後編






 私はホームルームが終わると同時に校門に向かった。ここなら必ず通るはずだから。
 時折吹く強い風が肌寒かったが、それでも相沢さんを待っていた。
 今日でなければ、意味がないから。
 これを渡せなければ、今までの努力も、私の想いも、すべてが無意味に終わってしまう、何故かそんな気がしたから。

 しかし、相沢さんは現れなかった。

 辺りが暗くなり始めた時、私は相沢さんが先に帰ってしまったのだと悟った。
 これ以上待っても無駄だろう。私はそう感じた。

 あの人とは結局、縁がなかった。そう思うしかなかった。

 それに、あの人の周りには私よりも魅力的で綺麗な女性が沢山いる。

 従兄弟で同居人の水瀬名雪さん。
 3年の倉田佐祐理先輩や川澄舞先輩。
 今日は見ていないが、あの人のクラスメイトの美坂香里さん。
 中庭で会っていた私服の女性。

 その中の誰と比較しても、やはり負い目を感じてしまう。  

 帰ろう。この想いは私の胸の奥底に眠らせて。

 そう、思った。

 そして、私が校舎に背を向けたその時だった。

「ハーックションッッッ!!!!」

 大きなくしゃみが辺りに響く。しかも今さっき背を向けた校舎の方向から。
 聞き覚えのある声だった。しかも少しわざとらしい気もした。
 だが部活も休みに入っている今、こんな時間まで学校にいる生徒はまずいないはず。恐らくは、教師のくしゃみだろう。
 頭ではそう思っていても、何故か足は校舎に向かっていた。

「…そんなはずはないと思いますが」

 真っ暗、とまではいかないが、それでもかなり暗くなった校舎に足を踏み入れる。
 1階、2階、3階と確認したが、どこにも人の気配はない。

「屋上……からだったのでしょうか」

 そう思って私は3階から屋上に向かう。
 重い鉄扉を開け、外に出る。

 だが、そこには誰もいなかった。

「空耳、だったんでしょうか…」

 振り返り、そう呟いたその時だった。

「いや、違うぞ」

 背後から声が聞こえた。先程の大きく、わざとらしいくしゃみと同じ声。

「……そう、なんですか」

 私は振り向かずにそう言う。

「あえて付け加えるなら、わざとでもなかった。本当に寒かったからな」

 言葉と同時に鼻をすする音も聞こえる。

「……1つ、聞いてもいいでしょうか」

 私は自分の真後ろにいるその人に聞く。

「何だ?」
「もし屋上にいたのなら、私が校門にいるのも見えていたはずなんですが……」

 少しの間があって、その人は答えた。

「まあ確かに見えたんだけど…人前じゃあ恥ずかしいかなと思って。それである程度、人がいなくなってから行こうと思ってたら、丁度その時に帰ろうとしてたからさ」
「だからあんな咳をしたんですね……」

 そう言って私は振り向く。
 そこには私の予想していた通りの人が立っていた。

「待たせちゃったのは悪かったと思ってる。ごめん」

 そう言って、彼はペコリと頭を下げる。

「構いません。寒い思いをさせたのはお互い様ですし、それに……」
「それに?」
「……現に今、こうして私の目の前にいてくれているのですから」

 少し照れながら、私はそう言って彼にポケットティッシュを差し出す。

「あ、悪い」

 彼はそれを受け取り、鼻をかんだ。

「………これも、受け取ってくれますか?」

 いざとなると少し、と言うかかなり恥ずかしかったが、私は彼にチョコレートを差し出す。

「ああ、勿論だ。何と言っても、天野からだからな。断るはずがない」

 そう言って笑いながら、彼は私のチョコレートを受け取る。

「…………嘘だとしても…嬉しいです」

 俯いて、そう言う。恐らく今、目の前に鏡があったら、私の顔は真っ赤だろう。

「嘘じゃないんだけどな…。あ、そうだ。寒くないか?」

 頭をポリポリと掻きながら、突然彼が聞いてくる。

「…ずっと外にいたのですから、寒くないはずがありません」

 少しだけ皮肉を込めて、私はそう答える。

「そうか、だったら…」
「…………!!」

 驚きのあまり、声が出ない。
 答えると同時に、彼は突然私を自分の方に引き寄せ、その上から自分の着ていたコートを被せる。
 形としては1着のコートの中で2人が抱き寄せ合う、そんな感じになるだろうか。

