和文の階層的認識構造と複文

白井 諭  NTTコミュニケーション科学研究所

池原 悟  鳥取大学 工学部 知能情報工学科



[ 第3回「言語・認識・表現」研究会, pp.57-64 (1998.8). ]
[ In Proceedings of 3rd Meeting of Language, Cognition and Expresssion, pp.57-64 (August, 1998). ]



INDEX

     1 はじめに
2 文要素の依存構造
3 依存構造認定の課題
4 基本文構造の収集
5 接続関係の分析
  5.1 従属節の性質
  5.2 係り受け解析向きの分類法
  5.3 従属節の性質
6 おわりに
  参考文献一覧



1 はじめに

言語処理の研究を通して,機械用辞書の開発を進めてきた。 初期は人間用辞書の流用して機械用辞書を構築した。 その機械用辞書の改良を通して,試行錯誤を繰り返しながら機械用辞書完成を目指す過程で, 人間用辞書の問題をより鮮明に感じるようになった。 従来の人間用辞書に感じる不満は主に次の点である。 基本的には「単語」の辞書であり,語法は補足されている程度である。 使用頻度の低い語は収録されておらず,あっても語釈は極めて簡単である。 使用頻度の高い語でも,あまり使われない語義は載っていないか,あっても簡単な記述にとどまる。 語義記述もいわばアナログ的であり,説明に用いる単語の循環が生じることも少なくない。 人間は経験に基づく類推や言い換えによってこれらの問題に対処していると考えられる。 しかし,それは機械処理では不可能であるため, その問題を生じさせない機械用辞書を構築する必要が生じた。 意味の体系化,大規模単語辞書,単語共起辞書である。 新たな発想の辞書を構築する上での一助となるよう, 機械用辞書の構築過程における課題克服の概要を報告する。




2 文要素の依存構造

話者は,対象世界に存在する実体・属性・関係を認識し,概念化することにより単語を選択し, 話者の主観を加えて表現を生成していると考えられる。 概念化の過程を経て対象を表す単語を詞とする。 概念化の過程を経ていないと考えられる表現を辞(助詞, 助動詞,陳述副詞,接続詞,感動詞)とする。 詞のうち,実体や関係を表す語を体言(名詞,代名詞), 実体や関係の属性を表す語を用言(動詞,形容詞)とし, 属性を付加する語を「相言」(連体詞,副詞)と呼ぶことにする。 実際の文では,ある品詞属性を持つ単語が組み合わさって文が構成されるというような 簡単な図式ではうまく説明できない現象が少なくない。 「品詞とは文要素の構成単位が持つ働きの分類であり, 最も小さい構成単位が単語である」と考えることにした。 文の骨格を構成する文要素は,いわゆる補語と述語である。 それに連体と連用の修飾語句が加わって基本文が形成されると考えられる。

述語
   叙述(実体のあり方;客体的表現)
   行為:する,使役(−せる,−させる)
現象:なる,−がる,受身(−れる,られる)
存続:ある
情態:形容詞,希望(−たい),様態(−そう)
事物:名詞,転生(−さ),伝聞(そう),比況(よう)
述定(話者の判断;主体的表現)
   肯定:φ(零判断辞),ます,だ
否定:ない,ぬ
既定:た,て
未定:う,よう,らしい,まい
伝達(話者の感情;主体的表現)
   話者方向:強意(ぞ),驚き(わ)
相手方向:疑問(か),確認(さ),禁止(な),命令 (含,命令形)
方向不明:詠嘆(なあ)

補語
   体言 :述語の叙述内容等を補完する実体や関係
副助詞 :実体に対する観念的前提の付加
格助詞 :実体のあり方の認識
副助詞 :認識に対する観念的前提の付加
係助詞 :認識に対する陳述の要求
間投助詞 :認識内容の確定




3 依存構造認定の課題

文要素の中心要素である詞の相互関係から文の構造を見ると,次のような関係対がある。

   関係対 働き
体−体 限定,並列,同格,主述,等
体−用 主述,等
用−体 埋込(第1種,第2種,第3種),引用系
用−用 接続,引用系
相−体 連体詞,副詞
相−用 副詞
相−相 程度

