逮捕しちゃうよっ!!名雪&香里
第三報告書 「これで完璧?原付指導」
華音市にある緑欧工業高等学校。あまり評判はよろしくない男子校である。
そして、その高校の運動場に名雪と香里の二人は立っていた。
ワイワイ ガヤガヤ キシャー
「こらぁ〜静かにせんか〜!これから2輪の免許を持ってるお前達に安全指導をして下さるお二人を紹介する。水瀬名雪巡査と美坂香里巡査だ。」
騒ぎたてている生徒に教師が怒鳴りながら二人を紹介する。
「あんだよ〜かったりーんだよぉ」
「オヤジはうぜぇんだよ〜」
「るせ〜、引っ込めオヤジ〜。」
「うおおお〜、どっちも美人だぜぇ。」
「一晩いくら〜?」
「おね〜さ〜んデートしてくださーい」
頭のあまり良くなさそうな高校生達が下品な野次を飛ばす。
「ねぇ香里、何でわたし達こんなところに居るのかなぁ?」
困った顔で尋ねる名雪に
「名雪、あんたがそれを言う訳?」
「うにゅ〜(汗)」
ジト目で睨む香里にへこむ名雪。
事の発端は前日のおやつの時間に遡る・・・
「みなさんおやつの時間ですよ〜♪」
交通課に秋子課長の声が響く。
「今日は私がケーキを焼いてきましたので、みなさんで食べてくださいね。」
「やったぁ〜♪」
秋子課長のケーキと聞いて署員が歓声を上げる。
「一人一つずつありますから好きなのを選んで良いわよ。」
「はーい。」
署員の声も非常に明るい。
十数個あるケーキはモンブラン、チョコのケーキ、チーズケーキ、タルト等が何個かずつ、そして、たった一個だけ大きな苺の乗ったショートケーキがあった。
「わぁ苺ショート、これわたしがもらうね〜♪」
止める暇もあらばこそ、見事なロケットスタートで名雪はイチゴショートを奪取した。
生粋の苺ハンター水瀬名雪。反応速度は野生動物すら凌駕している・・・
「ナレーターさん、もしかして酷い事言ってる?」
そんな事はないぞ、ただ本当に苺が好きなんだなぁと感心しただけだぞ。
「ほんとに〜?怪しいよ〜。」
本当だから気にせず、早くケーキ食べてくださいな。
「それもそうだね、う〜ん美味しそうなケーキ。いっただっきま〜す♪」
あ〜ん パクッ
可愛らしい口を開けてケーキにかぶりついたその時・・・
「待ってぇ。そのケーキまだ食べちゃ駄目ぇ〜。」
香里が血相を変えて交通課に飛び込んできた。
「ふにゅ?どうしたの香里〜?ケーキ美味しいよ。」
口にクリームを付けたまま、香里のあまりの慌てぶりを不思議がる名雪。
「お、遅かった。」
9回フルカウントで満塁サヨナラホームランを打たれた高校球児のようにがっくりと膝をつく香里。
「うふふっ、今日のおやつで苺ショートを選んだ人は、明日の原付講習を担当してもらう事にしてたの。だから今回は名雪とパートナーの香里ちゃんお願いね♪」
「えっ?えっ?ええっ!?」
「くっ、あと少し早ければ食い止められたのに・・・」
ひたすら驚く名雪と、心底悔しがる香里であった。
そして、舞台はまた学校へと移る。
「秋子課長、苺だったら名雪が必ず飛びついて来るって見越しての作戦だったのよねぇ〜。」
「う〜、お母さんに騙されたよ〜。」
「沢山あるケーキの中で苺ショートが一個だけってのも不自然でしょ?罠よ。」
「うん、ごめんね香里。つき合わせちゃって。」
「過ぎた事を言っても仕方ないわ、今はこいつらをどう指導するかを考えなきゃね。」
「そうだね、でもあの子達一筋縄ではいかなそうだよ?」
「ふざけた事をしたらシバキ倒せば良いだけよ。」
さらっと過激な事をおっしゃる香里嬢。
「指導かぁ〜、陸上部で部長さんだった時の血が騒ぐよ〜♪」
名雪嬢はのんびりした雰囲気に似合わず、高校時代は陸上部の部長さんだったりする。
今はすっかり体育会系のノリであった。
こうして波乱の原付講習指導は幕開けた・・・
「さて、これからこのスクーターに乗ってもらうわけですが、やりたい人いますか?」
「「「「「「はい、はい、は〜い。」」」」」」
