![]() |
![]() |
![]() |
銀河鉄道の夜・ジョバンニの切符 ジョバンニは、すっかりあはててしま って、もしか上着のポケットにでも、入っ ていたかとおもひながら、手を入れて 見ましたら、何か大きな畳んだ紙切れ にあたりました。 こんなもの入っていたらうかと思って、 急いで出してみましたら、それは四つに 折ったはがきぐらいの大きさの緑いろ の紙でした。車掌が手を出しているもん ですから何でも構わないやっちまへと思 って渡しましたら、車掌はまっすぐに立 ち直って丁寧にそれを開いて見ていました。 そして読みながら上着のぼたんやなんか しきりに直したりしていましたし、灯台看守 も下から熱心にのぞいていましたから、 ジョバンニはたしかにあれは証明書か 何かだったと考えて少し胸が熱くなるよう な気がしました。 宮沢賢治 |
銀河鉄道の夜・蠍の火 「どうしてわたしはわたしのからだ をだまっていたちに呉れてやらなか ったらう。そしたらいたちも一日いきの びたらうに。どうか神さま。私の心をご らん下さい。こんなにむなしく命をすて ずどうかこの次にはまことのみんなの 幸のために私のからだをおつかひ下 さい。って云ったといふの。そしたらい つか蠍は自分のからだがまっ赤なうつ くしい火になって燃えてよるのやみを照 らしているのを見たって。いまでも燃え ているってお父さんが仰ったわ。ほん たうにあの火それだわ。」 「さうだ。見たまへ。そこらの三角標は ちゃうどさそりの形にならんでいるよ。」 宮沢賢治 |
銀河鉄道の夜・カムパネルラとの別れ みんなもぢっと河を見ていました。 誰も一言も物を云う人もありませんで した。ジョバンニはわくわくわくわく足が ふるえました。魚をとるときのアセチレ ンランプがたくさんせはしく行ったり来 たりして黒い川の水はちらちら小さな 波をたてて流れているのが見えるので した。 下流の方の川はば一ぱい銀河が大 きく写ってまるで水のないそのままの そらのやうに見えました。 ジョバンニはそのカムパネルラはも うあの銀河のはづれにしかいないとい ふやうな気がしてしかたなかったのです。 宮沢賢治 |
![]() |
![]() |