聖なる夜
〜全ての人に喜びを〜
「祐一さん、どこ行っちゃったんだろうね?」
「…知らない」
12月24日、クリスマス・イヴ。
佐祐理と舞はこたつの中で話し合っていた。
祐一は高校を卒業してから、舞と佐祐理の3人で1つ屋根の下で暮らしていた。
しかし、何故か朝から祐一の姿を見掛けない。
「祐一さんが帰ってくるまで待ってようか」
「はちみつくまさん」
仕方ないので、2人は祐一の帰りを待つことにした。
「おいしいよ〜」
ところ変わって、ここは水瀬家。
クリスマス・イブを友達と過ごす人もいる。
「名雪、よく食べるわね」
「うん。イチゴジャム好きだから」
でもクリスマス・イブにジャムトーストを食べる人は珍しいかもしれない。
「せっかくのクリスマスに、ジャムトーストを食べなくてもいいんじゃないの?」
「でも、イチゴジャムおいしいよ〜」
「ま、なんか名雪らしいわね」
名雪は家に香里を誘っていた。
「夕食が出来ましたよ」
もちろん、秋子も水瀬家にいた。
秋子はこんがりと焼き上がった七面鳥をテーブルに乗せ、エプロンを取った。
「ごめんなさいね。クリスマス・イブなのに、こんな料理しか用意出来なくて…」
「こんな料理って…」
秋子はそう言ったが、テーブルには豪華絢爛な料理が所狭しと並んでいた。
「それじゃあ名雪、2人で食事にしててくれる?」
そう言うと秋子は鞄を持って出掛けようとする。
「なんで? どこか出掛けるの?」
「まだお仕事が残ってるから」
秋子はそれだけを名雪に言うと、玄関に向かった。
「名雪のお母さんって、何の仕事してるの?」
「私もよく知らないんだよ…」
2人が豪勢な料理を食べながら話しているその時だった。
「あら?」
「どうも」
秋子が玄関を開けると、目の前にサンタクロースの恰好をした男性らしき人物が立っていた。
「了承」
1秒後、優しく微笑みながらそう答えた秋子はサンタらしき人物を通した。
ガチャ。
ドアが開く。
サンタらしき人物の目の前には、名雪と香里がいた。
「………」
「………」
「メリークリスマス」
冷静なサンタらしき人物。
「だ、だ、誰よ、あなた!?」
パニックになる香里。
「サンタクロースさんだよ」
どこか抜けている名雪。
「そう、私はサンタさんです」
そう言ってサンタらしき人物は背負っていた白い袋を下ろす。
「はい、プレゼント。ここに置いておきますから」
そう言ってサンタらしき人物は去った。
「………」
呆然とする香里。
「な、何だったのかしら…」
「だから、サンタさんだよ〜」
名雪はやはり抜けていた。
「う〜ん」
ところ変わって、ここは美坂家。家族でクリスマス・イヴを過ごす人もいる。
例え、それを望んでいなくても。
命を失う危険こそなくなったものの、体の弱い栞はこの日、風邪を引いてしまったのだ。そんなわけでイヴの日もベッドに横になっていた。
「せっかくのクリスマスなのにな…」
栞は呟きながらふと、窓の外を見た。
「………どうも」
そこには、先程のサンタらしき人物がいた。
「きゃあああ〜!」
当然、驚く栞。
「いや、心配せずに。すぐに帰りますから」
そう言って、背負っている白い袋から綺麗に包装された箱を取り出す。
「それじゃあプレゼントはここに置いておくので」
そう言ってサンタらしき人物は部屋を出ていった。
「何だったんだろう…」
窓の外を見ながら、栞はただただ呆然とするしかなかった。
ここでもクリスマス・イヴを友達と過ごす人がいるようだ。
そこは天野家だった。名雪の家に友達が来ることを知った真琴は、邪魔になると悪いと思い、天野の家にお泊りすることにしたのだ。
コンコン。
2人が喋っていると、何かが窓を打つ音が聞こえた。
「何かしら」
不思議に思い、天野が窓の外を見る。
「メリークリスマス」
天野が窓を開けた途端、やはり先程のサンタらしき人物がいた。
「なんでしょうか」
内心、驚いていたが天野は平静を装いながら呟いた。
「お邪魔します」
サンタらしき人物はそのまま部屋の中に入ってきた。
「私達に何か用事ですか?」
「はい、プレゼント」
サンタらしき人物はそう言って、袋からプレゼントらしい物を取り出し、2人に渡した。
「はあ…」
「それでは、楽しいイヴを」
そう言って、サンタらしき人物は入ってきた窓から出て行った。
「あう〜…」
「ここ、3階ですけど大丈夫だったんでしょうか…」
