君の色

 

 

一枚の、スケッチブックがあった。

 

その中には、色で埋め尽くされたページばかりがあった。

 

『芸術』と呼べば芸術になるし、『落書き』と呼べばそうなる。

 

 

 

 

 

 

そして、とても悲しい絵・・・

 

 

 

 


君の色

                                                                                 作:閃光


 

5月23日(日) PM:2:00

「・・・やることがない・・・」

俺、相沢祐一は、自分の部屋のベッドに寝転がっていた
今日は休みだが、金曜日に何の約束もせず、暇だったから買ってきた雑誌は既に読み終えてしまっていたので、正直、かなり暇である。

と・・・・

 

トゥルルルルル トゥルルルルル

 

一階で、電話が鳴った。
確か、秋子さんが居たはずだ。とらなくてもいいだろう

 

トゥルルルルル トゥルルルルル

 

そういや秋子さんは、出掛けていた・・・・・・
軽く伸びをして、ベッドから立ち上がる。既に6コールは鳴っているので、早足で一階に降りる。

トゥルル・・・ ガチャ

「はい、水瀬です」

『あ、祐一さんですか? 良かった、居てくれて」

「その声は栞か、どうした?」

何か、急ぎの用でもあるのだろうか。

『あの、今から遊びませんか? 私今日、全くやることがないんです』

声の主は、ただ遊びたかっただけらしい・・・まあ俺も暇だったからいいが。

「分かった、俺はどうすればいいんだ?」

『今日は私の家で遊びましょう』

「え・・・」

『だめですか?』

「いや、ダメと言うか・・・」

実は俺は、一応栞の彼氏だが、今まで一度も美坂家を訪れた事がないのだ。

「・・・まあいいか、初美坂家を体験するとしよう」

『はい、 では後ほど』

「おう」

何故か、寂しそうな声で切った栞。どうかしたのだろうか・・・
・・・まあいいか、さて、出かける準備でもするかな・・・
そう思って、2階に上がった。

 

・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・

 

美坂家前 PM2:40

 

ピンポーン

あの後栞の家の場所が分からない事が発覚し、一度家に帰って電話をかけ、場所を教えてもらって来たのでかなり時間がかかった。
栞の家は、公園から少し行った所にあり、外観は水瀬家とよく似ていた。違う事は・・・少し、庭が豪華かもしれない。

『はい』

インターホンから栞の声が聞こえた。

「祐一様だぞ」

『あ、いらっしゃいませです』

そう言うと、インターホンが切れる。

 

少し立ってから玄関が開き、栞が顔を覗かせる。

「こんにちは、祐一さん」
「おう、入ってもいいか?」
「どうぞ」

門を開け、庭を横切る。栞に導かれるままに、家の中に。

「おお、結構広いな」
「そうですか? 祐一さんの家と同じくらいだと思いますよ」

まあ言われてみればそうかもしれない。

「2階の部屋へ行ってて下さい。今お茶を持ってくるので」
「・・・おう」

始めて家を訪れる男に、自分の部屋へ一人で行かせていいのだろうか・・・まあ、彼氏だが。
そんな風に思ったが、ここは言われる通りにしておこうと思い、目の前にある階段を登る。

二階は、外観からするとそこまで広くないように感じたが、四つの部屋があり、意外と広いみたいである。

 

ただ・・・・

 

「・・・どれが、栞の部屋だ?」

正直、全く分からん。下手に間違えて、香里の部屋にでも入ったら・・・

「・・・待っとこ」

少し怖い想像が膨らんだので、ここは身の安全を確保することにする。

 

・・・・・・

・・・

 

「あ、祐一さん。入っててもよかったのに」

ケロリとした表情で栞が階段を登ってくる。

「・・・どれだよ、部屋」
「あ、分からなかったですか?」
「来た事がないんだから、分からないに決まってるだろ」

残念ながら俺は透視能力は使えない。

「っと、ここです」

栞が俺に一番近い部屋を軽く蹴る。

「・・・あの、私両手塞がってるんですが?」
「・・・ああ、すまん。てっきり蹴ったら開く扉なのかと思ってな」
「どんな扉ですか」

笑いながら言う。

「どうぞお姫様」

ドアを開け、膝をついてどうぞの仕草をする

「ご苦労様です」

栞が中に入り、俺もそれに付いて行く。

「おお〜片付いてるなぁ・・・」
「さっき片付けたところですから」
「そうなのか」
「はい、祐一さんが来るんだから汚い部屋は見せられません」

や、ちょっと照れるぞ。

「あ、赤くなりましたね! そんな変な事言ってないじゃないですか!!」

何故怒る。

「や、変ではないがな・・・」

と言って、引っ掛かりを感じながら改めて回りを見渡す。木の机と本棚とソファーベッドそれらに可愛いキャラクターのぬいぐるみが飾られ、本棚には漫画や小説などが結構多く並んでいる。クローゼットがあるので服などはあそこだろう。床にはピンクと黄色のカーペットがしかれ、名雪の部屋とはまた違った感じの、それでも女の子らしい部屋である。

