機械翻訳システムにおいてユーザにあった正しいスタイルで翻訳を行なうため あらかじめ用意したテンプレートを用いて翻訳を行なう方法が知られている。 このようなシステムに用いる定型的パターンを人手によって抽出することは容易でなく、 これらを機械的に抽出することが必要となる。 本稿では、原データに対して変換を行った後に、 n-gram統計処理による共起表現の抽出をすることで、 長単位の定型パターンを抽出する手法について提案する。
自動抽出, 定型表現, コーパス, n-gram
In machine translation a useful method for translating repetitive text is template translation, that is using fixed templates with only a few variables. However, it is hard to compile these templates by hand. This paper describes a method of automatic extraction of template patterns from Japanese corpora using n-gram after replacing potential variable elements with tokens.
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| 1 はじめに | |
| 2 n-gramによる共起表現抽出時の問題点 | |
| 3 データ変換を用いた抽出処理 | |
| 3.1 データ変換手法 | |
| 3.2 連鎖共起表現の抽出 | |
| 3.3 離散共起表現の抽出 | |
| 4 おわりに | |
| 参考文献 |
近年、パーソナルコンピュータおよびインターネットの普及に伴い、 機械翻訳システムへのニーズが高まりつつあり、 それに合わせて、安価で操作性の良いシステムが供給されてきている。 このような形態で個人が補助として機械翻訳システムを使用する場合、 訳文の意味が正しければ、実用上大きな間題はない。 しかしながら、翻訳を業務として行なっている部所においては、 文書も専門的な内容で、訳すべきスタイルや言い回しが定められていることが多く、 単に翻訳が正しいのみならず、その訳文がスタイルに沿っているか、 十分にこなれた文章であるかどうかが問題とされる。 たとえ機械翻訳が正しい訳を出したとしても、 その表現が通常のスタイルと大きくかけ離れていれば、結局その訳文は使用されない結果となる。
通常、日英機械翻訳を行なう場合、多くの種類の文章に対応するため、 形態素解析、構文解析と順に、辞書情報、文法情報を用いて、英文に変換する方法をとる。 この方法をとった場合、最終的な翻訳のスタイルを定めることは難しく、 また、専門分野における独特の言い回しに対処することも困難であり、 有用な翻訳文をなかなか得ることが出来ない。 これらに対応するには、その分野における定型的な表現パターンを とらえて翻訳を行なう仕組みを合わせ持つことが必要となる。 しかし、このような定型的パターンを人手によって抽出するのは用意ではない。 そのため定型パターンをコーパスから機械的に抽出する手法が各所で 研究されている[1] [2]が、 とれらの方法は対象となるテキストが単語単位に分割されていることが前提とされており、 日本語のような原語では事前に形態素解析などにより分割をしておく必要があった。
これに対して長尾らによって提案された、テキストに対してn-gram統計処理を行ない、 テキストデータ内の文字列をその文字長の順および出現頻度の順に抽出する 手法[3]は事前の処理を必要としないものであった。 この手法においては、断片的な文字列がかなりの割合で混在すると言う問題があるが、 これを解決する手法として相互に重複する文字列を除去する方法[4]、 エントロピー基準を用いる方法[5]などか提案されている。 本稿では、このn-gram統計処理を用いて日英機械翻訳で定型パターンとして扱うべき表現を 自動的に抽出する手法を提案する。
我々は日経新聞社のオンラインサービスで提供されている市況速報記事に対して n-gram統計処理を適用し、定型パターンを抽出する方式についての検討を行なった。
この市況速報データには市況情報特有の言い回しや、 操り返し現れる定型的パターンが頻出するため、 定型的パターンを利用しての機械翻訳を行なうことが適していると考えられる。 文献[4]におけるn-gram統計処理を市況速報記事9カ月分(95.6-96.2、 記事数6,315、文字数1,460,112)に適用した結果、表1のような結果が得られた。
