雪合戦






 雪玉を栞にぶつける。

「キャッ!!冷たいです!!エイッ!!」

 栞は両手で雪を払って、すかさず雪玉を俺に向けて投げ返す。

「ウッ!!栞ぃ〜さすがに痛いぞこれは〜」

 勢いの弱い雪玉は俺の頭に命中し、俺は頭を両手で押さえながらうずくまった。いかにノロマでドジで運動オンチな栞のヘロヘロな攻撃でも、石が含まれてる雪玉ならそりゃ痛いだろう。

「全部聞こえてますよ!!祐一さん!!」

 また声に出していたのか?俺は・・・。

「うるさい!!事実だろ?」

 即座に立ち上がって反論する。

「・・・そんなこという人嫌いです」

 といつもの調子でむくれる。




 はあーーー冬の真っ只中、俺は一体ここで、何をしているんだろうな?

 俺と栞は、ファーストキスをした思い出の公園で、雪合戦をしていた。俺は高校三年生で、本来なら受験勉強や進路達成に向けて、何かしらの準備をしないといけない時期であるはずだ。しかし、俺は栞と雪合戦を続けていた。

 栞は俺の・・・そう恋人だ。

 栞は生まれつき病弱で、余命幾ばくも無かったが、奇跡的に命を取りとめ、暫くのリハビリを経て、人並みに元気に走れ回れるようにまで回復した。
 そんな栞の願いは『大好きな人と雪合戦をする事』であった。

 しかしこいつも、もっと大人の女の子らしいお願いが、出来んものかね?こんな事だから、ガキ扱いされてしまうんだよ、全く・・・。

「また全部聞こえてますよ!!」

 と言うや否や、雪玉を俺に向けて投げてくる。
 しかし栞は人一倍鈍いので、俺に雪玉が当たる事は、滅多に無い。
 そう、実は俺が栞の雪玉に当たるのはわざとで、全部避けたりすると、栞が泣き出したりして、後が大変だからだ。

 全く・・・最初の時の強さは、何処に行ったんだか。

 まあそうやって甘えん坊の栞を見ると、安心するのも事実なんだけどな・・・。

「いいじゃないですかぁ〜。私の夢だったんですから」

 といつものように、右手の人差し指に口を当てて答えて、

「えへへ・・・・行きますよ〜」

 再び雪玉に石を入れて、俺に向けて投げた。雪玉は俺に届く事は無く、目の前に落ちた。俺は目の前の、石入りの雪玉を拾って、呆れながら、

「なあ栞ぃ〜、いい加減に石を入れて、投げるのはやめろ!!怪我したらどうするんだ!!」

 と少し強い口調で言ったら、

「いいじゃないですかぁ。どうせ当たっても痛くないんですから」

 といつものように、笑顔で答えやがった。

 ふーーーん、痛くなかったら、当ててもいいと?

 少し意地悪がしたくなった。俺は栞に近づき、栞の頭を撫でながら、

「ああそうだな。どうせお前は、もぐらたたきで0点取る程の鈍さだったしな」

 含み笑いをしながら言ってやった。

「そ・・・そんなこという人嫌いです。もうそんなに鈍くありません!!」

 栞は膨れっ面になって、プイっと後ろを向いた。

 チャンスだな・・・

 俺はすかさず後ろを向いた栞の両腕を掴んだ

「えっ!な・・・何するんですか?」

 慌てながらながら尋ねる。

「決まってるだろ。お前の運動神経をテストしてやるのさ。5分以内に掴まれた両腕を振り払って、ここから抜け出してみろ。10分たっても抜け出せなかったら、お前の運動神経は小学生並だな」

 と少し意地悪っぽく言ってやった。

「なんて事するんですか!!こんな可愛い女の子に対して、こんな事するの祐一さんくらいですよ!!本気で訴えますよ!!」

 全身をバタつかせながら叫んだ。

「安心しろ栞。どう見てもお前は、小学生位にしか見えないから。それに髪の毛をもっと短くすれば、小学生高学年の男の子にも間違えられるぞ」

 とサラリと答える。

「ふ・・・ふざけないでください!!本気で怒りますよ!!」

 いつもでは考えられない強い口調で言う。
 困った時の栞の仕草は、いつもよりかなり可愛いので、

「じゃあ抜け出してみろよ」

 さらに意地悪っぽく言ってやった。

「見ててください。こんなのちゃんと抜け出しますからね。エイ!!エイ!!」

 と細い両腕と両足を、俺の体を蹴るなどして、全力で振り払おうとした。しかし所詮男と女、しかもどんくさい栞である。簡単に振り払えるわけが無い。しかし力差があっても、普通隙は出来るものである。

 まあ栞でも、10分位で抜け出せるかな?