係り受け解析は,学校文法に基づく単語の品詞分類に従って, 係り受けの経験則を適用することにより行なわれてきた。 主に用いられるのは次の6つである。

     1. 前から後へ
2. 係りは1つ
3. 交差しない
4. 同種受けず
5. 直近に係る
6. 読点は先へ

現在でも多くはそれの改良型であると思われる。 上述の関係対のうち,出現頻度で9割程度は経験則に若干の改良を加えれば認定できる。 例えば,最大5項を見て補正を加える(白井1987), 例外規則を付加する,などが行なわれている。

白井諭(1987). 日英翻訳システムALT-J/Eにおける日本語文節間係り受け解析法. 情報処理学会第34回全国大会, 5W-5, pp.1251-1252.

経験則による係り受け多義(新聞記事100文)を分析すると 次のような特徴が見られる(白井1994)。

白井,横尾,木村,小見(1994). 従属節の依存関係を考慮した日本語係り受け解析の精度. 情報処理学会第49回全国大会,1G-10,Vol.3,pp.115-116.

有効不足余分 再現率適合率備考
連体(名→名)132- 25 100.0%84.1%注1
並列(名→名)42139 97.7%51.9%注2
埋込(述→名)69- 14 100.0%83.1%
格 (格→述)3644142 98.9%71.4%
副詞(副→述)27- 13 100.0%67.5%
接続(述→述)87158 98.9%60.6%
   合計7216239 99.2%71.1%
(注1)うち同格5件  (注2)うち同格2件

この方法には次の問題点がある。

基本的に2項関係しか見ないため,多項関係を考慮すべき場合は関係認定に失敗する。 体用相すべてを同じ枠組みで扱おうとするため,小回りがきかない。

CFGでは基本的に2項関係の処理しか行なえないが,一概に否定することはできない。 高速な処理が可能であるため,適用領域をうまく選定すれば強力な武器になる。 しかし,言語現象を追求する立場では適当な方法とは思えない。 多項関係を分析していく必要がある。

また,体用相の特徴に応じて分析を深めていく必要がある。 現状は次の通りである。

   体−用  構文体系(池原1997)(→4節)
用−用 接続(→5節,接続語に着目した2項関係, 述語全体を見る多項関係へ展開中)
体−体 連体(3項関係を検討中(中井1998),2項関係(島津1985)(冨浦1995)は研究例あり)
並列(検討中,類似性による推定(黒橋1992)は研究例あり)
用−体 埋込(未検討,現在は構文体系(池原1997)を準用)
相−用 副詞(翻訳の観点からの副詞の分類(小倉1995))
相−体 (未検討)

池原,宮崎,白井,横尾,中岩,小倉,大山,林(1997). 日本語語彙大系. 岩波書店.

島津,内藤,野村(1985). 日本語文意味構造の分類 −名詞句構造を中心に−. 情報処理学会 自然言語処理研究会, 47-4, pp.25-32.

冨浦,中村,日高(1995). 名詞句「NPのNP」の意味構造. 情報処理学会論文誌, Vol.36, No.6, pp.1441-1448.

中井,池原,白井(1998). 「の」型名詞句における名詞間の意味的係り受け規則の自動生成. 言語処理学会第4回年次大会, C2-4, pp.221-224.

小倉,白井,池原(1995). 日英機械翻訳の副詞翻訳. 電子情報通信学会技術研究報告, NLC94-44, pp.1-8.

黒橋,長尾(1992). 日本語文における並列構造の推定. 情報処理学会論文誌, Vol.33, No.8, pp.1022-1031.




4 基本文構造の収集

石綿らの結合価の考え方(石綿1983)を参考にして,次のような経過で, 基本文構造として格要素と述語の組み合わせを日英対訳形式で収集してきた(白井1997)。

石綿,荻野(1983). 結合価から見た日本文法. 文法と意味I(水谷,石綿,荻野,賀来,草薙 著)(第2章). 朝倉書店.

