逮捕しちゃうよっ!!名雪&香里

第一報告書 「誕生!華音署最強コンビ」



 華音署交通課・・・華音署交通課課長の水瀬秋子がまとめている華音署一の名物課である。
名前から分かるように、秋子は名雪の母親である。
秋子課長は、紫色の髪を三つ編みにしていて、顔立ちは名雪がそのまま歳を取ったような可愛らしさと美しさが同居している文句無しの美人。
特筆すべきは彼女の若々しさで、名雪と並ぶと親子と言うより、姉妹に見えてしまう程。
香里のおかげで、遅刻をぎりぎりで免れた名雪は、制服姿で課長の隣に立っていた。



「おおっ美人〜」
「すっげぇ可愛い〜♪」

 名雪を見て、男性署員は大騒ぎ。女性署員も香里以外はどんな娘なのか興味津々の様子。

「はいはい、皆さん静かにしてくださいね。この子が私の娘で、本日着任した水瀬名雪巡査よ。今日から美坂 香里巡査とコンビを組んで仕事してもらうわ。」

と、秋子課長が名雪を紹介する。だが、男性署員はまだ騒ぎっぱなしである。

「本当に秋子課長そっくりだ。」
「彼氏いるの〜?俺なんてどうですか〜?」
「結婚を前提にお付き合いして下さ〜い。」

と、止まるどころかエスカレートしている。中には暴走している者も。



「皆さん、私の特製ジャム食べたいんですか?」
秋子課長頬に左手をあてたポーズで、にこやかに言った。










ピシッ






 その瞬間、交通課の時間は凍りついた・・・
 それもそのはず、秋子課長が作る特製「甘くないジャム」とは、言葉では形容しがたい味で、一口食べただけで生命の危機に陥りそうな破壊力があるのだ。
 ちょっと舐めただけでも気絶ものである。
 ためしに尋問中に強情張っている犯人に「差し入れです。」と、食べさせてみたところ、涙を滝のように流し、のたうちまわりながら、全ての罪を告白したそうだ。
 しかも、どんな凶悪犯罪者でさえ同じ反応を見せ、その後は模範囚として、更正の道まっしぐらだとか・・・

「もう少し威力を抑えたら人権を侵害しない自白剤が作れる。」
と、本庁の科捜研でも研究が進められている程の代物なのである。

 しかし、材料が皆目見当つかず難航しているらしい。
 秋子課長に直接尋ねてみても、「企業秘密です♪」の一点張り。
 材料及び製法が謎なので、その名も謎ジャム。なんと言うか、そのまんまである。
 秋子課長本人も、このジャムの味が一般の人の舌には合わないとは理解しているらしいが、それでも食べてもらいたいので

「署で何か悪い事した人に、罰として一瓶プレゼント♪」
というルールを作ってそれを署長に認めさせたのである。
 交渉時にもあの瓶は持っていたらしい(汗)

 交渉と言うよりも、脅迫の方が正しいかもしれない。
 現在の目標は全国の署にこのルールを広める事らしい・・・くわばらくわばら。
 そんな訳で、謎ジャムは華音署全体の恐怖の代名詞として通っているのである。



「うふふっ、なんだか好き勝手な事おっしゃってるみたいですけど、ナレーターさんも一瓶いかがですか?(にっこり)」














ぎぎくぅっ!!




 ええ〜っと〜、謹んでご辞退させていただきます・・・(滝汗)

「あら、残念ね。」
心底残念そうである。

 ちなみにこの謎ジャム以外の料理やお菓子の腕前に関しては3つ星レストランのシェフ並なのだ。
 謎ジャム以外にもいろいろと伝説を作っている人なのだが、それはまたいつか語ろう。