「これで寒くないだろ?」

 私の背中に手を回して、彼はそう言う。

「まだ少し寒いです。でも……」
「でも?」
「……もう少しだけ、このままでいさせてください」

 私は瞳を閉じながら微笑んで、彼の胸の中でそう言う。

 何故なら……。

 今は彼の…愛しい人のぬくもりを感じていたかったから……。

 終



                  

あとがき


 おはようございます&こんにちわ&こんばんわ&初めまして。久々にSSを投稿する要です。
 漫画喫茶で即興で書いた話なんですが、いかがだったでしょうか。まあ満足はしてないと思いますが。(^^;;
 まあ即興ですし、久々のSSなので勘弁してください。(汗)
 さてさて、今回のSSについて少し。
 珍しくサブキャラメインで、しかも天野美汐さんメイン。たまには美汐だけというのもいいかな、と思って。
 美汐というと、やはりおばさんっぽいイメージが定着してしまっている感じがしますが、本当はかなり女の子っぽいと勝手に思ってるんですよ。
 そんな妄想(?)や願望(?)もあっか、てこのSSでは「おばさんっぽい美汐」はほとんど出てきません。
 純情で、照れ屋で、一途で、臆病で、そんな「可愛らしい美汐」になるように心掛けました。勿論、原作でのイメージをあまり壊さずに。目指せ、人気最下位脱出。(何)
 あと話を学校内で収めたかったので、あゆや真琴といった主に学校の外で会うキャラは登場させるのは厳しかったので却下。  まあ出せなくもなかったのですが…話が無駄に長くなりそうだったので。そういうのは嫌いなんです。
 バレンタインという話の設定上、あゆは出すべきだったかもと少し思ってますが。
 ああ、そういえば僕の書くSSの主人公(祐一だけでなく、浩平とかも含む)は、基本的に原作より『キザ』ですね。
 そして改めて作品を振り返ると、こういう作品ばかりです。
 あゆ、舞、長森。どれもこれも書いてるこっちが恥ずかしくなるようなラブストーリーばかり。単純と言うか芸がないと言うか……。
 しっかし、ブランクが長いと駄目ですね。なかなかいい作品が書けません。
 しかもこのSS、祐一を浩平にして、美汐を茜にしても、普通に通じるような感じがしますし。おいおい、大丈夫かw

 さて、ここらで近況とかいろいろ。

 まずSSの方ですが、バトロワの方はやめちゃったんですが、他は一応書いてます。しかも5本同時進行。
 メインキャラは佐祐理さん(2本)、美汐、みさき先輩、美凪ですね。
 同時進行すると、クオリティの面で心配になってくるのですが、何とかなるかなと思って。(汗爆)
 マリみてのパロディもやめてません。少しだけバラすと、白薔薇さまは佐祐理さんですw

 あと実は完全オリジナル作品も書いてたりします。しかも長編。
 大まかな設定としては、学園もので、アクション入ってて、ファンタジーも入ってて、時代背景は2222年(近未来ったやつでしょうか)、舞台は日本の東京湾を埋め立てて出来たちょっとした島。う〜ん、分かりにくすぎるw
 こやつは、今迄以上に真剣に、しかも長く書いていきたいなと思ってます。
 そして読み応えのある作品にしたいので設定等もかなり詳しく考え、なおかつお話自体もかな〜り濃密にしたいなと思ってます。
 そして、本屋に並ぶ様々な小説に負けないくらい、いい作品に出来たらな〜とか思ってます。
 現在は、舞台となる島や学園の名前&細かな設定、主要キャラクター(25人)とその相互関係、そして第一話が出来上がっていますが、もう少し練り直して自分なりに納得してから投稿しようと思ってます。
 ただこれ、ここに投稿するよりも、自分でHPでも作って、そこで書いていく方がいいかも、とかも思うんですよね。
 SSではないし、そんな大それた(w)作品を書くつもりなら、自分で勝手にやりなさいって感じでしょうし。まあその辺りは追々、結論を出しますが。
 その作品はともかく、他のSSはきちんと投稿しますよ。今回のSSはそれまでのお茶請けのような物です。(謎)
 とにかく、次回はSSのどれかか、マリみてのパロディか。そのどちらかだと思います。
 あまり期待せずに、適当にお待ちくださいw

2003.12.12 掌(Mr.Children)を聴きながら(有線で)

トップへ      戻る