白井,横尾,中岩,池原,宮崎(1997). 日英機械翻訳のための構文辞書. 電子情報通信学会技術研究報告, NLC97-14, pp.45-52.

   a.和英辞書の対訳例文から
b.日本語辞書(IPA)の例文とその訳文から
c.内省による作例とその訳文(白井1997)から

IPA(1987). 情報処理振興事業協会 技術センター編, 計算機用日本語基本動詞辞書IPAL(Basic Verbs). 解説編 & 辞書編.

白井,池原,相澤,鳴海,横尾(1997). 結合価パターン対作成のための日英対訳用例文の収集. 情報処理学会研究報告, 97-NL-122-1, pp.1-6.

評価実験によれば,a.では十分なパターンが収集できなかったためb.に進んだ。 a.では十分なパターンが得られなかった理由として, 人間が和英辞書を引いたときに感じる問題と同様のことが考えられる。 即ち,1.単語が辞書に載っていない,2.単語は載っているが適当な用法が載っていない,である。

これに対して,b.は,使用頻度の高い語で, 和英辞書には載っていない語義を対象としたと思われる。

また,c.も,b.の延長で,使用頻度の高い語の用法の網羅性を追求していると考えられる。

次の課題としては,使用頻度の低い語の用法の網羅的収集が必要である。 対象としては,複合和語動詞,ナ型形容詞,サ変動詞などが考えられる。 現在,複合和語動詞の用例の収集を終え(現在,収集結果の分析中), ナ型形容詞の用例の収集を進めている。

白井,大山,武智,分部,相澤(1998). 複合和語動詞に対する日英対訳用例文の収集について. 情報処理学会第57回全国大会, 5R-7, Vol.2, pp.267-268.

ただし,国語辞書には最新の言葉が収録されていないため, 新聞などを利用して補完する必要がある。

荻野綱男(1996). 言語データとしての話者の内省・CD-ROM・国語辞書の性質 −サ変動詞の認定をめぐって−. 計量国語学, Vol.20, No.6, pp.233-252.

用例は次のようにして作成する予定である。

   @ 現代国語例解辞典(林(1985))に収録されている複合和語動詞を対象とし, 辞典の語釈や例文,または類推により例文を作成する。
A 動詞のニュアンスが異なるものを例文として広く集めることとし, 可能な限り「一般的で単純な名詞を格要素に持つ単文」とする。
B 動詞が終止形である例文だけでなく, 連用形や連体形のものも必要に応じて収集する。
C 例文が思いつかなくなるまで作成を行なう。 (動詞1語あたり2文を例文作成の目標にする。)
D 収集された日本語の例文を, 日本語原文に忠実でかつ英語として十分通用することを条件に, 翻訳家に英訳してもらう。 忠実な訳が困難な場合は最小限度の意訳は許容する。

林(1985). 現代国語例解辞典. 三省堂.

複合和語動詞としては,和語動詞2つが組み合わさって1語化した「踏み出す」 (“とりかかる”の意味の場合)のようなものを当初は想定したが, 接頭語+動詞(相次ぐ,等),名詞+接尾語(油染みる,等)のほか, 動詞転成名詞を含むサ変動詞(一本立ちする,受け答えする,等)も含めることにした。

ステップ@により,(広義の)複合和語動詞として2,542語が抽出された。 このうち,IPAL動詞辞書(IPA(1987))と一致する14語(あがく,等)は対象外とし, 用例が思いつかない語や現代語としてあまり使われない語 (例えば,あやどる)は例文作成作業を進める過程で適宜除外した。 この結果,最終的には動詞2,105語に対して3,717用例文が作成された。 動詞1語あたりの作例文数は次の通りである。 作例文数は,「うちこむ」「とびだす」の各9件, 「いれかえる」「ひっかける」の各8件などと予想より多く作成された反面, 1例文のみのものが1,062語となった。

