第一章






<初めに> 前提知識は舞編のゲーム版ストーリーのみです。それでは〜。

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俺の名前は、相沢祐一。俺は今、7年ぶりにやってきた雪の町で初めての夏休みを過ごしている。
なんとか三年生になる事ができ、名雪達とも同じクラスになることができた。
正直、よかったと思う。もうすぐ「今日」という日が始まる。

7時30分、夏休みだというのにいつも学校に行く時間に起きる。
いつもならすぐには起きられないのだが、なぜかすごく気分がよくてすぐに起きる事ができた。
今日は特に天気がよかったからだ。

「ふぁぁぁっ、今日は特にいい天気だなぁ。雲一つないなあ」

雲一つない天気、澄み渡る空。なんて心地よくて気持ちいいんだろう。

その後、制服に着替えてから部屋を出る。
途中、名雪の部屋の前を通ったが、どうやらまだ寝ているみたいだ。
それから、リビングに向かって階段を下りる。
すると、リビングの戸を開けて出てきた秋子さんがあいさつしてくれる。

「おはようございます。祐一さん」
「おはようございます。秋子さん」

すがすがしい天気のもと、いつもの他愛のない会話を交わし、今日という1日が始まる。

「名雪はまだ寝てるみたいですね」
「ええ、今日は部活はお休みのようですし、まだ寝かせておいても大丈夫でしょうね」
「そうですね」
「朝ごはんできてますよ。召し上がりますか?」
「はい、いただきます」

その後、朝食を食べ終えて準備を整えてから、鞄を取りに部屋に戻り、それから玄関先へ下りて行く。
すると、玄関先に秋子さんが出てきていて、俺を見送ってくれた。

「今日も学校ですか?」
「ええ」
「そうですか。頑張ってくださいね」
「はい、頑張ります」
「帰りは夕方ぐらいですね?」
「そうですね。たぶん、そのくらいになると思います」

夕方でちょうどいいと思った。
あまり、遅くまですると心配をかけるだろうし。

「わかりました。気をつけて行って下さいね」
「はい。それじゃ秋子さん、いってきます」
「いってらっしゃい」

そう言って外に出た後、俺はいつもの通学路を小走りで学校へ向かうことにした。
今日は特に朝は早いというのにかなり暑かったので、少しでも早く学校に着きたいと思ったからだ。

「しかしなあ。天気は最高だけど、この町の気温の差はどうなっているんだ?」
「冬は北極みたいにむちゃくちゃ寒かったし、夏もなんか普段でも郷里よりはるかに暑いし。」
「全くどうなっているんだ?この町は」

どう考えてもおかしい、おかしすぎる。
冬にあれだけ雪が降るし寒いんだったら、夏がこんなに暑いはずないんだけどなぁ。

「・・・・・・」
「・・・・」

んっ?もしかして校門?

「なんだぁ?もう、着いたのか?」

気が付くと目の前に校門が見えてきていた。自分でも驚きだった。
どうやら、暑さに対して愚痴を言ったり思っている間に学校に着いてしまったようだ。

「さて、今日もいっちょ頑張るとしますか」

そう言ってから正面玄関を通り、下駄箱で靴を履き替えから教室に向かうことにする。
しかし、忘れてはいけない事が一つある。それは教室の鍵のことだ。
学期中ならなんかいつも家を出るのが遅れていつも登校が予鈴ぎりぎりになっているから、鍵の事は考えなくてもいいんだが、夏休みはそうはいかない。
加えて、俺以外に同じクラスの奴が夏休みに教室に来ているのを見たことがなかったし。

「仕方ないとはいえ、なんか、職員室って慣れないし入りずらいんだよなぁ」

そう言いながらも、しぶしぶ職員室に入った。そうせざるをえないのだ。
夏休みに入ってからはいつもの事なんだが、やっぱり慣れないものだなあ。
親の都合でよく転校を繰り返していた事も少なからず関係しているのかもしれない。

「失礼します。自習したいんで、--教室の鍵貸してください」

よかった、誰か先生はいるみたいだ。いなければ、校舎を探さなきゃならないからなぁ。

「ああっ、わかった。ちょっと待ってくれ」

どうやら、何かやっているようだ。
後ろを向いているので誰なのかはわからない。
「よし。ええっと鍵だったな」

そう言って、こちらを向いた先生は、もしかして・・・。

「うんっ?君は・・?おおっ、君か。最近、かなり頑張っているそうじゃないか」
「えっ?あっ、先生。どうも、お久しぶりです」

後ろを向いていたのでわからなかったが、なんと、石橋先生だった。
とにかく、びっくりした。
そうか、ここにいるという事は・・。
どうやら、今日の当番だったらしい。

「そうだな。君の担任の先生から聞かされた時は信じられなかったよ。全く、去年の君からは考えられない事だったからな」
「ははは・・」

苦手だ、というか話づらい・・。
それに、もしかして褒められてる・・?

