6日目




<んな〜月だお〜日>



 今日も朝の寝起きはバッチリだった。
・・・・・というよりまことさんが毎日のように上にのしかかってくるせいでバッチリ目覚めるのだけれども・・・・

「ぴこぴこっ!」
「おはよー、毛玉君」

 ベッドの下にはすでに起きている毛玉君がいた。
 その白い体を見ると、バッチリだった目もどんどん閉じていってしまう。

「・・・・・・・・・・おやすみ」

 そう言ってまたベッドに横たわると・・・・・


・・・・・・・・ぐ〜っ・・・・・

 朝っぱらから腹の虫。
 仕方が無いので起き上がって毛玉君と一緒に朝食を取りに行った。






「おはようございます」
「んにゅ〜、おはようだぉ〜・・・・・」
「よぉ、よく寝れたか?」

 階段を下りると、あきこさん、なゆきさん、ゆういちが朝食を取っていた。

「ぴこ〜」
「おはよ〜」

 適当に挨拶をして僕たちの朝食を食べようと、容器の置いてあるところまで移動する。
 いつもなら容器いっぱいに僕用のキャットフードと毛玉君のドッグフードが置いてあるのだけれど、今日に関してはその中には何も入っていなかった。

「ぴろちゃん、わんちゃん、ごめんなさい・・・・・・。あなたたちの食事が切れてしまったみたいなんです・・・」
と、あきこさん。

「そんなぁ〜・・・・・」
「ぴこ〜・・・・・・」

 不平不満を言う僕たち。すると・・・

「それならジャムでも食べますか?」



「やったー!」
「ぴこ〜!」

 あきこさんのその言葉に僕たちは喜んだ。
 人間が食べる『ぢゃむ』というものを食べれる機会が与えられたからだ。
 けれども他の二人の反応がなんだか変だ。


「ごちそうさま」
「ごちそうさま」

 食べるのを中断して、そそくさと玄関を出るなゆきさんとゆういち。
 二人とも何かにおびえるような表情だった。


「はい、どうぞ」

 そう言って二つのお皿の上に『ぢゃむ』なるものをスプーンで入れた。
 オレンジ色で、少し透き通ったみたいでなかなかきれいだ。

「虫歯にならないように、甘くないものにしてみました」

 そんなことはハッキリ言ってどうでもよかった。
 ただ、腹に溜まるものがあればそれでいい。

「ぴっこぴこ〜」
「いっただきま〜す」

 そう言って毛玉君と同時にそれに口をつけた。





・・・・・・・・・・・・・確かに甘くはない。

けれどなんだろう・・・・この不思議な不快感は・・・・・・?

 結局僕たちも食卓からダッシュで逃げるハメになった。







ぐ〜っ・・・・

 僕と毛玉君はお腹が減っていた。
 さすがに朝食が不思議な味のする『ぢゃむ』少々だけじゃ体力が持たない。

「お腹・・・空いたね・・・・」
「ぴっこり・・・・・」

 結局僕たちは噴水のある公園の草の上で寝転んでしまった。
 お腹が減ると本当に動けなくなるんだなー・・・・・・・。
 どこかに食べ物が落ちていたりしていたりしたら嬉しいんだけれど、そんな話は現実で・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・起こってしまった。