作例数   9     8    7     6    5     4    3     2    1
動詞数22312 25792476731062

ステップA〜Cの作例の作業過程において, 複合和語動詞の語義解釈に個人差が生じる場合があることがわかった。 例えば,「こづきまわす」では,極めて大きなダメージを受けると感じる人と, 結果としては大したダメージではないと感じる人とがいるようである。 複数の作業者が作例文を相互チェックすることにより,中立的な文になるように努めた。

ステップDの用例文の英訳はかなり困難な作業である。 翻訳家はまとまった文章を,文の流れに沿って,意訳を織り交ぜながら英訳するのが普通で, 1文ずつ独立した表現を忠実に翻訳することはまれである。 このため,作業効率があまり上がらないことが問題となった。

しかし,それよりも,日本語で類似した表現が並んでいることの方が問題となった。 日本人翻訳家は日本語のニュアンスの違いを感じても その違いを英語では表現し切れないことがあり, 逆に英米人翻訳家は日本語のニュアンスの違いを感じ取れないことがある。 試行錯誤の結果,日本人翻訳家と英米人翻訳家がニュアンスの違いについて 意見交換しながら作業を進められる場合に最もよい結果が得られることがわかった。




5 接続関係の分析

新聞記事文や論文等の技術文を構文解析する上での課題として, 長文に対する適用性を高めることが必須である。 文が長くなるのは,主として,従属節や並列関係の句が多いことに起因する。

このうち,従属節の相互関係については,南不二男が言語学的な観点から考察を行なっている。 そこで,その考察に基づいて,新聞記事文への適用を目的として, 言語処理の観点から従属節の相互関係について分析を行なった。

白井,池原,横尾,木村(1995). 階層的認識構造に着目した日本語従属節間の係り受け解析の方法とその精度. 情報処理学会論文誌, Vol.36, No.10, pp.2353-2361

白井,畑山,木村,十河,横尾,池原(1998). 係り受け解析のための日本語述語句の細分類. 言語処理学会第4回年次大会, C1-4, pp.85-88




5.1 従属節の性質

南は,述語表現に現れる助動詞や助詞の種類の違いに着目して,従属節を次の3種類に分類した。

南不二男(1964). 複文. 講座現代語6(時枝・遠藤監修). 明治書院.

南不二男(1974). 現代日本語の構造. 大修館書店.

南不二男(1993). 現代日本語文法の論郭. 大修館書店.

   A類: 「〜しながら」等。
B類: 「〜たら,〜と,〜なら,〜ので,〜のに,〜ば, 〜て(従属的用法)」等。
C類: 「〜が(順接),〜から,〜けれど,〜し,〜て(独立した用法)」等。

南は,さらに,上記の3種類の従属節間に,下記の強い傾向があることを指摘した。

   A類は, 他のA類,B類,C類の一部となることができる。
B類は, 他のB類,C類の一部となれるが,A類の一部とはなれない。
C類は, 他のC類の一部とはなれるが,A類,B類の一部とはなれない。




5.2 係り受け解析向きの分類法

(1)従属節の種類

言語処理の立場から節を分類すると,主節のほか, 連用節,連体節,引用節の3種の従属節に分けられる。 このうち主節は,他の節の係り先にはなるが係り元にはなり得ない。 連体節は述語の活用形などの文法的性質によって係り先が明確に決まる。 引用節は引用の助詞等を伴うことが多く,係られる側の動詞のタイプが限定されるなど, 形態的にその係り先がほぼ明確である。 従って,述語間の係り受け解析で問題となるのは,係り元が連用節である場合,すなわち, 連用節から連用節へ,連用節から連体節へ,連用節から引用節への3つの係り受け関係である。

(2)従属節の再分類

南が指摘した関係を,従属節の中心的要素である述語間の係り受け決定に利用することを考える。 南の分類では,接続が順接か逆接かなど,意味的な判断を必要とするが, 構文解析段階でそれを判断し,分類するのは困難である。 そこで,南の分類の主旨を生かしながら, 語尾表現をより長単位で分類した「述語句」を分類の基本単位とし, 意味的判断の困難な表記はデフォルトの解釈で分類することとした。 新聞記事(日経産業新聞,情報欄,311記事970文, 平均45.9字/文)を対象にした分析結果に基づいて,従属節の述語句を次のように再分類した。

