第一章
時は西暦13000年。
世の中は科学が発達し、人類は頂点を極めた。
だが、環境は悪化し、人間以外の動物はほとんど死に絶え、砂漠化した所は数知れなかった。
人類は驕り高ぶり、自分達が開発した物で自らを滅ぼしてしまったのだ。
それは
核
という名の悪魔の兵器だった。
そう、その悪魔をまきちらすスイッチ。
決して押してはならないスイッチを押してしまったのだ。
間違いと言っても当然聞いてはくれず、世界中を巻き込む核戦争へと発展していった。
そして地球は死の星となった。
ほとんどの人間は巻き込まれ、放射能を浴びて死んだ。
有る裕福な者はシェルターの中に入ったが一生を狭い空間で過ごす事になった。
また有る者は新たな聖地を求め、宇宙へと飛び立った。
宗司らもその内の一握りである。
宗司らは旧友と同窓会をしていたが、宗司らの国は戦争が始まる日が一日遅くなり、助かったのだ。
宗司らもやはり仲間と共に宇宙へ飛び立った。
科学は発達していたから燃料の心配をする必要は無かったし、スピードも光速の99%という速度だった。
そんな宇宙を飛び回って生活している世の中に、有る奇妙な噂が流れていた。
「ギガンテス?」
ある部屋の一室で椅子にもたれ、机に肘をついてコーヒーを飲んでいる男が眉をしか
めた。
「ええ、みんなの中で凄い噂よ」
きりっと引き締まった身体で、美人の女が言った。
「それは」
男が一言を発しようとした時に、ある男が騒がしく駆け込んできた。
「宗司!ギガンテスって知ってるか?」
男はよほどあわてていたらしく、息を切らしてぜいぜいしていた。
宗司と呼ばれた男はもたれていた椅子から立ち上がり、二人に席を勧めた。
「蒼太か、今ちょうど湊とその話をしていた所だ。まぁコーヒーでも飲め。」
「あい、でも俺っちはコーヒー苦手だからジュースな」
さっき駆け込んできた男は冷蔵庫を開け、ジュースを取り出した。
ジュースをコップにあける。
「で、何の話だって?」
宗司が言う。
「おう!かなり有名な噂なんだけど。」
ジュースという名の液体を胃の中に流し込むと蒼太が大声で言った。
「この宇宙のどこかにギガンテスっていうお宝が有ってさ、そのお宝を手にした人物の一番の望みを叶えてくれるらしいぜ!」
「湊も、同じか?」
「ええ、全く同じよ、でもいろいろ説が有るみたい」
湊とは女の名前らしい。
「色々な説?どんなのだ?ちょっと待て、透も呼ぼう。」
宗司がベルのようなものを鳴らし、しばらくすると男が歩いて来た。
「ん〜、何なんだよ一体・・。せっかく寝てたのによ・・・」
頭をかくと、席に座った。
これで席には湊、宗司、蒼太、透という四人が座った。
「透、実はな」
「ん〜?どうせギガンテスだろ?蒼太があんな大声で話せば嫌でも聞こえるっつーの」
「何だ、知ってたのか」
蒼太の方をちらりと見ると恥ずかしそうに頭をかいている。
「でも聞こえてたって事は寝てねぇんじゃねぇか」
「まぁ、そういう事になるな」
「てめっ」
「蒼太!」
「あーい・・・」
「で、色々な説ってのは何なんだ?」
「ええ・・・。違う宇宙船の子が言ってたんだけど」
一旦コーヒーで口を潤してから湊は話し始めた。
「私が違う宇宙船の子と話してたの。そしたらその子がね。
(「ねぇねぇ湊!こっちの船で話題になってるんだけど、ギガンテスって知ってる?」
「ああ、名前くらいなら結構噂になってるわね。でも、詳しくは知らないわ」)
そういうと彼女は嬉しそうに話し始めたの。
(「あのね、ギガンテスってのは宝なんだって。でもお金とかそういう財宝じゃないの、石なんだって。石が願いを叶えてくれるそうなのよ。まるで賢者の石みたいね。それとも、ギガンテスってのは賢者の石の事なのかしら」
「ふ〜ん、そうなんだ。」
「あ、そうだ!ルリに替わるね」
「うん」
しばらくたつと、ルリに替わった。
(「おーっす湊!久しぶりだね」
「そうだね」
「元気?」
「うん・・・」
「元気無さそうだけどだいじょぶ?」
「あのさルリ。さっきギガンテスっていうのについて話してたんだけど、そのことについて知ってる?」
「ああ、ギガンテスか。母さんに聞いた話だとね。ギガンテスってのはとてつもない大巨人で、その巨人が願いを叶えてくれるらしいよ。でも、ギガンテスに会うには命がいくつあっても足りないとか言ってわ。」
「え、石じゃないの?」
「石?」
「うん、さっき言ってたんだけど」
「色々有るみたいよ、他にもそのギガンテスとは第二の地球の事だとか・・」