| 文字列長順 | 頻度順 |
| 先週末のニューヨーク市場では ... %に急低下した(96文字、頻度2) 8時50分に発表時間が変更に ... ドル買いに動いた(77文字、頻度2) 7月のドイツの通貨供給量M3 ... 買い・マルク売りが(69文字、頻度2) | ただ、(187) 市場では(126) という(81) 円相場はもみあい(63) 小動き(59) 一方、(58) 円相場は小動き(53) |
文字列長から見た場合、10文字以上の長さをもつ文字列はほとんどが頻度5以下であり、 定型パターンとみなせるだけの意味のあるデータとはならなかった。 また、頻度順に見た場合、意味のある単語が抽出されているため、 離散型の共起表現の抽出を試みたが、要素数2の場合でも、ほとんどが頻度2しかなく、 意味のある文型を抽出することは出来なかった。 また、弱抑制型連鎖共起表現抽出方式[6]による抽出も大きな差異は 得られなかった。
これらの連頻および離散共起表現の抽出結果を分析した結果、 以下のことが原因であることが分かった。
| 例 | いずれも順度6 |
| 例 | いずれも願度7 |
前記問題を解決するため、あらかじめ問題となるデータを別の文字列で置き換えることにより、 抽出効果をあげる手法を考案し、実験を行なった。
問題と考えられた数量、固有名詞表現に加え、文型を乱してしまう引用文や、 括弧なども同時に置き換えの効果を検討した。 置き換えにあたっては単純な字面レベルでの置き換えを行なうこととした。 具体的には、数字列、括弧、引用文に関しては正規表現処理によって置き換えた。 固有名詞に関しては、人名や、役職名などを認定して置き換えることも可能であるが、 大量のデータに対して形態素解析を行なうのは、時間的、労力的に問題があるため、 字面レベルでの置き換えを行なった。 また、企業名に関しては、会社四季報や、 新聞の株式面などから簡単にリストを作成することが出来るため、 それを用いて変換を行なった。 実際の変換リストにはデータの一部から抽出した企業名も加えて置き換えを行なった。 このような方式で単純に置換えを行なったため、 置き換え後のデータの中にも企業名が一部そのまま残ってしまったり、 企業名以外の部分も置き換えてしまっているが、 十分体量のデータを対象とすれば統計誤差とみなすことができる。
前節でのデータ加工を行い、連鎖共起表現を求めた続計結果を表2に、 実際に抽出されたデータ例を表3に示す。 なお、表3 における文字列長順、頻度順の抽出結果の例示にあたっては、 その変換の効果を如実に表すデータをピックアップしている。 たとえば、実際には、最長の抽出文字列はすべての変換方法において、 原データからのものと一致しているが、例示ではそれは省略している。
| 加工法 | 種類数 | 総度数 | 平均文字列長 |
| 原データ | 101,566 | 236,817 | 8.5 |
| 数字変換データ | 81,843 | 196,352 | 9.0 |
| 企業名変換データ | 94,981 | 221,130 | 8.8 |
| 企業名重複変換データ | 94,544 | 221,040 | 8.6 |
| 括弧内省略データ | 97,827 | 229,757 | 8.3 |
| 引用文変換データ | 94,817 | 220,150 | 8.6 |
| 全変換適用データ | 66,019 | 160,414 | 9.2 |
| 加工法 | 文字列長順 | 頻度順 |
| 原データ | 先週末のニューヨーク市場では ... %に急低下した(96文字)(2) 8時50分に発表時間が変更に ... ドル買いに動いた(77文字)(2) 7月のドイツの通貨供給量M3 ... 買い・マルク売りが(69文字)(2) | ただ、(187) 市場では(126) という(81) 円相場はもみあい(63) 小動き(59) 一方、(58) 円相場は小動き(53) |
| 数字変換 | TOPIX先物数月物は同数ポイント安の数ポイント、 日経数先物数月物は同数ポイント安の数ポイントで 前場の取引を終えた(11) 売買が成立したのは数銘柄(値付き率数%)で、 このうち値上がり数、値下がり数、変わらず数、 比較できず数だった(16) 日銀は数日数時数分、 短期金融市場で手形買いオペ数円(期日数月数日、 レート数%)を通知した(21) | ただ、(187) 売買高は数枚(182) 前日比数銭円安・ドル高の数ドル= 数円数−数銭で取引されている(145) 売買高は概算数株(111) 数日続伸(106) という(81) 売買の成立した数銘柄(値付き率数%)のうち、値上がり数、 値下がり数、変わらず数、比較できず数だった(73) |
