三寒四温のうちに、校庭の花のつぼみもふくらみ、桜の開花が待たれる頃となりました。

 この、よき日に、卒業生、在校生、保護者、来賓の皆様、教職員一同相集う中、本校の栄えある、第三十九回の卒業証書授与式を挙行できますことは、このうえない喜びでございます。

 本日、保護者の皆様には、本校入学以来お子様の心身の健やかな成長を願い続けた日々を思われ、ここに、たくましく成長されたお子様の晴れ姿を目にされて、喜びもひとしおと存じます。心から、お祝い申し上げます。

 また、この間、本校教育の充実と発展のために寄せられましたご理解とご協力に対しまして、厚く御礼申し上げます。

 ご来賓のみなさま、本日は公私何かとお忙しい中、本校の卒業証書授与式にご臨席を賜り、誠にありがとうございます。六年間、地域で子どもたちを見守り、育んでいただきましたことに、心より厚く御礼申し上げます。

 卒業生のみなさん、ご卒業おめでとうございます。今、六年間の課程を修めたという卒業証書を手渡しました。これからは、本校で身につけたことを生かして、力強く歩んでいってください。

 今日は、私の作った魔法のお札というお話をして式辞を終えたいと思います。

  

    「魔法の御札」     山脇一郎 作       

 

ある日のこと、小学一年生の満は、兄の隆夫といっしょに近くの稲荷山に水晶をとりにいきました。

帰りの道でのことです。満は十国橋のたもとに一枚の御札が落ちているのを見つけました。拾ってみるとその御札には「あなたの夢かなえます」と書いてありました。でもあとのふたつの文字が薄くて読めません。

 満は、国語の本読みが苦手でした。そこで、拾ってきた御札で国語の本をひとなでしてみました。するとどうでしょう、たちまち国語の本が読めるようになりました。次に算数のノートをひとなですると、たちまち足し算ができるようになりました。満は、この御札は、きっとなんでもできる魔法の御札にちがいないと思いました。

それから、宿題の時にはこの御札をこっそりと使いました。この魔法の御札のおかげでなんでもうまくいったものですから、家の人や先生からもほめられて、ちょっぴり得意な気持ちになりました。

 でも、満はその御札にかかれている、薄くて読めないふたつの文字がずっと気になっていました。

満は六年生になり、いよいよ卒業式を迎えることになりました。

卒業式の朝、机の引き出しからその御札を出してみると、もうぼろぼろでした。

満は、ぼろぼろの御札をじっとながめていましたが、今まで薄くて読めなかったふたつの文字がふわっと浮き出ていることに気がついたのです。満は、あわてて窓の光にすかしてふたつの文字を読んでみました。

 よく見てみると、その御札には、「努力」という、ふたつの文字が書かれてありました。

満は、なぜ御札に「努力」という文字がかかれているのかはじめはよくわかりませんでした。でも、よく考えてみると思い当たることがあったのです。

一年生のとき、国語の本が読めるようになったのは、兄の隆夫がテレビを大きくして見ていたものですから、その音に負けずと時間も大声で本読みをしていたのですし、あのとき足し算ができたのも新しいノートを早く買ってもらいたいために、大きな字で何ページも足し算を書いたのでした。

満は、今まで御札でひとなでして何もかもうまくいったのは、本当は魔法のせいではなかったのだと気がついたのです。

「そうか、この御札は魔法じゃなかった。うまくいったのは実は自分の力だったんだ。努力したからだったんだ。」

 満が、そうつぶやいたとき、手のひらの御札がすうっと消えていきました。満は、ぼうぜんとそれを見つめていました。

しばらくすると、満は御札にお礼を言いたくなりました。

「ありがとう、さようなら」とつぶやいたとき、なぜか涙があふれてきました。それは、満が自分の子供時代と別れることのようでもありました。

 満は窓のカーテンを開けました。外には春の日差しがたっぷりとあふれています。満は、カバンを持つと振り向きもせずみんなの待つ学校へかけて行ったのでした。

 

 お話はこれで終わりです。

 

では卒業生の皆さん、体に気をつけてがんばって下さい。