祐一のお見舞い








「遅い・・・栞は何をしているんだ?」

 俺の名前は相沢祐一。どこにでもいる平凡な高校生だ。
 今年の冬、ここの町にやってきて、一人の少女と知り合った。
 その少女は、不治の病で、誕生日まで生きられないと医者に宣告されたのだが、奇跡が起き、今は回復した。
 そして俺は、その少女、栞と付き合うようになり、今日は一緒に登校する約束をしていたのだが・・・
 栞は一向に現れる気配は無い。
 まさか、場所を間違えたか!?・・・いや、それは無いな。噴水のある公園と言えば、ここしかないしな・・・
 もしかして、栞の身に何か・・・?

「相沢君」
「うわっ!!・・・ってなんだ香里か・・・」
「なんだとは失礼ね」
「悪い悪い。で、何か用か?」
「相沢君に、言っておきたいことがあって・・・」
「なんだ?」
「そろそろ学校に行かないと、遅刻よ?」
「それは分かっているのだが、栞がまだこないから・・・」
「ああ、あの子なら、今日は休みよ?」
「何!?」
「といってもただの風邪だけどね・・・あの子、今日は祐一さんと一緒に学校に行くんだって、無理にでも行こうとしたんだけど・・・って相沢君?」

 香里が気づいたときには、もうすでに祐一はいなかった。
 そういえばさっき何かが駆け抜けていくような音がしたが・・・

「ふふっ栞は幸せね・・・あんなに自分のことを心配してくれる恋人がいるんだから・・・」
「祐一、すごいよ・・・」
「あら、名雪、いたの?」
「さっきからいたよ・・・」
「ごめんなさいね、気づかなかったわ」
「ううん、気にしてないよ」
「で、相沢君の何がすごいの?」
「祐一があんなに足が速かったなんて知らなかったよ・・・あれなら、全国も夢じゃないよ」
「そうね、私もビックリだわ」
「陸上部部長としては、あんなに貴重な人材は放っておけないんだよ・・・」
「ま、まあとにかく早く学校に行きましょ?遅刻するわよ」
「あ、待ってよ香里〜」







「こ、ここだな栞の家は・・・」

 俺は栞の家の前までやってきた。途中、音速を超えたような気がしたが、気のせいだろう。

ぴーんぽーん・・・

 インターホンを押す。しばらくして、反応があった。

「はい」
「あ、相沢です!栞は、大丈夫ですか!?」
「あら相沢さん、いらっしゃい。ちょっと待っててくださいね」

 しばらくして、ドアが開く。そこから出てきたのは、栞の母親、沙織さんだった。

「どうしたんですか?こんな時間に・・・」
「あ、あのっ!栞は・・・!?」
「あら、あの子のお見舞い?あの子なら部屋で寝てますけど・・・」
「ち、ちょっと失礼します!」

 俺は沙織さんの返事を待たずに家の中に入った。それを見送った沙織さんは・・・

「あらあら、良いわねぇ、若いって・・・学校には、私から連絡しておきますね」

 にっこりと微笑み、自分の家の中に入っていった。




「ここか栞の部屋は・・・」

 俺は『栞の部屋』とプレートがついているドアの前に立った。一呼吸置いてノックする。

「はい、どうぞ」

 中から声がした。それを聞いて俺はドアを開ける。
 栞はいた。ベッドに入って横になっていた。

「ゆ、祐一さん!?どうしたんですかこんな時間に?」

 栞はあわてておきようとする。俺はそれを止める。

「いいから、おとなしく寝てろ」
「で、でも、本当にどうして・・・?」
「自分の恋人が病気で学校を休むって言われて気にならない奴なんていないだろうが・・・」
「祐一さん・・・」
「まあ、その様子を見る限りは大丈夫そうだな」
「はい、ただの風邪ですから。祐一さん大げさです」
「そうはいっても、やっぱり気になるものなんだよ」
「ありがとうございます」

 それから俺たちはいろんなことを話した。自分のクラスのこと、自分の家でのこと、最近あった面白い話などいろいろ話した。
 しばらくして、ドアをノックする音が聞こえた。