し〜ん




「静かにになったようね。では、水瀬巡査自己紹介をお願いね。」
促す秋子課長。

「うん、分かったよお母さん。じゃなくって、分かりました水瀬課長。」
「始めまして、今日から華音署交通課に配属されました、水瀬 名雪です。名雪でもなゆちゃんでも、好きなように呼んでください。好きな食べ物は苺全般で、好きな動物はねこさん、好きな事は運動する事です。苦手な事はパソコン等の機械の操作と、朝が弱い事かな?目覚まし時計の録音操作とか苦手だし。コンビを組む美坂 香里とは警察学校からの親友です。元気とやる気はいっぱいあるので、これからもよろしくお願いします。」
「よろしく〜。」
「仲良くやろうね〜、なゆちゃ〜ん♪」

と、声が返ってくる。

「あ、そうだ、彼氏さんはもういるので、ナンパとか、交際申し込みはごめんなさいです。」














「「「「「ガーン(T_T)」」」」」

「「「「「キャー、だいたーん♪」」」」」


 名雪の爆弾発言に、男性署員の大半は滝涙を流して嘆き、女性署員は更にキャーキャー騒ぎ出した。

「あらあら、惚気られちゃったわね。」
と、課長は微笑み、
「ほんっと、名雪ってどこかズレてるのよね〜。」
香里は一人呆れていた。

名雪が女性署員の質問攻めに遭うのは、当然の事であった・・・











 それから15分後、ようやく女性署員の質問攻めから解放された名雪は、香里と男女一名ずつを加えた3人に華音署内部を案内してもらっていた。

「いきなりナンパお断りなんてなかなか度胸あるなぁ。気に入ったぜ。」
と、他2名のうちの一人である男性署員が名雪に話しかける。

「俺は白バイ隊の北川。署の中では華音署の白き不死鳥って呼ばれている。俺で分かる事があったら何でも聞いてくれ。」
とウインクまでしている。

 なんと言うか、あんまり似合ってないぞ北川。

「ほっとけっ!!」  彼は、格好良いと言うよりは、可愛いと言った顔立ちに蜂蜜色の髪をした青年である。
 筋骨隆々と言う訳では無いが、体に無駄な肉がついてなく、かなり鍛えられている。
 何よりも特徴的なのは、アンテナの用にぴょこんと跳ねている彼の髪型だろう。

「うん、北川君だね、よろしく。」
素直に返事する名雪。

「ふふふっ、北川さんまたやってますね、お姉ちゃん。」
と香里に問いかける女性署員。

「もうっ、可愛い婦警が入ってくるとすぐこれなんだから。」
何やら香里はご機嫌斜めだ。

「名雪、北川君なら不死鳥と言うよりはアンデッド(不死者)の方が似合ってるんだから鵜呑みにしちゃ駄目よ。」
北川に対する態度もかなり冷たい。

「美坂ぁ〜そりゃ無いぜ〜。」
慌てて香里に近寄るが・・・

「ふんっ」



ズドスッ




 名雪に見えない角度から香里が北川の腹に強烈なひじ打ちを叩き込む。

「み゛、みざがぁ〜」
涙目で悶絶する北川。

「お姉ちゃんちょっとやり過ぎじゃないかなぁ?。」
女性署員は焦っている。

「お姉ちゃんって、香里の事?」
「はい、私は美坂 香里の妹で、名前は栞です。」
と、名雪の問いに答える栞。

 茶色のショートボブで、香里よりやや穏やかな顔つきだが、確かに雰囲気は良く似ている。
 3サイズは香里よりも全体的に、ボリューム不足のようだが。

「ぶ〜。そんな事いうナレーターさん嫌いです。」
栞さんぷんすか。

 こりゃ失礼。とにかく話を続けてくださいな。

「じゃあ、あなたが栞ちゃんなんだ〜。よろしくね。」
名雪は微笑む。

「はい、よろしくです名雪さん。」
栞も微笑む。

「分からない事があったら何でも聞いてくださいね。署員の恋愛情報や、芸能界の事とか、美味しいお菓子の店や喫茶店沢山知ってるんですよ♪それと昔は病弱だったので、お薬についても結構自信があるんですよ。」
「へぇ〜、物知りなんだね〜栞ちゃん。」
「えへへ、それ程でもないです。」
「あっ、それとですね、北川さんってお姉ちゃんのことが好きなんです。お姉ちゃんも満更じゃないみたいで。でも、意地っ張りだからついついあんな態度を取っちゃうんです。」
と、名雪に耳元で囁く栞。

