衝動買いに明け暮れた10年間  23.12.19

校長時代の10年間は実によく衝動買いをした。たいていは、しゃれた文房具であった。

新しい文房具を買う。明日は職場である校長室でこの文房具を使ってみよう、と思うと少しわくわくする。たいていは日曜日である。つまり、ブルーマンデーをこの新しい文房具で

少しだけ元気を出して乗り切ろうということなのである。

こうでもしないと、とてもじゃないが職場に行く気力がわかない。

ときには、ペン立てやマグカップ、ボールペンの10本セット、ランケーブルまでも買ったことがあった。今にして思えば、相当ストレスがあったのだろう。

女性向けのブティック売り場みたいなところで小物を買ったこともある。「この小物を校長室の机に飾ったらきれいだろな」と思い、買って次の日に職場に持って行く。

とにかく、何かを買ったときだけは、職場に行くのが少しだけ楽しみになる。

まるで、物乞いでもするかのごとく、衝動買いを繰り返した10年間であった。

文房具屋やブティックをあてどもなくさまよい、まるで流浪の民のように店をさまよい歩き、明日だけでも元気をわかせてくれそうなものを見つけては買い求める。

この10年間は、精神的には極貧の時代であり、実に実にみじめな日々であった。

退職の月に校長室を引き払うとき、お気に入りのマグカップ3個以外はほとんどのものは捨ててきた。家に持って帰るとひとつのゴミの山ができるからである。


ところが、今はどうだ。衝動買いは全くしない。まるで、校長職という悪霊が体から一気に出て行ったようである。文房具屋やブティックをあてどもなくさまよった日々がまるで嘘み

たいである。

今は、明日の心配やストレスがない。だから衝動買いはしない。なぜ、あんなに買ったのかが不思議である。

衝動買いにたよらなくても、今は十分楽しい。プールと散歩とわずかな庭いじりだが、なぜかこれで十分楽しいのである。

そう、自分に自分がかえってきたからである。