7日目




<んな〜月にゃ〜日>



 今日で4連休の最後の日だ。
 というわけで、今日も僕たちは毛玉君の飼い主探しを行った。
 メンバーは僕と毛玉君、まことさん、エロオヤジだ。

「けど一体どうやってこんなにひとなつっこい犬が飼い主とはぐれてしまうんだろうな?」
「う〜ん、捨てられたとかじゃないのかな?」

 毛玉君について話をしている二人。
 けれど、僕は毛玉君のような人を魅了する力がある犬を捨てる事は無いと思う。
 きっと不慮の事故ではぐれてしまったんじゃないのかな?


 そんな事を考えていると、道の向こう側から3人の人影が見えた。
 一人は灰色の髪をしていて、黒い服と目つきが鋭いのが特徴的な男だった。
 もう一人は髪の長くて、「通天閣」と書かれてある服を着ている女性だった。
 最後の一人は3人の中で一番背が低くて、ショートヘアで右手に黄色い布を巻いている女の子だった。

一番背の低い女の子は泣いていた。

 会話は聞き取れなかったけれど、何か大事なものをなくしたようだった。
 毛玉君もその3人に目をやる。

すると・・・

「ぴこっ?!」

 その3人に毛玉君が反応した。

「ぴこぴこ〜〜〜〜!!」

 そして猛ダッシュでその人たちに駆け寄る。

「うおっ、犬がいきなり走り出したぞ!?」
「ちょっと、どこへ行くのよ〜!」

 いきなりの毛玉君の反応に、まことさんとゆういちはただびっくりするしかなかった。

 毛玉君は無我夢中で前にいる3人に向かって走っていた。
 そしてその姿を見た一番背の低い女の子も、毛玉君へ駆け寄る。

「ポテト・・・・・ポテトーーー!」
「ぴこぴこ〜〜!」

 女の子が声を発すると、毛玉君は思いっきりジャンプしてその胸に飛び込んだ。
 彼女もそれを受け止めるように胸の中で抱きしめた。

「ポテト・・・・・・ぐすっ・・・・とっても心配したんだよ〜!」

 抱きしめながら女の子は泣いていた。
 間違いない、彼女が毛玉君の飼い主だ。
 僕たちも彼女の元へと走っていく。

「あなたがこの犬の飼い主ですか?」
「うんっ・・・・・ポテトの飼い主は・・・私だよ」

 泣きながら彼女はゆういちの問いに答えた。


へぇ、毛玉君の本名はポテトっていうんだ・・・・・・

・・・・・・いい名前じゃないか。


「君たちがポテトを保護していてくれたのか?」

 向こうからやってきたロングヘアの女性が僕たちに尋ねた。

「は、はぁ・・・・・そういうことですね」

 ゆういちがすこし戸惑いながら答える。

「家はどこなんだ?家の主に礼を言いたい」

 今度は眼光の鋭い男が尋ねてきた。

「祐一、案内してもいいよね?」
「まぁ、いいんじゃないのか?」
「わかった。ちょっとついて来て!」

 僕たちの家の方を指差しながら、まことさんは小走りで走っていった。





 いつものように玄関から戻ってリビングへ行き、僕たちは夕食の支度をしているあきこさんとなゆきさんに玄関で立ち止まっている3人についての事情を話す。

「えっ?犬さんの飼い主が見つかったの!?」
「あらあら、よかったじゃない」

 驚くなゆきさんと、心から安心するあきこさん。

「それでね、その飼い主さんたちが『どうしてもお礼を言いたいんだ』って。だから玄関のところまで呼んできたよ」
「それなら私たちも玄関に行きましょうか」
「うんっ」

 二人は包丁の動きを止め、そして手を洗うと、玄関のほうへと歩いていった。


 僕たちが玄関へ行くと、まずはじめにお礼の言葉が飛んできた。

「ここで話すのも疲れるでしょうし、とりあえずリビングに上がってください」

 そう言ってあきこさんは3人をもてなした。
 みんなをテーブルのイスに座らせた後、なゆきさんとあきこさんはキッチンへ戻ってコーヒーを沸かす。

「ねーねー、名前は何ていうの?」

 まことさんが彼女たちにたずねた。

「私は佳乃っていうの。霧島佳乃。『かのりん』って呼んでもいいんだよぉ」
「かのりん・・・・か。なかなか呼びやすいな」

 そう言ってゆういちが笑った。
 今度は目つきの悪い男が自己紹介をする。

「俺の名前は国崎往人。こう見えても昔は日本中を旅して回っていた者だ」
「でも今は霧島診断所のお手伝い隊長2号なんだよ〜」


お手伝い隊長・・・・・・?