「佐祐理・・・しろくまさんとねこさん・・・・・」
「はぇ〜、珍しい組み合わせですねぇ」

 そういいながら僕たちの前にいたのは二人の女の子だった。
 どうやら毛玉君を白くまと間違えているらしい。


 一人は紫のリボンをつけた目つきの怖い人。
 もう一人は緑のリボンをつけたやさしそうな人。

「あ、でも猫の隣にいるのは白くまじゃないですよ〜」
「・・・・・・私はしろくまさんっていうことで・・・・・・・・」

 どうやら緑のリボンをつけた人の名前は『さゆり』というらしい。
 紫のリボンをつけた人の名前は未だ分らないのでを『マグロ』って勝手に名づけておこう。

「なんだか二匹とも元気ないみたいですね」

 さゆりさんがしゃがんで草の上でのびている僕たちを見る。

「・・・・・これ・・・・・」

 そう言って隣にいるマグロさんが箱の中から何かを取り出した。

「あはは〜、舞はやさしいんですねぇ。それなら私も・・・・」


 なるほど、マグロさんの本当の名前は『まい』のようだ。

 さゆりさんもカバンから箱を出して、まいさんと同じものを出す。

 それは握ってあるご飯の上に油揚げが乗った、いわゆる「おいなりさん」というものだった。

 二人は僕たちに1個ずつおいなりさんをもらった。

「おおっ、これはどうもどうも!」
「ぴこぴこー!」

 そして夢中でそれを食べた。
 たった一つだけだったけれど、それでも満足感でお腹いっぱい。

「私たちも食べましょうか」
「うん・・・・・・わかった」

 そう言って僕たちの隣に座って、二人もお昼を食べ始めた。


すると・・・・・・

「ぴこぴこっ」

 毛玉君が二人の前の方へ移動しはじめた。

「おい、毛玉君・・・・・何をするんだい?」

 けれども僕のいう言葉に反応せず、毛玉君は二人の前に立ちはだかった。

「ぴこぴこっ!」

「しろくまさん・・・・・・・・・・・?」
「もう1つおいなりさんが欲しいのですか?」

 そう言ってさゆりさんが毛玉君においなりさんを渡そうと、右手でおいなりさんをつまんだ時に毛玉君が行為に移った。


「ぴこっ」

 なんと後ろ足二本で立ち上がり

「ぴこぴこっ!」

 前足二本を両腰に当てて

「ぴっこ・・・ぴっこ・・・・」

 腰を前後に揺らす・・・・・・・・・・・・・



こ、これは・・・・・・・・・・・・・・・

 どうやら毛玉君による『感謝の意を表する踊り』のようだ。
 毛玉君はきっとその気持ちがあふれているのだろう。しかし・・・・・・・・・


ハッキリ言って・・・・・・・・・・


かなり微妙だ・・・・・・・・・・


   ジョニーに見せたらどう言うだろう?

『バーロー!あんじゃいそのナンセンスな踊りは?!んなもんでなゆきたんの心を釘付けにすることはできんぞ!!』

 きっとこう言うに違いない。マタタビ1年分賭けてやってもいいかな。

 もしこの場面をテレビ番組かなんかで生中継してたりしていたら、ほぼ全ての人がチャンネルを変えてしまうに違いない。
 ましてや今は昼食の時間・・・・・・そんな時間に2人の『れいでぃー』に向かってハレンチな動きは良くないんじゃないのかな、毛玉君?

「あははー、腰の振りがおもしろいですねー」
「・・・・・・・・・・・・・・・・らぶりーくまさん・・・・・・・・・(ぽっ)」





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・っ!!?

 う、ウケてるの?!
 おかしいぞ、絶対におかしい!普通の人なら・・・・・・・・・・・

・・・・・・・あ、そっか、この人たちも普通じゃないんだな。

 ちょっとクセのある人たちと知り合いまくるとは・・・・・僕は運がいいのか悪いのか・・・・・?




「・・・・・・・・・・しろよりも・・・・・ちゃいろ・・・・・・」

 毛玉君の踊りを見ながらまいさんがポツリと言った。

ゴソゴソ・・・・・・

 そして次にカバンの中をまさぐる。
 中から出てきたのはスプレー缶だった。

「・・・・・しろくまさん・・・・ちゃいろにする・・・・・・・・・・・・」

 そう言って立ち上がると、ゆっくり毛玉君のほうへと歩いていった。

「ぴ、ぴこ・・・・・・・?」

 何かを察知した毛玉君は踊りを一時中断した。
 右手にスプレー缶を持った目つきの怖い女の子が毛玉君を見下ろしいるのだ。怖くないわけがない。
 で、結局毛玉君はその恐怖に耐え切れなかったようで・・・・・・

「ぴこ〜!!」

 彼はその場から逃げる。もとい、僕も毛玉君の立場なら一目散に逃げるだろう。
『ぼーっ』としたイメージをもつ毛玉君、でも逃げ足は並みの犬以上の速さだった。

「・・・・・・逃がさない・・・・!」

 そう言ってまいさんも後を追う。女の子なのにかなりの敏捷性だ。
 まいさんはスプレー缶をポケットにしまって、なぜか剣を右手に持っていたため、僕でも止めることができない。
 というわけで、さゆりさんと一緒にここから二人のおいかけっこを観戦する事にした。

「あはは〜、まるでトムとジェリーを見ているみたいですね〜」
と、さゆりさん。

 そういえばテレビでそういうのが昨日あったっけな。




「ぴこ〜!」

 まず毛玉君が逃げ出したのは公園の中で一番木が多く生えているところ。
 人間が通る事のできないぐらいの木と木の間をすり抜けるようにして逃げていく。
 これならまいさんは遠回りしなければならなく、差が開けるだろう、と僕は思った。

