後編
手術室の赤い光が消え、扉が開いた。
中から出てきた、医者が自分の額の汗を拭っている。
俺は、その医者に掴みかかった。
「あゆは!?あゆは無事なんですかっ!?」
「お、落ち着きなさい。正直に言うと、かなり危険な状態です」
医者は複雑な面持ちで答えた。
「今、患者は生死の境をさまよっています。できる限りの手は尽くしました。あとは患者の精神力に賭けるしか………」
俺は言葉をなくした。
しかし、医者はさらに追い詰めるように続ける。
「はっきりいいましょう。覚悟はして置いてください。奇跡でも起きればまた…」
「なっ!?あんた医者だろっ!?どうにかならないのかよ!!」
また医者の胸倉をつかもうとした瞬間、俺の頬に秋子さんの平手打ちが当たる。
「祐一さん落ち着きなさい、ひどいことを言うかもしれませんが、あなたが焦ってもあゆちゃんの容態は変わらないんですよ!?」
秋子さんの怒った顔を、俺は初めて見た……。
本当に悲しそうな表情、いつもの笑顔の秋子さんはどこにもいなかった…。
心のどこかで何かを覚悟しているような、そんな表情だった。
俺は自分を抑えた…。
「取り乱して……すいませんでした…」
医者は気にする素振りも見せず、話を続けた。
「私たちができるだけの処置は施しました。しかし、脳へのダメージが大きすぎるのです」
一息おいて、さらに続ける。
「たとえ生きているとしても……おそらく植物状態でしょう……それを覚悟して置いてください」
その日の夜、俺は秋子さん達と家に帰った。いつまでも病院にいるわけにはいかない。
あゆは面会謝絶だった……。
帰り道、俺たちに話題はなかった。
名雪は今にも泣き出しそうな顔で俯いていた。
家に着き、すぐに2階に上がって扉を閉めた。
今日起きた出来事、あれは本当に現実だったのか?
そうではないと願いたい……明日になれば、またいつものあゆの笑顔が見れる。
そう信じたかった……。
『たとえ、助かったとしても……おそらく植物状態でしょう……それを覚悟して置いてください』
医者の言葉が脳裏に浮かぶ…。
俺はそんな、頭の中にエコーのように鳴り響く言葉を、振り払った。
あゆは必ず元気になる、あのときだってそうだったじゃないか。
本当にそうなのか…?
本当にあゆは元気になるのか……?
また、あの笑顔を見せてくれるのか………?
俺は奇跡が起きることを願っていた………。
俺はいてもたってもいられずに、部屋を飛び出した。
途中、階段にいた名雪の横を通り抜けて、玄関を飛び出す。
「祐一っ!?」
後ろから呼ばれたような気がする…?
そんなことはどうでもいい。
俺は走った……。
当てもなく、ただ、自分の足を前に出しつづけた。
息が切れても、そんなことにかまうことなく走り続けた。
「はぁっ…はぁっ、はぁっ…ぜっ、はっ…はぁはぁ」
俺は気づいたら、あの木の下に来ていた。
もう、切られてしまっていたけど切り株は残っていた。
雪をはらってその切り株の上に腰を下ろす。
木の周りを夕日に染まったオレンジ色の雪が包み込んでいる。
俺の足跡だけが、その雪の上にはっきりと残っていた…。
8年前、木がまだ伐られる前……あゆはこの木から落ちた。
血で赤く染まった雪。
綺麗な赤だった…純白の雪が少女の血で赤く染まっていくところを、俺はただ見ていることしかできなかった。
少女の頭から血が流れ、赤が広がっていく。
俺はその少女の手をとって、ただ見ていることしかできなかった。
渡せなかったプレゼント……俺はその少女の体のそばにプレゼントをおいた。
そのあとにどうしたかは記憶にない、俺が大人を呼んだのだろうか…。
それから7年経って、俺はこの町に戻ってきた。
その忌まわしい記憶を封じて…この悲しい出来事を忘れた状態で。
思い出の中の空白の時間……。
そして、俺はあゆに出会った。
昔と変わらない笑顔をのぞかせているあゆ……。
その笑顔の後ろに隠された、意味の重さに……奇跡に…俺は気づかなかった。
あゆは、いつか渡した天使の人形を探すためだけに……この世に残っていた…のだと思う。
そして別れのとき、俺はすべてを思い出した。
あの悲しい出来事を……。
この場所で、すべてを思い出した……。
この約束の地で…。
俺たちだけの、学校で。
俺はなぜここにいるんだ……?
あゆは病院にいる、俺はここにいる。
なぜ…?
なぜ俺はここにいるんだ……?
俺は無意識にここにいればあゆは帰ってきてくれると信じてるんだ。
「最後のお願いです…………」
あの声がまた耳に入ってきた。
記憶の中の言葉………。
いや…………。
目の前に確かにあゆがいた。
あの時と同じ格好で、天使のリュックを背負って。
「祐一くん、ボクのこと忘れてください…………」
「あゆ………」
「ボクもうダメだよ……疲れちゃった…」
いつもの笑顔……そして、どこか悲しげな笑顔だった……。
「まだだろ?まだ映画を一緒に見に行ってないだろ?俺との………約束が残ってるだろ?」
俺は涙をこらえた…声がかすれる……
「祐一くん、ごめんね………」
「なにを……あやまってるんだよ……ほら、早く病院に戻ろうぜ?早く元気になって……」
「もうお別れだから……今度は本当にお別れだから……」
あゆの体が消えていく…体の向こう側が見える……。
「あゆ、まだだよ…………まだ全然遊んでないじゃないか……たいやき、食べに行こうぜ?」
「ばいばい、祐一くん………」
俺はあゆ触れようと手を伸ばした………しかし、手は空を切るばかりだった……。
「ばいばい、祐一くん………………」
またあゆの声が聞こえる…もうその場にはいないのに……確かにあゆの声だった。
奇跡は起こらなかった………いや…あゆが別れの挨拶を言いに来てくれたこと自体が奇跡だったのだ。
そう、奇跡は起こった。
それは、俺の望む形ではなかったけれど………。
終
あとがき
TAKA:「SSを読んでくださってありがとうございます!「奇跡はまた……」いかがでしたでしょうか?」
祐一:「…………」
TAKA:「最後が納得いかない方もいらっしゃるかもしれませんが、その辺りはご了承ください」
TAKA:「あゆファンの方々、まことにもうしわけございません………」
祐一:「…………」
TAKA:「クリスマスSSであゆを書こうと思っているので、どうか許してください……」
祐一:「…ジャンルは?」
TAKA:「ほのラブで逝かせていただきます……」
祐一:「毎回思うんだけどさぁ…」
TAKA:「……な、なんでしょうか?(ビクビクオロオロ)」
祐一:「暗いんだよっ!!しかも、構成が適当すぎ!!(怒」
TAKA:「すいません……書きながら考えているので…」
祐一:「……いままで、人生行き当たりばったりで生きてきただろ?」
TAKA:「うぐ………そ、そ、そ、そんなことはないです」
祐一:「…はぁ……苦情はメールでお願いします。バンバン送ってください」
TAKA:「わぁ!なにをいってるんですかっ?苦情なんかあるわけが……」
祐一:「本当にそう思ってるか?」
TAKA:「すいません…はしょりました………」
祐一:「はぁ〜…ということで今回は勘弁してやってください。それでは、次回また。」
TAKA:「では、です!!」
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