「佳乃、その呼び方はカッコ悪いからやめてくれ」
「1号はポテトなんだよ〜」
「人の話を聞けっ!」
 わざわざ右手を鋭くして『ビシッ!』って感じで突っ込みを入れる。
 見ていてなんだかコントみたいでおもしろかった。


 今度は通天閣お姉さんが自己紹介を始めた。

「私の名前は霧島聖。佳乃の姉だ。今は霧島診断所の主治医を務めていて、ウッハウハのぼろ儲け中だ」
「よくそんな嘘がつけたもんだ」

 ゆきとがまた突っ込みを入れる。
 するとひじりさんは胸ポケットからメスを取り出して、ゆきとにちらつかせた。

「君は冗談というものを知らないのか・・・?」
「さっすが聖姐さん。ジャパニーズジョークのプロフェッショナルやないですかっ」

 脂汗をびっしりと顔に浮かべながら、すかさず言葉を訂正するゆきと。

 どうやらゆきとのご主人様はひじりさんらしい。
 人間にも上下関係があることを僕は初めて学んだ。




 次第にみんな打ち解けていくなかで、ポテトがはぐれた理由についての話も上がっていた。
 4日前に3人と1匹は旅行でこの町にやってきたらしい。
 それで、かのりんはポテトを抱きながら歩道橋から下を眺めていた。
 その時、ぼ〜っとしていたかのりんは抱いていたポテトを歩道橋から落としてしまったらしい。
 落下したポテトはそのまま走行中のトラックの荷台に落ちて遠くへ連れ去られてしまったのだった。


・・・・・・・・待てよ?ポテトは僕と同じ運命をたどっていたのか?


「それでね、私たちこの4日間一生懸命探したんだよ〜」

 かのりんがにこにこしながら話した。

「まったく・・・・おかげで楽しい旅行がパァじゃないか・・・・」
「いいじゃないか、家族の絆が深まったというものだ」
「ま、そういわれてみればそうだな」




その後も話が続いて・・・・・・




 夕方。

 ついにポテトたちとお別れすることになってしまった。

「かのちゃん、またいつでも遊びに来てね。私たち、歓迎してるよ」 「今度来たらマンガ本いっしょに読もうね!」 「うん、またあえるといいね〜」

 笑いながら言葉を交わす3人の女の子。
 けれど僕はその姿がどこか寂しげに感じた。

「よし、居候同士、お互いの幸運を誓って握手で締めくくるか」
「それいいっスね、往人さん」

こちらでは漢同士の暑苦しい友情が生まれようとしていた。

「本当に4日間ポテトを扱っていただき、ありがとうございます」
「あらあら、いいのですよ。ポテトちゃんがいる間は家がにぎやかでしたから、かえって楽しかったです」

そう言ってどちらからとなくクスッと笑う女性が二人。



僕もポテトにお別れを言わなければならない。
たった4日間だけだったけれど、それでもいろんな思い出があった。
犬と仲良くなった猫、たしかに常識的にはおかしい事かもしれない。
けれども仲良くなるなら全く関係ないことだと、改めて僕は確信した。

「ぴこ〜・・・・・」

ポテトも悲しく鳴いていた。
そして彼は背中から何かを取り出した。

 それは1本の骨。

 そしてそれを口でくわえると、僕の目の前にポトリ、と落とした。

「ぴこぴこっ」

 この骨は彼なりのプレゼントなのだろうか。
 しっぽを振りながら僕に何かを伝える。
 何を言っているのかは分らないけれどきっと彼はこう言っているにちがいない。



『ありがとう』







 真っ赤な夕焼けの中、僕たちの家の前に一台のタクシーが止まる。
 3人と1匹はそれに乗り込んだ。
 窓のところから黄色い布をつけた右手を振る女の子。
 ポテトも窓から顔を出して僕たちのほうをじっと見ていた。
 やがてタクシーは動き始める。
 真っ赤な夕日に向かって、どんどん小さくなっていく。
 とてもまぶしかったけれど、僕はそのタクシーが視界から消えるまで見続けていた。

 もう一度僕は彼と出会えることはあるのだろうか?
 一緒にいろんなところを歩く事ができるだろうか?
 運がよければまた一緒にあそべるかもしれない。運が悪ければもう2度と会えないだろう。
 どっちになるかは僕には分らない。
 けれど、この4日間の出来事だけは、絶対に僕は頭の中から消え去ったりなんかしないだろう。

 犬である親友との記憶だから。


 続く     

                                   8日目ヘ続く



あとがき


・はいっ、というわけで今回はぴろ式初のシリアス路線を走ってみました。
 この7日目には「一期一会」という言葉がぴったりな感じがします。
 けれども今回もやはりワンパターンというか、感動が薄いというか・・・・・
 なんだかうすっぺらい小説になってしまいましたな(汗
 というわけで、次回からまたギャグへと路線を戻す予定です。

⇒NEXT MAIN CHARACTER
「うぐぅ」な少女
名雪たんハァハァな猫
たいやき屋のオヤヂ

 それでは次回作で会いましょう。
 アディオス・ガンバリッシュ!



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