「うふふっ、香里らしいね。でもなんだか可愛いよ。」
「でしょ〜。」
くすくす笑う二人。

「ちょっと名雪、栞、聞こえてるわよ。もう、あたしと北川君はそんなんじゃないの。」
とは言いつつも、頬は赤かった。



「とにかく、案内するからさっさとついて来なさい。」
ごまかすようにすたすた歩く香里。

「「「は〜い。」」」

 名雪と栞といつの間にか復活した北川は元気に返事をして追いかけた。
 北川の不死鳥だの、不死者だのって話は、常人なら1ヶ月以上かかる怪我が3日程度で治る某ラ○ひなの浦島 ○太郎のような回復力からきている。
 その上、北川のバイクテクニックは白バイ隊一であり、格闘技の実力も相当なものなので、見た目だけで判断すると痛い目に遭うだろう。







 それから一行は刑事課の前にやって来た。

「こんにちは〜。お疲れ様です。」
香里が挨拶する。

「おっ香里じゃないか、どうしたんだ今日は?」
一人の男が近付いて来た。

 歳は30代前半、長い髪を一つにまとめて縛っている。顔立ちは目つきがややキツイが野性的な雰囲気のあるハンサム。
 彼の名は神奈備(かんなび)柳也。刑事課の主任である。
 直感力に優れ、格闘技に精通し、特に剣術は凄まじいの一言。

「はい、今日は新しく入ったこの子を紹介しようと思いまして。」
「あれ?柳也さん?柳也さんもここだったんだ〜。お久しぶりです。」
「なんだ、新入りの子ってのは名雪の事だったのか。」
「えっ? 知ってるんですか?」
驚く香里達。

「ああ、俺は昔から秋子課長には世話になっていてな、それで名雪とも何回か会った事があるのさ。」
「そうだったんですか。」
「ところで名雪、あいかわらず寝坊ばかりしてるんだろ〜?お前朝弱いからな〜。」
「えっ!? そ、そんな事無いよ〜。」
焦って弁解するが・・・

「そうなんですよ、今日だって遅刻ぎりぎりだったんですから。」
香里に追い討ちをかけられた。

「もう香里まで〜。二人とも意地悪だよ〜。」
拗ねる名雪。

「「だったら寝坊を直すことだ(ね)。」」
二人からのステレオ攻撃。

「うにゅ〜(+_+)」
結局名雪はうぐぅの音も出なかった。

「はははは、まぁ交通課にはいろいろ捜査協力してもらってるから、その時は頼むぞ。」
「うん、おまかせだよ〜。」
可愛らしくガッツポーズを取る名雪。

「なぁ栞ちゃん、俺たちほったらかしだな。」
「私達の存在無視する作者さんなんて人類の敵です。」

 話に加われなかった二人は、愚痴っていた。

「それじゃ失礼します。」
刑事課を出る一行。

「今度は他の課や施設も案内するわね。」





 それから一行は、受付、暴力団対策課や署員食堂、資料室、給湯室、屋上、ガレージ等、署の施設を一通り回った。 

「作者さんの手抜きだね。」
「手抜きね。」
「手抜きですね。」
「手抜きだな。」

黙らっしゃい、ページの都合じゃ。

「とりあえず、一通り回ったから交通課に戻ってお昼にしましょ。それから午後の警邏ね。」
「うん、ごっはん♪ごっはん♪」
名雪は独特なリズムで歌いながら香里の後を追った。












 それから昼食の後、午後の警邏(けいら)(パトロール)の為にガレージへ向かう香里と名雪。

「でも、夢みたいだよ〜。香里とまた一緒に仕事できるなんて。」
終始笑顔の名雪。

「そう?だったら名雪ちょっとこっちに来てみて。」
「な〜に?香里」
とてとてと近付く名雪。

「うりゃっ!!」


むにぃ〜〜〜〜


 いきなり名雪の頬を引っ張る香里。

「ひたいよ〜ひゃにふるんはよ〜はふぉひぃ〜!?」
(訳)痛いよ〜なにするんだよ〜香里ぃ〜!?

