George Lucas


少年の瞳を持つ男

昨年末に公開されたスター・ウォーズについて
ジョージ・ルーカスがアメリカのTV番組のインタビューで
色々と批評してしまい、その後謝ったりしたらしい。
きっと彼の行く末を案じた人もいるに違いない。
「もっと早くに作っておけよ!」と叫ぶ人もいるだろう。
単純にこの話を耳にしたときは
やっぱり寂しいのかな、と思いとても心配になった。
そりゃあそうだろう。
丹精こめて作ったものを
簡単に忘れられるわけがない。
結婚もして、若くて綺麗な奥さんもらって
子供もできて、幸せだけれど
やはりそれだけでは物足りないんだな
そんな風に思うといたたまれない気持ちだった。

しかし実際、彼は何をどんな風に言ったのだろう。
数日後、インタビューの内容を見ることができて
何と言うか、とても安心してしまった。

あの言葉は
彼特有のセンスで言った冗談なのね。
人騒がせなシニカルな彼。
でもなんとなく、分かるような気がする。
ひとりの人間としてね。
あの言葉は
ちょっと熱くなっていた周りの雰囲気にも原因があったのかも。

これはあくまで自分の考え方だけれど
新しい何かを創造するには
ある種の覚悟も時には必要だと思う。
それはちょうど、気球が上がるときに
重りを落として浮上する感じだと思う。
あらゆる創作は、完成した段階で
作り手の手を離れるものだと思う。
スター・ウォーズはもう従来のものではない。
それこそありとあらゆるバージョンがあるのだから。
自分の思い通りにならないものなら
完全に手放してしまったほうがいいなんて
どこか永遠に青年期の様なストイックさが垣間見える。
同時に、ライトセーバーをかなぐり捨てた
ルークの姿と重なるし
年月を経てヨーダの悟り?に達したのかなとも思う。
要するに、いつまでも変に純粋だから
周りが心配でほおっておかないのだ。

マーク・ハミルも「まさか彼が売るとは思わなかったから」と
インタビューで語っている。
「彼がある日ランチの時に皆の前ではっきり言ったんだ
もうこれでスターウォーズは
作らないって、だからもう続きは無いと思ってた」そうだ。
だから俳優達はもう一度出演出来て大喜び。
興行成績は過去最高。ギネスブックに載っちゃいそうなくらい。

そんな今のお祭り状態になんとなくついていけないのは彼ひとり。

おそらく彼が描いたスターウォーズの未来は
旧三部作で活躍した3人が出てこなかったのではないかとも思う。
ルークたち3人が活躍したのは、遥か彼方昔の話で
新しい舞台が用意されていたのではないかと思う。

拒絶された彼はひとり、気球に乗る準備をした。

彼は常に先の先を見つめている人だ。
デビュー作『THX1138』もかなり前衛的で
新しすぎて受け入れられなかったらしいけれど
私は割りと気に入っていた。
ただ、なんていうか
女性がホルマリン漬けされてるのは
女性としてはなんかこう、嫌というか
ちょっとカウンセリングの必要があるかもとは
思ってしまうけれど。
人間性に目覚めた主人公の必死さがいい。
生きて大地に帰るため
命がけで追っ手から逃れる男。
彼の作品に登場する人物には
いつもある種の貪欲さがある。
地べたを這いずり回ってでも
生きのびてやる、といった生命力が好きだ
自殺行為で飛び降りたルークが絶望の中
レイアを呼び続け
男勝りなレイアは
立場が違うと分かっていても
素性の知れぬハンソロを愛し
ハンソロは劣等感を感じつつも
レイアを求めずにはいられない
渇望が人の生命を輝かせるのだろうか。
彼らは全て、彼の中で葛藤する分身たちだったのかも。
意識していようといまいと
彼が手放したのはおそらく創作への渇望ゆえだろう。
彼が最も大切に思うものを思い切って手放し
クリエイターとして出直そうと
思っていたのではないだろうか。
がんじがらめの自分を
彼特有のちょっとシニカルなユーモアで笑ったと聞いて
そのナイーブさとユーモアのセンスに感銘を受けた。
誰が何と言おうと
彼はアーティストなんだ。
少なくとも私はそう思いたい。

私はインタビューの内容を読み終えて
彼が新しい作品を作る予定があるのを知った。
それは(1)実験的な作品で、(2)観る人を選ぶタイプの
映画だということらしい。
なかなかややこしい人だ。
観に来て欲しいのか欲しくないのか。
門戸の狭すぎる作品になりそうだ。
それならテリー・ギリアムと組んだらいいんじゃない
と思わなくもない。
もう、本当に仕方ないなあ
なんて手間のかかる人だ。
それでも映画館を訪れ、彼の世界を垣間観ることを
期待してしまう。
少年の瞳を持つ彼にしか作れない物があるのだから。
PS.こんな書き込みを見つけてしまいました。
『スターウォーズ (特別篇)episode7. (編集:ジョージ・ルーカス)』
思わず噴出してしまいました。
ささやかな抵抗と揺るぎない愛とがむしゃら感を感じます。

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