香里の問いに濁った声で無駄に元気に返事をする生徒達。
「そうねぇ〜、じゃあそこの茶髪の君やってもらえる?」
一人の生徒を指名する。
「よっしゃ〜。」
意気揚々とバイクに近付く茶髪の生徒。
ブゥゥゥゥブゥゥゥゥゥゥブゥゥゥゥゥ
選ばれなかった生徒から壮絶なブーイングが飛ぶ。
「おっとっととととととと。」
生徒はいきなり何もないところで躓き、
ドタンッ ガチャガタッ ドッシーン
原付を巻き込んで倒れこんだ。
「わっ、危ないよ〜。怪我しちゃうよ?」
たしなめる名雪に、
「すみませ〜ん受験勉強で疲れてるんスよ〜。」
生徒はそう答えたが、顔色は良く目の下に隈も無いので、とてもそうは見えない。
「そうなんだ〜、でも気を付けてね。」
名雪はいつでも素直で優しかった。
「あぁっ、スクーター倒れちゃってる。起こさないといけないよね?」
倒れているスクーターを起こそうとする名雪に群がる生徒達。
「えっと〜、どうしてみんなそんなにわたしの近くにいるのかな?(汗)」
「いやぁ〜お姉さんのスクーターの起こし方を参考にしようと思いましてぇ〜エヘエヘエヘヘヘヘェ。」
生徒のうちの一人が緩みまくった顔で答える。
「う〜ん、でもわたしの起こし方はあんまり参考にはならないと思うよ〜?」
「だ〜いじょ〜ぶですって、遠慮しないでドーンとやっちゃって下さい。」
「うん、分かったよ。それじゃあやって見せるから良く見ててね。みんなにも後でやってもらうからね。」
「「「「「「ハーイ。良く見てまぁ〜〜〜〜っす。」」」」」」
「まず最初に、まっすぐにスクーターの前に立つね。それから少し腰をかがめてスクーターのハンドルに手をかけるんだよ〜。」
名雪の足元を食い入るように見ながら説明を聞く生徒達。このまま腰を落としてしまうと、名雪のぱんつは丸見えだからだ。
私としても名雪のぱんつは是非見てみたいが、世の中そんなに甘かぁ無い。
「それから腰を落とさずに一気に頭まで持ち上げてぇ〜。」
ハンドルを持って、スクーターをウエイトリフティングのようにヒョイっと一気に頭まで担ぎ上げる名雪。
「「「「「「んがっ!?」」」」」」
名雪のあまりのパワーに青くなる生徒達。
「それから肩に担いでバランスを取ってから静かに下ろしてね♪」
スクーターをアルゼンチンバックブリーカーのように肩に乗せてからゆっくりと地面に下ろした。
しーーーーーーーーーん
生徒達は声も出せずに固まってしまっている・・・
「えっと〜、さっきの茶髪の君。今度は君がやって見せてね。」
にこやかに笑って再びスクーターを横倒しにし、生徒に挑戦させる名雪。
「んがががががぁ〜ぎぎぎぎぎぃ〜〜〜」
顔を真っ赤にして頑張ってはみるが、先天的に怪力な名雪ならともかく常人にはまず無理である。
「うわぁ〜〜〜〜〜。」
結局持ち上げる事はそうそうに切り上げ、よろけたフリをして名雪に飛び掛る生徒。玉砕覚悟で名雪の胸を揉もうって魂胆らしい・・・
「踏み込みが甘いよっ。」
名雪は体を半分開き伸びきった生徒の腕を掴み、
グイッ
ブンッ
ドォォォォン
綺麗な一本背負いで放り投げた。生徒は綺麗な放物線を描いて地面に叩きつけられた。
「ぐえぇぇぇぇっ。」
蛙が潰されたような悲鳴を上げて気絶するエロ生徒。
「もう、これは正当防衛だよっ。それと、わたしの胸を揉んでいいのは祐一だけなんだからね。」
真っ赤になって怒りつつも惚気る名雪。
名雪の彼氏って限り無く羨ましい奴である。
「香里、タッチだよ。次の指導はお願いするね。」
「OK、任せときなさい。」
名雪から香里へと指導者交代。
「ねぇそこの眼鏡をかけた僕、あなたやってみない?」
近くの生徒に声をかける香里。
「えぇ〜?俺って1100ccとか乗ってるんスよ?今更スクーターなんて。」
「そんな事言わないで、ね?もし、上手に乗りこなせたら、お姉さんデートしてあげちゃうんだけどなぁ。オールナイトでもOKだけど、どう?」
色っぽく囁く香里。