 等と考えながら、暴れる栞の両腕を掴んでいた・・・。


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「俺が間違えていたよ栞。お前の運動神経は、幼稚園児以下だな」

 と少し呆れて言った。

「ゆーーいちさーーん意地悪です。もう離してください」

 瞳を潤ませながら、体をバタつかせる。

 この様な会話を、もう15分位続けていた。
 しかし本当に鈍い奴だ・・・。

「えぅ〜ひどいです。ちゃんと聞こえてます」
「どうした!?あれだけの大口を叩いておいて、もう弱音を吐くのか?」

 と栞の体を思いっきり揺する。

「うぁ・・・ひっく・・・もう・・・やめてください・・・えぐぅ・・・ふぇーーん!!」

 栞が本気で泣き出した。

 しまった!!調子に乗りすぎた。

さすがにかわいそうになったので、腕を放してやる。


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「なあ栞機嫌を直せよ。なっ?」

 と栞の肩に手を当てる。

「えぐぅ・・・祐一さん・・・えぐぅ・・・もう知りません・・・。大っ嫌いです・・・」

 栞は体を屈め、俺の手を跳ね飛ばした。

「も・・・う顔も見たくありません」

 顔に両手を当てて泣きじゃくっている。さすがに罪悪感を、かなり感じたので、

「なっ!栞お前の欲しい物、何でも買ってやるから、機嫌を直してくれ」

 と栞のそばへ寄って、栞の機嫌を直そうと試みるが、

「私は物で釣られません!!」

 とプイッと俺の顔を背ける。

 こ・・・こいつは手強い・・・。

 しかし俺も出来る限りの誠意を、見せないといけないよな。
 少し早いけど・・・これで行こう。

 俺は栞のポケットを見て編み出した収納方法で、服に隠していた花束を出し、

「なっ!!これで機嫌を直してくれ」

 栞の顔の前に花束を差し出す。

「何ですかそれは?」
「栞の誕生日は明後日だったろ?だからプレゼントだ」
「そうですね・・・いえ、私は物では・・・」

 栞は少し立ち上がるそぶりをした。

「ゴメン栞!!俺のできるとなら何でも言う事聞くから、許してくれ」

 俺は必死で頭を下げて謝った。

「本当に何でもですか?」

 と振り向きもせず、冷たい口調で訊ねてくる。

「ああ。ただし俺のできる限りならな」
「もう・・・分かりましたよ。許してあげます。でもこれは祐一さんしか出来ませんよ?」
「分かった。荷物持ちにでも、パシリでも、何でも使ってくれ」

 と栞の両肩を持って言う。

「ふふ、そんな事じゃ許しませんよ」

 とようやく立ち上がり、こちらを振り向いた。

「じゃあどうしたら許してもらえるんだ?」
「ふふ・・・それは簡単です」

もう栞の瞳からは涙は消えていた。
そして満面の笑顔で、俺に抱きついて

「私を祐一さんの、お嫁さんにして下さい。でないと、絶対に許しませんよ」



(終わり)


後書き


・ゆーとぴあイアウエオ企画です。
 SS2作目となり少しは文法面や読点には気をつけたつもりですが、何分文章力の無い人間ですので、「ここに句点を打ったほうがいいよ」とか「ここはこうやって行をあけたほうがいいよ」とかの一から十までアドバイスしていただけると幸いです。
 今回のお話はギャグのつもりで書いたらこう言う事になってしまいました。原作と比べ栞はかなり甘えん坊ですし、祐一は浩平君みたいになってしまいましたね。しかも祐一君はいつの間にやら栞の特殊ポケットを会得しているようですしね。
 まだまだ文章を書く練習が必要だと痛感しました。
 それでは最後に皆さんに質問です。それは「栞は嘘泣きだったのでしょうか?それとも本気で泣いていたでしょうか?」。答えは特に設けません。是非皆さんで、考えてみてくださいね。ではでは〜。


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