「あ、はい、どうぞ」

 栞が答える。それを確認した後、ドアが開かれた。

「栞、調子はどう?」
「あ、お母さん。はい、もう大分よくなったみたいです」
「そう、これも、相沢さんのおかげかしら」
「いえ、そんな、俺は・・・」
「まあまあ、それよりも、そろそろお昼ご飯の時間ですけど、相沢さんも食べていかれますよね?」
「え、でも、悪いんじゃ・・・」
「構いませんよ。栞も一緒に食べてもらいたいようですし」
「お、お母さん!」
「それじゃあいただきます」
「ええ。ちょっと待っててくださいね、今持ってきますから」

 そう言って沙織さんは部屋を出て行った。栞は顔を真っ赤にさせてうつむいている。
 それから少しして、またドアがノックされて、沙織さんが入ってくる。

「はいどうぞ。こんなので悪いですけど・・・」
「いえ、とんでもない。ありがとうございます」

 沙織さんが持ってきてくれたのはチャーハンだった。ちなみに、栞はおかゆだ。

「じゃあ、ごゆっくり」

 そう言って沙織さんは出て行った。

「じゃあ、いただくかな」

 俺はチャーハンをひとすくいして口に運ぶ。うん、うまい。秋子さんにも引けを取らないな。
 栞は、何故かおかゆを口にしようとしない。

「ん、どうした、栞?早く食わないと、冷めるぞ?」
「・・・・・・・・・・・・・い」
「何?何て言った?」
「祐一さんが食べさせてください」

ぶはっ!!!

「わ、祐一さん、汚いです」
「い、いきなり何を言う栞!」
「だって、こういうのにあこがれていたんです。お願いします祐一さん」
「し、しかしだな・・・」
「祐一さぁん・・・」
「う・・・わ、分かったよ!やればいいんだろうが!」

 俺はおかゆを一匙すくって、栞の口元へ持っていく。でも栞は、まだ不満そうに口を尖らせている。

「ん?どうしたんだ?」
「祐一さん、私、猫舌なんです。こんなに熱いものは食べられません」
「な、なんだと!?まさか、俺にあれをやれっていうんじゃ・・・」
「はい、お願いします」
「だ、駄目だ、それだけは勘弁してくれ!」
「そんな事言わずに、お願いしますぅ」

 栞が上目遣い+目をウルウルさせて俺に訴える。

う、栞・・・俺がその目に弱いのを知っていて、わざと・・・

「し、仕方ないな、今回だけだぞ?」
「はい!ありがとうございます!!」

 俺は栞の口元に持っていったスプーンを自分の口元に持って行き、息を吹きかける。俗に言う「ふーふー」というあれだ。
 そしてもう一度栞の口元へ持っていく。今度は栞は嬉しそうに口をあけておかゆを食べた。
 それをおかゆがなくなるまで続けさせられた。

「や、やっと終わった・・・」
「ありがとうございました、祐一さん。おいしかったです」
「そういうことは沙織さんに言ってやれ」
「祐一さんが食べさせてくれたから、さらにおいしかったんです」
「どうしてお前はそういうことを恥ずかしげも無く言えるんだ・・・」
「だって、本当のことですから」
「と、とにかく、俺はこれを台所にもっていくからな」
「すみません、お願いします」

 俺はお盆を持って台所に向かった。
 ちなみに、晩御飯もご馳走になり、そのときも同じようなやり取りがあったのは、ここだけの秘密だ。





そして、夜・・・

「あ、もうこんな時間か。じゃあそろそろ俺、帰るわ」
「え、泊まっていかないんですか!?」
「何でそんなに驚くんだよ・・・」
「私、今日は祐一さんが一日中看病してくれると思ってたのに・・・」
「あのな、女の子の家に、他の家の男が泊まったら、ヤバイだろうが・・・」
「あら、別にうちは構わないわよ?」
「なっ、香里!!いつからそこに!?」
「さっきからよ。別にいいじゃない、近い将来、他の家の男じゃなくなるだろうし」
「だ、だからってな・・・」
「それとも、ここに泊まるのは嫌なのかしら?」
「そうなんですか、祐一さん?」
「う・・・そ、そんなことは・・・」
「じゃあいいじゃない。明日は休みだし。秋子さんには私から言っておくわ」