「うへへへへ、お姉さんにそこまで言われちゃしょーがねーなー。ちゃっちゃっと片付けてくるから、約束忘れるんじゃねーぜ?」
そのままスクーターに跨る。
「はいはい、それはそのスクーターを乗りこなしてから言って頂戴ね。」
「あら?ヘルメット着けないの?」
「原付なんかに必要ねぇぜ。ふん、なんでぇこんなスクーター。」
エンジンをかけ、無造作にアクセルをふかしたその時・・・
ギュオオオオン
ギャギャギャギャギャ
ブロオオオオオオオオオ
「にょひがぎゃげぇぇぇぇぇぇぇぇ!?!?!?!?!?」
生徒の悲鳴とともに爆発的な勢いで発進するスクーター。生徒は支えきれず、スクーターはウイリー状態で大暴走。
「あっそうそう、忘れてたけどそのスクーターあたしが徹底的にチューンしてるから、かなり慎重に発進しないと暴走するわよ?」
ヴィィィィィィィィドガシャアーン
「って遅かったわね。」
学校のフェンスにぶつかったのを確認した後にわざとらしくため息をつく香里。
そして、ぴくぴくと痙攣している生徒を見てガクーンとあごを全開にして驚愕する生徒達に
「どれだけ空っぽの頭でもきちんと保護しないと大変危険ですから、しっかりとヘルメットは着けましょう♪」
と、にこやかに説明する香里。鬼である。
「さて、ここからはあたし達二人で指導するから一人ずつ乗って頂戴。」
「びしびし行くよぉ〜♪」
すっかりノリノリな二人。
「はい、次の人やってみて。」
香里に促されて一人の生徒が慎重に発進させる。
「へへっ、楽勝♪」
得意げな生徒。
発進はスマートだが、足をだらしなく横に広げていて姿勢は最悪である。
「あ〜ゆ〜馬鹿野郎君な運転してると・・・」
「あっごめんね〜。」
名雪が不意にスコップをスクーターの進行方向に突き出す。
ガンッ
「ぐぎゃっ」
「このように不意に駐車車両がドアを開けた場合、最悪の場合股が裂けてしまう事もあるので、姿勢には十分注意して下さい。」
「「「「「「OH MY GOD!!!」」」」」」
それからの講習は熾烈を極めた・・・
「次の人、ブレーキングがあまいよっ!!!」
ドーン
「うぎゃひぃ〜〜〜」
「次の人、アクセルターンくらいできないでどうすんのよ?」
ギャギャギャギャズターン
「ぐぎゃへ〜〜〜」
「はい、次っ、ウイリーで50mくらい基本だよ〜?」
ドテッビターン
「うがげぇっ」
「ほら、次どんどん行きなさい。」
「「「「「「ひえ〜〜!?」」」」」」
一人また一人と吹っ飛んでいく生徒達であった・・・
カァ〜カァ〜(古典的夕方の表現)
「ううっ」
「ぐえぇっ」
「うがぁぁ」
講習終わって日が暮れて・・・死屍累々って表現がぴったりの姿で唸りながら地面に転がる生徒達。
「あれ?もう終わっちゃったの?意外と根性無いんだね〜?」
「ふっ。原付でそんな様じゃあ750ccや1100ccなんて夢のまた夢ね。もう少し腕を磨いときなさい。」
「ちゃんと乗りこなせるようになったら、また呼んでね。」
転がる生徒達に言うだけ言って、夕日をバックに颯爽と去っていく二人であった。
それからしばらくの後の事。
「名雪、香里ちゃん。二人に緑欧工業高校からまた原付講習指導依頼が来たわ。せっかくだから私も見に行くわね。」
と、言う訳で秋子さんと共に高校へ行ってみると・・・
「「「「「「どーでーすかー?名雪さん、香里さん」」」」」」
彼らはヘルメットを着け、制限速度も守ってスクーターに乗っていた。
ただし、全員ウイリー走行で・・・
「どんな指導をすればこうなるのかしらねぇ二人とも?」
秋子課長は頬に手を当てたいつものポーズで微笑んでいたが、後頭部には漫画のような青筋マークが浮いていた。かなり怒ってらっしゃるようである。
「「あ、あはははははははは」」
怒りの秋子課長に、ただもう笑うしかない二人であった。
次回に続くよ〜
第四報告書へ続く
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