| １ はじめに | |
| ２ 翻訳対象日本文の傾向 | |
| ３ 文の対応付けアルゴリズム | |
| ４ おわりに | |
| ＜謝辞＞ | |
| ＜参考文献＞ |
機械翻訳などの研究において，大量の対訳コーパスの必要性が指摘されている。 その実現には，一般的なデータを効率よく大量に収集すること， また，日英のように言語ギャップが大きい場合は， 特に，効率よく表現を対応付けることなどが直面する課題となっている。
新聞記事を対象とすれば継続的にデータを収集できるため，データ量の問題は解決される。 また，日本経済新聞社のテレコンＤＢから得た日英新聞記事の比較によれば， 英文記事は日本文記事の単純翻訳ではないが，ほとんどの英文には内容の対応する日本文があり， うち５割は格要素なども対応づけることができる[白井95a]。
対訳テキストに含まれる文を対応づけるには， 統計的情報や対訳辞書の利用が有効であることが知られている[Brown 91, Chen 93,Utsuro 94]。 しかし，直訳的に対応付けることができない日英の新聞記事に単純に適用することはできないと 思われる。
本稿では，日本文記事と英文記事に含まれる文の対応を分析し，日英記事の違いを明らかにする。 さらに，その分析結果に基づいて， 直訳的にまたは意味的に対応する表現を自動的に抽出するための方法を提案する。
テレコンＤＢでは，日本文記事（日経四紙）はテレコンＢＩＺに， 英文記事（速報）はテレコンＯＮＥに収録されている。 まず，日本文記事と英文記事の表現の対応関係を調査した。 結果を表１に示す。 対応箇所のうち約1/4が１文対応，残りが部分対応であった。
| 対応の分類 | 直訳的 | 意味的 | 対応なし |
| 対応箇所数 | 4.36 | 2.82 | − |
| 日本文字数 | 243.9 | 167.7 | 537.6 |
| 英文Bytes | 498.0 | 352.3 | 24.5 |
「直訳的対応」とは述語句・名詞句などの文要素の対応付けが可能なものを指す。例えば「Ｘ社の九四年九月中間期の経常利益は百六十億円前後になる見通しだ。」と "Company X will likely post roughly 16 billion yen in pretax profits for the half year through September." では主語の立て方は異なるが，それ以外はおおむねよく対応するので，本稿では直訳的対応として集計した。
英文と対応のとれた日本文の位置を表２に示す。日本文記事の第１段落（リード）は英文ともよく対応するが，対応しない文は，�仝綵个涼瞥遒剖饌療�な数値が提示されている，�◆屐銚�方も出ている」など記者の推測と考えられる，などに分類される。また，第２段落以降で英文と対応した文は，�／�量・組織名などを含む，�⇒�由や背景を説明している，などである。逆に，対応日本文のない英文記事の文は，�ヾ覿箸了�業内容などを補足する，�� "the sources said" のように取材源を示す，などでで，日本文記事では通常記述されない内容と云える。
| 段落順 | １ | ２ | ３ | ４ | ５ | ６ | ７ |
| 文数 | 175 | 131 | 143 | 98 | 65 | 26 | 2 |
| 英訳有 | 138 | 79 | 44 | 26 | 12 | 5 | 0 |
| 比率 | 78.9% | 60.3% | 30.8% | 26.5% | 18.5% | 19.2% | 0. % |
前節で示したように，日本文記事は英文記事より平均的には長いので， 前稿[白井95b]と同様に英文を基準にして対応する日本文を抽出する。 また，部分的な対応が多いので，長文分割を行なう必要がある。 日本文分割には既報[白井95c]の述語句の独立性を応用する。 英文分割は今後の課題であるが， 当面は対応のとれない部分があればその前後のカンマで分割することで対処する。
以上から，次の手順により文の対応付けを行なう。 ただし現在は最終的には人が判断することを前提とする。
| �� | 翻訳対象から外れやすい日本文をマークする | |
| �� | 特定の語尾表現に着目して日本文の分割を行なう | |
| �� | 「同社」等を特定する | |
| （以上，記事内の全日本文に対する前処理） | ||
| �� | 英文を１文取り出す | |
| �� | 大文字含有語（組織名等）を抽出し日本語変換する | |
| �� | 数値と�イ離�ーワードが一致する日本文を抽出する | |
| �� | その他のキーワードの対応により候補を絞り込む | |
| �� | 上記の�，妊沺璽�した文を対応候補から除去する | |
| �� | 対応がとれないカンマで区切られた範囲を分割する | |
| �� | 一般的なキーワードが対応する日本文を抽出する | |
| （以上の�ぁ銑�の手順を繰り返す） |
机上検討では，ほぼすべての英文に対して１〜２件の日本文の対応候補が得られた。 直訳的対応の場合は候補の取捨は容易である。 しかし，直訳的か意味的かの切り分けや意味的対応の候補の選択， 部分対応の範囲の決定に迷う場合があり，その対策については検討中である。
本稿では， 対応する日英新聞記事から直訳的または意味的に対応する(部分)表現を検出する方法を提案した。 今後は，対訳コーパスの実現に向け，処理系を実現するとともに， アルゴリズムの改良を行なう予定である。
本検討にご協力くださった矢部孝幸氏，青柳恵美子氏を始めとするＮＴＴアドバンステクノロジの各位に感謝する。