エピローグ



「ふぅ…」

 紅茶を一口飲み込んで、ため息をする。
 今日は仕事がない。
 久々に、午後のティータイムを楽しめる。

「名雪たち、そろそろ映画の終わったころかしら?」

 時計を見てつぶやく。
 そろそろ、長針と短針が重なる時刻だった。

 「今日のお夕食は、何にしましょうかしらねぇ…」

 祐一さんたちは外で食事をしてくるはずだから、自分の食事は簡単に済ませようと思った。
 たまには手を抜くのもいいものですからね。
 簡単なものを作るために調理場に行き、冷蔵庫を開いた。

「あら…」

 扉側に立ててある牛乳パックをみて気が付いた。

「今日はまだ、だったわね」

 牛乳だけ取り出して、冷蔵庫を閉めた。










   おもむろに、縁側から庭にでる。
 物干しや、小さな花壇があるだけの、本当に小さな庭。
 その隅に、小さくこんもりと土が盛り上がった場所がある。
 そこには小さな木の板が立ててあって、小さいながらも存在を主張しているかのようだった。
 板には、油性マジックの少しゆがんだ字で、こう書いてある。


 …チャチャのはか…


 小さな小さな、その躯に相応しいくらいに小さな墓。
 今はもう、拝む人もいない。
 たった一人を除いては……。

「おはよう、チャチャ」

 そこにしゃがみこんで、小さく拝む。
 お線香の代わり、墓石にかける水の代わりに、お湯で薄めたミルクを土の上からかける。

「おなか空いてたでしょう?」

 そこにいる何かに話しかけるように、にっこりと微笑みかける。
 いえ、そこにはいる。
 姿は見えなくなってしまったけれども、私には分かる。
 頭を撫でる代わりに、墓石代わりの木の板を撫でる。
 ボコボコと凹んでいる。
 それに黒ずんでいて、その上に歪みのある字。
 水性マジックで書いたら雨で流れてしまったから、あとから書き直した字。
 あの子の、名雪の成長の記録。
 姿がなくなってしまった今でも、チャチャは名雪を見守っていてくれている。
 それが私には分かるから、毎日手を合わせる。

「そうだわ」

 私はふと思いついて、リビングに戻った。
 そして、また墓の前に戻ると、木札を取り上げて、裏の文字をマジックでなぞった。
「また会おうね」という字を。
 今日は、とてもいい天気。
 この子、チャチャがやってきた日のような雲ひとつ無い、とてもいい天気。
 お日様のまぶしさに、私は目を細めた。
 今日は、とても素敵なことが起きるような気がした。
 ねぇ、チャチャ。

 



 終わり

 

あとがき


・という訳で、後書きです。
 執筆がなかなかできず、楽しみにしていて下さった方々(ごく少数かと…)には、大変御迷惑をおかけ致しました。
 この場を借りて、謹んでお詫び申し上げます。
 そして、お付き合い頂き、誠にありがとうございました。

 さて、内容についてですが、一応は創作です。
 ハッキリ言って自分自身、拙いなぁと感じる箇所は数知れず…。
 もう少しマトモに書けるようになったら、修正しようと思っています。

 ところで、題名にある「涙の理由」…。
 最初祐一君は、おぼろげな記憶の中での名雪の涙は「悲しみの涙」だと思っていました。
 でも、本当はもっと色々な意味の「涙」だったわけです。
 読む人によって、文章上の言葉の意味というものは微妙に違うものですから、そこら辺が表現できていれば良いなと思っています。

 また、試験(練習・修行)的に秋子さん視点で話を書いてみるということを行ってみましたが…。


難し過ぎです!


 まだまだ、女性の心理というもの研究が足りないと痛感しました。
 この話のなかで、秋子さんを「冷静な第三者」にしたくは無かったんです。
 冷静でありながら、何か別の感情を持って行動してもらいたかったんです。
 書いている最中、私自身どうしてよいか分からなくなってしまったので、秋子さんに自由に動いてもらいました。
 そして、何とかエンディングにまで辿りつくことが出来ました。
 本作品においての最大の功労者は秋子さんです。
 この場を借りて、心から感謝を申し上げます。

 こちらが終わったので、次のSSを書こうと思います。
 「受験生にあるまじき行為だ」と言う友人がいますが、感想を言って来るあたり、彼も十分に「受験生にあるまじき行為」を行っているかと…。
 もし宜しければ、次回作もお付き合いください。
 本当にありがとうございました。


                                     

                     
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