「ね、夢じゃないでしょ?」
言いつつ香里は名雪の頬を放す。

「もうちょっと優しい方法にしてよ〜。」
赤い頬を押さえて涙目の名雪。

「はいはい、ごめんなさいね。それじゃ警邏行くわよ。」
「う〜〜」

名雪はしばらく拗ねていた。











 それから一時間位はお互いの近況を話したりして、警邏もつつがなく進んでいたが、



Pi Pi Pi Pi   Pi Pi Pi Pi



 トゥデイの無線に連絡が入ってきた。

「はい、こちらミニパト4号。」
香里がインカムを取って返事をする。

「現在ものみの丘3丁目付近でバイク窃盗団によるバイク盗難事件発生。窃盗団は軽トラックで永遠市方面へ逃走中。付近の巡査は現場へ急行してください。」
「ミニパト4号了解。行くわよ名雪。」
「うん、急ごう香里。」



ガコッ ギャギャギャ ブオオオオオオオッ


 レバーチェンジし、反転して現場へ向かうトゥデイ。
 それから10分程で車道を爆走する軽トラックを見つける。
 犯人は3人組らしくそのうち一人は軽トラックの荷台の上にいた。
 どうやらバイクを積む途中で見つかって、慌てて逃げ出したらしい。

「あっ、見つけたよ〜。」

「そこの軽トラック止まるんだよ〜。止まらないと後が怖いんだよ〜。」

 名雪がスピーカーで呼びかけるがいまいち迫力が無い・・・
 それどころか更にスピードを上げて逃げだしてしまった。

「あっ逃げちゃうよ香里〜。」
「逃がすもんですか。あたしのトゥデイ舐めないでよね。」

説明しようっ!!(一回使ってみたかったんだよね〜このフレーズ♪)

 香里のトゥデイは、香里の手によって本来560ccの排気量を600ccにまで引き上げ、最大馬力80を誇るスーパーマシンなのである。
 なお、ニトロまでつけて爆発的な加速も可能なのだ。
 ちょっぴり改造し過ぎな気もするけどね〜。まぁ気にしないでおこう。

「一気に追い詰めるわよ。トゥデイ最大加速ブーストON!!」
ポチっとブーストと刻まれてあるボタンを押す。


ドッギュウウウン  グオオオオオオオオオッ


「ほええっ?きゃああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
いきなりの加速に慌てる名雪。

びっくりしたのは窃盗団も同じらしい。
荷台にいた男が、非常手段とばかりに盗んだバイクをトゥデイに向かって投げつけてきたのだ。

「喰らえっ」




ブンッ


ヒョイッ

ガッシャン

バキャア


 飛んできたバイクをヒョイっと紙一重でかわす。
 加速しつつも紙一重でかわすあたり、香里のドライビングテクニックは並ではない。

「も〜危ないよ〜。これはもうお仕置きしなきゃいけないよね。」
さすがに名雪も怒った。



プッツン



 名雪の隣で古典的な音で、何かが切れた。 「ふっ、うふっ、うふふふふふふふ。よっくもやってくれたわねぇぇ〜。よりにもよってあたしの可愛いトゥデイに傷をつけようなんて・・・これは、それ相応の報いを受けてもらうのが筋ってもんよねぇ〜うふふふふ。」

 笑ってはいるものの、髪は波打って逆立ちその瞳は赤く光っている。
 まるでギリシア神話のメデューサさながらである・・・
 正面から睨まれたら石を通り越して灰にされかねない。