「これからも気を抜かずに頑張ってくれよ。期待しているからな」
「はい、ありがとうございます」
「そら、鍵だ。持っていきなさい」
「ありがとうございます。失礼しました」

石橋先生と少し会話をした後で鍵を借りて職員室を出る。
石橋先生は、俺が二年生の時の担任だった先生だ。
先生はその時古文を担当していたが、俺は先生の授業の時によく寝ていたのであまりよく思われていなかったのを覚えている。

「まさか、(石橋)先生に出会うとは・・。しかも、褒められた・・」
「うれしいんだけどなぁ。でも、職員室はあいかわらず苦手だし慣れないなあ」
なんともいえない気持ちだった。
そう、意外と苦手が同居したなんとも言えない気持ち・・。

「誰か俺より先に来て鍵を開けてくれる奴がいたらなぁ」
「でも、わざわざこんなくそ暑い夏休みまで学校で勉強しようと考える物好きは、同じクラスでは俺以外にいないようだしなぁ」

全く、世の中そんなにうまくいかないのだと痛感させられる。

「考えてもしかたがない。あきらめよう・・」

その後、鍵を開けて自分の机に座ってから今日の開始科目を考える事にした。

「なんか、夏休みの教室ってやっぱりいつもと違うよなぁ」
「・・・当たり前だよな。今、教室にいるのは俺だけなんだしな」
「・・・誰もいない教室や校舎・・か」

誰もいない。
それは・・。

「・・・・夜の校舎」

その言葉で「あの時」の事が蘇る・・。
それから・・。

「・・舞、佐祐理さん・・」

でも俺は、今はそれ以上は考えないようにした。

「さてと、今日は何の科目から取り掛かろうかなぁ」
「昨日は英語をメインにやったからなぁ」
「よし、今日は苦手な数学からまず取り掛かることにするか!」

そう、俺は勉強するためにほとんど毎日夏休みだというのに学校に通っている。
ある目的のために・・。

「ふうーっ、もう10時かぁ。集中していたら時間が経つのってほんと早いよなぁ」

結構順調な進み具合だったので、ここらで一息入れようと思っていたその時だった。

「相沢君?」

なんと、香里だった。
まさか、こんな所で会うとは思っていなかったので内心びっくりはしていたものの、驚いた事を悟られたくなかったので素で答えることにした。

「なんだ、香里か」
「失礼よ。相沢君」

予想通りだ。
素で答えると必ずこうなる。

「悪かったな。ところで、香里は教室に何か用があるのか?」
「取りに来るものがあっただけよ。だから、開いていて助かったわ」
「そうか、そらよかったな」

気にはなったのだが、あえて詮索はしなかった。
あまりすると後が・・怖いしな。

「ええ。しっかし、相沢君も頑張るわねぇ?」
「なにがだよ」
「勉強よ、勉強。三日坊主になるとばかり思っていたのに」
「それが、ここまで続いているなんて。これまで天変地異が起こってないのが不思議なくらいよねぇ〜」
「悪かったな」

去年までの俺なら間違いなく香里の言う通りだっただろう。
だから、強く否定はしなかった。

「別に、悪くないけど。でも、前に名雪や北川君も同じような事言ってたじゃない」

あれはそう、1学期の大体6月ごろだったはずだ。
俺は、かねてより決めていた事を名雪たちに打ち明けることにした。

祐一『俺はY大学を目指す事に決めたから、よろしく!』
名雪『祐一、真面目に言ってるの?本当にW大学目指すつもりなの?』
香里『無理ね。というか無謀ね』
北川『そうだぞ!それに、その無謀にも程っていうものがあるって事知ってるよな、相沢?』
名雪『そうだよ祐一、無謀だよ〜』
祐一『うっさいなあ。俺が自分で決めたんだ!お前ら、いちいちうるさいぞ!』
名雪『祐一、考え直そうよぉ?今ならまだ間に合うよ〜』
北川『相沢、おまえ自分の成績わかってんだろうな?』
北川『5月の模擬試験の成績、確か俺と同じくらいだったよな?そんなんじゃ無理だって、無理』
北川『俺は相沢が無理な方に学食のカレー大盛り3日分だな』
名雪『じゃあ、私はイチゴサンデー4つにしようかなぁ』
祐一『おまえらなぁ・・』

散々なことを言われ、馬鹿にされた記憶が鮮明に蘇った。

「そういや散々な事言ってたな。でも、俺が自分で決めたことだ」
「だから、こうして毎日頑張ってやっているんじゃないか」
「そうね、確かに最近は成績も上がってきているし、成果が出てきている事は認めるわ」
「そうだろう?」

