その1








その夜

 そういうわけで栞と秋子さんは、台所で二人仲良く料理を作っていた。
 栞の料理を作っている姿を見るのは楽しい。なぜなら料理をしてるのを見ると、栞の体には不釣合いといえる秋子さんお手製の、ネコ耳がピョコピョコ動くからである。

 ネコ耳がぴょこりと立ち上がったり、ダラーーンと垂れ下がったりして、まるで生きてるかの様である。マジで見てるだけでも、楽しいぞ。

 全く、一体全体どんな仕掛けなんだ? 秋子さんが作ったものだから、「企業秘密です」といわれるのがオチだろうけど……これは本物そのものだろう……
 しかし秋子さんがいなかったら、そのまま栞に襲い掛かりたいくらいだよ。

 等と恐ろしい事を考えていると……

「ご主人様、夕食のご用意ができました」

 と秋子さんと栞が、テーブルに料理を並べていく。

 おー、今日の夕飯は、肉じゃが・秋刀魚・ほうれん草のおひたし・味噌汁・ご飯・漬物かあ。
 しかも、どれも見た目は『見る芸術』といえるほど素晴らしく、ホカホカと湯気を立てていて、大変おいしそうだ。



   おー、なかなか家庭的でいいねえ〜。
 さあ頂くとし……………………






 あれ?箸が無い。

 そう目の前には、豪華な夕食が温かそうに並んでいるのだが、お箸とコップが見当たらないのである。


「おーい栞、悪いけどコップと箸がないから、取って来てくれないか?」

 栞も相変わらずあわてん坊さんだなあ、と思いながらそう促すと

「え? 御主人様、どうして、お箸がいるんですか?」

 と当たり前のように、答える。 

「いや、お箸が無いと、食べれないだろ?」

 そういうと、栞は

「無くてもいいんですよ、御主人様。私が食べさせてあげますから」

 と俺の席の右側に、寄り添って来た。




















はい?




「ま……まて、ここには秋子さんがいる。それはまずいだろ!?」

 そううろたえると、二人は……

「いいんですよ。秋子さんもいいですよね」
「ふふ二人とも仲がよさそうで、いいわね」

 とのんきに答えた。








 はぁ……さいですか……。


「さあご主人様、秋子さんの許可も出たことだし……」

 そういって、俺の服の袖を強く掴んできた。







「さあ御主人様」

 栞は、秋刀魚の切り身を摘んだ箸を差し出して、俺に食べさせようとした。

「あーん」

 と自分も『あーん』と促すように口を開ける栞。

「あ……はい。あーん」

 と緊張の面持ちで、口を開け秋刀魚の切り身を、もぐもぐ食べた。













「おお!! これはうまい」

 さすが秋子さんと栞だ!! 秋刀魚の焼き加減・カボスの酸味・塩の量といい、どれをとっても一流だぁあ!!
 見た目以上の出来栄え!! どうやったら秋刀魚を、ここまで巣晴らしい味に出来るんだああ!!!
 これならば、料理王決定戦に出しても、優勝間違いな…………って話がちがーーう!!

「うん栞、これならお前いい奥さんになるよ」

 そう素直に褒めた所

「まあご主人様、お上手ですよ」

 と両手顔を当て、顔を朱に染めた。

「さあさあご主人様、まだまだありますから、残さず食べてくださいね。はい、あーーん」

 そうして栞は、さらにはり切るのだった。

やれやれ

















 さてそうやって、栞に「あーん」で食べさせてもらったのだが……

「それでは御主人様、次はいかがしましょうか?」

 そう言って栞は、俺の右腕を優しく引っ張り上目遣いで視線を送る。いつもながら、その姿は大変かわいい。
 しかも

「あっ!! ご主人様ほっぺに、ご飯粒がついていますよ」

 と俺の頬をネコのようにぺロっと舐める事態が起こり、俺の精神は完全に崩壊しようとしていた。

 し……しかし、このままでは理性を失って、秋子さんの目の前で、栞を襲ってしまいかねない。

 な……何とかせねば!!

 そ……そうだ、まずは落ち着いて、お茶を飲もう。気分を落ち着かせて間を持たせたら、理性が勝つだろうからな。

 よし……栞にコップを持ってきてもらおうか……。

「栞、悪いけどお茶が飲みたいから、コップを持ってきてくれないか?」

 そう栞に促した。すると

「え? 御主人様、コップならあるじゃないですか」

 と不思議そうに答えた。

 しかし見渡して見るものの、コップらしき物はどこにも見当たらない。
 俺は怪訝な表情で

「ん? どこにも無いぞ。どういうことだ?」

 と聞くと

「御主人様、ここにあるじゃないですか?」

 と栞は自分の口を指差して答えた……。





















ナ……ナ……ン……デ……ス……ト?



口移しですか?


ま……まさかなあ……? でも……いや……


「な……何なんだ? その指差してるのは?」

 一応聞いてみるが

「あれ、分かりませんか? これからは、栞の口が、御主人様のコップですよ。」











「なああああなふじkbnなあぁぁぁ○ぁぁぁぁナああなあぁぁぁったあ話あああたああでえすああああっ!!」

 そう俺が意味不明な事を言って錯乱してる間に、栞はそそくさ台所からとお茶とコップを持ってきた。
 そして……

「さあご主人様、お茶が出来ました。どうぞ召し上がってください」

 そう言うと、栞の口一杯にお茶を含み、俺の唇に押し付けてきた。

「…し、栞…むぐっ!! むぐっ!! むぐぅぅぅぅぅぅぅっ!!」

 栞の口内によって、温められたお茶が入り込んできた。
 だが俺に飛び掛るように口移しをしてきたので、俺の椅子はバランスを崩してしまった……。
 そして……









ドーーーン!! ベチリィ!!