   A: 「〜しつつ」,「〜することに加え」など,「同時」の表現。
B: 「〜するので」などの「原因」,「〜して」,「〜することで」等の「中止」の表現。
C: 「〜するし」などの「独立」の表現。

この分類では,表層的に明らかにAまたはCと判定できるもの以外はBに分類した。 また,接続助詞「が」には, 順接(分類C)か逆接(分類B)かの判断に迷うものが少なくなかったが, この決定には意味的な判断を必要とする上,人によって(同じ人でも)判断が揺らぐことから, 一種の前置き的表現と考え,Cに分類した。 例えば,次のような文である。

    
旧モデルは五インチのFD二台分のドライブを 装備していただけだったが、 今回のモデルはこれに加えて大容量のHDDを内部に組み込んだもので、 アクセス時間を短縮し、記憶容量に余裕を持たせた。
(注記) 意味的には, この「〜が、」は逆接と考えられるので「〜もので、」に係るとすべきであろう。 しかし,“新聞記事として読む”場合には, この「〜が、」を前置きとして読んでいるように思われる。
    

従って,南の分類に比べBの範囲が広くなっているが, 分類相互の包含関係の傾向は保存されていると期待される。 なお,以下では特に必要ない限り「述語」を「述語句」の意味で使用する。

(3)読点の有無による分類

述語間の係り受けに曖昧さが生じるのは,2つ以上 の従属節がある場合である。そこで,新聞記事からその ような文を抽出して,各従属節の出現頻度を調べたとこ ろ,Aが10%余り,Bが80%余り,Cが5%余りで,圧倒的 にBが多いことが分かった。

ところで,書き手が解釈しにくいと思った文には読点を入れる傾向があり, 係り受け解析では「読点を伴う文節は直後には係りにくい」という経験則として利用されている。 そこで,従属節を含む長文ではその傾向が強いのに着目して, 従属節A,B,Cの分類に,読点の有無を加味した6種類の分類を考える。 書き手が読点を付与した従属節は,それだけ遠くに係る可能性が強い, すなわち,独立性が強いと考えられるから,それぞれの従属節の包含関係は,
   A ⊂「A+読点」⊂ B ⊂「B+読点」⊂ C ⊂「C+読点」
となることが予想される。

新聞記事の場合,Bの従属節のうち,読点を持つものと持たないものは,ほぼ同数である。 従って,読点を考慮したことにより,B相互の係り受けの約半数は, 曖昧なく決定できると期待される。

(4)連用節の中止性

上記の分類では,B同士,「B+読点」同士の係り受け関係は決定できない。 これらの語尾の表現は,新聞記事を対象にした調査では,ほぼ下記の形式に限定される。

   〜し(用言連用形),〜して,〜(する/した)もので,〜(する/した)ことで, 〜しており,(名詞)で,その他

これらのうち,「し」「して」のタイプは中止性が弱く, 行為の連続,並行,順序等の意味に使用される傾向が強い。 それに対して,「もので」「ことで」「しており」のタイプは前置き的な内容を表し, 主題の変わり目に使用される中止性が強い表現であると考えられる。 中止性の強い述語ほど遠くに係る傾向があると推定されるから, 以下のヒューリスティックスを導入する。

連用節述語のうち,中止性の強いB類の述語は,他の連用節述語を飛び越える。 逆に,他の述語は,次に現れた連用節述語に係る。
連用形の単独型は,他の連用形の単独型を飛び越えないで,それに係る。

(5)述語の状態性と動作性

連用節のうち,B類同士,「B+読点」類同士の係り受けを決めるため, 次に,述語の状態性もしくは動作性に着目する。 述語は,その動作性から見ると,動作性の強い順(状態性の弱い順)に, 他動詞性,自動詞性,形容詞性,名詞性の4種の述語に分類することができる。 但し,使役系の表現は他動詞性,受身系の表現は自動詞性とする。