「・・・で、何して遊ぶか」
「話題を逸らさないで下さい!」
「別に逸らしてるわけではないが・・・その・・・さっきのは、ちょっと照れただけだ」

と言うか俺が突っ込むところだったんじゃないのか、あれは・・・

「え・・・また栞は恥ずかしい事を・・・とか思ったんじゃないんですか?」
「・・・思ってない。と言うかただの勘違いで怒られたのか、俺は」
「えぅ・・・すみません・・・」

・・・何か罰を考えないとな・・・

「うし、罰として、俺が見たいものを何か見せろ」
「え・・・」
「つまりだ、お詫びとして俺の興味のあるものを一つ見せてくれってことだ」
「いいですよ、でも下着とかはだめですからね」
「チッ」
「今舌打ちしましたね!? 見る気だったんですか!!」

決めてたわけではないが、候補には入っていた。

「・・・もう・・・」
「ま、気にするな」
「します。祐一さんのえっち星人」
「男はそんなもんだ」
「女の子の前ではそう言う事言いません!」

ったく、細かいな・・・

 

と・・・栞の顔が、急に真剣になった。

「・・・祐一さん、見てほしい物があるんです」
「自分から下着を見せる気になったのか?」

冗談かと思い、少しおどけてみせる。

「・・・ちょっと真面目な話です」

・・・・・・・・・どうやら、冗談ではないらしい。

 

つかつかつか

 

栞は本棚の方へ歩いて行き、1冊のスケッチブックを取り出した。

「これです」

スケッチブックには、タイトルは描かれていない。

「じゃ、見るぞ」
「はい・・・」

そう言って、表紙をめくる。

「・・・・・・・・!」

ただ、色があるだけだった。

でも、何か、こう・・・・・・なんと言うか・・・

 

得体も知れない感覚に襲われながら、ページをめくる。

1ページ1ページが、色で埋め尽くされている。

有名芸術家が描いたら芸術作品だと絶賛され、実は幼稚園児でも描けそうな、そんな絵・・・・

 

しかし・・・・

 

「何だ・・・これは・・・」
「絵、ですよ」
「それは見りゃわかるが・・・」

何かこう・・・悲しい、絵

「それは、私が祐一さんと出会う前に描いた絵です」
「そう・・・なのか」
「はい」

これ以上見るのは少し怖い気もした。だが、見なければいけない気もした。

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

「見終わったぞ」

平静を装って言ったものの、明らかに俺は動揺していた。

「・・・祐一さん。戦争が起こっているところの子供に絵を描かせると、どうなるか分かりますか?」
「・・・・・・分からんな」
「・・・戦争が起こっている所の子供に絵を描かせると、戦争の絵ばかりを描くそうです」
「・・・・・・・・・・」

俺は、何か言おうと口を動かしたが、声にはならなかった。

「私は、お姉ちゃんにいずれ死ぬ事を宣告された時、正直とてもショックでした」

「そのあとも、お姉ちゃんを無くして、絶望にひしがれて・・・」

「そんなとき、テレビで子供達の絵の事を知ったんです。心理学者の先生が出てきて、これは子供の心を表しているんだって・・・」

「だから私、スケッチブックと絵の具をとりだして、絵がへたくそだから色を付けて見ることにしたんです」

「そのときの気分で、色を選ぶ・・・どこに配色するか、なんて自由に・・・」

「そして、出来た絵を眺めた時、私の目から涙がこぼれたんです」

「それからは、ずっとこういう絵を描いていました」

「そして・・・、これが祐一さんと会った日からのスケッチブックです」

栞は、手に持っていたもう1冊のスケッチブックを取り出した。

「・・・・・・・・・・・・」

俺は無言のまま表紙をめくった。

「・・・・・・・・・」

その絵は、いままでとは微かに違っていた。悲しい絵なのに、どこか光のある絵・・・

「さっきまでのとは違いますよね・・・」

「絵だけじゃない、生活も、思う事も、見る夢も、全てが変わりました。全て、祐一さんのおかげで・・・」

「私は、死んでもいいと思っていました。でも、その日から、生きたいと思うようになりました」

絵はまだまだある、悲しい絵もあれば、楽しい絵もある。苛立ちがこめられた絵もあれば、とても奇麗な絵もある。何より、使われる色が増えている。

「でも・・・あの別れの日・・・」

一つのページで、手が止まった。

そこには「もう祐一さんとは会わない」と何度も何度も描かれていた、そして、おそらく涙の後であろう変色したしみが、文字を滲ませていた。

そのスケッチブックにはもう何も描かれていない・・・

「そしてこれが、祐一さんと再開した後の・・・今の一番新しいスケッチブックです・・・・」

3冊目のスケッチブック、同じように題名の無いスケッチブックの表紙をめくる。

「・・・・これ・・・」

 