とてつもない勢いで去って行った人物に、2人はそれしか言えなかった。
「うぐぅ」
クリスマス・イヴになっても口癖は治らないだろう。
子供がサンタクロースに治してくれと頼んでも無理というものだ。そんなわけで、あゆはいつもの如く商店街を走り回っては、人にぶつかっていた。
ドスン。
そして、またぶつかる。
「どうも」
ぶつかった人物はサンタの恰好をした奇妙な人物だったが。
「す、すいません!」
「いえいえ、こちらこそ」
とりあえず、お互いに謝る。
「お詫びにプレゼントを差し上げましょう」
サンタらしき人物は袋からプレゼントを取り出す。
「あれ?」
「それでは、メリークリスマス」
あゆにプレゼントを渡すと、男は走り去った。
「…あんな恰好で何やってんだろう、祐一君」
「まったく、何やってんだか」
雪が降り積もる夜の中、北川が呟く。
「まあそう言うなって」
同じく、サンタらしき人物。
「そうそう。さっき美坂と水瀬から携帯に電話がかかってきたぞ」
「なんてだ?」
「プレゼントありがとう、だってよ」
「やっぱバレたか」
「でも何で変装なんかしたんだ?」
「そのまま渡しても面白みに欠けるだろ」
その返答に北川は笑いながら答えた。
「…やっぱり変な奴だな、お前」
「お互い様だろ」
2人は苦笑する。
「あとは先輩達だけだろ?」
「ああ。荷物運び、ありがとな」
「気にすんなって。俺も結構楽しかったしな」
「なんだかんだ言って結局、お前も楽しんでるんじゃないか」
そう言いながら、袋から包みを取り出して渡す。
「これは?」
「クリスマスプレゼント」
「どうせなら可愛い女の子から貰いたかったな」
「俺からで悪かったな」
「ああ、悪い」
「中身は後のお楽しみにしてくれ」
「ああ、そうさせてもらう」
「じゃあ、頑張れよ」
「お前もな」
「メリークリスマス」
「ああ、メリークリスマス」
そう言って2人は別れた。
クリスマス・イヴを好きな人と過ごす人もいるだろう。
「祐一さん、遅いね…」
「………」
舞と佐祐理は、今か今かと祐一を待っていた。
「舞。佐祐理、ちょっと近くを探してくるね。もし帰ってきたら連絡してね」
そう言って佐祐理は外に出掛けた。
そして次の瞬間。
ガラッ。
窓が突然、開いた。
「メリークリスマス」
「…遅い」
「ちょっと挨拶回りしてたから遅くなってな」
「…佐祐理も心配してた」
「やっぱり?」
舞はコクンと頷く。
「そうだ、これ」
「…?」
祐一はプレゼントをコートのポケットから取り出す。
「プレゼントだ。この時だけは2人っきりでいたかったからな」
とてつもなく恥ずかしいセリフを言いながら、祐一は舞にプレゼントを渡す。
「……ありがとう」
舞は真っ赤になりながらその箱を受け取る。
「さて、佐祐理さんを呼びに行かないとな」
「はちみつくまさん」
「もう帰ってますよ〜」
『!!』
2人が振り返るとそこには佐祐理が笑顔で立っていた。
「よかったね、舞。大好きな祐一さんからプレゼント貰えて」
びしっ。
舞のチョップが炸裂する。
「照れなくてもいいのに〜」
びしっ。
「照れてるのか、舞」
びしっ。
「そういえばまだ告白してないんだよね〜」
びしっ。
「確かにまだ舞から愛の告白を受けてないな」
びしっ。
右に左にと、舞のチョップが炸裂する。
「そろそろやめないか、舞」
「はちみつくまさん」
「そうですね〜。お夕飯はすぐに用意しますね〜」
12月24日、クリスマス・イヴ。
全ての人々にとって良き日であることを…。
(終わり)
あとがき
・とりあえず全キャラを登場させるというコンセプトの元に考えました。
もう少し舞の出番を増やした方が良かったかも…。
ラストシーン、ちょっぷ炸裂しまくりです。
くどいくらい炸裂してます。いいことだ。(笑)
あと本編では触れていませんが、ちゃんと佐祐理さんにもプレゼントはあります。
食事の後に渡したってことにしてくださいね。
最後まで読んで頂いて真に有難う御座います。
次回はあゆメインの作品を投稿する予定です。
管理人より
・SS誠に有難うございました!!
全キャラ出演ご苦労様です!!
寒いときのお話ですが、温かみがあって良かったですよ〜。
あゆ編も楽しみにしていますね〜。
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