50年ぶりの再会  23.12.18

私が中学に入った頃から、本当の私はいつしか消えていた。

ただただ、がんばるのがいい人生、くじけないのがいい人生、努力は尊い、という道徳律でこの50年は生きてきた。そういうがんばる道徳律は決して本当の私の気持ちではなかった。

いやがんばる人生こそ我が道ということで、自分を偽って突き進んできたのである。

本当の自分を取り戻そうと、時々はやってみたが、人生と社会の荒波にもまれて、責任感や忙しさでいつも中途半端に終わっていた。

消えていった本当の自分にも気づかないで、ただ自分を偽ってきた50年間。それは、つらく切ない日々であった。

今、退職してやっと本当の自分が、自分の手に帰ってきたような気がする。もう「がんばる道徳律」にしばられることはない。もう、がんばらなくてもいいのだ。さぼってもいいのだ。

そう、ひたすら夢を見続けてもいいのだ。女の子のようにかわいく生きてもいいのだ。そう、自分は自分のためだけに生きればいいのだ。


50年ぶりに、自分に自分が帰ってきた。やはりあのときのように純粋で、あのときのようにやさしく、あのときのようにたまらなく甘美な自分が帰ってきた。

「お帰りなさい」長い旅をしたんだね。いままで、消えた君を探して苦しみもだえる日々を送ってきたが、これからはいっしょに暮らせるね。

あの頃途中でとぎれてしまった夢を、いまから君と追いかけることにしよう。