

「おじさん、ありがとう!」
「どういたしまして」

 あと2秒遅れていたら・・・・・・・きっと恐ろしい事になっていただろう。

「(ふい〜、あぶねぇあぶねぇ)」
「(間一髪だったよ、ホント・・・・)」

 僕たちはハァ〜、と大きく深呼吸してもう一度調子を整えた。

「(次こそは・・・・・)」

 おやじの動きに注意を払いつつ、ゆっくりと焼きたてのたいやきとの距離を詰めていった。

「(あと少し・・・・・あと少し・・・・・・)」

パクッ

 ついに僕はたいやきを奪取することができた!
 そして後ろにいたジョニーもたいやきをひとつ口にくわえる。

「(よしっ、ズラかるぞ!)」
「(うんっ)」

 そそくさとこの部屋から出ようとしたところで、なぜかジョニーの足が止まった。

「(どうしたの?そんなところで止まってるといずれ見つかるって!)」

 そう言って注意を促したけれど、それでもジョニーは動こうとしない。
 ジョニーの顔を見る。なんだか正常な時では考えられないような顔をしていた。
 顔をクシャとして、口がヒクヒクを震えている。
 間違いない・・・・・・・・このモーションは・・・・・・・


「ふぇ・・・・・・・ふぇ・・・・・・・・」
「(ジョニー・・・!それはだめだ・・・・・!)」




「フェーーッッックショイ!!!」


 大音量とともに、ジョニーのクシャミが爆発した。
 その衝撃で口にくわえていたタイヤキが離れ、宙を舞う。
 そしてタイヤキは無念にも入り口に張り巡らされていた赤い線に触れてしまった・・・・・・・


『ビー!ビー!ビー!ビー!ビー!』
『Find the ENEMY! I need help!』
『了解、発見次第直ちに排除せよ。繰り返す・・・・・』
『弾幕薄いぞ!何やってんの!』



 警告音に英語に某木馬戦艦の某艦長のボイスに・・・・・
 いろいろな音が部屋中に響き渡った。


「何ィ!?」

 おやじが目を光らせて後ろを振り向く。
 僕たちと目が合ってしまった!


「やべぇ!早く逃げるんだぴろ公!」
「う、うん!」

 僕たちは一目散にこのフロアから逃げ出そうとした。

けれど・・・・・・


「逃がしはせんよ!」

ガラガラガラガラ・・・・ピシャーン!!



 おやじの声と共に入り口の部分からシャッターが下りてきて、僕たちの逃げ道を塞いでしまった。

「くそっ、こんなのありかよ!!」
「頼むから開いてよ〜!」

 ドンドンドンとシャッターを前足で叩くけど、全くビクともしない。

「貴様ら・・・・・・・よくここまでたどり着いたもんだな・・・・・・・」

 その声で後ろを振り向くと、おやじがじりじりと近づいてきた。

「ここまで来た事はほめてやろう。だがな・・・・・・・・・」

 紫色の負のオーラを放ちながら、僕たちをゆっくりと部屋の隅に追い詰めていく。

「人の商売道具に手ぇ出すとはいい度胸じゃねぇか・・・・・・・!」


カッ!


 おやじが目をガバッと見開いた瞬間、僕たちはもう身動きを取れなかった。

「うっ・・・・・・・」
「あ・・・あ・・・あ・・・・・・・」

 そして背中に手を伸ばし、そこからスルスルと布団たたきの棒を取り出した。











「君たちには、地獄以上の恐怖というのを味わってもらうよ」

「ヒイイイィィィィィィィィ!!!!」
「いやあああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」















 薄れゆく意識の中で、僕は見てしまった。
 羽つきカバンを持った女の子が身を乗り出してカウンターにあるたいやきを全て手にとって、そして逃げていったところを・・・・・・



 続く     

                                   10日目ヘ続く



あとがき


・ガッコのレポート+その疲れによるカゼによって9日目を作成するまでにとても時間がかかってしまいました。まことに申し訳ありません(滝汗
 今回のネタは、レポート書いてる途中にパッと思いついたネタを思いっきり書いてみました。
 もちろん、ぴろとジョニーには痛い目にあってもらいます(笑
 そして他の猫とか出て、Kanonキャラは最後の方しか出てなくて、サイドストーリーというよりかなりオリジナルなものになってしまいましたが、そこもどうか許してください(苦笑
 ちなみにおやじの最後の赤いセリフはドラ○ンボールZに登場するフ○ーザのセリフだったりします。
 それでは10日目でお会いいたしましょう。次回はぴろたちが『少し』暴れます(笑




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