5日目




<んな〜月んの〜日>



 結局昨日は緊急で行われた家族会議で新たな居候、毛玉君を家に住ませる事にした。
・・・家族会議といってもあきこさんの秒速了承のせいで16秒で終わってしまうぐらいのものだけれど。

 この日は久しぶりにまことさんと散歩することになった。
・・・といってもただの散歩じゃなくて、毛玉君の飼い主探しだ。
 相変わらず彼は僕のご主人様、まことさんの頭の上にいた。

「モコモコ〜」  そういってニコニコしながらまことさんは頭上に乗っている毛玉君を手で優しくなでた。
 そういう僕はまことさんに踏んづけられないように気をつけて歩いている。

(この天と地ほどの差は一体何なんだろう?)
(もとはといえばあのいい匂いのする頭は僕の特等席だったのに。)
(それを奪うなんて、毛玉君ってかなり欲の深い犬だなぁ。)
(見てろよ・・・・ジョニーと手を組んでいつかバリカンでそのモコモコヘアーを・・・・・)

・・・と僕が頭の中で恐ろしい計画を立てていると、前を歩いていたまことさんの足が急に止まった。
 全く目線を気にせずに歩きながら考えにふけっていた僕はまことさんの足に思いっきりぶつかった。
 顔面にジャストミートしたので、一瞬脳が揺れるような感覚に襲われる。
 すると向こう側から声がした。

「あ、真琴さん、こんにちは〜」  やってきたのは短い髪が特徴的なまことさんぐらいの背の高さの女の子だ。
 この人は確か・・・・・しおりっていう人だ。
 時々僕たちの家に遊びに来るからすぐに名前が浮かんだ。

「栞さん、こんにちは。ちょっと聞きたいことがあるんだけど・・・・」
「聞きたいこと?」
「この子の飼い主を探してるの」

 そう言ってまことさんは頭の上を指した。

「・・・・・・・・・うわっ、ぴろちゃん増毛期間中なの?」

な、しおりさん・・・・・なんちゅうひどいことを・・・・・・。

「これはぴろじゃないよ〜。変な鳴き声をする犬なの」
「変な鳴き声?」


   しおりさんの頭に疑問符が付く。すると毛玉君が・・・

「ぴこぴこっ!」

そう言いながらまことさんの頭から地上に降りた。

「・・・・・・このわんちゃん、どっかでメスをちらつかせるようなアブないお医者さんから声の改造手術でも受けたのですか?」
「わたしも良くわからないけど、もしかしたら当たってるかも・・・・・」

 そういってまじまじと毛玉君を見るしおりさん。

「う〜ん、こんな奇妙な鳴き声する犬は見たこと無いですね・・・・・」
「ということはやっぱり飼い主も知らないの?」
「ごめんなさい・・・・・・」

 そう言ってしおりさんは少し頭を下にした。

「でも、いい事思いつきましたよ」

 すると今度はストールの中に両手を突っ込んで、何かを取り出そうとした。

「私がお尋ね書きを書いてあちこちに貼り付ければいいのですよ〜」

 出てきたのはスケッチブックと色鉛筆だった。

「あっ、それいいアイデアだね!」
「見る人が『あっ!』と驚くほどの似顔絵を作ってあげます!」







30分後・・・・・

「真琴さん、できましたよっ!」

 すこしハイテンションな声を上げてしおりさんはスケッチブックの上を動く手を止めた。

「デキはどうだったの?」
「はいっ、私の中で最高の作品ですよ!」
「そんなにすごい絵なんだ!わたしに見せて見せてっ!」

 まことさんがそう言うと、しおりさんは両手で丁寧そうにスケッチブックをまことさんに手渡した。
 そこまで自信があるとは・・・・。僕も見てみよっと。
 まことさんの頭の上から絵を見下ろした。



 緑色で彩色されたきれいな草原。青空の塗りもとてもきれいなような気がする。
 そして真ん中にいる得体の知れない白い塊がとても背景にマッチしていて・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ん?なんだろう、この白い塊?

 まさかこれが毛玉君なの??