 と鈍い音を立て、俺は思いっきり頭を叩きつけてしまった。

「んんー……っ!! んんー……っ!! んんー……っ〜!! はぁ……っ!! はぁ……っ!!」

 しかし栞は、二人ともこけた状態にも関わらず、一心不乱に必死で口に溜め込んだお茶を俺の口内に流し込んでいた。
 そして栞は舌を入れ、激しくかき回したのだった。
 しかし、その事が事態をさらに悪化させた。

「ケ……ケッホ!! ケッホ!!」

 一気にお茶が体の中に注がれて行ったので、鼻から逆流してしまった。





「はあっ……はあっ……イタタタタタタタタタ」

 俺は頭をさすりながら、やや放心状態の栞をどかせて、立ち上がると……

「はあっ……はあっ……はあっ……はあっ……はっ!? だ……大丈夫ですか!? 御主人様?」

 ようやくわれに返った栞に、俺の安否を訊ねられる。
 
 っておそいって。

「あ……ああ何とかな」

 ようやく息が整いかけた俺は、そう答えた。

「す……すみません御主人様が転倒しているのにこのようなことをしてしまって……」

 と栞は立ち上がって、大変恥ずかしそうに俯いた。そして……

「ご主人様、栞はだめなメイドです。ど……どうかおしおきをしてください」

 そういいながら、栞は申し訳なさそうに祐一にすがりついて、顔を朱に染め、瞳を潤ませながら祐一の顔を見上げた。
 そして俺の胸の中に、顔を沈めた。












やべええぇぇっぇぇぇっ!!! か……可愛過ぎる!!!






「しおりぃぃぃぃぃぃぃぃっ〜!!」

 その姿があまりにもかわいいんで、俺は思わず強く抱きしめてしまった。
 そして栞が

「う〜ご主人様ぁ〜、そんなにきつく抱きしめないでくださぃ〜」

 と猫なで声で言った事が、更に俺の心に火を付ける事になった。

 し……しかも、強く抱きしめたせいか、少しずつ栞の鼓動が、早まってくるのが分かる。
 それに、息も何だか荒くなってきているようだ。







 つまり、息が……胸が……胸がぁ……ムネがあぁぁっ!?!?!?!?



 おお〜緊張するぜぇぇっ!! これがメイドと御主人様の関係なのかぁ!!!!

 もういい!! なるようになってしまぇぇぇぇぇっ!!!

「栞ぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!? 俺はもうだめだあぁぁぁぁぁっ〜!!」

 俺の理性は完全に吹き飛び、欲望のままに栞を求めようとそのままの状態で、背中のメイド服の紐に手をかけようとしたが……

「あらあら、すっかりメイドさんと、御主人様の関係ですね。妬けちゃいます」

 その欲望を、寸でのところで制止させたのは、秋子さんだった。
 この光景を向かい側のテーブルから、ニコニコ眺めている。
 彼女が、今何を考えるのかを考えるのは、怖いのでやめておこう。

 そ……それにこれ以上の行動は、さすがの秋子さんも黙っていないだろう。

 というか、もしかして何も言わなかったら、秋子さんの目の前で栞を求め尽くしてしまったのだろうか?
 うーーむ、考えるのも恐ろしい。

 そ……そういうわけで、秋子さんのおかげ(?)で、俺はそれ以上の暴走を防ぐことが出来た。



だが………………

「で……でも、これでは私の気が治まりません。ですから御主人様の納得行くまで、口移しをさせて頂きます」

 と再びお茶を口に含み、俺にすりよってくる。

「ちょ……ちょっと待て!!」
「行きますよ、御主人様〜」

 しかし俺の言うことに耳を貸さず、再び俺に飛び掛ってきた!!

「あーーーーー」

 誰かぁっ!! 助けてくれぇぇぇっ〜!!












 そういう事件(?)があってからも、栞の『あーーん』と口移しは合計数百回程行われ、料理を完食するまで続けられる事となった。
 料理は超一流の料理人レベルなんだが、どうも食べた気がしないよなあ……。

「はぁはぁあーー」

 さ……さすがに好きな女の子とはいえ、何十回もディープキスをするのはつらい。
 しかも百回近くも『あーん』とやってるので顎は疲れっている……。
 その為俺の体が『水責めの拷問』を受けたのごとく、衰弱しきっていた事は言うまでもない。

「はーー俺疲れたよ。お風呂に行ってくるよ」

 俺はヨロヨロと、椅子から立ち上がると

「行ってらっしゃいませ、ご主人様」

 と頭を「ペコリ」と下げながら、栞は俺を見送った。
 そしてまだ痛む頭をさすりながら、お風呂へ向かった。

 う……頭が痛し、とてつもなくしんどい。

「はぁ俺……明日を生きれるのだろうか?」

 と一抹の不安を覚えながら呟いた。



   まあ〜とりあえず、お風呂でゆっくり休んで次の対策を講ずるとするか……。






―続きますよ―



あとがき


・そういうわけで、いよいよ「ネコ耳しおりん」本格的始動です。
 え?「ネコ耳の必要性が無い」って? 
 大丈夫!! 後編でネコ耳の必要性がある様な事をさせますから〜。
 さてさて祐一君には、かわいそうな役回りをしてもらおうかな?
 それでは、後編をお楽しみにぃ〜。 
 要望もお待ちしております。



トップへ      戻る