温もり






(祐一さんの彼女になれて本当に良かった・・・)

湯船で一人の少女が小さな息を吐いた。
ここは美坂邸の風呂場である。
そして湯船に浸かる少女の名前は「美坂栞」、医者からは余命幾ばくも無い体と言われていた。
しかしその逆境にめげず「相沢祐一」という彼氏も出来、今を精一杯に生きていた・・・。

(それにお姉ちゃんとも・・・)

そう彼女には姉が居て、名前を「美坂香里」という。
香里は長年病弱の栞の事を思う余り、遂には『私には妹はいないわ』と現実逃避するまで追い込まれていた。
だが栞の彼氏「相沢祐一」の機転によりこの姉妹は和解した。
今日はその日であった。

(これで思い残すことは・・・)

とこの一ヶ月起こった出来事を、風呂場の天井を見ながらあれこれ考えていた。

自殺を考えた事・・・
あゆと祐一に出会ったこと・・・
バニラアイスクリームを食べた事・・・
もぐらたたきで0点を取り続けた事・・・

と様々である。
そうこうしている内に・・・

「栞入るわよ。いい!?」

と隣の洗面所から女の声がした。

(え!?お姉ちゃん!?)

栞は少し戸惑った・・・。
そう声の主は「美坂香里」血を分けた、たった一人の姉の声であった。

「いいよ・・・お姉ちゃん」

咄嗟に栞は答えた。

「分かったわ。じゃあ入るわね」

と香里は洗面所の扉を開け体を洗い、そして栞の反対側の風呂場に浸かった。
二人は風呂場で向かい合って座った。

(考えてみれば姉ちゃんとお風呂に入るなんて久しぶり・・・・)

と香里の顔を見ながら栞は思った。
















「・・・・・・・・・・・・・・・」


「・・・・・・・・・・・・・・・」


二人はしばしの間沈黙し・・・そして

「栞!!」

「は・・・はい!!」

突然の呼びかけに栞が戸惑った。

「こっちにおいで・・・そして後ろを向いてくれない?」

っと香里は手招きをする。

「は・・・はいお姉ちゃん」

栞は香里の言うがままに、香里のそばまで寄って後を向いた。
そして・・・
「え!?お姉ちゃん!?」

「・・・・・・・・・・」

香里は無言で栞の体を後ろから強く抱きしめた。

(お姉ちゃんの体暖かい・・・)

栞は静かに目を閉じて久しぶりの姉の温もりを感じていた・・・。



















香里が栞を抱きしめてどれ位の時間が流れただろうか?
沈黙を破ったのは香里だった・・・。

「あたしは本当に馬鹿よ・・・「妹が居ない」なんて言っても結局何の解決にもならなかったのに、それなのに栞を散々苦しめて・・・。」

(お姉ちゃん)

栞は再び目を開けた。
明らかに香里の声は震えていた。
栞には見えていないが、香里が泣いていると肌で感じ取った。

「こんな姉で本当にごめんなさい・・・。あたし・・・・・あたし・・・・」

更に強く栞を抱きしめる。


(お姉ちゃんも苦しんでいたんだ。私だって・・・負けない。)

と彼女の小さな右手を握り締めてそして・・・

「お姉ちゃんそんな事より何かお話でもしようよ〜。そうそう今日の宿題も教えてほしいなぁ〜。それからお裁縫も教えて欲しいし・・・。それにそれに・・・」

栞は後ろを向いて満面の笑顔でこう言った。

「あなた・・・本当に強いわね・・・。あたしが同じ立場だったら・・・とっくの昔に・・・」

香里は涙を滝水のごとく流していて、最後には声にはならなかった。

(私だって・・・祐一さんとあゆさんに出会ってなかったら・・・)

そして栞は香里の抱きしめている両腕にそっと優しく手を当てた・・・。









そして二人は久しぶりに雑談を30分ばかりした・・・。
栞の大好きなテレビドラマの話・学校の話・趣味の話・そして恋人の話など様々である。
たわいのない話であったが、二人にとっては最高に有意義な時間であった。




「お・・・おねえちゃん?」

「すーーーすーーー」

栞が後ろを振り返ると、香里が安らかな笑顔で眠っていた。
無理もない事だろう。
いくら口では『私には妹はいないわ』っと言っていても、ここ数日香里の内心はその事で苦しみ続け、食事が喉を通らないことはおろか、まともな睡眠もしていなかったし、心身とも疲れていたのは明白である。



(お姉ちゃん・・・おやすみ・・・ありがとう・・・そして・・・)


栞の瞳からは一筋の涙が流れていた。
そして顔を窓に向けて一言呟いた・・・・。

「春には祐一さんと、そしてお姉ちゃんと一緒に学校の中庭でお昼ご飯が食べたい・・・。そして暖かい所でアイスクリームを食べたいです・・・。」


(終わり)

後書き


・どうもゆーとぴあイアウエオ企画と申します。
実は私、SSコーナーを開いて初めてSSを執筆をしました(つまり処女作)。
これからもよろしくお願いします。
さて今回の作品初めてと言うだけあって情景描写や文法があいまいで申し訳ございません。
しかもよく考えて見たら美坂姉妹ってゲームで一度も会話らしい会話をしていないので結構困りました。
その上思いついてかいたので執筆に10分程度しかかかっておりません。
ですから「ここはこうした方が良いよ」と言う意見を心よりお待ちしております。
風呂場を舞台にしたのはただ他のSSだと大抵18禁になっているので敢て反抗して性的描写を使わずにこの二人を描いてみたいと思っただけです。
それではまたあいましょう!!

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