・・・・・う〜ん、どうやらしおりさんは僕でも理解できないぐらいの感覚の持ち主みたいだ・・・・・・・・



「う、うんっ、とっても上手だよ!」

 そう言って笑うまことさん。けれどこの顔は嘘をついているに違いない。
 だってマンガに出てくるような脂汗をこめかみにびっしり浮かべているのだから・・・・
 きっとまことさんの頭にはこんな想いが浮かんでいるに違いない。


『しおりさんって犬を肉まんと間違えるほどに餓えてるのかなぁ・・・・・・・』





 結局まことさんはしおりさんに否定の言葉がかけれなかったみたいで、そのままコンビニで印刷を行う事になった。

「あう〜、こんな絵じゃあただの肉まんの宣伝広告なだけだよ〜・・・・」

 やっぱり僕の考えは当たっていた。
 でもこの絵ではさすがに誰もどんな犬なのか分らないだろうな、そう思いながらふとまことさんの顔をコピー機の上からのぞいてみると・・・・・

「ウフフフフ・・・・・・・・・真琴ちゃんいいこと思いついたもんね・・・・・」  何やら不適な笑みを浮かべているまことさん。
 よくない事が起こりそうな気がする・・・・・・。
 するとまことさんはしおりさんが書いた絵の下にあろう事かこんな文字を書き始めた。



ただいま水瀬家では肉まんが不足して大変みんなうえています。どうかみなさんあいの手を差し伸べてください。
住所・・・XX町OO区



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あのー、これって毛玉君のご主人探しのポスターだったよね?
 なんでこんな内容の文章が下にあるの???

「・・・・・・作戦開始」

 その謎のポスターをコピー機で印刷する事30枚。
 コンビニを出た後、30枚の「水瀬家飢餓救済ポスター」を町中のあちらこちらに貼り付ける。







3時間後・・・

「よし、そろそろ帰っていいかな」

 ものみの丘で昼寝していた僕たちは家に帰ることにした。
 家の近くに達すると、そこにはいままで見たことの無い奇妙な光景があった。
 なんだか知らないけれど、すごく長い人の列ができている。
 しかもその人たちの手には肉まんがあった。
 そしてその行列はなぜか僕たちの家の玄関まで続いている・・・・・。

「・・・・・・・・作戦成功」

 そうつぶやきながら裏口から家の中に入っていく僕たち。

「やったやった!これでわたしは肉まん食べ放題だよ!!」

 そういって家の中でバンザイするまことさん。

すると・・・・・・・・・・

「ほほぅ、それはよかったな・・・・・・・・・・」

 目の前のドアからゆういちが姿を現した。

「ゲゲッ!祐一・・・・!」

 みるみると顔が青ざめていくまことさん。

「町中に変なチラシ張りまくって、住民の皆さんから肉まんを巻き上げようとしていただろう・・・・・・・」

 そう言ってゆういちはまことさんに「水瀬家飢餓救済ポスター」を一枚見せつけた。

「ち、違うよ祐一っ!栞さんの絵が私をその気持ちにさせたんだよ?栞さんのせいだよ〜!」
「だまらっしゃい!今頃になって人のせいにするなど卑怯者のやることだ!」

うんうん、久しぶりに正論を言うじゃないか、ゆういち。

「お前みたいなイケナイ子には教育上不適切なおしおきをしてやるからな!ほらっ、二階に来い!」
「あう〜!祐一っ、それはいろんな意味でヒドイよぉ!!」

 そう言ってゆういちはまことさんの体を持ち上げながら二階へと連れて行った。




 その後は二階から何か悲鳴が聞こえた。
「あぅっ!」とか「あぅ〜!」とか「あうう・・・・」とか・・・・・
 よくあることだから僕はなんとも無いけどね。




「ぴこ〜・・・・・・」

 あ、怯えているのが一匹いた。

 続く     

                                   6日目ヘ続く



あとがき


・いや〜、真琴大暴走ですね。
 最初の方は書いてて自分でも「これはつまらんなぁ・・・・」とか思いましたが、突然いいアイデアが浮かんで、こんなオチが生まれました。
 今回はいままでのなかで一番コワレているかもしれません。ご了承ください(汗
 カノンは個性豊かなキャラクターがたくさんいるため、ネタも豊富に書けて面白いです。
 さ〜て、次は誰を起用しましょうかね?

 あとチャットで文章訂正を手伝ってくださった当サイト管理人のゆーとぴあイアウエオ企画さん、手伝っていただき本当にありがとうございます。

 それでは次回作で会いましょう。


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