「そうなんだ。ありがとう。じゃあね」
「じゃあね」)
「と、こういう話なのよ」
湊はまたコーヒーで口を潤した。
「ギガンテスか・・・。話では聞いていたが色々有るんだな」
宗司が言った。
「謎に包まれてる」
「ギガンテスの事を詳しく知ってるやつ居ないかなぁ・・・」
「ディーノ・・・・」
誰かがつぶやいた。
「ディーノ!そうだ、ディーノに聞こうぜ」
蒼太が叫ぶ。
「ディーノか・・。恩を着せようとするからあんま好きじゃないんだがな。」
「まぁ、行ってみましょうよ。」
四人はディーノの部屋へ行ってみる事にした。
ディーノとは、宗司の近所に住んでいる限りなく日本人に近いアメリカ人である。
かなり物知りなので辞典を開くよりディーノに聞いた方が速いほどだった。
宗司の他三人も宗司に連れられて行った事が有る。
「おーい、ディーノ!居るか?」
宗司がドアをノックする。
「居まーす」
「入るぞ」
「OK」
ガチャッ
という音と共に扉が開いた。
「今日の用事は何ですかー?」
ディーノはソファーに座り、パソコンをしていた。
「ああ、今日は聞きたい事が有ってな」
「何です?」
「ギガンテス・・・。の事なんだけど・・」
宗司が言った瞬間、ディーノの肩が微かにふるえ、表情が一変したのを宗司は見逃さなかった。
ディーノは平穏を保っているような様子で対応した。
「オー、ギガンテス。今ちょうどその事について調べていた所です。」
「で、ギガンテスってのは何なんだ?」
「一般的には「宝」ギガンテスを手にした者にはその人の一番の幸せ、願いを与えてくれると言うのが定説でーす。そんなもの存在するわけが無いと言う人も居ますがギガンテスは実在しまーす。」
「何で分かるんだ?」
「過去にも例が有るからデース」
「過去に例?」
四人全員が眉をしかめる。ディーノは小声で
「大きな声じゃ言えませんが、あののヒトラーもギガンテスを手にしたとイイマース。ギガンテスの場所は願いが叶うごとに変わりまーす、ヒトラーやニッポンのノブナガやナポレオンなどもギガンテスを手にしたといわれていまーす。時の権力者は皆ギガンテスを手にしたのです」
「え、ノブナガってあの社会でやった織田信長の事か?」
「ひえ〜、ギガンテスってすげぇな」
「今調べてたって言ってたけど?」
「ええ・・・。そうなんですが・・・くそっ!」
ディーノはキーボードを激しく叩いた。
更に使われていないゴミ箱を蹴る。
ゴミ箱が悲鳴をあげた。
宗司らは唖然とした。
未だディーノのこういった激しい気性のようなものを見た事が無かったからだ。
ディーノはハッとしたように
「あ、すみません・・・。つい熱くなってしまいました。実は・・。このサイトをやっと見つけたんですが・・・」
そう言ってパソコンの中にあるある一つのサイトを宗司らに見せた。
「ん?何だこりゃ、パスワードを入力してください?」
「そーなんです・・。せっかく見つけたのに何故かロックが掛かって居るんです。本来これはパスワードなど要らないはずなんですが・・。友人から聞いた話なんですが、ギガンテスは政府も極秘に捜しているという事でギガンテスに関する情報の一切をインターネット上で公開出来ないようにしたそうなんです・・・」
「じゃあ、結果的にこのサイトは見られないのか?」
「そういう事になります・・・」
「う〜ん・・・困ったわねぇ」
「でも、ギガンテスについて分かってる事が一つあります」
「分かってる事?何だそれ?」
「ギガンテスの場所です。」
「場所か!なるほど」
「ギガンテスの場所は・・・」
「場所は?」
「アルテマ星に有ります」
「アルテマ!聞いた事が有るわ!珍獣らがたくさん居る珍しい星って聞いたわ。」
「NO、アルテマはそんな星では有りません・・・。そう、まさにギガンテスを守る為の星と言った方が良いでしょう。気候は悪く、病気にも掛かりやすく、あらゆる罠、想像を絶する困難、試練、難関、獰猛な猛獣、珍獣などがたくさん居て行って帰って来る事さえ・・・・。」
「う・・・・・・・。」
「で、でも場所が分かってれば色々出来るんじゃないか?」
「政府も幾人もの腕利きハンターを送り込んだそうです。ギガンテスさえ有れば何でも出来ますからね。ところが、一人を除いて全員帰ってきませんでした。」
「うわ・・・どういう星だよ・・」
「ちょっと待って、一人を除いて?」