 

 

 

 

一枚の、スケッチブックがあった。

 

その中には、色で埋め尽くされたページばかりがあった。

 

『芸術』と呼べば芸術になるし、『落書き』と呼べばそうなる。

 

 

 

 

そして、とても明るい絵、希望に満ち溢れた絵・・・

 

 

ただし・・・・

 

 

 

「祐一さん、次のページを見て下さい」

栞はまだ、真剣な顔をしている。

俺は、次のページをめくる。

「あ・・・・・・」

今までの明るい絵に比べ、この絵は、何かが違っていた。
言うなれば・・・悲しいというよりも、『寂しい絵』

「祐一さん。私の言いたいこと、分かりますか?」
「・・・・・・・・」
「私は・・・祐一さんに・・・私を一人の女の子として扱って欲しいんです」
「・・・・扱ってるぞ」
「嘘です! いつまで病気の私の幻影をみているんですか!!」
「・・・・病気の・・・栞・・・」
「私は・・・もう病気じゃないんです! 祐一さんは、ずっと私のことをそんな目で見てます!!」
「・・・・・・・・・・・」

 

俺は、バカだ。

今まで考えもしなかった。本当に俺は栞の事を、一人の女の子として見ていただろうか・・・・と言う事を。

恐らく、何も知らなかったあの頃より、態度が全然違う。今の俺の中に、栞は触ったら壊れてしまうと言う・・・そんなイメージが、ないこともない・・・。

放課後に、遊びに行く時も、いつも体の事を気遣っていた。

病院に行くと言えば、ただの検査だけでも飛んでいった。

そんな・・・毎日のやりとりが・・・まさかこんな・・・

 

 

 

俺はバカだ。

 

 

 

何故、今まで気付かなかったんだろう。栞を心配するこの気持ちが、もう栞を失いたくないというこの気持ちが、逆に栞を傷つけていたなんて・・・

 

 

 

 

「祐一さん、お願いです。私は、祐一さんに心配される事を望んだわけじゃありません。だから私を・・・まっすぐ見つめて下さい!」

「・・・・・・・・・」

ふと気付くと、栞の顔には涙が流れていた。

「私はもう、大丈夫です。もう・・・祐一さんの前から突然・・・居なくなったりはしませんから」

泣きながら訴える栞。俺は・・・あんなに強かった栞を・・・ここまで傷つけてしまっていたのか・・・

「・・・分かった、すまなかった。俺・・・もう栞を失いたくなくて・・・」

俺がそう言うと、そのまま泣き崩れてしまう栞。

「ぅく・・・寂しかった、寂しかったんです・・・・ぅっ・・・」

俺は、そんな栞を強く抱きしめてやった。

「大丈夫だ。俺はもう恐れはしないから・・・」

「祐一さぁん!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

一枚の、絵があった。

 

その絵は、色で埋め尽くされていた。

 

『芸術』と呼べば芸術になるし、『落書き』と呼べばそうなる。

 

そしてその絵は、迷いなき、決意の印。

 

 

 

『もう2度と、栞を悲しませはしない』

 

 

 

 

 

 

fin


あとがき

はじめに一言

 

ごめん!許せ!!

何を? って思った方は気にしなくていいです。

 

どもっす、閃光といいます。栞萌えのガキにございませう。この度はこんなヘボを読んで頂きセンキュっす。

一応、投稿の短編なのですが、処女作なので再び・・・

 

ごめん!許せ!!(命令形かい)

不可解なところとか、文法的に間違ってるところとか、誤字脱字とかあったら・・・

 

ごめん!許せ!!(もうやめい)

というか言ってください。お構い無しに。その方が書くのも上手くなるし、ちゃんと推敲致しますので・・・

では皆様

ごめん!許せ!!(違)

じゃなくてさようなら!!(大きな文字使う必要無し)

・・・・普通にやりましょう。では皆さんさようなり〜。

管理人より

・SS誠に有難うございました!!
 最高です!!
 とても処女作とは思えない出来でした!!
 栞の心理を絵で表現するとは思いませんでした。
 これからの作品をかなり期待していますよ〜。



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