読者に分かりやすくするため,書き手は主題や動作主体を統一的に捉えて表現する傾向があるため, 動作性の述語と状態性の述語が同一レベルで表現されることは少ない。 また,状態性の強い述語は,動作性の強い述語に包み込まれる傾向を持つ。 これらの傾向に着目して,以下のヒューリスティックスを設ける。

動作性の強い述語は, 動作性の弱い述語を飛び越し, 動作性の弱い述語は,動作性の強い述語に係る。

ところで,連用節の中には, 用言が格助詞相当語の一部として使用される「〜と比べ(〜より)高い値段」のようなものがある。 このタイプの連用節は,他の述語の格要素として使用されたものである。 そのため,述語間の係り受けとしてではなく,格関係に準じて扱う必要がある。 これらは,南がA類に分類した「〜て」などに相当すると考えられ,助詞相当表現とも呼ばれる。 助詞相当表現に使われる動詞は比較的限定されていることに着目して, 動詞の字面そのものと,述語句の前後,特に直前の格要素を見ることにより, 新たに従属型として分類する。

(6)引用節と連体節

連用節と引用節の関係を見ると,「〜すると(発表する)」などの引用節は独立性が高いため, 連用節が引用節を飛び越えて他の節に係ることは考えにくい。 しかし,「〜するよう(依頼する)」など,様態化し独立性が弱められた引用相当節の場合は, 飛び越えられる可能性もある。 そこで,次のルールを設けた。

引用節述語は,連用節述語の「C+読点」に準じる。
引用相当節述語は,「B+読点」に準じる。

次に,連用節と連体節の関係を見る。 連体節を形式名詞「もの,こと,の」を伴うもの(〜したもので,〜することで,など)と その他の名詞性のものに分けて考えると,形式名詞を伴う連体節は, 対象を捉え直すために形式名詞が使用されたとも考えられるので, 連用節がこれを越えて他の述語に係ることは考えにくい。 これに対して,普通の名詞性の連体節の場合は,必ずしもそれが係り先になるとはいえない。 以上から,連体節述語の扱いは,以下の通りとする。

形式名詞に係る連体節述語は,連用節の「B+読点」に準じる。
通常の連体節述語は,Bに準じる。




5.3 従属節の性質

以上をまとめると次表のようになる。 ただし,この分類は新聞記事に見られる一般的傾向を整理したものであり, 個別に見ると判断が揺らぐ場合が少なくないことを断っておく。

種類分類
従属節連用節 A(読点なし)従属型
通常
A+読点従属型
通常
B(読点なし)従属型動作性
通常他動詞性
強中止自動詞性
B+読点従属型形容詞性
通常名詞性
強中止
C(読点なし)
C+読点
引用節引用相当節 (→B+読点)
通常の引用節 (→C+読点)
連体節一般名詞型 (→B)
形式名詞型 (→B+読点)
主節




6 おわりに

言語処理は文法処理を中心に行なわれてきたが, 文法とは言語現象を汎化した際に見られる共通的現象に過ぎず, 実用性を目指す上では共通性から外れた「例外」への対処が必須であった。 人間が母語を使用する際には文法を意識することはまれであり, 普段は語の意味的制約を利用していると考えられる。 即ち,意味的制約を重点的に研究する必要がある。

また,これまでの辞書は,人間用,機械用を問わず,単語レベルの記述にとどまっていた。 コーパスの発達とともに,言語研究が文レベルへと拡大しつつあるが, 単語の組み合わせを単位とする辞書に関しては,記述単位,記述内容ともあまり研究例がなく, ほとんど手探り状態である。

依存関係は多種多様であり,その分析や体系化は始まったばかりである。 言語学,言語処理とも単語レベルの記述を超えた辞書を必要としており, 密接に協力して構築していく必要がある。




参考文献一覧

(本文中に掲載したものを再掲)

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