「うわぁ〜香里がキレちゃったよ〜。惨劇の始まりだよ〜。」
助手席で震える名雪。

 実況している俺も怖いで〜す。

ガクガクブルブル




「うっさいわねナレーター。うふふふふ、今から香里お姉さんがお仕置きしてア・ゲ・ル。名雪、ちょっとだけハンドルまっすぐ固定してて。」
「わっわっ急に言わないでよ〜香里ぃ〜。」

 言いつつも横からハンドルを握ってトゥデイをまっすぐに走らせる名雪。
 香里は、後部座席のあたりから円筒形の物体を取り出した。
 ぶっちゃけて言うと対戦車用バズーカである・・・

「ちょ、ちょっと香里ぃ〜。それはやり過ぎだよぉ〜。」
驚いて制止する名雪だが、

「お仕置きしなきゃって言ったのは名雪でしょ。それにこれは暴徒鎮圧用の硬質ゴムスタン弾だから死にはしないわ。もっとも、一ヶ月は病院のベッドとお友達になるでしょうけどね。」
妖艶な笑みを浮かべて答える香里。

 実は、香里の趣味の一つに武器収集(主にメリケンサックと重火器類のモデルガン)があり、自分でさらに手を加えてオリジナルの防犯兵器にしているのだ。
 あまりに出来が良いので、科捜研からも新兵器発案の際には協力を要請されている。
 他にもメカのチューンナップやパソコンいじり等がありその趣味は多岐にわたっている。
 さて、ミニパトに箱乗り状態でバズーカを構えた香里は、軽トラックの荷台からバイクを投げつけてきた男に照準をセットした。

「目標補足、沈みなさいっ!!!」


バシュウー










ドスッドカッ





「ぐおえぇぇぇぇぇぇっ」





 弾は的確に軽トラック上の男に突き刺さりそのまま軽トラックの壁に叩き付けられた。
 男は汚い悲鳴を上げて嘔吐し、白目を剥いて仰向けに倒れた。トラックから落ちなかっただけ幸運だろう。
 更に泡喰った2人の窃盗団員は路地裏に入ってから車を捨てて逃げ出した。

「甘いわね、今の私から逃げられはしないわ。」
今度はデザートイーグルのモデルガンを取り出した。

「こっちはBB弾にメタルコーティングした特別製よ。当たれば痛いわよ。」


バシュッ、バシュッ、バシュッ ビシィッ


「ぎゃあっ」
一人の足が止まる。

しかし、もう一人には当たらずそのまま逃げられてしまう。

「くっ、この位置じゃさすがに届かないわね。悪いけど名雪、あなたに任せるわ。」
「おっけ〜だよ。元陸上部部長の実力見せてあげるね。」
名雪は全速力で走っていく。

「後は名雪に任せておけば大丈夫ね。さ・て・と、あたしはこいつらにあたしの車に傷をつけたらどんなに目に遭うのかを、体にたっぷりと叩き込んであげようかしらね。」

 なんと言うか、女王様という言葉がぴったりくる台詞であった・・・







 窃盗犯は意外としぶとく、壁をよじ登ったり茂みに潜り込んで逃げ回った。
 名雪は2m異常の壁を助走も無しに飛び越えたり、壁に三角蹴りを繰り返してして距離を縮め、あっさり袋小路に追い詰めてしまった。まるで忍者のような運動能力である。

「さぁ、もう逃げられないよ〜。おとなしくお縄についてね♪」
「ルセー、か弱い女一人で何ができるってんだ。こうなったら力づくでおとなしくなってもらうぜぇ。」
窃盗犯は開き直り下卑た笑いで名雪に飛び掛ってきた。