成績は上がってきている、それはどうやら香里も認めてくれているらしい。
香里はその後、何か机から必要なものを出していたようだった。

「それじゃ相沢君、頑張ってね」

用事が済んだらしく、俺にそう言って教室から出て行った。

「それじゃあな」

ガラガラガラ、バタン

「・・・・・」
「俺にはW大学に合格しなければならない理由があるんだ」
「・・・・・」

少し考え事をした後、俺は続きをやることにした。

「さてと、もう少しやるとしますか。昼までまだ時間あるしな」

その後、正午近くまで勉強していた俺はそろそろ昼食をとる事にした。
夏休みではあるものの、念のために学食が開いていないか見に行く事にした。
いつもは今日ほど暑くはないので、近くのコンビニで調達するのだが・・。
さすがに、この猛暑の中を外に買いに出るのは避けたかった。

「しっかし、学食が開いているとは意外だったなあ。マジで助かった〜ぁ」

どうやら、今日はPTAの懇談会が夕方まであるらしいので、たまたま学食が開いていたらしい。
俺にとってはそんなことはどうでもよかったのだが、今日はツイていた。

「今日はなんか運がいいみたいだ」

それから、少しの期待をこめて言った。

「・・・何かいい事が起きてくれればいいんだけどな」

そんな事を考えながら、俺は「あの場所」に向かう。
そう、俺にとってかけがいのない大切な場所・・・。

「やっぱり、パンはフットワークが軽くていいよなぁ」

むなしく、踊り場に俺の声がひびく・・。少しの沈黙、そして。

「・・・それじゃいただくとしますか」
「いただきます」

ここは舞と佐祐理さんと俺の三人で仲良く昼食をとっていた場所。
二人が卒業して、大学に進学してからは三人でここで食事をする事はできなくなってしまったけれど、ここは俺たち三人にとってかけがいのない大切な場所だから・・。
俺はいつもこの階段の踊り場で昼食をとるようにしているのだ。

「はぁーっ」

さすがに、いつもの事とはいえ一人でこんな所で食べるのは寂しすぎる。
しかも、夏休みのために人がほとんどいない事が寂しさに追い討ちをかけていた。
いつもは思っているだけで口には出さないのだが、でも、今日はなぜか口に出してしまったんだ。

「今頃、あの二人はどうしているんだろうな」

そう、あの二人は今、どうしているのだろう・・・。

「・・・・・」

会うことができないわけではない。
それに三人で一緒に暮らす事もできたんだ・・。
でも、三人で共同生活する上で俺が高校生である事がかなりひびいてしまったんだ・・。
三人で共同で生活する上で、俺は自分の生活費ぐらいは工面しないといけないと思っていた。
しかし、うちの高校ではよほどの理由がない限りバイトが認められていなかったのだ。
二人はそんな事は気にしなくてもいいと言ってくれたのだが、俺自身は納得がいかなかった。
だから、二人に俺が二人と同じ大学に進学してから一緒に生活するようお願いしたんだ。

「さて、飯も食ったし。続きをするしますか!」

二人との約束を守るためには今はとにかく頑張るしかない。
俺は踊り場を離れ、教室に向かった。その後、教室で自分の席につき、なんとなく窓から外を見てみたが、どうもいつもと様子が違う・・。

「今日はやけに静かだなぁ。いつもなら運動部が練習しているのになぁ」

陸上部が休みだというのは家を出る前に秋子さんに聞いていたので知ってたのだが・・。
どうやら、今日は、運動部は全部お休みみたいだ。
まあ、今日はPTAの懇談会があるらしいから、それが関係しているのかもな。

「今日は剣道部も休みだったからな。明日は、確か朝練があったはずだ」

なんと、俺は三年生になってから剣道部に所属している。
名雪にも大分何か部活動するように言われていたので、体を鍛えるためにもという事で始めたのだ。
これでも結構熱心にやっているのでかなり上達しているのだ。

「もうひと頑張りするか、大体4時ぐらいまでで切り上げたいからな」

今が大体1時だったので、また、勉強の続きをする事にした。

「ふうーっ、もう4時かぁ。そろそろ、帰るとしますかぁ」

今日も中々のはかどり具合だった。この調子ならいけるかもしれない。
いや、いかなきゃならないんだ。二人との約束を果たすために!

「よし、帰るとしますか」

そういって、荷物をまとめ教室を出る。

「鍵もしめたし、よし、これで大丈夫だな」
「そうだ、帰り際に商店街でも寄るとしますか」

そう言って、俺は職員室に向かった。

 続く     

 

〜あとがき〜


・ここまで読んでいただいてありがとうございます。感謝です。
記念すべき(?)初作品です。そのため、構成がまだまだです。
さらに、まだまだ文章が硬いし、点の打ち方もいまいちです。すみません。
まあ、これから書いていくうちによくなってくれるといいんですけど。
舞のゲーム版のストーリーのその後の話の一つのパラレルを想定して製作しています。
初作品にしては長くなりそうです。
続く予定なので、よかったら読んでやってください。
一応、W大学がどこを想定しているかについては想像におまかせします。

                      
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