しかし・・・・・

「・・・・・・・邪魔・・・・・」

 そう言って剣を振り回して目の前に立つ木をバラバラに斬ってしまった。
 残った切りかぶ部分はジャンプで飛び越えていく。

「舞〜、それは自然破壊ですよ〜」
と、さゆりさん。

 そのセリフがこの状況においての的確なツッコミだったのかどうかは僕にはわからなかった。




 次に毛玉君が逃げたのはブランコ地帯だった。
 子供たちが複数のブランコに乗って遊んでいる真下をなるべくぶつからないように体勢を低くしながら毛玉君は全速力で走りぬける。
 後でやってきたまいさんもためらうことなくブランコのところへ突入する。
 どうやら彼女は目の前の障害をクリアしなければいけないという信念があるようだ。
 だがこのままではさすがにまずい。
 毛玉君の場合では背が低かったから大きく動くブランコの真下を通る事ができたけれど、まいさんぐらいの背の高さでは安全に通過する事ができない。きっとどれかのブランコと側面からぶつかってしまうだろう。

しかし・・・・・・

「・・・・・・・・・斬る・・・・」

 そう言ってマグロさんは子供を乗せて動いているブランコの鎖を剣で断ち斬ってしまった。
 乗っている子供たちはみんなブランコごと前や後ろへ吹っ飛んでいく。



「キャーーー!」

「うわぁぁーーーー!!」

「ママぁーーー!!!」

「んなぁぁぁーーー!!!!」



聞こえてくる子供たちの断末魔の叫び。
それには耳を貸さず、そのまま毛玉君を追いかけていく。

「舞〜、それは器物破損ですよ〜」
と、さゆりさん。

そんなことよりも子供の体を心配した方がいいんじゃないのかなぁ・・・・。




なおも逃げ続ける毛玉君ではあったが、ここで決定的なミスをすることになる。

ポロッ・・・・・・

 走っている毛玉君の白い毛の中から何か白い棒みたいなのが出てきて、それが地面に落ちた。
 どうやら毛玉君愛用の骨らしい。・・・・・・・・・・何の骨だか知らないけれど。

「ぴ、ぴこっ!」

 毛玉君は急ブレーキをかけてすぐに骨を取りにいった。
 そして骨をくわえると同時に追いついたまいさんが片手で毛玉君の首根っこをつまんだ。

「ぴこ?・・・・・・・・っ!!」

 逃げるべき相手に捕まってしまい、みるみると青ざめていく毛玉君。

「・・・・・・・くまさんカラーに・・・」

 そう言って毛玉君をつまんだまま草むらの奥へと身を隠した。
 そして毛玉君にとっては地獄であろうその時間が始まる。




『プシューーー』

「ぴこぴこぴこぴこぉーーー!!!」

「・・・・・・・・・暴れたら目に入る・・・・・・・」

『シューーー・・・・・』













「ぴろちゃん、わんちゃん、おかえりなさい」

 裏口から家に上がった僕と毛玉君に対し、あきこさんはわざわざ挨拶をしてくれた。

「きょうはごめんなさいね。お詫びにうんとおいしい料理を作ってあげますから・・・・・・・あら?」

 そして彼女も毛玉君の異変に気づく。

「ぴこ・・・・・・」

 2時間前までの雪のような白い毛ではなく、全身濃い茶色となった毛玉君。
 その外見はなんだか小熊のようだ。
 そんな彼に対してあきこさんは・・・・・・・・



「あら、イメチェンですか?」

・・・・・・違いますがな。










 夕食になって、お詫びという事であきこさんが僕たちに豪勢な料理を振るってくれた。

その食卓において・・・・

「うおっ、なんなんだそのカラーリングは!?」
「テディーベアみたいでかわいいよ〜」
「あぅ〜、私にも抱かせて〜〜!!」

 毛玉君の株は急上昇していた。
 このままマスコットキャラとしての立場を奪われたらどうしよう・・・・・?


 続く     

                                   7日目ヘ続く



あとがき


・はいっ、今回は謎ぢゃむと私の中での永遠のツートップ(謎)舞&佐祐理を起用です。
 謎ぢゃむの話は一度やってみたかったネタだったので、スイスイと筆が進みました。
 舞の場合は本編でも言葉少なめなので、セリフを考える時はとても苦しんでいたりしています。
 今考えると、この6日目が一番長い作品になりました。

・・・・・・といっても他の方々の作品から見れば、相当短い方みたいですが・・・・(汗

 そしてアクション性も初めて本腰入れてやってみたので、読みにくいところがあったらごめんなさい・・・・。
 次回は短くてシンプルなストーリーを作りたいと思います。
 それでは失礼いたします。



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