 だが、この犯人の最大の不運は相手が名雪だったってことだろう。

「ふ〜ん、あくまでも抵抗するんだ。それじゃあしょうがないよね。こっちも実力行使させてもらうよ〜。」
最初は困っていた名雪も覚悟を決めたようだ。


「えいっ」

ドカッ 

「ぐふっ」
 



 突っ込んできたところにカウンターで胸部に足刀を喰らわせ、



「それっ」

バキィッ

「ごはぁっ」
 



 ひるんだところに鞭のようにしなったローキック



「それっ」

ゲスッドゴッ

「げうっ」
 



続けて流れるようにミドルキックから左後ろ回し蹴りへのコンビネーション



「行っくよ〜♪」

ダダダダッグシャアッ

「ぐげぼおっ」




 そして、とどめにダッシュからの稲妻レッグラリアートが炸裂した。
 名雪の見た目の可愛らしさからは想像もできないだろうが、名雪は秋子課長の血族に流れる異常筋力体質のせいで、運動神経の塊なのである。
 しかも高校時代は陸上部部長だったので脚力は一族でも群を抜いている。
 コンクリートの壁でも本気で蹴れば粉々になってしまうのだ。
 ちなみに、母親である秋子課長は腕力が高いのである。
 名雪を舐めていた窃盗犯はもはやぼろぞーきんと化していた。

「えへへっ、余裕っちだよ♪」
名雪は某極限流空手家のような台詞でVサインしていた。









 それから名雪が犯人を引きずって帰ってみると、香里が犯人に手錠をかけて待っていた。
 気の毒な事に犯人達の顔はサッカーボールのごとく腫れあがっていた・・・

「ねぇ香里。これはちょっとやり過ぎだと思うよ?」
「そう?これでも加減したんだけど。そういう名雪だって人の事言えないじゃない。」
「それじゃ、これでおあいこだね。」
「そうね、おあいこね。」

 いや、窃盗犯達をぼこぼこにしてそれで済ますのもどーかと思うが?

 でも、まぁいっか。どーせ悪いことした奴らだし、扱いもそんなもんで。

「ナレーターあんたも大概ひどいわね(汗)」
じと目であきれる香里。

突っ込みは却下だ香里君。




  「とりあえず、お疲れ様名雪。」
「お疲れ様、香里」

 パンッとハイタッチでお互いをねぎらった二人。

「やっぱり名雪と一緒だと仕事しやすいわ。これからも頼んだわよ。」
「もちろんだよ〜。私達はコンビなんだからね。」
満面の笑顔の名雪に

「ふふっそうね、華音署で最強のね。」
綺麗なウインクで返す香里。

「ところで名雪。あんた今どこに住んでるんだっけ?」
「隣町だよ〜。でも署まで遠いから、今新しいお部屋探してるんだよ〜。」
「だったら良い物件あるんだけどなぁ〜。」
「えっ?どこどこどこ?」
「華音署から車で10分日当たり良好、キッチンにシャワー、お風呂、エアコン完備セキュリティーも万全のマンションで、今なら美人の同居人付よ」
言いつつ、香里は自分を指差す。

「それは嬉しいけど、良いの?」 「ええ、あの部屋便利だけど一人じゃ広すぎるのよ、だから遠慮しなくて良いわ。」
「じゃあ、お願いしようかな?これからお世話になります香里」
名雪はぺこりと頭を下げた。

「ええ、歓迎するわ名雪。」
香里も同じく頭を下げる。

 ここに華音署史上最強かつ、最凶の美人婦警コンビが誕生したのである。

「最後の字がいまいちひっかかるわね〜。」









 それから数日後、一緒のマンションに入ることになった二人だったが・・・


ジリリリリ 

ドドドドドド 

リンリンリリン

ぴこぴこぴこぴこ〜 

がおがおがお〜






「な〜ゆ〜き〜。朝よ、いくら近くたって寝坊したら遅刻するわよ〜。」
十数個の目覚ましの音をBGMに必死で名雪を起こそうとする香里。





ゆさゆさゆさゆさゆさ




「うにゅ〜。じしんだお〜」
糸のような目で寝ぼけている名雪。

「そういえばこの娘、寝起きが壊滅的に悪いんだったわ・・・」

 一緒に住む事をちょっぴり後悔した香里さんである。



「おーきーなーさーいー(T_T)」







「く〜〜〜(-_-)zzz」



この光景は名雪が結婚して部屋を出て行くまで、ほとんど毎日繰り返されるのであった。

 続く

                                   第二報告書へ続く



                     
トップへ      戻る