「ええ、その一人とは私の友人で世界一のハンターですよ。しかし・・彼は帰って来た時には半分廃人になっていました・・・・。左腕が無くなっていて言葉もろくに話せず、体中傷だらけで時々石になっている箇所や、焦げている箇所も有りました。その後治療やリハビリをしました。そのおかげで傷などは何とか直りましたが、今は身体を動かす事が困難な状況です。しかし意識はハッキリして言葉も話せるので、今から彼の所へ行ってアルテマについて聞いてみますか?」
「連れてってくれ!」
「名前はミラノと言います」
この頃四人の心中は既にギガンテスを捜したいという気持ちでいっぱいだったようだ。
――――コンコン――――
「どうぞ」
部屋は大きく二つに分けられており、ドアから入った状態ではそのハンターの状態は分からない。
「彼も日本語を話せるんだ・・・。」
「ええ、三カ国語を話せます」
「ミラノさん、俺達、」
宗司が用件を言いかけたその時、ミラノの声によって遮られた.。
「何だ、ギガンテスの事か?その事なら何も言わないよ、もう僕は疲れたんだ」
宗司は困った顔をしてディーノに助けを求めた。
「まぁ、話してやってくれよミラノ」
「ディーノか!?」
「ああ」
「そうか!まぁこっちへ来てくれ」
言われた通り二つ目の大きな部屋に入った。
彼は体中が包帯で巻かれており、左目も巻かれている。
更に左腕が無かった。
驚くべき点は、右足がカチカチに石になっていたのだった。
この状態に思わず蒼太は目を背けた。
「初めまして、僕はミラノ。君たちは?」
「俺、宗司と言います。」
「俺は蒼太」
「俺は透」
「私は湊と言います、宜しく」
「OK、宜しく。じゃあ・・・話そう。あの忌まわしい出来事を・・・・」
――そしてミラノは小一時間ほど自分の体験した事を話した。――
ミラノの話を聞いた後、四人の顔は真っ青だった。
「あの・・・・、失礼ですけど今の話本当ですか?」
「ハハハ、疑うのも仕方ない。実際じゃあ有り得ないような事だからな。でも本当だよ。僕はこの目で確かに見たんだ」
青いような黒いような瞳が宗司をのぞき込む。
「ねぇ、ディーノ、どう思う?」
ミラノは宗司の陰で見えない。
その後ろで蒼太がディーノに小声で話しかける。
「彼の言葉に嘘は無いでしょう。彼は政府にも本当の事を話しませんでしたから・・・」
「だよなぁ、嘘にしては上手くできすぎてるしリアル過ぎるぜ・・・・しかもあの満身創痍じゃなぁ・・・。」
「話を聞かせてくれてありがとうございました。俺達はそろそろ失礼します」
明らかにうわずった声で言う。
「OK,こんな話だったらいくらでも聞かせてあげるよ。」
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ミラノの部屋から退き、宗司の部屋へ集まった一同は蒼白な顔になっていた。
誰も口を開かなかった。しばらく経ち、重い口を宗司が開いた。
「なぁ・・・。」
「ん?」
「俺、思ったんだけどさ・・・」
一同の目が宗司に向けられる。
「俺、ギガンテスを捜したい!」
宗司の顔にはさっきとはうって変わったように頬にほんのりと赤みが差している。
一同は少し驚いたようだったが、蒼太がそれに賛同した。
「うん、俺もそう思ってた所なんだ。一緒に捜そうぜ!」
後は二つ返事で透と湊もOKした。
一人黙りこくっているのは、ディーノ。
「なぁ、ディーノ、ギガンテスで昔の地球を取り戻そうぜ?」
「・・・・本来ギガンテスなど・・・・悪魔だ・・・・ギガンテスが人を悪魔にするんだ」
「おいおい、突然何を・・」
「信長だってギガンテスを守りたいが為に危険人物を消してきたんだ!光秀だってギガンテスを狙って謀反を起こした!ヒトラーはギガンテスを使ってドイツの独裁者になり、戦争を起こして思うままにしようとしたがギガンテスが紛失した。そして戦争に負け、ギガンテスの追求を恐れて自殺したんだ!」
「ディーノ・・。どうしても行けないのか?」
「ふぅ・・・錯乱して済まない。私は行く事は出来ない・・・。だがこの宇宙船で君たちの事をサポートしよう。何か有ったら連絡してくれ。ふぅ・・・ちょっと今気分が悪いんだ・・。失礼するよ。」
「ディーノ・・。辛そうだったな。」
「うん」
「まぁ、元気出して行きましょう!」
笑顔で湊が宗司の背中をぽんと叩く。
四人の希望をはらんだ長い旅はここから始まる。
つづく
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