| 企業名変換 | 企、企、企、企、企、企が売られ、 企、企、企、企、企、企、企、 企、企、企(2) | (企)という(268) ただ、(186) 市場では(126) (企)(91) という(81) 円相場はもみ合い(63) (企)との声が聞かれた(59) 一方、(56) 円相場は小動き(53) 商いは低調(53) 企、企が軟調(43) |
| 先週末のニューヨーク市場では ... %に急低下した(96文字)(2) 8時50分に発表時間が変更に ... ドル買いに動いた(77文字)(2) 7月のドイツの通貨供給量M3 ... 買い・マルク売りが(69文字)(2) | (企)という(268) ただ、(186) 市場では(126) 連企も安い(108) 連企も高い(101) (企)(91) という(81) 連企が軟調(77) 円相場はもみ合い(63) 連企が売られ、連企も安い(30) | |
| 括弧内省略 | 先週末のニューヨーク市場では ... %に急低下した(96文字)(2) 8時50分に発表時間が変更に ... ドル買いに動いた(77文字)(2) 7月のドイツの通貨供給量M3 ... 買い・マルク売りが(69文字)(2) | という(556) ただ、(187) 市場では(126) との声が聞かれた(95) との声も聞かれた(76) との見方が多い(74) |
| 引用文変換 | 先週末のニューヨーク市場では ... %に急低下した(96文字)(2) 8時50分に発表時間が変更に ... ドル買いに動いた(77文字)(2) 7月のドイツの通貸供給量M3 ... 買い・マルク売りが(69文字)(2) | 引(498) 円相場はもみ合い(62) という(60) 小動き(59) 市場では引(57) ただ、引(56) 円相場は小動き(53) 高いは低調(53) |
| 全加工法適用 | TOPIX先物数月物は同数ポイント安の数ポイント、 日経数先物数月物は同数ポイント安の数ポイントで 前場の取引を終えた(11) 数時数分現在の概算売買高は金が数枚、銀は数枚、 白金、パラジウムはそれぞれ、数枚、数枚となった(10) | 引(525) という(308) 売買高は数枚(182) 前日比数銭円安・ドル高の数ドル= 数円数−数銭で取引されている(145) 数日続伸(138) 引という(123) 前日比数銭円高・ドル安の数ドル= 数円数−数銭で取引されている(112) 連企も安い(110) 連企も高い(110) |
全データ変換適用後のデータに対しては、強抑制型連鎖共起表現抽出とともに、 弱抑制型連鎖共起表現抽出を合わせて行なった。 その結果から離散共起表現の抽出を行なった結果の一部を表4に示す。
| 文字列長順 | |
| アジアのディーラー間ドル建て相場は数字トロイオンス数字ドル台後半 下落している | |
| アジアのディーラ一間ドル建て相場は数字トロイオンス数字ドル台後半 強含んでいる | |
| アジアのディーラー間ドル建て相場は数字トロイオンス数字ドル台後半 弱合んでいる | |
| アジアのディーラー間ドル建て相場は数字トロイオンス数字ドル台後半 上昇している | |
| アジアのディーラー間ドル建て担場は数字トロイオンス数字ドル台後半 推移している | |
本実験においてはなるベく、長い表現を収集するような設定で行なったため 収集された多くの表現は文の一部だけが欠けた形式となっている。 たとえば、最後の行の、「ドル台後半」 と 「推移している」の間には、 「で」 「で軟調に」などが入っている。 これらの抽出結果を逆に使用するととにより、変数 となり得る表現の組を求め、 定型パターンの作成に利用することが可能である。
例えば、次のような3 つの文があった時、
前場はAAAが売られた。
前場はB B Bが売られた。
前場はC C Cが売られた。
離散共起表現を求めると
前場は が売られた。
となる。 この結果から逆に「AAA」「BBB」「CCC」が同じ属性を持つ単語ではないかと推測でき、 これらを定型的パターンの中の変数部分として扱うといったことが可能になる。
本稿では、原データに対して変換を行った後に、 n-gram 統計処理による共起表現の抽出をすることで、 長単位の定型パターンを抽出する手法について提案し、その効果を示した。 また、離散共起表現のデータから、同じ属性を持つ単語を推測し、 定型的パターン内の変数として扱う手法を提案した。 今後は、 得られたデータを元に文の範囲を越えた定型パターンの抽出方法について検討を進めていく。 また、日本文記事に対する英文記事もサービス上で提供されており、 それら記事間を自動的に対応付けする方式[7]についても 研究されているため、今後、自動的対訳テンプレート作成についても検討していく予定である。