 そう言って香里は部屋を出て行った。

「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「なあ、栞・・・」
「なんですか、祐一さん?」
「お前ら家族、全員グルか?」
「そんなこと言う人、嫌いです!」
「ああもういいよ!こうなったら今日1日ずっと看病してやるよ!!」
「わ、ホントですか?嬉しいです」

 そして俺たちは、また他愛も無いことで盛り上がった・・・







そして、夜は深けて・・・

「さて、そろそろ寝るか。栞、俺はどこで寝ればいい?」
「ここです」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はぁ?」
「だから、この部屋で寝てください」
「・・・本気で言ってるのか?」
「だってさっき祐一さん言ってたじゃないですか。今日1日中看病してやるって・・・」
「まさか、あれって、夜寝ているときも指すのか?」
「はい、もちろんです」
「それって道徳的に問題ないか?」
「大丈夫ですよ。お姉ちゃんたちはもう寝ちゃってますから」
「いや、そういう問題でもないような気が・・・」
「それに、うちには余分に布団はありませんよ?」
「なにぃ!!?」
「知らなかったんですか?」
「知ってるわけ無いだろ!!」
「と言うわけですから祐一さん、遠慮せずに、さあどうぞ」

 栞が布団をめくり、俺を誘う。って事は何か?俺に栞の隣で寝ろと言うのか?

「今の季節、布団無しで寝ると命の危険にさらされますよ?」
「栞・・・知ってて俺を泊めようとしたのか?」
「う・・・そ、そんなこと無いですよ」
「どもってるぞ」
「そ、そんなこと言う人嫌いです!」
「仕方が無い・・・俺もこんなところで死にたくはないからな・・・」
「はい!さあどうぞ、祐一さん」

 と言うわけで、俺は栞と同じベッドで寝ることになった。眠れるかな?俺・・・





翌朝・・・

 驚いた。人間、本当に眠いときはどんな状況でも眠れるものなんだな・・・
 昨日は栞の看病で疲れていたから・・・な。
 肉体的にも、精神的にも。

「あ、おはようございます、祐一さん」

 栞はすでに起きていて、私服に着替えていた。

「もう起きて大丈夫なのか?」
「はい、祐一さんの看病のおかげで、すっかり良くなりました」
「そうか、でも無理はせず、今日は1日家にいろ」
「えー?せっかくのお休みなのに・・・」
「風邪がぶり返したら大変だろ?」
「・・・分かりました。その代わり、祐一さんも今日1日ここにいてくださいね?」
「えっ!!何故!?」
「ほら、この前約束したじゃないですか。今日はデートに行く日だって」
「あ、そう言えば・・・」
「でも、外に出られないんじゃ仕方ありません。家の中でデートです」
「・・・・・・・・・・・」
「相沢君、あきらめなさい。こうなったら栞は誰にも止められないわ・・・」

 香里が俺の肩に手を置き、そう言った。
 そして、昨日と同じような1日が始まるのであった・・・
 後日談だが、名雪がやたらと俺に陸上部に入るように勧めてきた。いったい何故?


―おしまい―



あとがき


AAA「やっと終わった・・・」
栞「長かったですね・・・」
AAA「今回は大フォントを使ってないし、壊れじゃないし・・・」
栞「私が主役のほのラブでした♪」
AAA「本当に機会が来るとは・・・」
栞「ゆーとぴあさんに感謝です♪」
AAA「101ヒット記念、いかがでしたでしょうか?」
栞「101?何で100じゃないんですか?」
AAA「100は自分だったから・・・」
栞「・・・」
AAA「そんな哀れみの目で見るなぁ!!」
栞「・・・話を戻しませんか?」
AAA「・・・そうだな」
栞「101ヒット、おめでとうございます&ありがとうございます!」
AAA「これからも精進していきますので、応援よろしくお願いします!」
AAA&栞「それでは、さようなら!」




(無駄に長い気もするな・・・)
(もっと簡潔にまとめられなかったんですか?)


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