前編






はじめに

・Kanonを持っている方はこのSSを読むときに、「凍土高原」又は「pure snows」を聞きながら読んでいただくと感情移入しやすいかと思います。









「……真琴の友達になってくれないか?」

 私はその言葉に怒りと悲しみを覚えた……。

「そんな酷な事はないでしょう…………、私はあの子の友達にはなりません。」

 私はそう言って、呆気にとられている相沢さんをそのままに立ち上がった。
 それを待っていたかのようにチャイムがなる。



 私は午後の授業には集中できなかった。
 あのときの相沢さんの言葉……。


「……真琴の友達になってくれないか?」


 あの言葉は昔の私と同じように悩んで考えて、やっとでた答えなのではないのだろうか……。
 あの子には友達が必要なのだ、と。


「天野!聞いているのか!?」

 気がつくと目の前に先生が立っていた。
 先生の言葉が耳に入っていなかったらしい……。

「……すいません。」
「この問題の答えを書けといっただろうが。」

 仕方なくいわれたとおり問題を解いて、黒板に書く。

「まぁいいだろう、座れ。授業は聞いておけよ。」

 私はそのあともずっと窓の外を見つめて過ごした…………。




キーンコーンカーンコーン

 チャイムが鳴った…。
 今日は1年生だけ五時間だからこれで終了だ。
 HRが終わり、私は帰路についた。
 あの子はもうすぐ消えてしまう……。
 あんな悲しい思いをするのはもういや……。私はもう関わりたくなかった。


 私は家についてから制服のままベッドに横になった。
 昔のことを思い出す。まだ楽しくて何も知らなかったあの頃を……。








 目の前に女の子がいる、6年前の私だ。
 女の子は山の中で一匹の狐と遊んでいる…。
 お腹を空かせていた狐に冷蔵庫からとってきたミルクを狐に与えている…。
 狐はそれを嬉しそうに飲んでいる…。
 それをうれしそうに見ている女の子…。


 私は学校から帰ると毎日この場所に来て遅くまで遊んだ。
 ダンボールで狐さんのおうちも作ってあげた。
 学校の友達にも親にも秘密だった。
 泥だらけになりながら山の中で、野原で、狐さんと遊んだ。
 とても楽しかった…。ずっとこの時間が続けばいいと思っていた…。


 家に帰らなきゃいけない時間になるといつも泣いた。
 帰りたくなくて……ずっと一緒にいたくて……。
 狐さんは私が泣いているといつも流れる涙をなめてなぐさめてくれた……。


 私は狐さんと一緒にいたくて家につれて帰ったこともあった。
 親に内緒で……ベッドで一緒に寝た日もあった。



 でも…………そんな楽しい時間も…引越しという親の都合によって終わりを告げた………。
 たった3,4キロほどの引越しだったが、子供の私にはどこか異世界にいくように感じられた。
 子供の私にとって、あの山にはもういける距離ではないのだから……。





 5年たって、私の記憶からあの山が消えかけたころ、私はまたこの町に戻ってきた。
 私は引っ越してから一度もこの町には来てはいなかった、楽しかったあのころとは町並みも変わっていた。
 私は小学校に足を運んだ。あれから何が変わったのか見ておきたかった。
 それに私の家は小学校からとても近かったから…というのが理由だった。



 小学校の門の前に一人の女の子が座っている、というより倒れていた。
 私はびっくりしてすぐに駆け寄った。
 オレンジ色の髪の少女は気を失っているらしく、反応がない。
 私は女の子を背負って自分の家に連れていった。
 本来なら病院に連れて行くべきなのだろうが、外傷がなかったので、自分の家で休ませてあげることにした。
 親は少し反対気味だったが気を失っている少女を見て了承してくれた。
 私は自分の部屋のベッドに少女を横たえて、しばらく本を読んでいた。


 2時間ぐらいして少女は目を覚ました。
 少女は私の顔をみるなり、私の名前を呼んで抱きついてきた。

「美汐!ずっと待ってた♪」

 ほとんど片言だったが少女は確かに私の名前を呼んだ。
 私は少女に見覚えはなかった。オレンジ色の髪をした少女………。
 いつかの狐さんのようなきれいなオレンジ色の髪……。


 その後わかったことは、その少女は何も覚えていないということだけだった。
 でも私の名前は知っていたことから、お母さんに友達ではないの?と聞かれたが私におぼえはなかった。


 少女は私の家に一時的に住むことになった。
 お母さんも了承してくれた。


ぴぴぴっぴぴぴっぴ

 夢が覚めていく………。目覚ましの音で私は目を覚ました。
 あれからそのまま眠ってしまったらしい。
 私は身支度を整えて重い気持ちで、学校へ向かった……。



 続く

                                   中編へ続く



                  
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